私の名前は
魔法少女として活動していること以外は、なんの特徴も持たないただの少女だ。
そして、魔法少女として、この世の悪と戦う。
そんなつまらない日々を送っていた。
……つい、この間までは…。
先日、私は同僚の魔法少女から、1枚の写真を受け取った。
そして、その写真を受け取った日から、私の灰色の人生は、一変したのだ。
写真に写っていたのは、1人の少女だった。
漆黒のドレスに、髑髏の入れ墨をその手に彫っている、あまりにもロックで、クールで、かっこいい魔法少女だった。
魔法少女ブラックルーイ。
本来正義であるはずの魔法少女でありながら、その固定観念にとらわれることなく、悪の存在として、その身に宿る力を思うがままに振るう悪の権化。
何故、そんな彼女の姿を見て、私の人生は一変したのか。
それは……。
私が、闇堕ちに憧れる魔法少女だったからだ。
闇に塗れ、クールで、何かを守るためではなく、何かを壊すために、悪を貫く魔法少女。
私は、ただ単に街のヒーロー、憧れのヒロインになるのなんてつまらないと、常々そう思っていた。
本当にかっこいいのは、悪を貫ける信念、自身の力を存分に振るい、世間にその有り様を見せつける胆力にこそあると、私はそう考えていたのだ。
だが、私には、悪を貫けるだけの信念も、世間にありのままの自分を見せつけるだけの胆力も、どちらも持ち合わせてはいなかった。
私は、臆病な存在でしかなかったのだ。
けれど、そんな私に、彼女は勇気をくれた。
周りの目を気にせず、悪を貫くその姿。
『夢幻の魔』に頼ることなく、ありのままを見せつけるその胆力。
私の理想の闇堕ち魔法少女。それが、ブラックルーイ。
彼女の存在を知ることで、私は今一度、闇堕ち魔法少女を目指す勇気をもらうことが出来たのだ。
そして今、私はそんな彼女の……憧れの“先輩”と、交流する機会をこの手に掴むことに成功した。
まさか、こんなところで出会えるとは思わなかったけれど……。
街中で先輩を見かけた際、思わず声に出して呼び止めてしまった時は、少し焦ったが、今はあの時の自分によくやったと言ってやりたいくらいだ。
おかげで、彼女のざっくりとした自己紹介を聞くことが出来た。
プロフィールとしては…。
名前は広井愛結。そして、通っている学校は恵乃寿学園。
友人は、今私と共に歩いている山吹遊美とリーベル=ローゼンベルク。
ざっとこんなところだろう。
しかし先輩、私の目は欺けませんよ。
先輩が名前として述べた“広井愛結”。そして、先輩が通っていると言った“恵乃寿学園”。
これはどちらも、嘘である。
まず、後者についてであるが、これは私が恵乃寿学園に通っていることから、すぐに分かった。
先輩が通っているのなら、私が見逃すはずがないし、何より、先輩が通っている学校を答えるまで、一瞬だけ間があった。
おそらく、ここら近辺の学校で、先輩が通っていてもおかしくない、かつ、山吹さんやリーベルさんが通っていない学校を考えて出力した結果だろう。
流石は先輩。近くにいる友人と被らず、かつ先輩が通っていても違和感のなさそうな学校の名をあの短時間の間で考え出すとは。私も見習わなければならない。
そして、前者について。
こちらは、核心を持っているわけではない。けれど、私は、先輩が恵乃寿学園に通っているという嘘をついた時の声色をはっきりと覚えている。
そして、先輩が広井愛結と言った時、その声色がそれと合致していたのだ。
どちらかというと愛結の部分の声色に“嘘”を感じた気がするので、おそらく名字は本当で、名前は偽名なのだろう。
真実を混ぜた方が、嘘の信憑性が増しやすいというし、先輩はそれを知っていて、あえて名字は本当のものを使っているのだろう。
流石先輩だ。私なら日和って全く関係のない偽名を使っていたに違いない。
