これで、トーレストの無力化は完了した。
……俺の魔力は、ごっそり持ってかれたけどね。
「さて。キューティ、策は思いついた?」
「………私の『フルーツパラダイス』なら、多分、トーレストを倒せる……けど……」
「キューティ?」
「……私、その魔法を既に使ってて……もう一度使おうにも、魔力が足りないんだ。それに……トーレストは……彼は、被害者、何だよ? ……せめて最後は安らかに…………ううん。何でもない。我儘だよね、こんなの。分かってる」
キューティは、言いにくそうにしながらも、内心を少し吐露する。
……本当に優しい子なんだろうなってことが伝わってくる。彼女だって、トーレストを殺したいとは思ってないんだろう。けれど、彼を生かしておけば、街に被害が及ぶ、それが分かっているからこそ、彼女は彼女の中にある”我儘“を、抑え込むことができた。
「……まあわかった。じゃあ、『フルーツパラダイス』でケリをつけようか」
「え? でも、私にはもう魔力が……」
俺は懐を漁り、師匠が作った(多分厳密には師匠の部下が、なんだろうけど)魔力増強剤を取り出す。
「これを使えば、魔力は回復できるよ。ま、3回も使えば死に至っちゃう危険な代物だけどね。でもまあ1回目なら大丈夫だよ」
「そんなものが……。でも、『フルーツパラダイス』は、制御が効かなくて……。全部トーレストに当てることができれば、トーレストを倒すこともできるだろうけど、そんなの、多分無理だから……」
あー。
思い出した。『フルーツパラダイス』ってあれか。
確かに、前はシャイニングシンガーの『リズライド』って魔法と併せて使ってたイメージがあるな。あれはああしないと『フルーツパラダイス』が暴れ回るからだったのか。
まあ、それなら。
「よいしょ…」
俺は懐からもう一本魔力増強剤を取り出し、それを口に含む。
普段なら分身魔法と併用して使うこれだが、今回は緊急事態だ。
トーレストを放っておくわけにもいかないしね。
ピュア裏切り大作戦……はピュア自身がトーレスト殺してもいいよ、なスタンスだったから成功してるか微妙なんだけど、まあ仕方ない。
「それって……」
「……私の魔法で、『フルーツパラダイス』を補助する。そうすれば、『フルーツパラダイス』を全てトーレストに当てることができる。どうせ、『クールポイズン』で体を動かせない置物状態だし、動かない的になら当てれるでしょ」
俺はもう一度『ブラックナイフ』で、自身の手を切り裂き、血液を垂れ流す。
俺の体から流れる赤色の液体は、クネクネとしながら変形し、やがて触手の形へと変化していく。
「『ブラッドテンタクル』。この触手達で、『フルーツパラダイス』をトーレストに宅配する」
これなら、『フルーツパラダイス』を余すことなくトーレストに被弾させることができるはずだ。
まあ、スターチススクラッチとの戦いで一度『ブラッドテンタクル』を行使しちゃってたせいで、魔力増強剤を飲まざるを得なかったの難点だったけども。
「それ、攻撃用にも使えたんだ」
ホワイトが触手をツンツンしながら言う。よく触れるね?
「い、いや使えないよ?」
「そうなの?」
「殺傷能力がないからね」
嘘だけど。
『ブラッドテンタクル』は攻撃魔法としても使えます。けど、俺は防御魔法としてしか使わない。
何故かって?
だって、触手で女の子に攻撃するって、なんか……そういう感じじゃん。
えっちぃのはダメ!
ということで、俺の『ブラッドテンタクル』は基本的に防御魔法にしか使いません。サービスシーンは期待するな。
「……さて、それじゃあ、哀れなトーレストにトドメをさしてあげようか」
「……うん、そうだね」
キューティバースもキューティバースで、トーレストを倒す覚悟が決まったらしい。
まあ、もう手遅れだし、一思いにやってやるのが人道ってやつなんじゃないかなって気もするしね。キューティバースちゃんはそこまで気負わなくていいと思うよ。
「キューティ、大丈夫?」
「大丈夫だよ、ホワイト。私、ちゃんと出来るから」
「……わかった」
ホワイトポイズナーって、結構組織に対する当たりが強い子ってイメージだったんだけど。
キューティバースちゃんが、被害者を助けてあげたかった、本当はトーレストを手にかけたくはなかったんだって、その思いを理解してるからか。
彼女は、キューティバースちゃんに寄り添って、本当にそれでいいのか、わざわざ確認を取っていた。
敵視している組織の幹部なのだから、彼女からすれば、今すぐにでも始末したい存在だろうに。
……やっぱり、彼女も魔法少女なんだ。
初めて敵対したときは殺意マシマシで怖かったけど、あれも正義感が強くてそこから来るものだったのかな?
