「ところで、仕事って何ですか?」
「うわぁ! な、何だお前か……」
光堕ち目指すのはそうなんだけど。それはそれとして、アジトにいても特にやることないから暇なんだよね。
だから、イコルに話しかけるくらいしかすることがない。湿島さんの部屋は粗方漁ったし、他に見ておく価値があるかなってイコルの部屋しかないから、どのみちイコルのところ行くしかなかったしね。
「仕事手伝いましょうか? まあ、私に手伝えることがあるならの話になりますけど」
「……子供に手伝える仕事などない。アジトにいて暇なら、何か娯楽を用意しようか?」
娯楽、ね……。うーん、向こうの私にも多分娯楽なんてないんだろうし、それを私だけ楽しむってのは不公平だよね。それに、光堕ちのために頑張るんだから、娯楽に意識を向けてる暇はないっていうか…。
「いえ、大丈夫です。ただイコル様も子供みたいな見た目してますよ?」
「失礼だな。これでも僕は立派に成熟しているし、どう頑張っても子供といえる年齢ではない」
「思春期みたいな恋愛してるのに?」
「……だから、あれは……。僕は、ヒンナのことが他の幹部より好ましいと思っているだけで、他意は……」
イコルは顔を真っ赤にしてブツブツと呟くように言う。
あからさますぎてつい笑みが溢れてしまう。悪の組織の幹部の癖に、こんな純粋な恋心を持ってるなんて。
イコルの方が幹部ピュアなんじゃないかな?
「誠実なイコル様は嘘つかないですもんねー」
「お前、中々良い性格してるな……!」
「で、結局どっちなんです? 好きなんですよね?」
もうほぼ答えを顔に出してるみたいなものだけど、弄りがいがありそうなので追撃してみる。すると、思ったよりも素直に、イコルは自身の恋心を認めはじめた。
「……はぁ……。仕方ない。認めるよ。僕はヒンナのことを……その………好いている。好いているが……」
「好いているが…?」
「考えてもみろ。他の幹部と比べた時、誰が1番素直で、接しやすいかを」
ふーむ。
要はヒンナさんが1番接しやすいと、そう言いたいんだろうか?
ぶっちゃけ、そう変わらないと思うけどなぁ。
ピュア、イグニス、オクトロア様あたりは、関わる機会ないしそんなわかんないけど。
夕音叔母さんは、私が叔母さんの姪っ子だからかもしれないが、比較的接しやすかったし、キュヴァって子も、見た感じ全然フレンドリーに関われそうな性格してたからなぁ。
「私はジェネシス様が1番接しやすいと思いますよ」
「マジか……」
えぇ、そんな驚く?
いや、だって私ヒンナさんがどんな性格してるのかとか全然知らないし、関わりやすいかどうかなんて分かんないんだよね。いや、まあ何となく私のことを考えてくれてるんだろうなぁって気はするから、悪い気はしないんだけど。
「あいつなんて1番信用できない部類だろ。オクトロアとどっこいどっこいだ」
「えー、そうですか?」
「逆に何でお前はあいつを信用してるんだ?」
「いや、理由なんて、そんなの…」
何でって、そりゃ夕音叔母さんは身内だし……。
仮にも私みたいな姪っ子を陥れようとしてるなんて、到底考えられないからなぁ。本気で私のこと心配してるっぽかったし。まるで本当の娘みたいに…。
「あいつの本当の目的を、お前は知っているのか? 僕は……詳しくは知らない。けど、あいつがろくでもないことをしでかしてきたこともよく理解してる」
本当の娘……ねぇ……。
よくよく考えてみれば、何で夕音叔母さんは組織に属してるんだろう?
………だって、あの人、家庭持ってたはずなんだよ。
関わりなかったけど、私には従姉妹がいるって話を聞いたことがある。夕音叔母さん自体と関わる機会がなかったし、今まであんまり気にしたこともなかったんだけど。
それでも、従姉妹がいるって情報だけは断片的に持ってた。
夕音叔母さんが直接結婚して家庭を持ってるとか、そういう話を聞いた覚えはない。けど、従姉妹がいるというのなら、必然的に夕音叔母さんには娘がいたということになる。
なら、何でその娘を放って組織になんて属しているんだろうか?
……娘なんていない? それとも、娘も組織のお世話になっている…?
または、娘は亡くなっていて、その影を私に重ねている、とか。
考えられる可能性は、いくつかある。けど、確かに、娘がいるのであれば、何故組織に属しているのか、という疑問は拭えない。
今のところ、私の味方だとは思うけど……。
あんまり手放しに信頼するというのも、よくないかもしれないなぁ。
もう1人の私は、この事に気付いてるのかな?