さて、じゃあ何故先輩が嘘をついているのかという疑問は、当然湧いてくることだろう。
まあ、単純に考えれば、魔法少女ブラックルーイ、つまり、悪の魔法少女であるとバレた時、なるべくリアルの自分……魔法少女ではない、普通に生活している自分を知られることを避けるためなのではないか、という結論に至るはず。
けれど、それだと、先輩が『夢幻の魔』を使っていないことの理由が説明できない。
そこで私は、先輩がどのような考えを……価値観を持っている人なのか、把握した。
そう、先輩は、どこまでも楽しんでいるのだ。
悪役として振る舞い、周りの反応を伺い、弄んでいるのだ。
『夢幻の魔』を使っていないのも、あえて使わずに、周りの反応を楽しむためだと考えれば説明がつく。
ブラックルーイとして街を襲撃し、広井愛結として平気な顔して街の中を闊歩する。
友人達は、一切怯むことなく、堂々と歩いている先輩を見ても、ブラックルーイだと気づくことはない。容姿はそっくりで、あからさまにそうであると分かるはずなのに。
もちろん、一般人なら怪人被害が出る前に避難しているだろうから、ブラックルーイの姿を見ていない可能性も高いだろう。
けれど、もし目撃者がいたら?
もし、逃げ遅れた人がブラックルーイの存在を認知していたら?
もし、隣にいる友人が魔法少女だったら?
普通なら、あんなにも堂々としていられないだろう。
けど、それこそが罠。
ブラックルーイは、先輩は、明らかにブラックルーイであるよと、自分からアピールしている。
にもかかわらず、街中にいる人々は、それに気づくことはない。
隣を歩く友人は、まさか自分達の友達がそのような存在であるはずがないと、先輩を疑うことをしない。
先輩は、それが愉快で愉快でたまらないのだろう。
名前も学校も、その全てを偽って交流しているのに、違和感に気づかない友人を、嘲笑い、楽しんでいる。
ああ、なんて悪辣なんだ。
どこまで狡猾なんだ!
私は肝の座った先輩を称賛せざるを得ない。
やはり私の目に狂いはなかった。
先輩こそ、私の理想とする闇堕ち系魔法少女だ。
全てを偽り、全てを騙し、その全てを手のひらの上で踊らせる。
その様子はさながらトリックスター。
私の同僚のエンシェントカラミティも、人心掌握に長けている部分はあるが、彼女は結局、同じく私の同僚たる魔法少女バーニングインテンスに買収されるような小物でしかなかった。けれど、先輩は違う。先輩なら、金に目が眩むことはない。
自身の身の危険を顧みず、欲望のために、“闇堕ち”という、ただ一つの趣味のために、命の危険を晒すことを厭わない、覚悟の決まった、真の“闇堕ち魔法少女”なのだ。
素晴らしい。本当に素晴らしい。私の理想の先輩は、すぐそこにいた!!
先輩と“同類”である私でなければ、先輩の真意を汲み取ることもできない。
先輩の正体を看破することさえ、出来はしなかっただろう。
しかし、私は…。
私だけは、先輩のことを理解している。
先輩が何者なのか、先輩が何を目的としているのか、先輩がどうして闇堕ちをしているのか。
それを知ることができるのは、“同類”たる私ただ1人。
幸い、先輩達の輪に入れてもらうことは成功した。
何とか先輩と接触し、私が“同類”であること。そして、先輩に弟子入りしたいことを、周りの何も理解していない、先輩の手のひらの上で踊らされている滑稽な人達の目を欺きながら先輩に伝えなくては。
そうだ。これはチャンスなのだ。
先輩と接触し、私が闇堕ちへ至るための。
そうと決まれば……!
「先輩、今日は一日よろしくお願いしますね!」
私は私の闇堕ちのために、先輩を攻略する。
先輩の懐に、入ってみせる。
関係ないけどルーイちゃんはお金で釣れます