スターチススクラッチを助けるため、俺はピュアのアジトへと侵入する。
侵入とは言っても、俺だって悪の組織の一員。ピュアのアジトに無断で入るリスクは取らず、普通にアポを取ってからピュアのアジトに訪れることにした。
ピュアのアジトに自分の意思で向かう、というのは、あまり乗り気になれなかったけど、スターチススクラッチを助けるためだししょうがない。
「まさかルーイちゃんから来てくれるなんてね。それで、どうしたの?」
「戦闘中にお姿が見えなくなったので、一応確認のためにアジトに訪れようかなと」
「そっかそっか。何も言わずに現場を去っちゃってごめんね。心配してくれてありがとう」
ニタニタとした笑みを浮かべながら、ピュアは心底嬉しそうに俺にそう伝える。
……正直、こいつの笑顔を見せられてもあまり嬉しいという気持ちにはならない。
が、俺の組織内での立場は低め。幹部であるピュアに明確な反抗の意思を見せるわけにもいかない。そのため、俺はお得意のポーカーフェイスでなんとか場をやり過ごす。
「まあ、この通り俺は大丈夫だよ。キューティバースにやられそうになったけど、トーレストのおかげでどうにか逃げる隙を作れたしね。それに、収穫も0じゃあない」
「収穫ですか?」
「そ、収穫。俺はね、キューティバース達が戦闘している隙に、こっそり1人魔法少女を拉致っておいたのさ。まあ、現場にいたルーイちゃんなら、誰を攫ってきたのか、もう分かると思うけど」
「スターチススクラッチ、ですよね。でも、拉致したところでどうするんですか? 妖精がいないと魔法少女は戦えないって話ですし、そもそも、洗脳装置もないのに、彼女が組織の命令にそう簡単に従うとは思えないんですけど」
「なるほどね。先輩からは何も聞いてない、か。もしくは、先輩もまだ気付いていないのか。……まあいいや。どちらにせよ、ルーイちゃんには教えるつもりだったし」
そう言って、ピュアは引き出しのようなものを開け、その中から一枚の写真を取り出す。
その写真に写っていたのは…。
「これ、俺のアジトに設置してある洗脳装置だよ。洗脳装置は先輩のアジトにあるやつだけだと思ってたでしょ? けど違うんだ。俺は幹部マインドライフと今でも繋がってる。だから、洗脳装置をこうやってお借りすることだってできるんだよね」
洗脳装置。
組織が魔法少女を従わせるために使われる、人の人格を大きく歪める危険な装置。
それが、まさか……ピュアのアジトにもあったなんて…。
「まさか……それをスターチススクラッチに?」
「うん。使うよ。まあ、後で妖精を調達する必要があるし、そもそも彼女、今負傷しちゃってるからね。一応洗脳装置に治癒用の装置も付随されてはいるらしいから、一旦装置に繋いで身体が完全に治癒されるのを待ってる状態なんだけど…」
スターチススクラッチが、洗脳装置に繋がれている?
それは……まずいね。俺の時は俺が前世の記憶を持っていたからどうにかなったのだが、スターチススクラッチに前世の記憶なんてないだろう。
いや、もしかしたらあるのかもしれないが、あったとして、洗脳を完全に免れることができるかと問われれば、俺には答えられない。
つまり、スターチススクラッチが完全に洗脳されてしまっても、何らおかしくはないのだ。とすれば……。
「その……洗脳装置って、どこにあるんですか?」
「地下一階の個室。ルーイちゃんが見に行きたいなら見に行っても構わないけど、彼女を洗脳装置から外す、なんて真似はやめてね。一応、治癒のために一定期間洗脳装置に繋ぐ必要があるしね」
「わかりました。少し興味があるので、様子を見に行ってきますね」
「……うん。そうだね。行ってらっしゃい」
俺は特にピュアに疑われることなく、素直に見送ってもらえた。
……流石に、洗脳装置を見過ごすことはできない。
俺以外の魔法少女達が拉致されて洗脳されてしまうなんて、胸糞悪いし。
いや、洗脳さえ打ち破って覚醒! とかしてくれたら胸熱だし最高なんだけどさ。
けど、そんな不確定なものに縋りたくもないしな。
もちろん、キューティバース達なら洗脳されてもきっと乗り越えてくれるだろうとは思うんだけど。
だからって、洗脳闇堕ち展開はお望みじゃない。
俺の光堕ちが霞むっていうのもそうだが、魔法少女達のキラキラが、組織の洗脳装置とかいう機械で失われてしまうのが悲しいし、やっぱり胸糞が悪いと感じてしまうのだ。だから、俺はそんな展開は阻止する。
俺の光堕ちライフの上で、必要のない展開なのだから。
そう思いながら俺は走り、スターチススクラッチが拘束されている、洗脳装置の元まで辿り着く。
「……マニュアル?」
その部屋には、大量の資料が散乱しており……。中には、洗脳装置の説明書なるものも入っていた。
………その説明書によると、確かに、この洗脳装置は、身体の治癒装置としての側面も持ち合わせているとの記述があった。
治癒装置として機能させる時は、赤いボタンを押し、赤のランプを起動させておくこと。治癒が完了するとランプが自然と消灯するため、その時がくれば黒色のボタンを押し、黒色のランプを点灯させること。そうすれば洗脳が開始され、組織のための従順なモルモットが完成する、と。
説明書にはそう書かれていた。
