「………それで、鳴が知ってる情報って? 私と共有してない情報とかあったりするの?」
ベルが私に尋ねてくる。
ベル自身は、私がベルに全ての情報を共有していると思っている。親友だし、隠し事をする理由はないと思っているんだろう。
実際には、私にはベルに隠し事ばかりしているんだけど。
「……ある。まだベルに話してないことも」
「………一体、何の情報を…?」
話していない情報。それは、広井愛結がブラックルーイであるという情報だ。
……この情報、以前なら、ブラックルーイを不意打ちで捕縛するためにも、ベルに伝えないのが得策なのではと思っていた。ベルなら、私が広井愛結がブラックルーイであると言っても、彼女を捕縛しようという方向には動いてくれなさそうだったから。
……けど、今の私は光千夜を救いたいという気持ちで動いている。それはベルや苺も同じなんだろう。
捕縛に賛成してくれるかどうかは分からない。けれど、私は一度失敗している。
私が単独で動くよりも、彼女達の力を借りる方が良いのかもしれない。
「……ブラックルーイの、光千夜のもう一つの姿について。……多分、私とレディしか知らない情報」
なら、話すべきだ。
ブラックルーイの正体。光千夜以外の、もう一つの姿のことを。
「……もう一つの、姿…?」
「そう。光千夜とは違う、また別の、仮初の姿」
「……仮初…?」
山吹遊美が怪訝な顔をする。
彼女からすれば、もう1人の親友とも呼べる存在。
………同じ人物と二度親友の関係に至るのは、運命なのか、それとも本当に相性が良いのか。私には分からないが。
「……広井愛結。……それが、ブラックルーイの……もう一つの姿」
私は告げる。
山吹遊美にとって、衝撃の真実を。
救うべき存在、過去の自分の親友は、すぐそばにいたのだと、告げる。
それを知った時、彼女は後悔するのだろうか。
光聖歌のように、精神を壊してしまわないだろうか。
言ってしまってから、そのような不安が脳裏をよぎったが。
………さっきも、笑顔で取り繕えていた彼女のことだ。きっと大丈夫だろう。
そう信じて、私はその事実を、真正面から彼女達にぶつけることにした。
「……広井愛結?」
当然、広井愛結の存在を知っているのは、山吹遊美やベルだけ。
他の2人。苺や白沢薬深は、彼女との面識はないはずだ。
だから、そこの説明から入らなければいけない。
「……ブラックルーイは、一般人としての姿として、広井愛結という名前で活動していた。……そして、普通の少女として振る舞い、そこで山吹遊美と出会い、交流していた」
「…遊美ちゃん、そうなの?」
「……確かに、あーちゃんと私は、仲良いけど……でも、あーちゃんが千夜っていうのは、あり得ないよ。だって……」
信じられないのだろう。
隣で歩いていた相手が、まさか悪の組織の魔法少女で、それでいて、かつて親友として交流していた少女だと。
そう思っていたのだが、次に私の耳に届いた言葉は、私にとっては奇妙な事実だった。
「あーちゃんは、ブラックルーイじゃないんだよ? ブラックルーイが街に現れている時、私の隣にあーちゃんはいたんだよ。幻覚とかでもない。実体として、確かにあーちゃんはそこにいたんだから」
「……遊美ちゃん、その…広井愛結って子のことがよく分からないから何とも言えないんだけど……勘違いってことはないの?」
「………ない、ないですよ。だって、苺先輩達から電話がかかってきて、ブラックルーイが出現したって言われてるその時にあーちゃんは隣にいたんですよ? もしあーちゃんがブラックルーイなら、ブラックルーイは2人存在することに……」
……どういうこと?
広井愛結は、間違いなくブラックルーイだった。私は彼女のことを襲ったから、それは断言できる。
だというのに…。
「……それじゃあ、鳴の言っていることが間違っているんじゃないの?」
「……私達はその広井愛結って子の存在を知らない。正直、その広井愛結と……光千夜が同一人物だと言われても、ピンと来ない」
そんなはずはない。私はこの目で、確かに見たはずなのだ。
「……広井愛結は、間違いなくブラックルーイのはずだよ。それは、レディも証言できる」
『ええ。私達は確かに、広井愛結が魔法少女ブラックルーイへと変身する瞬間を目撃致しましたわ。それに、鳴は彼女と戦闘まで行っています。見間違いだとか、そういうことはありえませんの』
「………ない。あーちゃんが千夜だなんて、そんなはず。だって、もしそうなんだとしたら、私は………」
何が……起こっている?
山吹遊美が、親友を守るために嘘をついている…?
