「と、いうわけよ」
湿島さんと共にお留守番をしていた俺だったが、帰ってきた師匠から告げられたのは、片割れとの離別だった。
もう1人の俺……光千夜として過ごしてきた時代の記憶しか持っていない方の俺は、どうやら幹部イコルのところで過ごしていくことになったらしい。
イコルのことを知らないので何とも言えないのだが、大丈夫なんだろうか…?
俺も一緒について行ったほうが安心なんじゃないか?
とは思わなくもなかったが……。まあ、一応スマホは没収されていないので、何かあれば連絡を取れば良いだけの話だろう。
「にしても、どうして師匠は幹部イコルにもう1人の私を預けたんですか?」
「他の幹部と比べて、イコルは比較的嘘はつかないし誠実なのよ。だから、頼み事を受け入れた時点で、向こうのルーイ……千夜の安全は保証されてるわ」
そうなのだろうか。俺は湿島さんの方を見る。すると。
「ええ、そうですね。イコル様は、基本的に誠実であられますので、約束を反故にするような方ではありませんよ。少なくとも、ヒンナ様の頼み事を無碍にするような方ではございません」
湿島さんは丁寧に、そう補足してくれる。師匠はポンコツなので、普通に騙されそうだし、信用してた相手に裏切られそうな性格してるから、疑惑が残っていたが、湿島さんがそういうのなら、大丈夫なのだろう。
「……私は、まだ納得していないからね、ヒンナちゃん」
ただ、ジェネちゃんはどうやら今回の会議の結果に不満があるみたいで…。
「……私には、分身魔法がどういうものなのかは分からない。けど、命の危険が生じるようなものなんだよ? ずっと分身状態ってわけにもいかない。いつかは元に戻らなくちゃいけなくなる。そういったときに、2人を分断させていると、どちらかの体調が悪化したときに、どうするのか……」
そういえば、そんな話もありましたね。
今のところ、分身魔法を使うことによるデメリット的なのは感じないというか。
いや、ずっと分身してたらやばそうではあるんだけど。
「…別に、イコルだって私から連絡すれば、向こうに送った千夜も事情を話せばすぐ返してくれるわよ」
……まあ、師匠の言う通り、すぐに向こうの千夜ちゃんを返してくれるなら大丈夫かな。俺の体調が悪くなったら、2人の心が1つに…! な展開をやればいいわけだし。
光堕ちライバルが消えてなくなっちゃうのは残念だけどね。でも命には変えられないのだ。
まあ、消えてなくなるというよりは、統合されて1つになるっていうのが正しいし、多分元に戻っても寂しさとかは感じないんじゃないかなって気もするんだけどね。
「………ヒンナちゃんが言うなら、大丈夫なんだろうけど。でも、イコルがオクトロアの罠にかかったら? ピュアがイコルの方にいる千夜ちゃんに手を出す可能性だってある。私のところにいれば、ヒンナちゃんもいるし私もいる。場合によっては、キュヴァちゃんだって呼べる。絶対に私のアジトの方が、千夜ちゃんを守る上では安全なのに……」
んー。
確かに、向こうの俺って戦闘経験もないし、戦いのたの字も知らないはずなんだよな。
ピュアに狙われたら、確かにやばそうかもしれない。
「心配はありませんよ。イコル様はお強いですし、イコル様のアジトでは私も戦闘要員として機能いたします。それに、キュヴァ様を呼べるのはイコル様も同じことですので」
ジェネちゃんの主張に納得しかけたが、湿島さんがそう言うのなら、大丈夫なのかな? という気がしてきた。というか、キュヴァちゃんって他の幹部が呼んでも駆けつけてくれるんだね。そういや、ピュアの話だと、イグニスと一緒に他の地域の魔法少女と戦ったりもしてるって聞いたことあるし、案外フットワーク軽いのかもね。
「……あんた、ラフがいないと戦えない状態じゃなかったっけ?」
「………………いや、戦えるよ」
「魔法少女は、妖精がいないと戦えない。そう言ったのは、あんたでしょ?」
「確かに、そうだね。魔法少女としては、戦えない……。けど……魔法少女として、じゃないなら、私は力を振るえる」
「………確かに、人間でいることを捨てれば、可能でしょうけど。それ、捨てれるの?」
人間でいることを捨てる…? な、なにそれ? 妖精にでもなるの?