仲間思いな一面も、ちゃんとあったんだなぁと、俺は感心する。
「……それじゃあ、行くよ。ブラックルーイ、準備はいい?」
「いつでもどうぞ」
俺の言葉を聞いて、キューティバースは頷き、魔法を発動するために、魔力増強剤を口に含む。
これで、彼女の魔力は回復し、もう一度『フルーツパラダイス』を行使するだけの魔力量を保有することができるはずだ。
タイミングを合わせよう。彼女が魔法を発動したタイミングで、俺も『ブラッドテンタクル』を発動させる。そのために、俺はもう一度自身の体に『ブラックナイフ』で傷をつけ、出血させる。
「『フルーツパラダイス』!!」
今!
「『ブラッドテンタクル』」
キューティバースが発動した『フルーツパラダイス』。それを、俺の『ブラッドテンタクル』が掴んでいく。
『フルーツパラダイス』に触れた瞬間、俺の『ブラッドテンタクル』はじゅわっ、という音と共に溶け出し始め………。
「なっ……もしかしてあれ、溶けてる?」
「そんな、それじゃあ……『フルーツパラダイス』を運ぶのは……」
……『フルーツパラダイス』を運ぼうにも、『フルーツパラダイス』に触れた瞬間、『ブラッドテンタクル』は溶け出してしまう。
………もしかして、浄化されてるとかそういう感じ?
俺が悪の魔法少女だから、光の魔法少女の攻撃に悪の魔法少女の攻撃は浄化されちゃうとか?
よくわからないけど……。
あくまで、溶け出し始めただけ。触れた瞬間に、完全に溶けてなくなるわけじゃない。それなら……。
「ふんっ!」
俺はもう一度、自身の手に『ブラックナイフ』を突き刺す。
「ブラックルーイ!?」
「溶けたなら、追加すればいい。私の血がある限り、『ブラッドテンタクル』はなくならない」
もっと血を出せば、『ブラッドテンタクル』は補充できる。溶けた分だけ、俺の血で補填してやればいい。そうすれば、『フルーツパラダイス』を運ぶまで『ブラッドテンタクル』を保たせることも可能なはずだ。
「……血が……」
「これだけあれば足りるでしょ?」
俺の手は真っ赤に染まっていて、耐性がない人が見れば卒倒しそうなほどだった。
けどまあ、死にはしないだろう。『ブラッドテンタクル』を形成すれば、俺が作った傷は一旦止血され、血が出てこないようになるし、失血死はしないように気をつけてる。
最悪、魔力を血に変換とか、そういう感じのことをすればいい。できるのか知らないけど。
でも、血を魔力にできるんだから、逆ができたっておかしくはないだろう。
「わかった…。ブラックルーイが流した血は、無駄にしないから」
偶然か必然か、キューティバースがそう言った途端、『フルーツパラダイス』は加速し、俺の『ブラッドテンタクル』が溶け出すよりも速く、トーレストの元へと向かっていく。
「ああああ! いた………あうあ………」
トーレストに『フルーツパラダイス』が当たった途端、トーレストは言葉にならない言葉を発する。
痛みを感じ取っているのか、それとも、ただの反射で声が出ているだけなのか。
最早それは、誰にもわからない。ただ……。
「あああ! あう………」
キューティバースの魔法は、確かにトーレストに有効だった。それだけは、確かだった。
キューティバースの『フルーツパラダイス』によって、トーレストの体が段々と崩れていく。
こうして、正義の魔法少女と、悪の魔法少女との共闘は、幹部の撃破という結果を持って、終わりを告げた。
触手で”そういう“連想しちゃう時点でルーイちゃんは変態なんだよね