………どうしよ。
ジェネちゃんがわざわざ『るいるい』のスマホで俺に連絡をとってきた、という時点で、ジェネちゃんは俺のことを警戒しているんだろう。
それもそうだ。
拉致洗脳によって交友関係をリセットされたはずのブラックルーイが、何故か何者かと連絡をとっているともなれば、その相手が誰なのか、どういう繋がりなのか、当然探りを入れる必要が生じてくる。
………まじでどう言い訳しようか。
『もしもしー? 聞いてますかー?』
………とりあえず、分身の存在に気付かれるわけにはいかない。
あくまで、広井愛結という独立した存在であることをジェネちゃんに示せればそれでいい。どうせ、向こうの俺は記憶喪失なんだ。探りを入れようとしても、俺の正体を完全に見破ることは不可能だろう。
ということで、俺は今から全力で“広井愛結”という架空の人物を演じるぜ。
「おっす! おら広井愛結! こんにちわだべ〜」
『おっす…? だべ…? ……えと、よろしくだべ〜』
なんか乗ってくれた。ジェネちゃんノリいいもんね。
とりあえず、俺の正体には気づかれてなさそうで安心した。この感じで乗り切れるといいんだが。
『私は………光夕音です。千夜の……家族です。それで、千夜が見知らぬ人との連絡番号を持ってて、本人も記憶がないって言うから、何者か気になっちゃって』
ジェネちゃんの本名は夏場夕音だったはず…。名字が違うね。なるほど、俺の家族って設定で押し通すつもりか。まあ、俺はジェネちゃんの正体知ってるし、その嘘は通用しないんだけどね〜。
「えー、うちは千夜っぺの友達だよ〜。千夜っぺ陽キャだから、交友関係広いんだ〜」
『早速キャラ崩れてきてない?』
「んなことないべ〜」
……やっべ。最初どういうキャラで行ったのか全然覚えてなくて口調がガバガバだわ。
……ま、まあ、俺の目的は俺が光千夜であると勘付かれないこと。ジェネちゃん達に分身の存在を知らせないこと、だから、何も問題はない……はず……。
いや、流石に無理があるか…? どうなんだろう……。
……ええーいこうなりゃやけじゃ! キャラのゴリ押しじゃー!!
『まあ、友達ってだけならいいんだけど……。……千夜とどこで知り合ったの?』
「んーと、越智夜で知り合ったべ」
『越智夜っていうと、商業施設が並んでるあの?』
「そうだべ。越智夜で千夜っぺと知り合って、仲良くなったんだべ」
実際俺はプライベートで越智夜に立ち寄ってるし、ジェネちゃんが俺の動向をいちいち追っているはずもないから、この嘘は突き通せるはずだ。
『ふ〜ん。なるほどね……。……………ねえ、どうして、千夜ちゃんが千夜ちゃんであると、貴女は知ってたの?』
「へ?」
『千夜ちゃんは、自分が光千夜であると自覚していなかったと思うんだよね。一回私がその事実を伝えたことはあったけど、本人がそれをちゃんと認識してたとは思えないし。……だから、おかしいんだよ。光千夜の存在を知っているって時点で。……貴女は……何者?』
……そうか。一応俺は組織に洗脳されてたってことになってる。いや、事実洗脳装置で洗脳の施しを受けたわけなんですが……まあ、実際には洗脳されなかった。
けど、外観上俺は組織に洗脳され、自身の家族関係や友人関係はおろか、名前すらも覚えておらず、ただ組織のために貢献する、魔法少女ブラックルーイとしての使命しか頭にない状態だった。
だから、たとえ光千夜と交流をもったとはいえ、光千夜の名が光千夜であると認識するためには、元の光千夜を知っていて、組織に洗脳された経緯を知っているか、実際に洗脳を行った組織の人間か、そのどちらかが濃厚になる。
が、俺のような少女が、組織の一員として働いている例は、ない。
いや、一応キュヴァちゃんもいるが、あの子は幹部直属の子だし、ジェネちゃんとかとも関わりがあるタイプだから特別だ。
悪の組織『ワ・ルーイ』の一般構成員においては、少女は存在していない。
俺の存在は、ジェネちゃんからすれば怪しさの塊だろう。
とすれば、どう答えるのが正解か…。
通話を切る? しかし、そうなれば、怪しい俺と向こうにいる俺…光千夜と連絡を取ることを、ジェネちゃんが許してくれなくなる。
そうすれば、俺が分身を解除して元通りのパーフェクトルーイに至るのは難しくなるだろう。
だから、通話を切るのはナッシング。なんとかジェネちゃんに信用してもらって、俺と向こうの俺との通話を許可してもらわないといけない。
……本当に、どうしたものか。
……いや、待てよ?
