ごめんちゃい
……夕音叔母さんに連れられて、私は、幹部集合会議なるものに参加することになった。
会議室は、結構広め。
7つ椅子が置いてあって、そこにそれぞれ幹部の方が座る配置になっているっぽい。
それで、私はなんと立ちっぱ。
皆座ってるのに、私だけ立ちんぼ。
モルモットの扱いされるとは聞いていたから、まあなんとなく予想はしていたんだけども。
さて、これからどんな酷い扱いが私を待っているのか。
「これで、全員揃ったみてェだな……」
夕音叔母さんの隣に座っている、赤髪の男性……彼は確か、幹部イグニス、だっただろうか。
そう、私は幹部集合会議以前に、一通り幹部の顔と名前は暗記している。
1回目の会議に参加してるのに、顔と名前を覚えてないなんて怪しい……というか、あくまで私は下っ端なわけだから、覚えていないこと自体が不敬に当たってしまうというか。
まあ、そういうわけで、私は事前に幹部のことを予習済み、というわけだ。
「口に出さなくても分かるよイグニス様。………まあ、仕方ないか。頭が回らなくて、普段の会議からろくに発言できていないから、こういうところで発言稼ぎしたいんだね」
イグニスの反対側に座っている、片目が隠れた少女……キュヴァが、彼を煽るかのようにして言う。
一応、キュヴァって娘は私と同じ幹部の手下で下っ端って立場なはずなんだけど、なんかイグニスと対等に話してるね。
しかも、私が座れない椅子に座ってるし。なんか扱い違くない?
「てめェ………相変わらずの減らず口だな……!!」
「発言稼ぎは人狼ゲームだと吊りの対象だよ。生産性のない発言をする奴はノイズにしかならないから」
「その言葉、そっくりそのまま返してやるよ。キュヴァ、てめェの発言も、この場においてはなんの生産性もねェからな」
「イグニス、それにキュヴァ。そこまでにしておけ。ここは幹部会議の場だ。無駄口を叩く場所じゃない。僕含め、皆貴重な時間を割いてこの場に来ているんだからね」
そう発言するのは、キュヴァから見て左隣に座っている、白髪赤目の少年。
黒い手袋に、口から見える八重歯。白いカッターシャツに、黒を基調としたマントや装飾があしらわれた服を着た、他の幹部より少しばかり背の低い、少年のような見た目をした彼。
彼の名前も、勿論私は覚えている。幹部イコル。
ヒンナさんが、彼の部下である湿島さんという老人を迎えに行った時に、少しだけ顔を合わせたからよく印象に残っていたのだ。
そして、イコルとイグニスに挟まれる位置に座っている、黒髪の男。彼の名前は……。
「あ、ルーイちゃん、今俺の方見た? ……俺も今、ルーイちゃんの方を見てたんだ、奇遇だね」
……うわぁ……。なんかキモい。
どことなく気持ち悪さが滲み出る彼の名前は、ピュア。
ピュア、ピュアねぇ……。
申し訳ないけど、気持ち悪い感じしかしなくて、全然ピュアって感じがしない。いや、本当に失礼で申し訳ないんだけどさ。
そして、後の幹部は、私のすぐ近くに座っている夕音叔母さん、ヒンナさん、そして……。
「それでは、皆さん集まりましたようですので、はじめさせていただきますか、幹部会議を」
幹部会議の開始を宣言した、全身が触手で覆われた、いや、触手そのものが体であると言わんばかりに、全身が触手で構成された、謎に包まれた男。
幹部オクトロア。
夕音叔母さんが最も警戒している相手であり、本来の私の直属の上司である存在。
どうやら、会議のまとめ役をやるのは、幹部オクトロアらしい。
………なるほど。触手で体が構成されてるとか言われた時は、絶対キモいじゃん、見ないでおこ、って思ってたけど。
思ったよりビジュ悪くないな?
