とりあえず、恩智寧魅夜と共にカラオケに行くことになったわけだが、この近辺にはカラオケ店がなかったため、ぶらぶらと4人で1番近いカラオケ店まで移動中である。
しかし、恩智寧魅夜。一体何者なんだ?
俺の正体をどこで知ったのか、何の目的で俺に接触してきたのか、探りを入れる必要があるな。
最悪、俺の最高の光堕ちライフを妨害してくる可能性があるわけだし。
俺の事情を全部把握して、光堕ちを援助してくれるような子なら万々歳なわけだけど……。どうだか。
「思ったんだけど、魅夜ちゃんは愛結ちゃんのどこに憧れてるの? 友達とかそういうわけじゃないんでしょ? 人柄とか内面とか、そういうの知る機会もないと思うんだけど」
そうだな。まずはそういう切り口で魅夜ちゃんの正体を探っていくのが良いかもしれない。
仮に憧れではなく、俺がブラックルーイだと知ったことで接触してきた存在なら、絶対にどこかでボロを出すはず。その瞬間を見逃すな。
「かっこいいからです」
「かっこいい?」
「はい。自らの目的のために、危険をかえりみず、目標のためにまっすぐ突き進む姿が」
かっこいい………ねえ。
確かに俺は光堕ちという目標に向かってまっすぐ突き進んではいるけど、それを見たところでかっこいいなんて発想になるのか? そもそも、俺が光堕ちを目的に動いているなんてこと、わからないだろうし。
じゃあ、一体何を見て俺がそういう存在だと、恩智寧魅夜は認識したんだろうか。
口から出まかせを言っているだけなんだろうか。
「かっこいい、かぁ。確かに、私のことを守ろうとしてくれたあーちゃんは、ちょっとかっこよかったかも?」
「守ろうとした? ………あー」
ベルちゃんに襲われた時の話か。まあ、そりゃゆーちゃんからしたら魔法少女に生身で立ち向かおうとしてる少女に見えるわけだから、肝が座っててカッコ良く見えたんだろうけど、実際俺魔法少女だからっていうのがあったしなぁ。
「あの時に関して言えば、ゆーちゃんの方がかっこよかったよ」
魔法少女でもないのに、俺のために前に出たあの時のゆーちゃんの方が、俺なんかよりも圧倒的にかっこよかったなぁ。
ゆーちゃんは魔法少女ではないけど、余裕で魔法少女やれる精神性を持ち合わせてると思う。
「そうですね、先輩は、そんじょそこらの苦難は軽く乗り越えられるだけの力があるでしょう。遊美さんについては詳しく知らないので何とも言えませんが」
「逆に魅夜ちゃんは私の何を知ってるんだ……」
「先輩の“目的”。それに対する“情熱”。そして、“信念”です」
俺が情熱を持って取り組んでいることといえば、光堕ちくらいだ。それ以外に、俺が信念を持ち、情熱的に取り組む目的は存在しない。
じゃあ、恩智寧魅夜は、俺が光堕ちしたいということを見抜いているというのだろうか?
言葉通りに受け取るなら、恩智寧魅夜は俺の光堕ちを応援してくれる立場であると考えることもできるが。
「愛結ちゃんって何か熱心に打ち込んでるものでもあるの?」
「あーいやあ、まあ、一応」
「先輩、私は分かってます」
凄いキラキラとした目で見つめてくる恩智寧魅夜。
その目からは、嘘は感じられない。
本当に、純粋に俺の光堕ちを応援してくれているのか?
