私、友崎鳴は、キューティバース達と情報共有を行うため、彼女の変身前の姿である桃乃瀬苺の自宅の自室に訪れることになった。
変身解除後の彼女の姿を見るのは初めてだったが、予想通りの明るく元気な少女といった感じで、特に意外性を覚えることもなく、違和感なく受け入れられた。
「よかった、無事だったんだね、鳴ちゃん」
「突然レディから連絡が来た時はびっくりしたけど、まあ、無事そうで安心したわ」
ピュアに攫われてしまった私のことを、ベルやキューティバース…桃乃瀬苺が心配してくれていたらしく、心底安堵したかのような表情を私に向けてくる。
確かに、私は助かった。けど、その代わりに……。いや、よそう。自己嫌悪に陥るのは合理的じゃない。
私がすべきことは、この情報を共有することなのだから。
そう、今回私が情報共有する魔法少女は、全部で4人。
私の親友である、リーベル=ローゼンベルクことベル。次に、ベルと交流を持ったという、魔法少女ムーンノウシーカー。そして、今まで影から活動を見守ってきた、魔法少女キューティバースと、現在そのキューティバースと行動を共にしている、魔法少女ホワイトポイズナー。
以上が、私が今回情報を共有しようとしている魔法少女達だ。
ついでに彼女達の契約妖精とも情報共有を行うことになるわけだが、まあ誤差の範囲内だろう。妖精には戦闘能力がないし、できることもたかが知れている。
精神的な意味では支えになってくれるかもしれないけど、悲しいことに、実際に何かできるというわけではないのだから。
「それで、鳴ちゃんが共有したいっていう情報って……」
「……主にブラックルーイの話。…光千夜の話、といった方がいいかもしれない」
ブラックルーイの洗脳。
それは、完璧ではなかったということ。そして、ベルやムーンノウシーカー……山吹遊美は知らない、ブラックルーイとの共闘の話。
それらを全て、共有する。
「……クール」
『分かってるクル。クーは会話の内容をメモしておくクル。どうせ暇クルしね』
「……千夜ちゃんの、話……」
「……まず、どうして私がピュアの手から逃れることができたのか、それを話す必要があるんだけど」
「………そういえば、そうだった。貴方は、ピュアに攫われていたはず。傷は重症で、すぐに診てもらわないと命の危険に関わるような状態だったはず。いくら手負とはいえ、組織の幹部から逃げられるほどの体力はなかった」
ホワイトポイズナー……白沢薬深が指摘する。
そう、その通りだ。私は、自力で逃げ切ることのできる状態ではなかった。
本来ならば、私はピュアのアジトで洗脳されて、そのまま組織の都合の良い手駒になっていたところだったんだろう。
……彼女の手助けがなければ。
「私はピュアのアジトに連れ去られた後、洗脳装置に繋がれた」
「っ……洗脳装置って、あの…?」
私の言葉に、桃乃瀬苺が反応する。
そういえば、彼女達も洗脳装置の存在は知っているんだったか。
映像を見たのかどうかは定かではないが、彼女達の嫌なことを思い出したかのような表情を見るに、映像は見たものと考えても良いのかもしれない。
山吹遊美は、口元を手で覆い、あまりその表情は窺えないし、白沢薬深も、そこまで過剰な反応は見せなかったので、どうなのかは分からないが。
だが少なくとも、桃乃瀬苺に関しては見たのだろう。それくらい、彼女は正直に洗脳装置に対する嫌悪感を顔に表していた。
「……そう、光千夜が洗脳された際に用いられたものと全く同じもの。それを私も、使われた。いや、使われかけた、といった方が正しいのかもしれない」
「………使われかけた? 実際には、洗脳装置は使われなかったってこと?」
「……そう。私が洗脳装置によって洗脳される前に、ブラックルーイ………光千夜が、私を洗脳装置から助け出してくれたから」
「……千夜ちゃんが…? それって……それじゃあ……」
『……千夜の洗脳が、解けてるってことっきゅ……?』
苺達の目に、喜の色が浮かぶ。
そうだろう。光千夜が私を助けたということは、そういうことだ。
洗脳されたはずなのに、幹部に逆らって私を助け出しているのだから。
「……光千夜の洗脳、それは完璧じゃなかったってことじゃない? ……だとすれば、まだ間に合う!」
「………組織の被害者を、助けることができる……」