一つだけ、方法がある。
「………バレちゃいましたか」
声色を少し変える。
光千夜であるとバレたら面倒なことになりそうだからね。
あくまで、広井愛結は光千夜とは別人であると、そう認識してもらう。
俺の光堕ち計画を進める上で、広井愛結という自由に動ける存在は、組織にバラしたくはないのでね。
『バレたといっても、私は貴女の正体を知らないんだ。だから、教えて欲しいんだけど……』
「そう………ですよね。……結論から言いますと、私は貴女達の敵。……言っちゃえば、街を守る正義の魔法少女、です」
………正義の魔法少女のフリ。それが、今この状況を打開するために、俺が考え出した案だ。
『魔法少女…?』
「はい。私は……ブラックルーイを……光千夜を助けるために、彼女に1台のスマホを渡したんです。私といつでも連絡が取れるように」
キューティバース達は、おそらくブラックルーイ=光千夜、という情報を、既に入手していると思われる。となれば、彼女たちのフリをすれば、さほど不自然ではないのでは? と、俺はそう思ったのだ。
仮にこれで通話の相手が触手幹部君だったりすれば、俺のこの案は通らないだろう。なんせ、魔法少女の連絡先を手に入れたようなものなのだ。広井愛結の身元を洗い出し、拉致し、同様に洗脳してやろうと画策したとしてもおかしくはない。
けど、ジェネちゃんなら?
ジェネちゃんは、俺の叔母にあたる人だ。
俺のことを、おそらく大切に思ってくれている存在だ。
だから、俺のことを助けたいと、そう言っている魔法少女がいたら?
自分が大切にしている姪のことを案じてくれている存在を、そう簡単に切り捨てる真似が、ジェネちゃんにできるだろうか?
そう思い至ったからこそ、俺はこの作戦を通すことにしたのだ。
『敵にそんなものを渡して、何の意味が? 千夜ちゃんは組織に洗脳されて、組織の従順な僕になってしまってる。だから、正義の味方の言うことなんて、素直に聞き入れてくれない、なのに…』
「それでも、連絡を取り続ければ、いつかは……改心してくれるかなと」
『理屈が通ってない。何を隠してるの? 貴女が言ってる事は、さっきからおかしい。………ねえ、答えてよ』
……けど、ジェネちゃんからの不信は、払拭できなかったようだ。
俺は完全に怪しまれている。
俺の言動に、引っかかるところがあったのだろう。
しかし、即興で考えついた作戦だからか、どこが悪かったのか、パッとは思いつかない。
……無理矢理押し通すしかないべ!
「だから、本当に私は魔法少女なんですよ。千夜ちゃんを助けたくて、だから連絡先を交換して…」
『それは違うよ!』
「いや、違うとかじゃなくてですね…」
『いーや。貴女の話はおかしなところがある。……どうして、敵対している相手と連絡先を交換できるの? 不自然じゃない? だって、千夜ちゃんは悪の組織の魔法少女で、悪の組織のために動いている子なんだよ? それなのに、正義の魔法少女と連絡先を交換するなんて…』
あ、確かに。
普通は交換しないよね、連絡先なんて。
そりゃそうだ。
んー……。どう誤魔化すか。
「……えと、私も悪の組織の魔法少女になりたいですって、そう嘘をついて連絡先を交換したんです。そしたら…」
『無理だよ。仮にそれで連絡先の交換に成功したんだとしても、千夜ちゃんがそのことを私達に報告しない理由は何?』
……まずい、押し切られそうだ。
……どうする?
一旦通話を切って、何かしら対策を考えてからもう一度嘘を押し通すべきか?
それとも…。
「……はいはーいゲームオーバー。残念だったね。時間内に説得できなかった貴女の負けー。コンティニューはできませーん」
俺がこの場をどう乗り切ろうか、頑張って頭を悩ませていたところ。
……突如肩に手を置かれるような感覚と、背後から、1人の聞き覚えのある少女の声が聞こえてきた。
その少女の名は…。
「キュヴァちゃん…?」
「あれ? ルーイ?」
『キュヴァちゃん、その子押さえといてね。……色々と聞きたいことがあるから』
……ジェネちゃんの口ぶり的に、キュヴァちゃんはジェネちゃんがこの場に呼んだっぽい?
いや、何で俺の位置が……。
逆探知とかいうやつ? つまり、ジェネちゃんが通話したのは、最初から俺の位置を割り出して、捕まえるつもりで…。
「? どったの? ジェネシス様と喧嘩でもした?」
「い、いやぁ……」
流石にここから入れる保険は、ないですよね…?