「えと……人違い、じゃないかな?」
俺のことを先輩と呼び、駆け寄ってきた少女。だが、彼女のことを俺は知らない。
昔通ってた学校の後輩? いや、そんなわけない。俺のことを慕う後輩なんて、そんなに多くなかったし、交流のあった年下の子は覚えてる。けど、誰にも“先輩”なんて呼ばれ方はされていなかったように思う。
それじゃ、目の前の彼女は、本当に何者なんだろう?
「あ、えと………その……ごめんなさい……」
彼女は俺の顔を見て、謝罪の言葉を吐き出す。
うーん、本当に人違いとか、そういうのだと思うんだけどなぁ…。
「あーちゃん、本当に知らない子なの? この子だけが一方的に覚えてるとか、そういう可能性はないの?」
「話したことなくて、一方的に知られてるだけならあると思うけど」
「でも、それで本当に話したことある子だったら、ちょっと可哀想じゃない?」
確かに。いやまあでも、多分この子が俺の知り合いだった、なんて線はないと思うんだよね。本当に見覚えがないし。だから……。
「あ、あの………知らなくても当然と言いますか……。その、私が先輩のことを一方的に認知しているだけなので……」
「へー。もしかして、愛結ちゃんと同じ学校に通ってる子とか?」
え、俺学校に通ってないけど……。
けど、俺のことを一方的に知っている…?
……わざわざ俺のことを認知している奴なんて、ゆーちゃん以外だとそれこそ魔法少女しか……。
ま、まさか…!
魔法少女スターチススクラッチ!?
「え、いや……ち……がくないですけど……」
い、いや、その可能性はない。彼女が俺の脳内を覗いて、スターチススクラッチ!?って叫んでる様子に対して『ち……がくないですけど……』って言ってない限りはその線はない。
だって、魔法少女スターチススクラッチなら不自然だ。あり得ない。そもそも、多分だけどベルちゃんとスターチスは面識自体はあると思うんだよね。だから、もし目の前の少女がスターチススクラッチなら、ベルちゃんが気づくだろうし、おそらくスターチススクラッチではないはず…。
「学校の後輩かー。あれ? もしかしなくても、愛結ちゃんって学校内じゃ有名人なの?」
「確かに……、そうなのかな? ………そういえば、あーちゃんってどこの学校通ってるの? 今まで普通に遊んでたけど、聞いてこなかったし」
「え、あー、そ、それはね……」
まずい……。ただでさえ目の前の少女の正体を掴めていないというのに、俺の通っている学校を聞かれるなんて…。
ここら近辺の学校名を答えて、ゆーちゃんが通っている学校と被ったら困る。
もし被ってしまったら、見かけたことないなーとか、今度一緒に通おうよ、とか、じゃあ家この辺なんだね! とか、そんな感じでどんどん詰められて、俺の正体がバレてしまうかもしれない。
なら、少し遠めの、けど、この近辺に通ってもおかしくないぐらいの場所に位置している学校名を答える必要がある。
ゆーちゃんの学力等を考慮して、おそらく通っていないであろう学校をピックアップする。
被ったらその瞬間に死ぬ。というか、この場にはベルちゃんもいるので、彼女と学校名が被っても限りなく高い確率で死ぬ。
考えろ。この場を切り抜ける方法を。
最適な学校名を探れ。
俺は、光堕ちするんだ。こんなところで燻っているわけにはいかない!
「恵乃寿学園だよ。あと、有名人ではないよ、全然」
丁度いい位置にあるのが恵乃寿学園くらいしか思いつかなかったので、それを挙げた。
さて、これで2人の通う学校と被っていなければ良いのだが……。
「恵乃寿学園ね。私の友達は通ってないわ」
「私も知り合いはいないかも。でもそっか、あーちゃんって恵乃寿学園に通ってたんだ。一回も制服着てるところ見たことなかったから知らなかった」
そりゃ通ってませんからね…。着れるもんがないのですわ。
……しかし、これでゆーちゃんに俺の学校開示しちゃったな……。嘘のだけど。
これでもし、恵乃寿学園の文化祭とか見に行くよーとか言われたらどうしよ…。
体調崩して休んでるって言うしかないな。
「え、あ、そうなんです! 私恵乃寿学園に通ってて…!」
というか、目の前の少女は結局何者なんだ?