そもそも、誰にも言ったことのない俺の趣味を、何故彼女は把握しているのか。
「あーちゃん、その、熱心に打ち込んでるものって何なの?」
「い、いや、それは……」
「オタクの趣味みたいなものです。まあ、あんまり人に言うのも憚られるようなものなので、詮索しない方がいいと思いますよ」
ゆーちゃんからの質問に戸惑っていたところを、恩智寧魅夜が補足するように言う。
オタク趣味ですなんて言われたら、ゆーちゃんどう思うんだろうと不安になったが、それ以外に良い言い訳が咄嗟には思い浮かばなかったため、仕方なく恩智寧魅夜のそれに乗っかることにする。
「あ、そ、そうなんだぁ。ちょっと人に言うのも恥ずかしくて」
「意外。あーちゃんってオタクな趣味持ってるんだ。そういう世界に興味ないと思ってた」
「実を言うと、私が先輩を見かけたのはコミケの会場でして…」
「へー。じゃあそこで魅夜ちゃんは愛結ちゃんと知り合ったんだ? もしかして魅夜ちゃんコスプレしてて、それで愛結ちゃんに気付かれてないとか?」
知らない記憶が、どんどんゆーちゃんとベルちゃんに植え付けられていく。
恩智寧魅夜がその話題を続けていくことで、次第にそれは嘘だよと指摘することが難しくなってくる。
結果。
「あーちゃん、今度その趣味について教えてね。私も知りたいから」
「私も、愛結ちゃんがどんなオタク趣味を持ってるのか気になるなぁ」
知らない間に、“広井愛結はオタクの少女である”という共通認識が、この集団の中で形成されつつあった。
恐るべし恩智寧魅夜。
この短期間で、クール系キラキラお姉さんな広井愛結ちゃんのキャラクター性を一気に塗り替えてしまうとは。
え? クール系でもキラキラお姉さんでもなかったって?
いや、クール系だったでしょ。滅茶苦茶キラキラしてたでしょ。
「私と先輩は、趣味が似通っているので。私の場合、アニメにおける“敵役”というものが結構好きでして」
と、そのまま会話の流れは、恩智寧魅夜の趣味の話へと移り変わっていく。
彼女の趣味…。それを知れば、彼女の正体についてもある程度推測することができるかもしれない。
「“敵役”かぁ。それって、どういうの?」
聞いておこう。もうオタク少女のレッテルについては諦める。これからはオタク少女愛結ちゃんとしてゆーちゃんと接することに決めたから。
「はい。私は敵役は敵役でも、単純な敵役というよりかは、例えば……魔法少女モノのアニメとかで、魔法少女であるはずなのに、悪の組織に加担してしまっている魔法少女とかいるじゃないですか。ああいうのが好きなんです」
「………そっか」
「あ……アニメだと、そういうキャラもいるのね……」
なんか、ゆーちゃんとベルちゃんの反応が薄いな。気まずそうにしてるっていうか…。
も、もしかして、ゆーちゃん達、オタク趣味ダメなタイプの人達なのかな!?
だったらどうしよう…。俺がオタク少女って知られたことで、ゆーちゃん俺のこと嫌っちゃったんじゃ!?
さっきもアノマロカリスがどうとかいう意味わかんない会話でゆーちゃん引かせちゃったし……。本格的に嫌われちゃう…。
オタク少女を受け入れるって言ったけど、オタク少女であり続けると、ゆーちゃんとの仲が危ない!
否定しとかないと!
「私は別にそういうの好きじゃないかなー」
「……私も、そういう存在はちょっと悲しく感じちゃうわ。同じ魔法少女なんだから、協力し合う関係の方が、絶対良いだろうし」
俺の発言に、ベルちゃんが乗っかる。
……そこで俺は思い当たる。
そういえば、ベルちゃんは魔法少女だったな、と。
そして、ベルちゃんはブラックルーイの正体を、おそらく知っていると思われる。
つまり……。
さっき恩智寧魅夜の発言に気まずそうにしてたのは……。
ベルちゃんが、ブラックルーイのことを思い浮かべたから、なんじゃないだろうか?
