TS魔法少女は光堕ちしたい!!   作:布団から出られない

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83親友少女は完成する

 

 

「ゲームスタート」

 

コピー能力持ちの幹部と対峙した私は、千夜の様子を伺いながら、目の前の敵を見据える。

 

………私は、どうかしてしまっている。

千夜が酷い目に遭うことを想像して、毎日眠れない夜を過ごしている。

 

……あーちゃんのあの言葉があってから、私は、すっかりおかしくなってしまったんだ。

 

狂ってしまった。

千夜が酷い目にあっているのを見て、興奮を隠せなくなった。

そんな自分に嫌気がさしていたのに、いつの間にか罪悪感も薄れて。

 

千夜に帰ってきて欲しいのに、同時に千夜が尊厳を破壊されて、組織の駒として酷い扱いを受けることが、とてつもなく喜ばしいことだと感じてしまう。

 

ああ、私はまともだったのに。どうしてここまで狂ってしまったんだろう。

 

…………あーちゃんが、悪いんだからね。

私を、こんな風にして、おかしくして。

 

全部、全部…。

あーちゃんの……せいなんだから……。

 

「……さて、どの魔法を使おうか」

 

ブラックルーイの対応は、キューティとホワイトで行うみたいで。

相手の魔法をコピーできる幹部は、私が1番相手する上で都合が良いという理由で、私は千夜と戦うことはできなかった。

 

けど、それで良かったのかもしれない。

千夜と接触すれば、私はきっと、私の中にいる獣を制御することができなかっただろう。

 

私が理性的でいられるのは、千夜と接触していないからで。

 

まだ、私がまともなフリをしていられるのも、それが理由なのだ。

 

なら、私は、与えられた役割を全うしよう。

 

「『リジェクトクロー』!!」

 

「『リジェクトクロー』」

 

「『フライングフェザー』!」

 

「『フライングフェザー』」

 

スターチスとライオネルが、各々目の前の少女に向けて魔法を放つ。が、少女はその魔法をコピーし、同じように繰り出すことで相殺している。

 

なるほど、これは確かに、かなり厄介な相手だ。

 

「無駄だよ。私の前では、どんな魔法も、無駄。残念だけど、貴方達の魔法は全て、私も扱えるんだから」

 

けど、私の魔術は、魔法とは違う。

原点は同じかもしれないが、私の魔術は再現性がない。

一回こっきり、一期一会の即席魔法。厳密には複雑な理論が絡み合っているため、即席魔法という呼称はあまり適切ではないのだけれど。

 

ともかく、コピーできるような簡単な構造はしていないのだ。

 

この少女を相手にする上では、私はかなりの特効を持っていると言っても過言ではないだろう。

 

「……やるか」

 

私は、自身の手に持つ書を広げる。

複雑な魔術理論が、私の頭の中に浮かぶ。

二度と使うことのできない。今日だけの、今だけの特別な魔法。

 

……魔術。

 

「第一節……如何なる現象にも、その根底には核となるものが存在する」

 

「……? 何?」

 

「第二節……私は核なり。万物の根源であり創造主。私は全てを創造し、全てを破壊する、魔の神なり」

 

「詠唱? 厨二病?」

 

「第三節……ここに、私の世界を構築する。理屈立てられた、1人の神が織りなす世界。万物すべし頂点の魔の真髄を、この地に刻む」

 

「けど、嫌いじゃないよ。そういう厨二臭いの、私大好きだから」

 

これは、ただの下準備だ。

魔術構築には、時間がかかる。けど、絶えず状況が目まぐるしく変わる戦闘においては、そこまで長々と時間をかけることはできない。

 

だから、事前にある程度構築しておく。

基盤となる要素を構成して、そこから複雑な魔術を、大雑把に構築して瞬時に発動させる。

 

そのための詠唱。

私の頭の中にある複雑な数式を、言葉へと変換して整理するための、ただの頭の体操だ。

 

けど、この詠唱には大いなる意味がある。

一つは、詠唱の言葉をある程度意味が通るように構築することで、私の頭の整理を円滑に進めること。

 

二つは、意味の通る言葉によって構築された詠唱は、再度唱える際に思い出しやすく、下準備の短縮に役立つということ。

 

「『xmsijkckssox』」

 

「…? 魔法……?」

 

私の発した言葉に従って、火の玉が少女目掛けて飛んでいく。

私の言葉の羅列に、意味はない。ただ、頭の中に整理して、詠唱に出した結果、その言葉になっているだけなのだから。

 

「『dgwixjskskskk』」

 

「今度は何…?」

 

事前詠唱において最も便利である点は、やはり魔術を行使する上での再現性だ。

 

魔術には再現性がない。それは事実だ。

けれど、魔術を行使できるようにする過程。それには、再現性を持たせることができる。

 

同じ魔術を行使することはできない。けれど、魔術を行使するための手順の再現性を高めることは可能だ。

 