そもそも、どこで俺の姿を見て、どうして俺を先輩だと呼ぶようになったんだ?
「よくよく見たら、この子が着てる制服、恵乃寿学園のものっぽい?」
「じゃあやっぱり、あーちゃんの学校の後輩だったんだ」
……しかも、よく分からんけどたまたま少女が通っている学校と、俺が適当に通っていると嘘をついた学校の名前が一致したらしい。
これで、学校の後輩であるという説明がつくようになってしまったわけだが……。
残念ながら、俺は恵乃寿学園に通っていないので、俺と少女の先輩後輩関係は真っ赤な嘘となる。
いや、本当になんなんだこの子は?
「……えと、まあ、私が勝手に憧れてるだけといいますか……一方的に見知って尊敬しているだけといいますか……」
「えーと、つまり?」
「あ、面識は…ないです……。それに、実際に先輩が有名人かっていうと………その……学校内で知られてるとか、そういう感じじゃなくて、たまたま私が目をつけただけなんです…」
いや、恵乃寿学園通ってないよ? 俺。
本当にどうなってるんだ? 頭はてなマークだらけだよ?
本当にyouは何者?
「あーちゃん憧れられてるんだ? 流石だね」
「まあ、あの時も遊美のために私に立ち向かう気概を見せてきてたし、そういう“強さ”みたいなものが日常生活でも滲み出てるんじゃない?」
知らん知らん。本当に身に覚えのない憧れなんですけど。
怖い、どこで俺のこと知ったんだこの子……。
最早恐怖すら感じてくるんだけど……。
何? 俺のストーカー? 警察呼ぶよ?
もしもし警察ですか? はい、はい、あれ? もしや貴方は行方不明者の光千夜さんでは? 保護者に連絡しますね。
なんていう未来まで読めた。残念、俺は警察には頼れません。
「そ、その、厚かましいとは思うんですけど……えと………」
「……憧れの先輩と過ごしたい、とか? 私は別にいいわ。3人よりも4人の方が、人数的にも遊びやすそうだし」
「私も、あーちゃんが問題ないなら別に大丈夫だけど、どうかな?」
……少女の素性も知れないまま、何故か一緒に遊ぶという流れができているんですけども……。
いや、ゆーちゃんいくらなんでも陽キャすぎない? あってまだ数分しか交流してない、なんなら全然どんな人かも分かってない子なんだよ? よくいきなり遊びに誘えたね…。というか、俺からすればベルちゃんもほぼ初対面って感じなのに。
大体…。
「自己紹介もしてないのにいきなり遊ぶっていうのは、流石に……」
「あ、すみません、私としたことがつい……。……はじめまして、私の名前は、
「自己紹介すればOKっていうほど単純な話でもないんだけどなぁ……」
でもまあ、実際目の前の少女が本当にどこで俺のことを知ったのか、何故俺を先輩だと呼ぶのか、それについては気になるところも多いし。
ここで一切交流せずに終わってしまったら、多分謎は謎のまま、モヤモヤしたまま終わることになるだろうし。
彼女の正体を探るためにも、彼女と共に遊ぶという選択は、悪くないのかも知れない。
それに、今ならベルちゃんやゆーちゃんもいる。
そんなにおかしなことに巻き込まれるなんてことはないだろう。
「まあいっか。知ってるかもしれないけど、私の名前は広井愛結。……えと、魅夜ちゃん、今日はよろしくね」
「はい! よろしくお願いします!」
元気よく、目の前の少女、もとい魅夜ちゃんは言葉を発する。
さっきまではポツポツと、自信がなさそうに話していたのに。
結局、俺はその場の流れに流されるまま、何故か俺のことを認知している少女、恩智寧魅夜と共に、ゆーちゃん達を添えて遊ぶこととなったのだった。