「ねえ、もうそろそろ暗くなってきたし、今日はここら辺でお開きにしない?」
カラオケで歌う俺こと光千夜あらため広井愛結は、そろそろ分身状態を解除した方がいいんじゃないかという疑問を持ち始めたため、解散しないかと、ゆーちゃん達に提案する。
「わっ、そうだね。もうこんな時間だ。……楽しい時って、すぐに時間が過ぎちゃうんだよね〜」
「先輩の曲の好みが私と似通っていて、凄いシンパシーを感じました。やはり、崇高な目的を持つものは同じ頂に辿り着くんですね」
悔しいことに、恩智寧魅夜ちゃんと曲の好みが合致するのは本当で……。はい、正直一緒に歌ってて楽しかったっす。デュエットもしちゃいました。おい、普通に攻略されかけてっぞ!
このままじゃ魅夜ちゃん広井愛結ルート突き進んじゃうよ!
「魅夜ちゃん変な子だと思ってたけど、接してみると意外と良い子だったね〜。最初はちょっと身構えてたけど、思ってたより接しやすくて安心したよ」
「し、失礼ですね。これでも私、学校に友達ちゃんといるんですからね。……先輩に対してああなってしまうのは……その……初めて会った“同志”だからといいますか……」
結局、何で魅夜ちゃんが俺に異様に懐いているのかは分からないままだったな。
まあ、ストーキングされる可能性はまだあるから、警戒は外せないんだけど。
まあ、俺の害になるようなことは基本的にしないと思って良いだろう。俺への態度も、一応好意から来るものっぽいし。
「魅夜ちゃん、今日は楽しかったよ。また遊ぼうね」
「はい! 私も、先輩と出会ってから人生が180度、いえ、360度変わりました!」
「愛結ちゃんのこと大好きなのはわかるけどさ、それ一周回って何も変わってないよ?」
「はっ! じゃあ180度です! 180度変わりました」
「あはは。あーちゃんは人気者だね」
「魅夜ちゃんがたまたま私のこと好いてくれてるだけだと思うけどなぁ……」
と、雑談を交わしつつ、俺達はそれぞれ帰りの身支度をしていく。
戦闘中の俺、どうなったかなぁ?
ピュア裏切り大作戦とか、成功したのかね。
ま、それは帰ってから聞けば良いこと……。
っとそうそう。アジトの様子を聞いとかないとね。
俺が分身を解除する時、必ず片割れ同士で連絡を取って、誰もいないことを確認してから合流することになっている。
そのため、俺は用意した2台のスマホを、それぞれの分身が持つようにしているわけなんだが。
「ばいばいゆーちゃん!」
「うん! 私……ちょっと落ち込んでたんだけど、あーちゃんのおかげで元気出たんだ。だから、ありがとう。また遊ぼうね!」
「うん! じゃあね!」
俺はゆーちゃんと別れてから、自身のスマホ……広井愛結としてのスマホで、ブラックルーイとしての俺が持つスマホで電話をかける。
…これでもし連絡が返ってこなければ、おそらく周りに誰かいるということだろう。その場合は、ちょっと周囲をぶらぶらして、時間をずらしてから帰ることにしているのだが……。
『もしもし?』
よし。どうやら、俺の周囲には誰もいないようだな。
これで分身は解除できる。いくら魔力増強剤でデメリット帳消しにしているとはいえ、分身魔法ってあんまり体に良くないだろうからね。
「もしもしルーイ。今からアジトに帰ろうと思ってるんだけどさ。ピュア裏切り大作戦は上手く行った?」
『? ……えと……ご、ごめんなさい。そもそも、誰……ですか?』
…………。
………。
……………?
ん?
どういうことだ? 誰って……。
え、電話かけ間違えた?
「え……っと……もしもし? あの、もしかして間違い電話でした? その、すみません、えー……光千夜さんではない感じですか?」
『あ、いや。光千夜なんですけど……えーと、なんて言えば良いかな…? そ、そう! 私、今絶賛記憶喪失中で……』
…………は、はへ?
きおくそうしつ?
な、な…。
た、確かに、電話の向こう側の声は俺のものだ。
俺自身が言うんだから、間違いない。けど、じゃ、じゃあ、本当に…?
「記憶喪失って、どこまで…?」
『えーと。………ここ3年分くらいの記憶は、全部消し飛びました⭐︎』
…………それって…。
前世の記憶思い出す前じゃね?