まあ、流石に分かってるか。従姉妹がいるって情報持ってるのは向こうも同じだろうし、大丈夫でしょ。
「ありがとうイコル様、ジェネシス様のこと、ちょっと警戒しておく事にするね」
「……信頼するならヒンナにしておけ。あいつが嘘をつくことは、基本的にない。隠し事も特別得意というわけじゃない。問い詰めれば、ボロを出す。そういう奴だからな」
まあ、一応念のため、夕音叔母さんに全幅の信頼を寄せるのはよしておくつもりなんだけど。
それはそれとして、イコルのこのヒンナさんへの異様な信頼は何なんだろうね。恋は盲目、ということなのかな。
ぶっちゃけ私、ヒンナさんのことまだよく知らないから、そっちも信頼するつもりはないんだよねぇ。
「好きなんですねぇ……」
「何だその目は……やめろ。客観的に見て、ヒンナが信頼できる奴だというのは明白なことなんだからな」
「はいはい、分かりますよ。それで、ヒンナ様のどういうところが好きなんですか?」
「……完全に揶揄う気満々だな……。言っておくが、僕は暇じゃない。これから仕事があるんだ。恋バナに付き合ってる暇などない!」
ちぇ、仕事を盾に上手いこと躱そうとしてるな?
けどそうはいかないぞ。さっきもそうだが、仕事仕事と言ってる割には1ミリも働く様子がないじゃないか。これは、予定がないけどヒンナさんとのアレコレを追求されないがために予定があるように取り繕っているに違いない。
だったら…。
「どんな仕事なんです? 手伝いましょうか?」
「だから、子供に手伝えることなどないと…」
「教えてくださいよ、良いじゃないですかちょっとくらい。ほら、誠実さを大切にしてるんですよね? だったら、私が納得できるように、ちゃんと説明するべきだと思います!」
「……言っておくが、僕は一応幹部で、お前の立ち位置はあくまで組織の都合の良い手駒なんだからな? その態度、他の幹部にやったらどうなるか……。まあ、いい。別に、仕事内容くらい教えてやる」
「え?」
わ、私の追及から逃れるための適当な嘘ではなかったというのですか!?
バカな、私の読みが外れた!!
「魔法少女との戦闘だ。といっても、元々ブラックルーイが戦っていた地域とは別の地域の魔法少女だから、お前との面識は……どちらにせよ、記憶がないんだったか」
「イコル様のノンデリ〜」
「……あのな……。はぁ……まあいい。とにかく、僕は魔法少女と戦いに行く。けど、お前はブラックルーイとして戦闘していた時の記憶を失っている。それに、組織の洗脳だって解けている状態だ。無理に戦う必要はないし、未経験で戦場に出るのは、危険だろう。だから、手伝えることはないと、そう言ったんだ」
なるほど。確かに、私には魔法少女として戦闘した記憶なんて一切ない。
けど、光堕ちする上で、未戦闘での光堕ちなんて、何の味気もないだろうし……。
ずっと未経験のままだったら、もう1人の私に負けっぱなしになっちゃうからなぁ。
だから……。
「行かせてください」
「………戦う理由なんてないはずだ。洗脳は解けてるんだろ? だったら……」
「……戦えるように、なっておきたいといいますか……。何もできないままは、嫌なんです」
「…………………戦場には、僕以外にイグニスもいる。イグニスは、お前の事情を知らないし、僕も魔法少女との戦闘で、お前に構う暇がなくなる。だから、来られると困る……けど……」
そっか。迷惑かけちゃうのか。
ただでさえアジトにお邪魔させてもらってるのに、これ以上迷惑かけるのも流石にあれかな?
なんて、私が遠慮がちな思考を働かせている間に、イコルは次の言葉を紡ぐ。
「仕方ない。キュヴァも呼ぶ。そうすれば、ある程度お前に目を向ける隙もできるだろうし。……妖魔も多めに持っていくか。できれば無駄遣いはしたくないが……」
「やった! ありがとうイコル様!! なるべく迷惑かけないように頑張りますね!」
「危なくなったら自己判断で離脱だ。言っておくが、僕だって魔法少女と戦闘する。ずっとお前に構えるわけじゃない。自分の身は自分で守れ、いいな?」
「はい、分かってますよ」
いよいよ、私にとっての初戦闘が始まるってわけか。
魔法少女、どんな子達なんだろう。
私、ちゃんと戦えるかな?
不安なこともいっぱいあるけど、でも……。
楽しみだ。