とすれば、少なくともベルちゃんはオタク趣味に理解を示していない、というわけではないということになる。
「やっぱり、そういうのって……よくないよね。例えば、脅されて無理矢理従わされてるとか、洗脳されて無理矢理戦わされてるとか、そういう展開は、かわいそうだよね…」
……ゆーちゃんの方もゆーちゃんの方で、別にオタク趣味が受け付けないとか、そういうわけではなかったらしい。
かわいそう、かぁ。まあ、ゆーちゃん優しいからね、いくら創作とはいえ、そういう発想に至るのも無理ないか。
ゆーちゃん絶対映画館とかで感情移入して泣いちゃうタイプだもんなぁ。
ともかく、俺がオタク少女って知っても交流を続けてくれそうな雰囲気があるから、ひとまずは助かった。
「んー。そうですかね? 別に良いじゃないですか。好きは人の自由だと思いますよ」
「でも…」
「人には億万の趣味が存在してます。それを、世間的には許されないモノだからと、押さえ込むのは辛くないですか? 好きなものは好きであると認めてあげないと、自分が自分じゃなくなります。自分が壊れてしまいます。いくら世間的には認められない趣味でも、自分だけは、そんな自分を肯定してあげたい、そう思うのは、おかしいことなんですかね?」
まあ、確かに、俺の光堕ち趣味も、他人に話せばドン引きだろうしなぁ。けど、これは俺の人生の根幹を担ってると言っても良いし、光堕ちの否定は俺の存在の否定に繋がる。
自分だけは自分を肯定してあげたい。うん、良い考えだ。恩智寧魅夜、案外悪い子じゃないかもな。
「自分だけは……自分を……」
「そうです。誰が認めなくても、その趣味は、確かに自分のモノなんだから。共有できなくたって良い。自分が認めなかったら、誰がそれを認めてあげられるんですか?」
「それが……人に迷惑をかけるような趣味でも…そう思うの?」
「隠せばいいじゃないですか。バレなきゃいいんです」
「それは……でも……」
ゆーちゃんいい子だから、そういう考えが認められないんだろうなぁ。けどさ…。
「ゆーちゃんが、そういう考えを認められないっていうのも分かるよ。けど、駄目なことだって、そうやって我慢し続けてたら、壊れちゃうのは自分だと思う。自分の好きを、誰かのために曲げるなんて、そんなの、悲しいって思っちゃうな。私は、ゆーちゃんが好きって思うことは……たとえ世間に認められなくても肯定してあげたいって思っちゃうし」
「あーちゃん、それは……」
「ゆーちゃんは偉いよ。今まで、周りの人達のためにいっぱい我慢してきたんだと思う。けど、たまには自分を大切にしてみてもいいんじゃないかな。好きなことを、好きなだけやってみたっていいんじゃないかな。そうしないと、多分ゆーちゃん、抱え込みすぎて爆発しちゃうだろうから」
これは前々から思ってたことだ。ゆーちゃんは、多分自己犠牲精神がどこかしらにあるんじゃないかなって思う。それは、ベルちゃんに襲われた時に、魔法少女でもないのに俺を守ってベルちゃんに立ち向かった時のことを考えれば、説明できる。
彼女は魔法少女に向いている精神性を持ち合わせていると言ったことも、そこに繋がってくる。
凄く立派だ。
けど、ゆーちゃんは魔法少女じゃない。
ただ、元気で明るくて、可愛くて優しいだけの、普通の女の子なんだ。
そんな子が、自己犠牲精神なんて持ち合わせちゃいけない。
他人のために、自分を蔑ろにしちゃいけない。
少なくとも、俺はそう思う。だから…。
「ゆーちゃん、自分を、認めてあげよ。誰かのためじゃない、自分のために」
「でも……私が私を認めたら……ち……誰かが…その分迷惑を……」
「いいよ。人ってそういうものでしょ。誰かに迷惑をかけて、かけられて、そうやって社会は形成されてるんだから。いいじゃん別に。迷惑かけちゃいなよ。迷惑かけすぎたなって思うなら、後で謝ればいい。許して貰えば良い。もし、許されなくても……私だけは、どんなことがあってもゆーちゃんの味方だよ」
「あ………」
ゆーちゃんが、ハッとしたような、どこか気の抜けた、肩の荷が降りたような表情をする。
やっぱり、何かしら抱え込んでいたものがあったのだろう。
俺には、ゆーちゃんが何に悩んでいたのかは分からないけど。
でも、やっぱり、ゆーちゃんみたいな良い子が、我慢し続けなくちゃいけない世界は間違ってると思う。
俺も、再認識した。
光堕ちのために組織に貢献すること。やっぱりこれは、人様に迷惑をかけてるし、世間的にも良いことではないかもしれない。
けど、俺はどうしても劇的な光堕ちがしたいんだ。
それをしないと、きっと俺は……俺じゃなくなる。
俺が俺らしく生きるために。
俺が俺を殺してしまわないために。
俺は俺を、最高の光堕ちへと導く必要がある。だから。
俺は俺自身を肯定する。
誰に認められなくても。
リーベルさんはずっと頭に?マークを浮かべながら話を聞いてます。