私は、1人で座り込む。
食事も、まともに喉を通りはしない。ただ、食べなきゃ死んじゃうから、仕方なく喉に流し込んでいる。
……苺が、私の家に来た。
何度でも来るから、何て、そう言って。
【千夜ちゃんは、聖歌の名前を出した時に反応してた。……私達と共闘もした。洗脳されたとしても、まだ、間に合うかもしれない。だから……】
【私は、千夜ちゃんにも、手を差し伸べ続けるよ。……けど、きっと千夜ちゃんが本当に必要としているのは……】
あの言葉の意味は、どういうことだったんだろう。
私の名前に反応した? 千夜と、共闘した?
一体千夜に、どういう変化が……。
………少なくとも、はっきりしているのは、苺は、千夜のことを諦めていないっていうこと。
ねえ、私は、苺を千夜の代わりにしようとしていたのに。
どうして、貴方は………。
「……バカみたい…。私って、本当に……」
「最っ低な姉ね……」
不意に、インターホンが鳴る。
苺は、さっき出ていった。なら、一体……。
どうしてかは分からない。ただ、気まぐれで。
私は、玄関まで、フラついた足で向かう。
途中で私の様子を見た母親に驚かれたりはしたけれど、その様子を見ても、私は特に気にすることはない。
玄関の扉につけられた覗き穴から、訪問者の正体を探る。
そこにいたのは…。
「紫暮、さん…?」
私のクラスの、学級委員長だった。
私は戦場へと駆け付ける。
そこには、既にスターチスやホワイト、ライオネルにムーンちゃんもいて…。
対する相手は、相手の魔法をコピーすることができる幹部の少女に、ブラックルーイ。2人だけ…?
「皆、ごめん、遅れた」
「……キューティ先輩……」
「やっぱり、シャイニングは……」
「うん。けど、元々一回呼びかけただけでどうにかなるとは思ってなかったから。何度でも呼びかけるよ。だから、今は目の前の敵………に集中しよう」
一瞬、ブラックルーイを敵と呼称することに、抵抗を覚えた。けど、今のブラックルーイは、既に洗脳されてしまっている。そんな彼女の前で、敵でないと発言しても、不可解なだけだろう。
だから、今は敵として見据える。
「……そうだ。ムーンちゃんは知らないかもしれないけど、ブラックルーイじゃない方……幹部の方は、相手の魔法をコピーすることができるんだ。だから……」
「……分かりました。なら、私の魔術が活躍できそうですね」
「うん。けど……」
「どうしたんですか?」
その前に、『公正の魔』を使いたい。あれで、ブラックルーイの洗脳がどこまで進んでしまっているのか、改めて確認したい。
……戦力差はこちらが勝ってる。だから、交渉する余裕はあるはず…。
「ブラックルーイに、いくつか聞きたいことがあるんだ。だから……ムーンちゃんの『公正の魔』を使わせて欲しい」
「……分かりました」
「ちょっと待ってね。『公正の魔』っていうのは?」
「相手が嘘をついているかどうか判別できる魔法。ベ……ライオネル、陰からキューティバース達の様子を見ていながら、会話を聞いてなかったの?」
「ごめん、正直覚えてなくて……」
「まあ、最近私も戦場に出てなかったし、ライオネルが知らないのも無理ないと思うよ。仕方ないんじゃない?」
ムーンちゃんとライオネルは、いつの間にか距離が近くなっているみたいだった。
……大丈夫、皆協力してる。
仲間の輪は、広がっていってる。
……あとは、聖歌と千夜ちゃんだけ。
「……ブラックルーイ、戦う前に、聞きたいことがあるの!」
私は、彼女に声を飛ばす。
彼女が、どこまで悪の組織に染め上げられてしまったのか、それを確認するために。
「聞きたいこと?」
「………初めて私達が出会った時のこと、覚えてる?」
「覚えてるけど。ああ、シャイニングを追い詰めて、いじめ抜いたこともしっかり記憶に残ってるよ」
ブラックルーイは、ニコニコと笑みを浮かべながら、そう告げる。
聖歌をいじめ抜いていたことを、嬉々として語るなんて、千夜ちゃんなら絶対にそんなことはしないはずだ。
「キューティ先輩…。開けば真、閉じれば嘘です」
ムーンちゃんの手に持たれた本は、開いている。つまり、嘘はついていないということだった。
「それじゃ………ホワイトポイズナーと出会った時のことは…?」
私が次に問いを投げかけると、ホワイトがバツの悪そうな顔をする。
多分、当時のホワイトは、ブラックルーイのことを“魔女”と評して、本気で、殺すぐらいの勢いだったから。その時のことを申し訳なく感じているのだろう。
「………覚えてるよ。私の作戦にまんまとハマって炙り出され、その後私に無様に敗北したってことまで」
……嘘はついていない。
ここまでは、覚えてはいるみたいだった。
それじゃ……。
「私達と共闘した時のこと、覚えてる……?」
私は恐る恐る、尋ねてみる。
ブラックルーイの、反応は…。
「共闘…? 何の話……?」
本は、開いている。
嘘は、ついていない。
つまり、私達と共闘した、あの……光千夜は、もう……。
「……組織は、自分達にとって都合の悪い記憶を消去したんだ…。私達と共闘した時の記憶を消して………元の、組織の都合の良い手駒にするために……!」
ホワイトが奥歯を噛み締めながら、怒りに震えている様子が、よく伺える。
そうか、やっぱり、私達と協力した時……あの時、本当は、もう……。
「………言ってくれれば、助けられたのに……!」
あの時、手を差し伸べていれば。
あの時、私がブラックルーイの洗脳が解けていることに気づけていれば…!