「……そうだよ、千夜ちゃんを取り戻して、それで、聖歌も……」
そのことに、苺達が喜ぶのは、自然な流れなのだろう。けど……。
……光千夜を助け出すことができる可能性は、私が、私が……。
「………遊美ちゃん、千夜ちゃんと仲良かったんだよね? ……だったら、遊美ちゃんが千夜ちゃんを説得することってできないのかな? ……もし、洗脳が完璧じゃないのなら、遊美ちゃんの言葉なら、届くかもしれないし……」
「……え? ………あ……そ、それは……そうかもしれないですけど……」
「ブラックルーイを助け出せれば、一緒に組織と戦う仲間になってくれるかもしれない。……勿論、ブラックルーイが……光千夜がそれをしたくないというなら、私は強制するつもりはないけど……」
違う。違うんだ。その可能性は、私が潰してしまった。
私のせいで、光千夜を助け出すことが……。
せっかく、解けかけていた洗脳が、また……。
『……皆さん、少しお静かにしてもらってもよろしいですの? ……まだ、鳴のお話は終わっていませんわ。……何か、あるんですわよね?』
私の様子に気が付いたのか、レディが促す。
そうだ。……希望が見えた彼女達に、また絶望を叩きつけることになるかもしれない。けれど、これが事実なのだ。私の行動の結果なのだ。だからちゃんと、真実を伝えなければならない。
「……光千夜の洗脳は、間違いなく解けていた。いつからかは分からない。けれど、
間違いなく、私を助けた時の光千夜は、組織の手駒なんかじゃなかった。………けど……」
苺達が、私の次の言葉を待つ。
私の罪を……私のせいで潰えた希望を、聞くために。
「………光千夜は、私を助け出すために、ピュアに逆らって、私をアジトから逃した。……そのせいで……」
腕輪型の転移魔法機を貰い、私はピュアのアジトから離脱することができた。その結果、彼女は、私の身代わりになって…。
『ま、まさか、また洗脳をされたんだっきゅ…?』
「そうだよ。私を助けた結果、ピュアに洗脳が解けてるんじゃないかって、バレてしまった。そのせいで、光千夜は、再び洗脳装置にかけられることになってしまった」
……私の言葉に、一同は「そんな……」と言葉を漏らしながら、がっかりとした表情を見せる。
そうだ。私が、希望を潰した。
私が、光千夜を再び悪の魔法少女へと戻してしまう手助けを行ってしまったのだ。
だから……私が…。
「………うん、仕方ないと思いますよ、それは。……だって、避けようがないことなんですから」
そう言葉を投げかけてきたのは、先程まで口を手で覆い、寡黙な状態だった、山吹遊美だった。
彼女は明るい声で、私に話しかける。
「悪いのは幹部ピュアです。全部、あいつが千夜を洗脳したのが悪いので。……それに、また洗脳されたから何って話です。だって、一度洗脳が解けたのなら、2度目があったっておかしくないじゃないですか。むしろ、何度でも洗脳……いえ、いくら洗脳されても、その洗脳が解ける可能性は、0じゃないんです」
光千夜の洗脳が解けたかもしれないと、そう話した時ですら、明るい表情を見せなかった彼女が。
急に笑顔で、元気がありふれたような顔で、私にそう話してくる。
その様子が、あまりにも不自然に思えて……。
そこで私は、悟った。
彼女は、親友の洗脳が解けないことに、絶望していた。
けれど、そのことで、私が自分を責めているということにも気づいて……。
自身の絶望を、見ないふりまでして、私に気を使ってくれたんじゃないのだろうか?
だから、親友が再び洗脳されてしまったという事実を聞いても、明るく振る舞うことをやめないんじゃないのだろうか。
そうなのだとすれば。
……私も、彼女の優しい嘘に乗ろう。
私も、自身を責めている場合じゃない。そんなの、合理的に考えて不要なのだから。
「…………そうだね。まだ、光千夜を助け出せないと決まったわけじゃない。だから…」
そうだ。光千夜を助け出す方法は、これからまた考えればいい。
今ある私の情報を、全て出して。そして、キューティバース達や、ベルにも協力してもらう。
私を助けてくれた少女を。
私の助けを待っている少女を。
あの暗闇から、救い出すために。
「………私は、私の知ってる情報を全部話す。だから、力を貸して、皆」
私が約束を、果たすためにも。