えー……。
なんとですね。私、光千夜は。
この度、引っ越すことになりましてですね……。
その引越し先は、なななんと!
幹部イコル様のところでーす!
というわけでして、私は荷造りして、イコル様のところにお邪魔することになったわけなんですが……。
え、私1人だけなの? もう1人の私は!? 私単独でイコル様のところに行くの!?
………はい。てな感じで絶賛寂しんぼです。
いや、てっきり分身の私と一緒にイコル様のアジトにお引越し〜だと思ってたんですよね。
ただ、ヒンナさんが…。
『……片方のルーイは私が面倒見ておくわ。……ちょっと迷ったんだけど、こっちのルーイは、私の目に届く範囲に置いてた方が、いいと思ったから』
なーんて仰ってですね……。
誰よりも気を許せるはずのもう1人の自分との共同生活という夢は、おじゃんになりました。悲しい。
光堕ちライバルではあるけど、割と気が合いそうで一緒に過ごすの楽しそうだなーって思ってたのに。
いや、そりゃ自分自身なんだから当たり前なんだけどさ。けど、私なんだけど私とは違うところも結構あったりして、なんか、めっちゃ気が合う別人? みたいなイメージなんだよね。感覚双子的な。
ま、そんなこと言っててももう決まったことだし仕方ないわけですよ。これからは光堕ちライバルとして、互いに異なる場所で頑張るしかないってわけ。
そんでそんでー。やっぱり寂しんぼなのは嫌じゃないですか。
じゃあ、何するかっていうと……。
「こんにちはイコル様。今日からお世話になります。光千夜ことブラックルーイです。よろしくお願いします」
ズバリ! 幹部イコル様と仲良くなっちゃいましょう作戦!
イコルと仲良くなれば、寂しんぼな思いはしなくて済むしね。
「ああ、初めまして。僕はイコル。まあ、そんなに畏まらなくていいよ。それに、大体の事情はヒンナから聞いてるし」
イコルは、見た目的には少年って感じだけど、振る舞い方は割と品があるようにも思えるし、クセ強な性格してるわけでもなさそうで、クソガキ感もない。
普通に交流する上では、そんなに困らなさそうで安心って感じだった。
「……洗脳が解けて、ただの一般人としての記憶しか持ってない状態、だったかな。ああ、そんなに身構えなくていい。別に僕は、君を再び組織のための駒として使いたいとは思っていないし、君が望むなら、家に帰してやってもいいと思ってる」
「………いいんですか? 組織のためにはならないと思いますけど……」
「………そうだね。僕は別に、情が深いとか、そういう性格じゃない。ただ、誠実ではありたいと思ってる……。ただ、それだけだよ。別に、君の立場に立って、君の心情を想像して……なんて面倒臭いことはしてない。ただ、誠実に振る舞ってるだけだ」
……なるほど?
まだよく掴めていないけど……。少なくとも、嘘つきとか、私のことを騙そうとしているとか、そういう感じではなさそう?
んー。けど、もうちょい人柄知りたいかなー。
「…誠実さ、大切にしてるんですか? 組織のためにならなくても、誠実さを貫きたいと?」
「信用は大事だからね。湿島も、僕の誠実な部分を知っているからこそ従ってくれているんだろうし。そもそも、組織には利害の一致で属しているに過ぎないし、僕が組織のためにならないような行為に及ぶ可能性があることも、予めクロマック様に伝えてあるしね。何ら問題はないよ」
「しっかりしてますね〜」
ふーん。そういう感じかぁ。
………まあ、今すぐ私にどうこう、とかはなさそうだし。現状はこのくらいでいいかな。
彼の人柄についてもう少し知りたいなら、これから一緒に過ごしていく上で知っていけば良い話だしね。
さて、それじゃあ…。
「……ところで、これからこのアジトで過ごす上で、どんな感じになってるのか知っておきたいな〜と思ってるんですけど……探検とかしても大丈夫そうですか?」
「……別に構わないよ。本当は湿島に案内させるつもりだったけど、不在だからね……。まあ、好きに見て回ってよ」
許可、いただきました。
それじゃあ、ちょいとイコルのアジトを探検させていただきますかね〜。
「じゃあ、失礼しまーす」
挨拶だけして、私はアジト内を自由に動き回る。
探すのは、イコルの部屋、とかかな。
自分の部屋はどうせ見ることになるだろうし、幹部の部屋は拝む機会も少ないだろうから、今のうちに拝んでおきたい。
そう思って、適当に部屋をいくつか訪問し、ようやくそれらしい部屋を見つけた私は。
ノックもせず、無遠慮にその部屋へと押し入っていく。
その部屋は、他の部屋よりも少し豪華だった。
部屋のど真ん中には、大きな作業机が置かれている。その作業机に向かうかのように、レッドカーペットが敷かれていて。
壁紙はゴシックに。
赤系の色が部屋を支配していて。
いかにもここが主の部屋です、とでも言いたげな雰囲気だった。
「多分ここがイコルの部屋だよね〜」
私は独り言を呟きながら、正面にある作業机へと歩いていく。
「何かあるかな〜?」
机の上に、ファイルのようなものが置いてあったので、パラパラとめくると、そこには今日の幹部会議の会議内容がまとめられた書類が入っていた。
「ほうほう? 真面目さんなんですね」
しばらくパラパラとめくったが、会議の内容をまとめた、言ってしまえばつまらない情報しかなかったので、そっと机の上に戻して、机の引き出しに手をかける。
「鍵、かけてないんだ」
真面目かと思ったけど、意外とポンコツなのかな?