そして、今のランプは赤色。
おそらく、スターチススクラッチを治癒している最中なのだろう。
トーレストとの戦いで、スターチススクラッチはかなりの重傷を負っていた。
ここで治癒を中断してまで洗脳装置から引き剥がすのは、少々危険かもしれない。
ならば……。赤色のランプが消灯するまで、待つしかないだろう。
………ピュアが来るか来ないか、俺はドクドクとなる心臓の音を聞き、ソワソワしながらも待ち続ける。
スターチススクラッチは、魔法少女の姿ではなく、目を瞑っていて、おそらく意識はない。
話もできないので、ただ只管に待つことしかできない。
怖い……。もしピュアが来てしまったら、どうなるのか。
勇気を出してピュアに反抗すれば、俺の組織内での扱いはどうなってしまうのだろうか。
もし、反抗しなかったとしたら、そのままスターチススクラッチは洗脳されてしまうんじゃないか。
そんなドキドキを抱えながら、俺は待ち続ける。
幸いなことに、赤いランプが消灯するまで、ピュアがこの部屋にやってくることはなかった。
そして、赤いランプの消灯と共に、スターチススクラッチは目を覚ます。
「ん………ここ………は………」
「……静かに。見つかったら洗脳されるよ」
「ブラックルーイ…? 洗脳って……」
スターチススクラッチは、周囲をキョロキョロと見回し、やがて自分が拘束されている装置に目を向ける。
そして、おそらくさっきの俺の言葉で、その装置がどういうものなのか察したのだろう。
「この……装置は……映像でも見た…」
「映像?」
「……なんでもない。…………私を洗脳するつもり?」
「幹部ピュアはそのつもりだよ。けど、私はちょっと違うかな」
言いながら、俺はスターチススクラッチの拘束を外していく。
……どう言い訳するか、だよな。
これで俺がただのいい奴だと認識されてしまえば、そのまま流れるように光堕ちできるだろう。そう、流れるように。
つまり、劇的な光堕ちは望めない。最高のシチュエーションでの光落ちなど、夢のまた夢なのだ。
とすれば、俺は何とか、スターチススクラッチを助ける理由を作らなければならないのだが…。
「これで拘束は解けた。けど、ここは地下一階。出口から逃げようと思ったら、一階に居るピュアとの遭遇は避けられない。だからまあ、私がピュアの気を引いているうちに逃げなよ」
「なんで……どうしてそんなこと……」
「………敵の事情なんて気にすることじゃないよ」
俺はスターチススクラッチを洗脳装置から引き剥がし、そのまま彼女と部屋を出る。
スターチススクラッチは、俺に不安そうな目をむけながら、声をかけてくる。
「………希望の象徴である魔法少女を洗脳してしまったら、より濃い絶望が得られない。だから私を助けた。そういうこと?」
……なるほど、その理屈でいけば通るな。よし、使わせてもらおう。
「正解。希望の象徴である魔法少女が敵の手に堕ちたら、そりゃその時は良い質の絶望を得られるだろうけど……その時だけだよ。恒久的なものじゃない。だから、スターチススクラッチを助けてあげよっかなって」
「…………引っかかったね。その理屈は破綻してる。その理屈で行くなら、貴方はピュアに直談判すればいいだけの話だ。あの時、トーレストとの戦いを許可してもらったように。けれど、あくまでピュアの意向にそぐわない行動を貴方はしている。それは、合理的じゃない」
!?
え、わ、罠だったの?
ま、まさか俺の内心を探るために、わざと?
ま、まずいぞ、何か言い訳考えないと…。
「いや、合理的に考えてるよ。スターチススクラッチを洗脳しない方が組織のためになる。けどピュア様はそれを聞いてくれないだろうから」
「そもそも私はあまり表に目立って立つような魔法少女じゃない。一般市民に認知されていないだろうし、私が敵の手に堕ちたところで、絶望なんてしない。魔法少女が敵の手に堕ちたっていう絶望は、私じゃ与えられない」
「いや、でもね…」
「ねえ、答えて。本当は、洗脳が解けてきてるんじゃないの? 元来の性格が、戻ってきてるんじゃないの? もう元の……優しい人格に…」
洗脳が解けてきてる、ねえ。
この子、洗脳装置を目に入れたことで、完全に俺が洗脳されて悪の魔法少女になってしまったと思い込んでしまっているらしい。
まあ、『ワ・ルーイ』視点はそうだから間違っちゃいないんだけど。
「違うよ。そもそも私は洗脳されて組織についたわけじゃないし。自分の意思で、『ワ・ルーイ』に加担しているんだから」
だから俺は、スターチススクラッチに違う可能性も提示しておく。洗脳じゃなくて、自分の意思で従ってるんですよーって、アピールしておく。
光堕ちの手段は、多い方がいいからね。
なんて、そう考えながら言った言葉は。
「………嘘ばかり。合理的じゃない」
あっさりと、彼女に否定された。
明日の投稿について
明日は投稿しません。というか、毎週日曜は投稿しないことにします。
理由は、日曜日はルーイちゃんの代わりにキュアアルカナシャドウが光堕ちしてくれるからです()
という冗談は置いておくとして。
そろそろ毎日投稿難しくなってきたな、と感じたので、ちょっと頻度緩めようということになりました。
なので、毎週日曜日は更新がないということだけご了承下さい。