え、えーと。
俺、振られちゃいました!
俺は山吹さんの背中を悲しげに見つめる。
うん、まあ、いいのよ、うん。
………そりゃそうだよね。今日会ったばかりの友達より、それ以前から仲良くしてる友達の方優先するよね……。
いやさ、俺としても嬉しかったのよ。
何気に俺、拉致されてから2、3年は外界と触れてなかったから、人肌に飢えてたんだよね。
だから、久しぶりに仲良くできそうな子ができたー! って思ってた矢先にですよ。
うーん、俺としちゃ連絡先も交換して定期的に交流したいと思ってたんだけど。
ん? スマホ持ってるのかって?
持ってるよ。持たさせてもらってるとも。
でも管理アプリみたいなの入れられてるからSNSは基本使えない。
動画見たりとか、検索したりとか、そういうのできないようにされてるんだよね。
許されてるのは電話とかメールだけ。それ以外は禁止されてる。
まあ、余計なものに触れて洗脳が解けたりだとか、弱まったりだとかしたら困るからだろうね。その代わり、外での行動の自由を与えられてるから良いんだけどさ。
とにかく、山吹ちゃんとの仲良しタイムは今日はこれでおしまいってことだ。
まあ、今日彼女に会えたってことは、また別の日にもここで出会える可能性があるはずだ。この近辺に住んでるっぽいし、何も『あの悪役娘も実は可愛いところあるんだぜ』作戦は今日だけしかやらないとか、そういうわけではないのだから。
……にしても、今日は疲れたなぁ。
「本当、魔力の消費激しいんだわこれ」
一度魔法少女と初邂逅を果たしてから、俺は俺なりに、魔法の練習をしていた。
勿論、準備期間中にそれなりに魔法の訓練みたいなものをする機会はあったんだが……。
正直、あの期間は実験されたり検査されたりで、あんまり特訓の時間取れなかったからな。組織『ワ・ルーイ』も、悪の組織として、魔法少女の仕組みなりなんなりを理解しておきたかったらしく、そりゃもう俺の体は舐め回すように調べ尽くされましたし、俺が死なない程度に利用されもしましたよ。いやんっ、もうお嫁に行けないっ!
まあ、つっても2、3年もありゃそれなりに魔法を扱えるようになるくらいの時間は取れたんだけどね。
ただし!
それでも、実験で魔力は消耗するし、検査で魔法を使わされたりすることもあるから、万全の状態での訓練って言うのは一切できなかった。
けどさ、最近は時間取れるようになってきたんだよね。
俺を利用して作成された怪人も、ちょくちょくアップグレードしてきたけど流石にこれ以上俺を調べても性能向上に繋がる要素は見つからなくなってきたみたいだし、魔法少女の対処法、みたいなのもある程度検証できたみたいだから、それでまあ、あとは好きなようにこの街の人々を絶望させたまえ、ってクロマック君から言ってもらったんよね。
まあ、そういうわけで、今の俺は、魔力が万全の状態で特訓する日を作れる状態だってことだ。
でだ。
魔力フルの状態で、自分なりにどんな魔法を使えるか、とか、魔法の条件だ、とかを調べていて、新たな収穫は2つあった。
まず1つ。
それは、この前の戦闘で掴んだ違和感から辿り着いたものなんだが。
一度の戦闘に2度同じ魔法を使うと、2回目に使う時は魔力消費量が大幅アップするということ。
これは、以前『ブラックハンド』を2度使った際に、2度目に持って行かれた魔力が多いように感じたことから検証した。
案の定、短期間に2度同じ魔法を使うと、明らかに魔力の消費量が増えていた。
つまり、あまり何度も同じ魔法を連発するのは、コスパが悪いということだ。
そして2つ目。
これは今、俺が疲れている原因でもある。
まあ、端的に言うと、それは、分身魔法、である。