今頃、千夜ちゃんも聖歌も、私達の輪に加わっていたかもしれないのに…。
「聞きたいことは終わり? それじゃあ、そろそろ、始めようかな」
ブラックルーイが戦闘態勢に入る。私達も、それに合わせて戦闘準備を行う。
…………後悔しても、仕方がない。今は、目の前のことに集中するしか、ないんだから。
………切り替えよう。
もう一度チャンスがあれば、今度こそ、手を差し伸べられるようになるためにも。
今は、まだ。
「行くよ、皆!」
「紫暮さん……どうして、私の家に……?」
「ひ、光さん!? ど、どうしたのですか! そ、そんなやつれた姿になって!!」
突然私のクラスの学級委員長、紫暮律華が訪れてきて、少々驚きつつも、対応する。
「……どうしたもこうしたも、見たままよ。……それで、私の家に訪れた理由は?」
「……見たままって……、癪ですが、学内でもトップの美人だった貴方が、そんな見る影もない無惨な姿になっていたら突っ込みたくもなりますよ……。それで、家に訪れた理由ですか?
いつも通り…?
それじゃ、毎日、紫暮さんは私の家にプリントを届け続けていてくれたというの…?
「……私のこと、嫌っていたんじゃなかったの…?」
「……授業をサボりがちなのには、腹が立っていましたが……それでも、貴方の成績が良かったのは事実です。……これでも、認めてはいたんですからね……。そ、それと、別に毎日プリントを届けに来ていたわけではないので! 最初は1つ下の山吹さんに頼んでいましたし、桃乃瀬さんに頼む日もありましたから…」
知らなかった。彼女が、そんな評価を私に下してくれていたなんて………。
でも、放っておいてくれたって、いいのに…。
私なんか、最低の姉で。
千夜の人生を台無しにするような、最悪な人間なのに…。
「放っておいてくれたって、良かったのに………」
「………放っておけるわけ、ないじゃないですか……」
「……なんで……」
「……私は、クラスの学級委員長なんです。クラスメイトが学校に来れていないなら、それを何とかするのが、私の役目です。………委員長という肩書きを背負ったなら、その責務は果たすべきなんですから」
責任感の強い彼女らしいな、と思う。けど………。
彼女と違って、私は。
姉であるのに。
千夜よりも先に生まれたのに。
千夜のことを、守れなかった。
私は、姉という立場でありながら、その責務を、全うできなかった。
ああ、本当に私は、駄目で……最低な………。
「こんにちは。仲良く談笑中かな?」
自己嫌悪で沈み込みそうになる思考に、突如1人の男の声が届く。
どこかで、聞き覚えのある声。だけれど、私のクラスメイトとか、そういう近しい関係ではない。
何かで、テレビか何かで、聞いたような声。
私は、その正体を探るために、その声の持ち主の顔を見る。
声をかけた男の、正体は…。
「………あ……う……そ………」
「こんにちは、千夜ちゃんのお姉さん。ごめんね、巻き込むつもりはなかったんだ。けど、今の千夜ちゃんには、これが1番有効的な手かと思って……さ」
「どなたですか…?」
そいつは。
千夜の人生を否定し、洗脳装置にかけ、撫で回すように千夜の体を触っていた、私にとって、今1番殺したくてたまらない相手。
「ピュア……!!」
幹部ピュア。
そいつが今、私の家の前へとやってきていた。
残り3話で3章終了です。え、章分けしてるの初めて知った?えー、はい。サイレント章分けしてました……。