TS魔法少女は光堕ちしたい!!   作:布団から出られない

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7見捨てた姉は報いを受ける

「それ、どういう意図の質問?」

 

ブラックルーイは、心底意味がわからないという表情をしながら、質問の意図を私に尋ねる。

………どういう意図、か。

 

特に深い意味はない。ただ、ブラックルーイが千夜かどうか確かめる上で、確認するのに最適な質問は何か、探りながら質問を投げかけているだけだ。

 

あまり直接的な質問は避けるべきなのだから。

例えば、どこの学校に通っていたか、だとか、貴方は光千夜ですか、だとか。

そんな質問を投げかけてしまえば、私達が何者か、推測されてしまうかもしれない。

 

けど、強いていうなら、この質問には、2つの意味が含まれているのかもしれない。

 

貴方に姉は存在しているのか、という意味の問いと、貴方に姉は必要なのか、という問い。

前者の意味であれば、私という姉がいるのだから、“いる”が真実となるのだろう。

 

確認する上で、必要なのは姉が存在しているのか、存在していないのか、だ。必要か必要でないかは、聞く必要がないし、聞きたくない。

 

分かっていても、いらないなんて言われたら、私は立ち直れない気がするから。

 

「そのままの意味よ。家族がいるのか、それが確認したくて」

 

「……なるほど? 答えを言うと、“いない”だよ。姉に限らず、弟も妹も、何なら兄だっていないよ」

 

私は遊美の方を見る。

遊美がその手に持つ本は、苺でいうところのステッキで、私にとっての横笛と同じポジションの魔法道具だ。

 

彼女の特性は、その魔法の難解さにある。

魔の法則を筋道立てて論理的に構築し、それを複雑に絡み合わせて、高度な魔法を扱う。魔法というよりも魔の術、魔術と呼んだ方がいい代物だろう。

 

魔法と魔術という言葉に厳密な違いは存在していないが、魔法を魔力の法則に従って行使することと定義するならば、私ならきっと、魔術を魔の法則に固執せず、柔軟に組み合わせて術として体現することと定義するだろう。

そして、その定義に当てはまるのが、遊美だ。

 

私や苺と違い、遊美は特定の“技”を持っているわけではない。

代わりに、本当にその場で即席で、理論を構築し、その場に最適な“技”を作り出して行使する技術を持っている。

 

デメリットとして、同じ“技”を行使しようとしても、再現不可能になってしまいがちな点が挙げられるが、それでも遊美の技術は凄まじいものだろう。

 

ただ、今回はその技術を遊美が活かすことはない。

本来、複雑な魔術を行使するために使われる本は、今は魔法少女ブラックルーイの発言の真偽が如何なるものかを私に知らせるための道具でしかない。

 

遊美は魔法少女に変身すると、人が嘘をついているかどうかを判別することができる『公正の魔』という魔法が自動で発動するようになっている。

それによって、魔法少女ブラックルーイの発言の真偽を確かめてもらい、本を閉じている場合は、嘘。本を開けている場合は本当である、という風に定義して、私や苺にそれとなく伝えてもらうことにしたのだ。

 

そうして、遊美の方を見た時、彼女の手元にあった本は……。

 

「開いてる…?」

 

つまり、真実であるということ。

ブラックルーイは、本気で姉がいないと思っている……?

そんなわけがない。だって、事実私という姉がいるはずなのだから。

 

「まあ、家族構成に特別複雑な何かがあるわけじゃないし、何の特徴もないから特定も難しいと思うよ? そんなことより、目的とか、そういうことを聞きたいんじゃなかったっけ?」

 

「なるほど。それじゃ、別の視点から質問を投げかけます。……先輩?」

 

『シャイニング、どうしたんだっきゅ?』

 

なら、それなら。

ブラックルーイは、私を………光聖歌を、姉だと認めていないと、そういうことなのだろうか。

 

私が、あの時見捨てたから。

必死に助けを求める千夜を……、今まで頼れる姉として、散々振る舞っておきながら、自分の命かわいさに逃げ出してしまったから……。

 

だからきっと、私に、失望したのかもしれない。

私を、本当の姉だとも思いたくもないのかもしれない。

 

……当然のことなのに。

恨まれて当然だ、失望されて当然だ。

 

そんなこと、わかりきっていたというのに…。

 

「っ……」

 

実際にそうだと突きつけられると、こんなにも心苦しいものだなんて。

 

【お姉ちゃん!】

 

……いやだ。

 

【遊美に見せてもらった本がおもしろくてね、今度お姉ちゃんも…】

 

やだ……。

 

【ねえお姉ちゃん、今度一緒に、ショッピングモールで散歩しない?】

 

……いやだいやだいやだ!