つまり、俺と全く同じ容姿を持った存在を、魔法によって作り出す、というものだ。
これにより、俺は一時的に2人に増えることができる。
3人以上に増やしてみようとも考えたのだが、3人に分身しようとした時、生命力が削られる予感のようなものがしたので、やめておくことにした。
んで、この分身なのだが、めちゃくちゃ万能というわけでもない。
容姿こそ全く同じだが、魔力量とか諸々本来の自分の2分の1になるし、体の中の何かがごっそり持って行かれる感覚がする。
それに、とにかく魔力消費量が多い。
ただでさえ2分の1になるのに、その前にごっそり魔力が持って行かれるのは如何なものかと。
そういうわけで、あまり戦闘面での活躍は期待できない。が。
今回『あの悪役娘も実は可愛いところあるんだぜ』作戦を行う上では、かなり有用な魔法である。
そう、つまり。
名字広井名前未定の状態の俺と、魔法少女ブラックルーイ。
この2人が別人であると、そう示す上でかなり重要な役目を果たすのだ。
この分身魔法により、2人の魔法少女には俺の分身である魔法少女ブラックルーイと戦闘してもらう。
そして、その後に、この俺! 名字が広井ちゃんを視認してもらい、一旦俺と魔法少女ブラックルーイを切り離して考えてもらうのである!
ん? それじゃあブラックルーイの好感度は上がらないんじゃないかって?
最初の方は上がらなくて良いし、もし名字広井ちゃんとブラックルーイを結び付けたかったら、分身魔法のことをバラしてしまえばいい。
魔法少女なんだし、俺以外にも分身魔法できる子がいてもおかしくないっしょ。
仮に今はできなくても、やってみればできるかもしれんしね。
と、いうわけで、俺はこの完璧なプランを以て、『あの悪役娘も実は可愛いところあるんだぜ』作戦を実行しようとしていたわけだ。
……にしても、あの2人組の魔法少女、まだ戦闘中なんだろうか。
そろそろ切り上げて、この俺、広井ちゃんの姿を見つけて欲しいところなんだけど……。
うーん、こういうところも分身魔法の欠点なんだよね、俺と俺(分身)で連絡が取れない。
組織から支給されたスマホも一台しかないし……。
今度二台目お願いしてみようかな。
まあ、いいや。
とりあえず、二人組の魔法少女がここに来ようが来まいが、俺のやることは変わらない。
ぼっちなりに、遊びの限りを尽くしてやろうぞ!
さて、魔法少女2人組と怪人をぶつけたところまでは良かったんだが……。
「魔法少女……ブラックルーイ……」
この間、俺の初戦闘の際に最後に割り込んできた魔法少女の増援。
彼女が再び、この場にやってきていた。
さっきシャイニングシンガーが電話してたみたいだし、多分それで呼んだのだろう。
怪人は先程倒されてしまった。
当初の予定では、そもそも俺の存在がバレないようにするか、怪人が倒された後、魔法少女の1人を『ブラックハンド』で拘束して、全速力で逃げ帰る、というどちらかのプランをとっていたのだが……。
……魔法少女二人組には見つかるわ、3人目の子が来るわで、当初のプランは完全崩壊済みだった。
俺の存在については、『あの悪役娘も実は可愛いところあるんだぜ』作戦をやる上ではバレた方がいいのかなとも思ったが、別にそれがなくても『あの悪役娘も実は可愛いところあるんだぜ』作戦は可能だし、何より分身で弱体化中な身で危険なことはできないってのがあった。
かといって、戦場に俺がいないのもそれはそれで問題なんだよな。
怪人が変な場所で暴れ出したり、街の人に被害が出たら困るから、俺が近くで見ておく必要があるし。
今頃もう1人の俺は楽しみの限りをつくしているところだろう。
うーん羨ましい。まあ、どっちも俺だし、元に戻ったらどっちの経験も記憶にある状態になるんだけどさ。