その線しか、考えられない。だって私は、確かにこの目で広井愛結がブラックルーイであることを確認したのだから。
「…………よくよく考えたら、鳴の言ってることはおかしいわ。だって、私もこの間愛結ちゃんと遊んだばかりだったし。確かその日、ちょうどブラックルーイが鳴達と戦闘を行っていた日だったはずよ」
「……本当にどういうこと?」
意味がわからない。山吹遊美が広井愛結を庇うのはまだ分かる。けど、ベルが否定する理由は?
広井愛結に絆された? だとしても、わざわざこの場で広井愛結が光千夜ではないと断言する理由って………。
『……もしかすると……』
本当に意味が分からない。ベルの言っていることが本当なのだとするならば、広井愛結と光千夜はどちらも同時に存在できたということになる。じゃあ、だとすれば一体…。
「……広井愛結って子が、ブラックルーイなのは、事実なんじゃないかな?」
悩む私の耳に届いたのは、魔法少女キューティバース、桃乃瀬苺の声だった。
「……それに、多分ブラックルーイと広井愛結が同時に存在したっていうのも事実なんだと思う」
「どういうこと…?」
「………ブラックルーイって、時折別人みたいな振る舞いをすることがあるんだ。薬深ちゃんに負けてあっさり敗走したかと思えば、実はそれは演技でしたって言って私達を手玉に取り出したり……。ブラックルーイ自身が話してた目的を聞くと、筋は通ってるんだけど……でもやっぱり、どうしても不自然に感じちゃうっていうか……」
『ブラックルーイは2人存在する、そういう事ですわね?』
「厳密にはちょっと違うかな。2人いるというよりかは、影武者がいるって感じ。ブラックルーイのフリをして、私達と戦ってた人がいるんだよ」
ブラックルーイの影武者…?
そんな存在が…。いや、でもあり得ない。
ブラックルーイそっくりの容姿を持つ存在を生み出すなんて、クローン技術でもなければ不可能なはずだ。
それとも、まさか本当にクローンを…?
「……苺ちゃん、その、影武者って…?」
「……ブラックルーイと同じ容姿で、同じ魔法を扱う存在がいたっていうの? ……流石に信じられないんだけど……。容姿どころか魔法まで同じなんて、そんな事…」
「それができる存在に1人だけ心当たりがあるんだ」
『心当たりって、どういう事っきゅ?』
「……他者と同じ魔法を使える幹部がいたでしょ? えーと……」
「……まさか、キュヴァって名乗ってた、あの?」
「うん。彼女なら、ブラックルーイの偽物として振る舞うこともできるんじゃないかなって」
……なるほど。『模倣の魔』だったか。あれであれば、私達の魔法をコピーすることができるし、当然、ブラックルーイの魔法だって完全コピーできるはずだ。
そうか、だとすれば……。
『……ありえませんわ』
「へ?」
『“模倣の魔”で模倣できるのは、あくまで魔法のみだと思いますわ。容姿を似せるというのなら、“妖の魔”という魔法が既にありますもの』
『基本的に”◯◯の魔“という名称の魔法は、その人固有のものであることが多いっきゅ。勿論、例外がないわけじゃないっきゅ。けど、基本的には固有のものであって、かつ、同じような効果の魔法は同時には存在しないはずなんだっきゅ。つまり、”妖の魔“という、他人と容姿を似せる魔法が存在している時点で、”模倣の魔“には他者と自身の容姿を同じにする効果なんて備わってないはずっきゅ』
「そうなんだ……」
『口を挟んで申し訳ないクル。けど、正直、ブラックルーイがキュヴァという幹部に模倣してもらってまで遊美と接触する意味が感じられないクル。遊美が魔法少女であると知り、情報を抜き出そうとした、とかしか考えられないクル』
「……クローンという線は?」
「ない。だって、もしクローンが作れるんだとしたら、実戦投入されてるはずだし、そもそも、わざわざ私やスターチススクラッチを攫って洗脳しようとするはずがない。だから、クローンもあり得ない」
それもそうか。確かに、既にクローンを作ることに成功しているのなら、私や白沢薬深を攫って洗脳する必要がない。
じゃあ、本当にどういうことなんだ。
一体、広井愛結と光千夜は、どういう関係にあるというんだ。
「………わけが……わからない………」
「だから、結局あーちゃんがブラックルーイっていうのは何かの間違いなんだよ。…………間違いじゃなきゃ、本格的に私は……」
「……うーん……。じゃあ、とりあえず一旦この話は保留にしない? その、広井愛結って子がブラックルーイかどうかは、あくまで可能性の話に留めておくとして……」
私が、間違っているのだろうか?
私が広井愛結だと思って襲った彼女は、広井愛結ではなかったと?
……駄目だ。頭が回らない。
意味が分からない。状況がいまいち飲み込めない。
広井愛結と光千夜。
一体、何者なんだ……?
私にはもう、何もわからない……。
(3)まであります。あと昨日投稿しなかったので日曜投稿します。
魔法少女系の成分過剰摂取したくない方、日曜日はプリキュア優先しましょう()