「んー。まあ、何があったのかはよく知らないけど、仲直りした方がいいんじゃない?」
「別に喧嘩したわけじゃないんだけどね…」
まさかジェネちゃんがキュヴァちゃんをこっちへ寄越して来てたとは思わなかった。
というかこの子、本当に他の幹部の部下なのかな? 結構ジェネちゃんのアジトに寄ることもあるような気がするし、俺と一緒に街の襲撃に参加したりもしてるし。
上司の幹部はキュヴァちゃんの行動に何とも思ってないんだろうか。
「私はジェネシス様に、この場所にいる人を捕まえて来て欲しいとしか言われてなかったから、事情はよくわからないけど…。ジェネシス様は、ルーイのことを、まるで全く知らない赤の他人かのように話してたよ? 喧嘩して嫌われでもしたんじゃないの〜?」
そりゃジェネちゃん視点通話相手は何故か光千夜の存在を認識している謎の少女、だからな。俺がブラックルーイであるということは当然知らない。
けどまあ、キュヴァちゃん視点で見ると、確かに俺とジェネちゃんが喧嘩したようにも思えるのかもしれない。
「これにはちょっと事情があって……」
「……まあ、ともかく。ジェネシス様の指示だから、ルーイ確保!」
「キュヴァちゃん、見逃してくれないかな? 後でちゃんとアジトには戻るからさ……」
「今回はコンティニューは用意されてないよ。それに、上司の……それも直属の指示は絶対だから」
「直属?」
キュヴァちゃんの直属の上司って、名前忘れたけど、イグニス、ピュア、オクトロア様、ジェネちゃん、師匠以外の幹部じゃなかったっけ?
「うん。私の直属の上司、ジェネシス様だから」
? え、ジェネちゃんがキュヴァちゃんの直属の上司なの?
いや、確かに、なんかゲームで遊んだり、俺と一緒に襲撃に参加してくれたりはしたけど……。あれって、直属の上司がジェネちゃんだからやってたことなの?
いや、でもそれっておかしくて…。
「幹部会議の時、他の幹部の代打で参加してたよね? その幹部が直属の上司じゃないの?」
あの幹部会議で不参加だったのは、2人。
ゆーちゃんと遊ぶ前にピュアから聞いた話だと、その内の1人がキュヴァちゃんの直属の上司っぽかったんだけど…。
「……あー…。トーレスト様は、倒されちゃった……というか……。あれ? ルーイが倒したんじゃなかったっけ?」
「へ?」
トーレスト? 何だその幹部…。聞いたことない名前だな…。
というか、俺が幹部を倒した? ピュアならともかく、何でトーレストとかいう幹部を…?
わからん。おそらく、戦闘に向かった方の俺が何かやったんだろうが…。正直何もわからんな。
てか、情報共有してもらおうにも、もう向こうの俺の記憶はなくなってるんだもんな…。
「とにかく、トーレスト様がいなくなった時点で、私の直属の上司はジェネシス様に変更されてるから。だから私は、ジェネシス様からの命令は絶対に遵守しなければならない」
「……まあ、トーレスト様の部下だったっていうのは分かったんだけど……。あれ、じゃあ一緒に他の地域の魔法少女と戦ってたって話は…?」
「? 何の話?」
「ピュア様から聞いたんだけど、イグニス様とかと一緒に別の地域の魔法少女と戦ってるんだよね? その時に一緒に行ってる幹部は、直属の上司じゃないの?」
「…? ……あー。イコル様のこと? イコル様は、普通にイグニス様に誘われてたまに街の襲撃に加わることがあるだけで、私とは何の関係もないよ。そもそも、トーレスト様は自由放任な幹部だったから、私の行動に特に制限を設けてこなかったし」
なるほど。じゃあ俺が勝手にキュヴァちゃんの上司はそのイコルなんとかというやらであると勘違いしていただけで、実際にはトーレストって奴がキュヴァちゃんの上司だったってことだ。
んで、何でかは知らんが俺の片割れちゃんがトーレストを倒してしまった結果、キュヴァちゃんはジェネちゃんの部下になったと。
だいぶややこしいことになってるなぁ…。
状況整理するために一度アジトに帰って情報収集したいところではあるんだが、片割れが記憶喪失の状態じゃあなあ…。
とりあえず、ジェネちゃんを何とか説得するためにも、この場は一旦逃げさせていただくのが吉!