ってことは、今俺が話しかけてるのは……。
前世の記憶が戻る前の
ま、マジかよ。何でそんな事態になってるんだ!?
いや、そりゃさ、洗脳装置で洗脳されなかったのはおかしいと思ってたけど、今バグ起こすの? よりにもよって、分身中に!?
……ま、まあいい。
とにかくだ。分身を解除すれば、記憶だって元通りになるはず。
それで、もっかい分身しちゃえば、分身の方にも記憶は共有されて、どうにかなるはず!
大丈夫。大丈夫だ。これくらいのハプニング、どうってことは…。
『千夜ちゃん、誰と話してるの?』
『あ、夕音叔母さん。広井愛結って子からなんですけど、知ってますか?』
『誰その子? 私は知らないけど…』
ま、ま、まずーい!?
夕音って、ジェネちゃんじゃん! ジェネちゃん隣にいるじゃん! まずいまずいまずい!
バレたら、やばいかも……。なんて言われるか分からん!
と、とにかく……こうなったら!
「ご、ごめん! また後で! それと、千夜ちゃんと2人きりでしか話せないことがあるから、また1人の時に掛け直して!」
俺はそう告げて、一方的に通話を切る。
仕方ない。とにかく、記憶喪失の俺からの連絡を待とう。それで隙を見て、記憶喪失状態の俺と合体! 記憶を共有して、もう一度パーフェクトブラックルーイに戻るんだ。
そうすれば、何もかも元通り、なはず……。
「……うーん、しばらくこの辺りをぶらぶらしとくしかないか……」
ジェネちゃん達に分身の存在がバレてしまいかねないということを考えると、今アジトに帰るのは危険だ。記憶を失った俺が、本当に周りに誰もいない時に俺に電話をかけてくれるのかという疑問は残るが、信じるしかない。
しかし、記憶喪失、ねえ……。
前世の記憶が蘇る前の俺かぁ。
どんなんだったかな。
まあ、前世の記憶が蘇ってないとは言っても、知識だけは前世から受け継いでるみたいな状態だったから、頭が良くて勉強ができる子っていう風に周りから見られてたことは覚えてるんだよね。
当時の俺は自信に満ち溢れてたっけ。自分のこと天才なのでは? とか思ってた時期もありましたね。元々の知識量的に、全部が全部カバーできてるってわけでもないし、学年上がる毎についていけなくはなってたんだろうけど、当時の俺にはそんなこと分からなかったからなぁ。
気付いたら陽キャなる存在へ変貌を遂げてたし、クラス内でもトップクラスに頭が良かったから、ああ、私は結構優秀な存在なんだな、って認識ではあった。
だからまあ、自己肯定感は今より結構高かったかもしれない。
いや、別に今も自己肯定感が低いわけではないんだけどさ。
「あ、あの本屋さん潰れてるんだ。……一時期遊美と一緒に通ってたこともあったんだけどなぁ……」
俺は周囲を散歩しながら、思考を巡らせる。
途中で、過去に俺が通っていた店が実は潰れていたというショッキングな事実を目にして、時の流れの残酷さというものを思い知る。
……まあ、とにかく。
合流して事情を話せば、分身の解除に力を貸してはくれるだろう。
分身したままの状態だと何かしらリスクがある可能性とかを伝えておけば、すんなり元に戻ってくれるとは思う。
まあ、分身のリスクって具体的に何? って聞かれたら、ぶっちゃけ俺もよくわかってないから答えられないんだけど。
「お?」
過去に思いを馳せていたところ、俺の持っているスマホから着信音が鳴る。
俺の片割れ……記憶喪失状態の光千夜がジェネちゃん達のいないところで掛け直してくれたんだろうか。
そう思い、俺はスマホを手に取り、相手が誰かを確認する。
「るいるい………ってことは、俺だな」
一応、『光千夜』とか、『ブラックルーイ』とかにすると、他の子……例えばゆーちゃんとかに見られた時に、ちょっと面倒なことになりそうなので、片割れのスマホは『るいるい』で登録してある。友達のあだ名なんだな、って認識してもらえそうだし、何より悪の組織の魔法少女につながる連絡先が『るいるい』だとは思うまい。
俺は着信を取る。
俺がスマホを耳元に当てて、次に聞こえてきた声は…。
「もしもーし! こんにちは、ちょーっといいかな?」
俺のものではなく、ジェネちゃんのものだった。