「その、広井愛結の件を後回しにするっていうのは分かったんだけどさ。じゃあ結局、どうやってブラックルーイ……光千夜を救い出そうって話なんだよね。鳴の話だと、光千夜はまた洗脳されちゃったんでしょ?」
確かに、広井愛結はブラックルーイだったはずだ……。けど、どうにもそれをベル達に正しく伝えるのは、今のところは不可能だ。
なら、ここでは引き下がろう。私にだって全容は掴めていないのだ。広井愛結の件は、私とレディでまた調べておくしかない。
とにかく、今は洗脳された光千夜をどう救い出すのか。その一点に絞って考えていくべきだろう。
「……洗脳装置を奪って、元の光千夜に洗脳し直す……とかじゃダメかなぁ……」
「それだと、組織とやっていることが同じになってしまう。それに……」
『洗脳装置は脳に過度な負担がかかる可能性があるクル。無闇に使うのは、あまりオススメしないクル』
私が攫われなければ、まだ、光千夜を助け出す手段なんて、いくらでもあったろうに。
どうして私は、あの時連れ去られてしまったのか……。
本当に、過去の自分が情けなくて仕方がない。
「……ねえキュート。洗脳を解く魔法とか、そういうのは存在しないの? ほら、『洗脳解除の魔』的な感じの」
『苺、悪いけど、そんな都合の良い魔法は存在しないっきゅ。それに、仮に存在していたとしても、その“洗脳解除の魔”を扱える魔法少女を探し出したり、魔法少女の素質がある子の中から、“洗脳解除の魔”を持っている子を選び出して魔法少女にする必要があるっきゅ』
「……いないのかな、そういう魔法を持った子って……」
『仮にいたとしても、私達は魔法少女になれる素質があるかどうか、一人一人チェックしなければいけませんわ。その確認作業だけでも、途方のない時間がかかりますの。それに、仮に素質があったとしても、その魔法少女が“洗脳解除の魔”という魔法を持っているかどうかは、私達自身、その子が魔法少女になってからではないと分からないのですわ』
つまり、魔法で都合よく光千夜を助ける、という世界線は、考えない方が良いということだ。そんな夢物語は、存在しない。
つくづく、どうしてピュアに攫われてしまったのかと、そう思い知らされる。
私がヘマをしなければ、こんなにも頭を悩ませずに済んだはずなのに……。
いや、ネガティブな思考はよそう。合理的じゃない。それに、光千夜は待っているのだ。
私のことを。助けに来るかも分からない、私のことを。
洗脳されて、奥底に封印された、意識の中で。きっと。
だから、私は彼女を助けるために、全力を尽くさなければならない。
彼女に助けられたこの身を、彼女のために。
恩返しを、しなければならないのだから。
何か、捻り出せ。光千夜を救い出すための、何かを……。
「……手詰まり、だね……。何か手掛かりがあればいいんだけど……」
「事件の捜査とかじゃないし、決定的な打開策があるわけじゃない、と思う…。……だから、ブラックルーイを……光千夜を助ける手段が、用意されてるわけじゃない。……けど、私は……組織の被害者を、被害者のまま終わらせたくはないとも思ってる。……難しい、けど、何か策があれば」
なんでもいい。なんでもいいから捻り出せ。
的外れでもいい。一見なんの意味もないことでもいい。
ここには私以外の知恵がある。私が何気なく放った一言が、光千夜を助け出す手掛かりになるかもしれない。
だから、なんでもいい。私が、捻り出して……。
「………頭痛……」
「へ…?」
「私達が初めて共闘した日。あの日、ブラックルーイは、頭を抱えて、戦線から離脱した。………あれは確か…」
「……そっか。聖歌の名前だ……」
聖歌。
桃乃瀬苺と交流があって、聖歌という名前を持つ人物といえば……。
魔法少女シャイニングシンガー……またの名を光聖歌。光千夜の、姉。
そうか、確か、ブラックルーイは、苺が聖歌の名前を出したときに、頭痛の症状に陥っていた。
もし、あれが、姉の名前を聞いたことで、洗脳装置による洗脳に、何か不具合が生じたのだとすれば……。
「………光聖歌の存在が、光千夜を救う鍵になる…?」
『確かに、一理ありますわね。………光千夜の洗脳が解けたのも、光聖歌の名前を彼女に突きつけたから、という可能性も、状況的に十分ありえますもの』
そうか。光千夜の洗脳が解けていると判明したのも、光聖歌の名前を出した後の話だった。実際に洗脳が解けた時期がいつなのかは不明ではある。だが、光聖歌の名のおかげで、本来の光千夜の意識が戻ってきた可能性は、否定できないはずだ。とすれば……。
「もう一度、光聖歌の名を伝えれば…」
『そんな単純にはいかないと思うクル』
「……私も、そんなに都合のいい話はないと思う。勿論、組織の被害者である光千夜を救えるなら、それでいいと思う。けど………組織が、そんな単純な洗脳を施すとは思えない」
確かに…。
光千夜が洗脳されたのは、おそらく拉致された3年前のことだ。とすれば、長い年月をかけて、その洗脳に不具合が生じていたとしてもおかしくはない。
だが、再洗脳された今はどうだろう?
3年という年月はもう存在しない。ついこの間、洗脳にかけられたばかりで、そんなすぐに不具合が生じるものなのだろうか?