「……人間になる手段は、用意してるつもり。だからまあ、時が来たら、捨てることだってできるよ。それに、万が一ピュアがルーイちゃんに……千夜ちゃんに手を出そうとしているのなら、私は喜んで、今の私を捨てるよ」
「……本当に、ルーイのためを思って行動してるっていうの? ……分からない。私にはわからないのよ。あんたがルーイをどう思っているのか、あんたの本当の目的も、何もかも…」
な、なんか深刻そうな話になってきてるけど。
人間を捨てるって、どういうことなんだろう? 怪人に変身! とかできるのかな?
いや、まあそれするくらいなら怪人用意すればいい話か。わざわざ自分を怪人にする意味ないし。
……どういうことなんだろ。本当にわかんないや。
まあ、とにかく……。
「師匠もジェネちゃんも、一旦落ち着いてくださいよ。もう1人の私がイコル様のところで滞在するのはもう決まったことなんですよね? だったら、終わったことで争ったってしょうがなくないですか?」
師匠とジェネちゃんは仲良くしてる方が似合ってると思うんだ。喧嘩なんてして欲しくないかな。
まあ、2人に喧嘩されると、単に居心地悪いからっていうのが大半の理由ではあるんだけど。
「………私にも、ジェネシス様が何を考えてらっしゃるのかは分かりません。ですが、光千夜様のことでしたら、私とイコル様で守りますので。安心してください」
「…………………ピュアやオクトロアに渡すような真似は絶対しないで。それだけは、許せないから」
「分かってるわよ、それくらい」
「…………それと、私が千夜ちゃんのことを返して欲しいって言う時が来ると思う。その時は、返して欲しい」
「………………」
「お願いヒンナちゃん、私を信じて」
師匠は、ジェネちゃんの頼みに、渋ったような顔を見せる。
イコルのところから、もう1人の俺を引き取ること。それは、師匠の望むところではないらしい。
何故、師匠はジェネちゃんのアジトにもう1人の俺を置くことを許容しないのか。
俺がピュアに洗脳された状態だと思ってるから?
そうとしか考えられない、のだけど。
「……………私はあんたの真意を探りたい。けど、ここにはイコルの部下も、ルーイもいる。話したくても話せないなんてこともあるんでしょ? だったら……」
「……わかった。腹を割って話したいんだね。なら………」
ジェネちゃんは師匠に向かい合った後、湿島さんの方に目を向ける。
「……湿島さん、もう帰っていただいて結構ですよ。向こうの千夜ちゃんの面倒も見てもらいたいし」
「左様ですか。ヒンナ様も、それでよろしいのですね?」
「ええ、大丈夫よ。ありがとう、ルーイの面倒を見てくれて」
「いえいえ。では、私はこれで。ルーイ様、今度はテレビゲームを一緒にプレイしましょう。次に会える日を楽しみにしています」
「あ、はい。ありがとうございました。また今度一緒にゲームしましょう!」
礼儀正しく挨拶をして、湿島さんはそのままジェネちゃんのアジトから去って行った。
……師匠とジェネちゃんは、2人っきりで話がしたいんだよな。だったら……。
「………キュヴァちゃん、一応幹部に就任したし、街の襲撃を行う予定みたいなんだ」
「はい、それで………」
「………一緒に行ってくれる?」
まあ、そうだよね。
俺の存在も、2人きりで話す上では邪魔になる。だから、街の襲撃の手伝いって名目で、厄介払いしようとしてるんだろう。
ま、いいけどね。腹を割って話すことで、2人が仲直りできるっていうのなら、それに越したことはないだろうし。
「分かりました。じゃあ、キュヴァちゃんと合流して行ってきます」
俺はジェネちゃんに言われた通りに身支度を整え出す。
キュヴァちゃんはこっちに来てくれるのかな。
……あれ? そういえば……。
【キュヴァちゃん、一応幹部に就任したし、】
……キュヴァちゃんが幹部に就任した…?
え、待ってどういうこと?
「あの、ジェネちゃん、キュヴァちゃんが幹部に就任したって…」
「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん。どうもキュヴァちゃんです。ピース。ルーイと一緒に街の襲撃して欲しいって言われたから、やって来たよ。それで……もう連れて行っていいの?」
え、はや。今、俺と一緒に襲撃って話が出たばっかだよね?
な、何でそんなにはやいんですか…?
「うん。いいよ。ルーイちゃんをよろしくね」
「あいあいさー」
そのまま、俺はキュヴァちゃんと共に戦場へと向かう。
きゅ、キュヴァちゃんが幹部なんて聞いてないんですけど……。
俺まだモルモット扱いなんですが!?