 

私を、見て欲しい。

まだ姉だと思っていて欲しい!

もう姉じゃないなんて、思わないで欲しい。

 

いやだ、まだ私は、千夜と家族でいたい。私は、千夜の姉でありたいのに。

 

なのに、どうして…!!!!

 

「せい……シャイニング!!」

「先輩!」

『しっかりするっきゅ!』

 

「へ?」

 

「凄く辛そうな顔してたけど、大丈夫?」

「先輩、少し深呼吸してください」

『思い詰め過ぎはよくないっきゅ!』

 

気付けば、私の動悸は激しくなっていて、額からは汗が垂れており、横笛を握る手にも、汗が滲んでいた。

 

……2人とキュートの声で、何とか正気を保てている、といったところだろうか。

 

……いや、そうじゃない。

2人とキュートのおかげじゃない。

 

……私は、苺の声を聞いて、それで安心したんだ。

私は、苺に妹を……千夜を重ねてしまっている。

いや、厳密には、苺の姉のように振る舞うことで、私の“姉としての自尊心”を保っている、といった方が正しいだろうか。

 

だから、千夜の代替にしている苺の声を聞いて、一時的に心を落ち着かせることができた。

 

……最低だ。浅ましい。

私が悪いのに、私は、苺に、勝手に千夜の代わりを見出して……。

 

苺に千夜のことを話さなかったのも、苺が戦う時に動揺するから、なんて理由じゃない。

私が……苺に失望されたくなかったから。

 

そんな理由で、私は……。

 

…こんなのが姉失格なのは当然だ。

それでも、それでも。

 

幸せだった。

千夜と2人、仲良く姉妹として暮らしていた日々は。

 

穏やかで、平和で。

 

だからどうしても、渇望してしまう。

あの日々を、もう一度。

あの輝きを、もう一度。

 

「先輩は休んでいてください。代わりに私が」

 

「………大丈夫よ。大丈夫だから…」

 

後輩にまで迷惑をかけてしまっている。何が頼れる姉だ。何が

 

「えーと………どういう状況? 質問には答えたけど、これで満足? もう帰っていい?」

 

「待って! まだ聞きたいことがたくさんあるの! だから、もう少しだけ、お願い!」

 

ブラックルーイは苺の懇願に対して、明らかに不満そうな顔をしている。

 

その表情を見て、私はどうしても、邪推してしまう。

 

そんなにも私と同じ空間にいるのが嫌なのか。

見捨てた姉を視界に入れたくもないのか。

なんて。

 

「それじゃあ、次の質問に……」

 

それ以降、遊美と苺によりいくつかの質問が投げかけられ、それにブラックルーイが答えるという形で話が続いていたが、その問答は、私には何一つ、耳に入ってくることはなかった。

 

「……いい加減しつこくなってきたな」

 

「なっ、ちょっと待って! まだ……!」

 

「……確かに、3対1は不利だよ。だけど、いつまでも質問攻めにされると、こっちもストレスなんだよね。わかるかな? それに、どうしてかは知らないけど、シャイニングシンガーは心ここに在らずといった様子だし……今なら」

 

苺がブラックルーイと対話している。けど、私の耳には入らない。

 

「……先輩! 動いてください! 来ます!」

 

「『ブラックハンド』」

 

「きゃっ! この黒い手……この前のっ……」

 

『キューティ!?』

 

私は、いらない。2人が質問している。

これ以上、ブラックルーイの……千夜の口から、私を拒絶するような言葉が発せられるのを聞きたくない。だから私は、何も聞こえない。

 

「くっ…! 待って!」

 

「1人で追うなら追いなよ。ただし、私が呼び出した妖魔達を倒してから、ね!」

 

「……先輩!」

 

何も……。

 

「聖歌!! いい加減にしてよ!!!」

 

「あ……」

 

苺に再び声をかけられて、私はハッとする。

見れば、いつの間にかブラックルーイはこの場から去っていて。

 

「先輩! 援護お願いします!!」

 

苺は黒い手に捕まえられていて、周囲には妖魔が複数体。その相手を、遊美がしている、といった状況になっていた。

 

………私が、見たくないものに蓋をしていた間に、状況が一変してしまっていたのだ。

 

……自己嫌悪が、止まらない。

私は、こんなにも惨めな人間だったんだ。

 

……でも、ここで不貞腐れちゃいけない。

2人を助けないと。

 

じゃないと、今度こそ、本当に腐ってしまう。

 

「……千夜……」

 

ああ。

どうすれば私、もう一度貴方の姉になれるのかな?

教えてよ、千夜…。

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