若干かっこよさすら覚えるまであるぞ。
……やっぱりどんな素材も使いようってことなんですかねぇ……。
「ではまず初めに。幹部トーレストが撃破されてしまった件についてです。彼の話をする上では、2つの議題があります。1つは、トーレストの後任となる幹部について。2つ目は、彼が撃破される原因を作った者に対する、責任追及です」
私には全く記憶がないのだけど、どうやら私は幹部トーレストとやらを撃破してしまったらしい。それで、責任を取らされそうになっている、というのが現状だ。
……本当に、何をやっているんだ過去の私は。
「1つ目の議題についてだけど、後任に相応しいのはキュヴァくらいしかいないわ。それに、トーレストの部下だったわけだし、彼女を幹部にしておかないと、どのみちキュヴァをどの幹部の下に置くのか、という問題が生じるわけじゃない? だから、私としては、キュヴァが適任、というのが1つ目に対する答えよ」
「……ヒンナの意見に賛成するとか、そういうわけじゃないけど、僕も後任はキュヴァで良いと思うよ。実力は申し分ないし。……ただ、僕はヒンナとは違う理屈で、キュヴァが適任だと考えていて……」
「……イコル君〜、長ったらしくなっちゃうから、とりあえず皆の結論聞いてからにしよっか。ほら、一応この会議って多数決で大体決まるし」
長々と話をしそうになったイコルを、夕音叔母さんが止める。
まあ、確かにまずは誰がどういう意見を持っているのか、ざっと知りたいっていうのはあるしね。
まあ、私からすれば誰が幹部になろうが関係ないんだけどさ。
「オレは反対だ。キュヴァに幹部が務まるとは思えねェ。第一、こいつは仕事よりもゲームを優先するような奴だぞ!? そんな腑抜けた奴に、幹部なんて役職を与えて良いわけがねェ!!」
「別に俺は良いと思うけどね」
「私も別に異論ないかなー。強いていうなら、キュヴァちゃんが幹部って立場じゃない方が、私の好きに使えるから都合が良いっていうのはあるんだけどね」
「……別に幹部になっても、ジェネシス様が使いたい時に呼べばいつでも行くけど」
キュヴァが幹部に繰り上がりになることを賛成してるのが、ヒンナさん、イコル、夕音叔母さん、ピュア。
逆に反対しているのは、イグニスしかいない。
残りは当人と、オクトロアのみであるが、どちらも反対側に回ったとしても、多数決の理論でいけば賛成派が勝つだろうし、そもそもキュヴァも幹部になることに対して否定的な意見は述べていないことから、概ね幹部になるつもりでいると考えて良いんだろう。
とすれば、イグニスの主張はおそらく通らない。
仲悪くて、気に食わないんだろうけど、まあどんまいといったところか。
まあ、私には関係ないので、勝手に決めちゃってください案件なんだけど。
「大多数はキュヴァさんが幹部になることに賛成のようですね。イグニスさんは納得できていらっしゃらないようですが」
「…ああ、そうだ。そいつは幹部に向いてねェ。なる意味がねェ。トーレストの穴を埋めれるような人材だとは、口が裂けてもいえねぇな」
「そうですか。では、代替案はあるのでしょうか? もっと具体的に言えば、キュヴァさんの代わりに誰を幹部に置くのか、その検討はついているのか、という問いになるでしょうか」
にしても、ずっと立っとくのもなぁ。話に参加してるわけでもないし、会議の内容をまとめる書記でもない。せめて椅子にでも座れたらなぁ。
「ああ、それならある。キュヴァよりも幹部に適任な奴が、1人だけいる」
「どなたです?」
「ブラックルーイだ」
………ブラックルーイ?
……あれ? 私って、ルーイ…。
あ、そっか、私って。
「え………え? え? え?」
いや、確かに椅子には座りたいと言ったけども。
……でも、そのために幹部の地位を手に入れるっていうのは……。
……光堕ち、する上で、別に幹部じゃダメっていうのはないだろうし。
……検討してみるのもアリなんだろうか?
「ブラックルーイは、キュヴァよりも働き者だ。街の襲撃は定期的に行ってる。それなりの戦果をあげている。若干妖魔の扱いや怪人の扱いに雑さが見えるが、それでもやるべきことをサボるようなキュヴァよりはマシなはずだ」
「確かに、一理ありますが……」
「そんなこと言っておいて、自分が魔法少女と戦う時は私の力を借りている癖に。私に幹部という地位を与えたくないなら、まず私に頼ることをやめた方がいいと思うよ、イグニス様」
「……ああ、そうだな。てめェがゲームで途中離脱なんかしなけりゃ、もっと楽に戦えたんだろうがなァ?」
まあ、ないか。これ単純にイグニスがキュヴァのこと気に食わないから私幹部にしろって言ってるだけだもんな。
大多数はキュヴァが幹部になることに賛成しているわけだし、イグニスだけが反対してるから幹部はブラックルーイになりました、っていうのは意味わからなさすぎるし、まあ、私が幹部になることはないのでしょう。
これからの会議、また立ちっぱなしで話を聞き続けることが決定致しました。ざーんねん。ま、別に幹部という地位にこだわりないからいいんだけどね。
「……イグニスさん、白熱しているところ申し訳ありませんが、ルーイさんに関しての権限は私が握っています。そして、私が思うに、ルーイさんには幹部という役職は不向きであり、また、ルーイさんがその実力を発揮するためには、私の部下という立場でいるのがベストであると統計で出ています。ですので、私個人といたしましても、やはりキュヴァさんが幹部トーレストの後任として適任ではないかと」
「オクトロア様はこう言ってるけど?」
「………チッ……」
まあ、そうなるよねぇ。
ともかく、イグニスが荒らしたけど、どうにか一つめの議題についてはまとまりそうで安心したよ。
「それでは、一つ目の議題については、キュヴァさんが新たに幹部となる、ということでよろしいでしょうか?」
オクトロアの言葉に、各々が頷く。
反対していたイグニスも、渋々この決定を受け入れることにしたようだった。
……そして、これを持って多数決の理屈により、キュヴァがトーレストの後釜の幹部を継ぐことは決定した、ということになる。