そんな風に思いながら引き出しを開け、中にある情報を手に入れる。
そこには、ボイスレコーダーが入っていて……。
「……周りに人は……いないね。よし……」
私は早速、そのボイスレコーダーを再生することにした。
中に入っていたのは、老人の声と、イコルの声だった。どうやら2人の会話記録のようだ。
『イコル様、何故、幹部会議に出席されなかったのですか?』
幹部会議に出席してない……私が出席した会議にはいたはずだから、これは以前の話かな。
『……ヒンナの処分についての幹部会議だろう? ………僕には関係ない』
『……ですが、イコル様は……』
『……必要ない。湿島で十分だ。それに、ヒンナなら大丈夫だ。あいつを嫌ってる幹部はいない。悪いようにはならない。実際、大丈夫だっただろ?』
『………しかし、ジェネシステネーブル様や、オクトロア様が、ヒンナ様を陥れる可能性もあり得なくはないのでは…?』
『オクトロアやジェネシスは、確かにきな臭い。けど、わざわざヒンナを処分する必要性もないはずだ。他の幹部と比べれば、ヒンナは扱いやすい部類に入るからね。むしろ、オクトロアやジェネシスが消したいのは、僕やピュアあたりだろう』
ジェネシステネーブルというと、夕音叔母さんのことだろう。まあ、夕音叔母さんが私の不利益になるような行動はしないだろうから、そこに関しては気にしなくて良いかな。
『しかし、ヒンナ様も安全とは……』
『……今は大丈夫だ』
『しかし、今後ヒンナ様が危機に陥った時、イコル様が不在では、どうするというのですか? まさか、他の幹部もヒンナ様を嫌っていないから大丈夫だと、そう楽観視されるおつもりで?』
『……湿島、回りくどいぞ。何が言いたい?』
『…後から後悔しては遅いのですよ、イコル様。ご自身の気持ちに素直になさってください。好いているのでしょう? ヒンナ様のことを』
ほあっ!?
ま、ままままさか!
『んなっ……』
『幹部会議に出席なさらなかったのも、ヒンナ様の処分を決める会議に出席していると、まるでヒンナ様のことを気にかけているみたいに思われそうで、小恥ずかしかったのでしょう? どこの思春期の男子ですか、まったく……』
『お、おい思春期男子とは何だ思春期男子とは…! べ、別に構わないだろ? 他の幹部と比べてみろ! ヒンナには裏表がない! 比較的正直者で、他の幹部みたく騙し討ちもしてこない。他の幹部より好感度が高くなるのは必然で……』
ほほーう? これはこれは。
幹部同士の禁断の恋! というわけですか。悪の組織の癖に恋愛にかまけるとは…。そんなんじゃ世界征服はできないよ? いや、この組織の目的が世界征服なのかよく分かってないんだけどさ。
んまあとにかく。
この情報はでかいね。幹部イコルの弱み、ゲットだぜ、なんちゃって。
さて、続きを……。
「……そのボイスレコーダーは、何だ…?」
「……へ? イコル様!?」
ボイスレコーダーから音が鳴っているのを横目にしながら、私はイコルの姿を認識する。まずい……勝手に部屋を物色したのがバレる…。
「何で僕と湿島の会話記録が……」
「ご、ごめんなさい! 勝手に部屋に入ってしまって……。ただ、その、イコル様がどのようなお部屋で過ごされてるのかが気になって……」
「ここは湿島の部屋だ。勝手に部屋に入ったのは……いい、良いんだが……。そのボイスレコーダー、どの会話から始まったんだ…?」
この部屋イコルのじゃないの!? てっきりイコルの部屋かと思ってたんだけど……。とそれはともかく…。どこから会話が始まったんだって? それは…。
「えと、湿島さん? が、何故幹部会議に出席なされなかったのですか? 的な感じでイコル様に尋ねてくるところから、です…」
「……そこから……だと……?」
「あの……イコル様。もしかして、イコル様は……ヒンナ様のことを……」
「ち、違う! 違うぞ! ぼ、僕はヒンナなんかに興味は……!」
イコルは明らかに顔を赤面させながら、焦ったように話している。
ははーん? これはつまりそういうことだな?
そうと決まれば…。
「イコル様は誠実さを大切にしているんですよね? ということは、嘘をつかれないということですね! なら、イコル様がおっしゃられることは真実だということ。イコル様が否定されるなら、それは真実なんでしょうね」
「ぐっ……」
「それで、イコル様。ヒンナ様のこと、好きなんですか? それとも嫌いなんですか? どっちなんです?」
「う……そ、それは……」
うんうん。狼狽えてる狼狽えてる。いやー面白いなぁ。ここまで初々しい反応されると、ついつい揶揄いたくなっちゃうよ。
「どっちなんです〜?」
「……し、仕事を思い出した。そ、その話はまた今度しよう……」
イコルは震える声でそう言いながら、湿島さんの部屋から去っていく。
ふふ、中々に面白い反応だったなぁ。
うん。最初は、分身の私と一緒に過ごせないってなって、ちょっぴり寂しんぼだったけど。
なんだかんだで幹部を弄べるくらいには私って天才なわけだし、案外楽しくやってけそうだなぁ。
うん、俄然やる気が湧いてきた。
よし、私はこのイコルのアジトで、光堕ちのために全力で魔法少女するぞ〜。