いや、そんな単純に解ける洗脳装置を作る組織なら、私達はもうとっくに組織を壊滅させているはずだ。けど、組織はしぶとく、その尻尾を隠しながら、世間を脅かしている。
そんな組織が、名前を出しただけで解けかける、簡単な洗脳装置を作っているとは、到底思えない。
けど、だとすれば……。
「じゃあ、私はどうやって、光千夜を救えば……」
彼女を救い出す方法はないのか。
結局私は、自分が生き残るために、彼女を犠牲にしただけの、役立たずでしかなかったのか。
そんな風に、またネガティヴな思考に陥りそうな、その時だった。
「………やっぱり、聖歌を叩き起こさないとダメなのかも」
「……へ……?」
「……聖歌を救えるのは、千夜ちゃんだけだと思ってた。千夜ちゃんを取り戻して、聖歌に合わせて、もう一度、幸せな光家を取り戻して……。それが、正解なんだと思ってた、けど……」
桃乃瀬苺は、静かに話す。
その目には、希望が宿っていた。決して諦めるつもりはないという、強い意志。
絶望に染まりそうになっていた私に、希望を分け与えるほどの、まっすぐな光。
それが、彼女の目には宿っていた。
「違ったんだ。…逆だったんだよ。……千夜ちゃんを救うためには、聖歌の存在が必要だったんだ。聖歌が、ありのままの姿で千夜ちゃんと向き合って……そうしてやっと、千夜ちゃんの洗脳は解けるんだよ」
『……苺、どうしてそう思うんだっきゅ…?』
「……私にも、よくわからない、けど、なんとなくそんな気がするんだ」
ふわふわとしていて、根拠のない話。だけどなんだか、不思議と彼女の話は、真実なのではないかと、そう思う私がいた。
「……苺先輩、そうは言いますけど、無理じゃないですか? だって、先輩は今…」
「………うん、精神を病んで……あんな風に……。あの状態を解消できるのは、千夜ちゃんしかいないって、そう思ってたんだ」
「思ってた…?」
他に、光聖歌を立ち直らせる方法が、あるというの…?
「……うん、でも違う。聖歌は立ち直れる。私が知ってる聖歌は、強いから。それに……私が、聖歌を立ち直らせないといけないんだよ。だって、私は聖歌の友達で、幼馴染で………親友なんだから」
「苺先輩が、先輩を立ち直らせると…?」
「うん。だって、そうでしょ? 親友なら、親友のことを助けないと。それが私の役割だって、そう思うから」
「……無理です。先輩の状態を思い出してください。あんな状態の先輩を立ち直らせるなんて、そんなの…!」
「………遊美ちゃんの言いたいことも、わかる。けど、引っ叩いてでも、立ち直らせなきゃ。……だって、そうしないと、千夜ちゃんを救い出せないんだから」
「無理矢理立ち直らせて……先輩を完全に壊したいんですか? 無理に働かせて、今度こそ、本当にダメに……」
山吹遊美は、光聖歌を立ち直らせることに、反対のようだった。光千夜のために、彼女の姉がどうなっても構わないとか、そういう思想を持つ人物ではなく。
親友のためだろうと、他人を犠牲にすることをよしとしない、善性の持ち主だったんだろう。
勿論、山吹遊美の言い分も、わかる。理解できる。真っ当だとも思う。けど。
「……苺……。私は、あなたを信じてみる。光聖歌を立ち直らせて、それで光千夜を救う。その、可能性に、賭けてみる」
私は、助けないといけない。
光千夜を。あの優しい少女を。
それに、不思議と上手くいく気がする。
合理的ではないかもしれない。けど、目の前の少女なら、もしかしたら……。
「……うん。そうだね。苺ちゃんなら、きっとやれると思う。それに………魔法少女なら、いつまでもあんな状態では駄目だと思うし」
「……私には光聖歌がどういう状態かっていうのは……聞いた話でしか知らないけど……でも、信じてみるよ。苺ちゃんの目を見てたら、なんだか大丈夫そうな気がするし」
確信なんてない。けど、各々が、桃乃瀬苺が光聖歌を立ち直らせる可能性に、賭け始めている。それは、妖精も同じで。
『確かに、光千夜を助け出す上で、もはやそれ以外に方法はないように思えるクル』
『……苺ならやれるとおもうっきゅ。キューに手伝えることがあったら、なんでも言って欲しいっきゅ。聖歌がああなったのは、キューの責任でもあるっきゅから……』
『……私も、できる限り協力いたしますわ。賭けてみたいですもの。貴方のその、希望に』
「ありがとう。皆。……私、聖歌と話してみる。もう一度聖歌に声をかけて。それで……。聖歌がもう一度、元に戻れるように、頑張ってみる。それが、千夜ちゃんを救うことに……聖歌を救うことにも、繋がると思うから」
彼女の希望は伝染する。皆が、彼女の希望に……賭けに乗っかっていく。
ネガティブだった私の思考も、苺の希望によって、いつの間にかどこかへ吹き飛んでしまったみたいで……。
きっと、上手くいく。そんな謎の確信が、私の心を支配していた。
それは、皆同じようで……。
「…………そうですね、苺先輩がそういうなら、大丈夫だと思いますよ…」
私は、皆同じ気持ちなんだと、そう思っていた。
ただ、1人。
この展開に、納得していない人がいるなんて。思いもしなかった。
昨日も忘れてましたね。来週日曜投稿します。
勿論、たんプリを優先して(以下略