さて、どう逃げるか。
「……ブラックルーイ。私は、貴方と話がしたいの。私、貴方のこと何も知らない。どうして怪人の味方をするのか、どうして街を破壊しようとするのか。私は、何にも。だから…」
桃色の魔法少女、キューティバースが俺の方を見て、言う。
対話の余地あり、と。
どうにか会話で隙を作って、上手いこと逃げるしかないか。
あんまり長いこと分身してると、体に良くなさそうだし。
「キューティ先輩の要求に素直に従った方が良いですよ。私は覚えてますから。前に私が2人の増援として来たとき、貴方が、“流石に3人目はきつい”と言ってたこと。3対1じゃ、不利なんですよね?」
黄色の魔法少女は言う。
彼女の衣装も、中々良いね。黒と黄色の2色のコントラストがよく映える衣装で、スカートには花柄の表紙の4冊の本が四方にくっついて絢爛さを増している。
ま、そんなことに思考を回したところで、この状況を打破する何かが思い浮かぶわけでもないんだけど。
「いいよ。乗った。少しお話ししよっか。何が話したいの? 言っておくけど、組織のアジトとか、そういう情報は言えないよ」
ま、つっても複数拠点持ってそうな感じもするから、俺が今滞在してるアジトがバレても問題ないんだけどね。事実、一個民間企業を運営して資金繰りしてたりするっぽいし、裏で何してるかは本当に知らん。幹部さん達も企業運営とかで忙しかったりするらしい。お前ら何してん。本業悪の組織ちゃうんかい。とか思わないでもないが。
まあ、1人は『ワ・ルーイ』の業務専任の幹部いるし、クロマック君も俺の滞在するアジトに基本的にずっといるから、悪の組織の体裁は保ててるのかもしれないが。
「……いくつか、質問をさせて欲しいの。どうしても、貴方の目的と、行動原理を知りたいから」
魔法少女シャイニングシンガーが、不安そうな顔をしながらそう発言する。
この子、この前泣いてたんだよね。今日はメンタル大丈夫そ?
あんまり無理しないでね。まあ、メンタル弱者のまま成長する気がないなら、魔法少女に相応しくはないとは思うけど。
でも、この前泣かせて来た相手にまともに話を投げかけれるってことは、魔法少女の素質がないってわけではないのかもしれないね。
「それを教えて、私に何のメリットがあるの? 貴方達が知りたいだけ、そうでしょ?」
「……質問に答えてくれたら、今日は貴方を見逃すことにします」
「え、ちょっとゆ……ムーンちゃん!」
「キューティ先輩、ブラックルーイと対話を試みたいなら、こちらも譲歩するべきですよ。ちゃんと、話し合いましょ?」
「……うっ……。分かった。それじゃあ、私達の質問に答えてくれたら、今日は見逃してあげる」
なるほど。これは願ったり叶ったりだな。
俺の目下の目標は、この場から逃げ切ること。向こうからその提案をしてくれるのなら、ありがたくのらせて頂こう。
彼女達は魔法少女だし、騙し討ちなんてしないだろうからね。安心して約束できるってわけだ。
「いいよ。別に減るもんでもないしね。さ、何から聞きたいの?」
「……最初に、質問いいかしら?」
声をあげたのは、魔法少女シャイニングシンガーだ。
ふむ、やっぱり、ただの泣き虫魔法少女、というわけではないのかもしれない。現に今、俺に話しかけることができているのだから。
この間、引退していただこうなんて考えたのは、失礼だったかもしれない。
「誰でもどーぞ。どうせ一緒だし」
「そうね、それじゃあ……」
俺はシャイニングシンガーの言葉を、待つ。
まるで捨てられた子犬のように不安な顔をしながら、シャイニングシンガーは、俺の顔を見て、こう尋ねた。
「……貴方に、姉はいる…?」
「?」
意図のわからない質問に、俺とキューティバースは、2人して首を傾げた。