「ごめんキュヴァちゃん!」
俺はキュヴァちゃんの手を振り解き、全力疾走する。
ここは街中。命令に忠実なキュヴァちゃんなら、魔法を使ってまで俺を止めようとする、なんてことはしないはずだ。
だって、街中で魔法を使ってしまえば、それは襲撃になる。
幹部様の計画外の襲撃は、キュヴァちゃんだって望んでいないはずだ。
そう思い、俺は全速力で駆け抜ける。が…。
「『スピードブー⭐︎スター』」
俺の全力疾走など、まるで赤子のハイハイだとでも言うように、キュヴァちゃんは、俺の何倍、何十倍もの速さで駆け抜け、俺の正面へと移動する。
「へ、へへ……」
「ルーイ、私の目を見て」
「?」
突然俺の前まで移動したキュヴァちゃんに驚いていると、キュヴァちゃんが自身の目を見るように言って来た。……あれかな、人の目を見て話を聞けってやつかな…。
……キュヴァちゃんから逃げるのは、ちょっと難しそうだし、一旦素直に話を聞いておいた方が良いかもしれない。それに、キュヴァちゃんを敵に回したくはないしね。
とりあえず、俺の誠実さをアピールするために、キュヴァちゃんに言われた通り、俺はキュヴァちゃんの目を見つめることにした。
「ルーイ、ごめん。でもこうでもしないと、逃げられてしまいそうだったから。……うん、まあ仕方ないよね。逃げるルーイが悪いってことで」
キュヴァちゃんが何か話してる。
俺が悪い…?
じゃあ、俺が悪いのかもしれない。
あれ、何でだろ。
キュヴァちゃんの目を見てから、なんだか頭がモヤモヤとしてきた気がする。
うーん。なんでだろう?
「ルーイ、今からあなたは、私の言うことを聞かなければならない。……3つ指示する。その指示に従うように」
「? うん、わかった」
よくわからないけど、わかったと答えておこう。キュヴァちゃんが言うってことは、きっと正しいことだと思うから。
「リピートアフターミー。一つ、貴方は、私の『支配の魔』によって、催眠状態になっている間の記憶を覚えていられない」
「…私は、キュヴァちゃんに『支配の魔』で催眠状態にさせられている間の記憶を覚えていられない」
よくわからないけど、そういうことらしい。
覚えない。覚えない。
忘れれば、覚えてないと一緒。
だから、今の間に起きたことは、忘れよう。
「2つ、貴方は今から、ジェネシス様の元へ帰らなくてはならない。これもリピートして」
「私は、ジェネちゃんの元へ帰らなくてはならない」
……そうだよね。きっと、ジェネちゃんも心配してる。はやく帰ってあげないと。
ジェネちゃん、俺のこと気にかけてくれてるから。
「最後に、ジェネシス様のアジトについた後、私が『支配の魔』の暗示を解除するまで、アジトから逃げ出してはならない。はい、リピート」
「ジェネちゃんのアジトについた後、キュヴァちゃんが『支配の魔』の暗示を解除するまで、アジトから逃げ出してはならない」
「この3つ、絶対に守ってね。わかった?」
「うん。大丈夫だよ、キュヴァちゃん」
よくわからないけど、キュヴァちゃんが言うなら、大丈夫だと思う。
だから俺は、素直にキュヴァちゃんの言うことに従う。
大丈夫、何も問題ない。
アジトに帰るだけだもんね。
「それじゃ、行こう。帰るよ、ジェネシス様のアジトに」
「うん、そうだね」
バレンタインですよー。チョコあげました? もらえました?
ちなみに千夜ちゃんは女友達にしかチョコあげないタイプだそうです。