事前の詠唱を行うことによって、1回目の魔術と2回目の魔術で必要になる準備を、同じ手順で、短縮化して行うことができる。

 

つまり私は、事前詠唱を行うことにより、通常の魔法の行使と同様の速さで、魔術を行使することができる。

 

「『majsisjxisjxi』」

 

「なんで……! 模倣できない……!」

 

そして、準備をすっ飛ばしたとて、複雑な理屈で構成された魔術は、他者に簡単に再現できるものではない。

だって、その魔法を行使した私にだって、もう一度再現させることは不可能なのだから。

 

「………模倣できない魔法? けど、私の知ってるそれとは違う……なら……どういう理屈で……」

 

ブツブツと、おそらく私の“魔術”についての考察を述べているのだろう少女の姿を見ながら、私は淡々と、魔術を放っていく。

 

「無駄ですよ。事前詠唱で自動化しているとはいえ、最初に理論構築を行い、それを公式化したのは私。同じように事前詠唱を公式化するに至った計算式を辿らなければ、その理屈を理解し、同じように私の魔術を繰り出すことは叶わない」

 

「魔術…?」

 

「貴方には理解できない領域です」

 

魔術のことを考えていれば、少しは私の心も落ち着く。

親友の、千夜の無惨な姿を、妄想しないで済むから。

 

「なるほど、魔術。よくわからないけど、魔法のことを魔術と呼んでるのかな? ……なら、こっちは“妖術”で対応しようかな」

 

「……妖術?」

 

知らない単語を話し出した目の前の少女の様子を見て、私は警戒心を高める。

 

「『迷わし神』」

 

少女が魔法を発動させる。私は警戒を最大にし、攻撃に備える。が……。

 

「何も起きない…?」

 

「……残念ながら、私には妖怪召喚は不可能。けど、効果の再現ならできる」

 

一体、なんの話をしているのか、全くわからない。けど、何の意味もない魔法、ということはないはずだ。

 

……どうする、“解析”するべきか…。

けど、“解析”には時間がかかる。そっちにばかり意識を割いていると……。

 

「『ブラッドテンタクル』」

 

このように、向こうから攻撃を仕掛けられてしまう。

戦闘を行いながらの“解析”は、私には荷が重い。

 

なら……!

 

「スターチス、ライオネル、援護を!」

 

2人に頼めば良い。何も私は、1人で戦っているわけではないのだから。

 

私は、スターチスとライオネルに救援を求める。が、2人は一向に、私の援護に入ってくれる様子はなくて……。

 

「……スターチス? ライオネル? どう、して……」

 

まさか、私の……ドス黒い“欲”のことがバレてしまったのだろうか?

 

私の本性を知った2人が、私に幻滅し、愛想を尽かしてしまったのではないだろうか。

 

そんな不安が、私の頭を駆け巡る。

が……、どうやら、そういうわけではないようで……。

 

「『迷わし神』の効果だよ。道を迷わせ、正しいルートを辿らせない。それが、この魔法の使い道だから」

 

「つまり……」

 

「そう、私と貴方の一騎打ち」

 

……仲間を分断させる魔法も持っているというのか。

いや、持っているのは、彼女だけではないのだろう。

 

なんせ、彼女は他人の魔法を模倣する幹部だ。

とすれば、他に『迷わし神』を使う幹部なり魔法少女なりがいたということなのだろう。

 

味方が分断されるのは、戦場において好ましくない。

できれば、魔法少女側の魔法であって欲しいものなんだけど…。

 

「『ストロベリーアロー』」

 

「っ! キューティ先輩の!? ……『wiakxmeunx』」

 

手数の多さは、お互い同じ。

けど、私の魔術は、指向性を持たせられない。

 

得られる効果は、完全ランダム。必ずしも、望んだ魔法を使用できるわけじゃない。

 

有利なのは、相手の方。

模倣する少女の特効かと思われた私は、実際には拮抗できるだけで、特効でもなんでもなかったのだ。

 

目の前の敵を侮った。これは私の失態だ。

 

……少しでも、行使する魔術が、私の思うものと異なれば。

 

……その瞬間、私の負けは確定する。

 

緊張の中、私と少女は睨み合う。

やがて、お互いが次の“技”を繰り出そうと、魔法ないし魔術の詠唱を始めようとしたところで……。

 

「キュヴァ!……様。今すぐアジトに帰還するようにって、ジェネちゃ………ジェネシス様が!」

 

私のすぐ目の前に、千夜が現れた。

 

千夜の顔が、はっきり見える。千夜の声が、明瞭に聞こえる。千夜の匂いが、私の鼻口を刺激する。

 

あ………。

 

「なにごと?」

 

「わからない、けど、とにかくすぐに戻って欲しいって」

 

だ……めだ……私………。

 

「わかった。それじゃ……」

 

「腕輪型転移魔法機あるから、私に触れてもらえれば、一緒に帰還できる、けど」

 

ああああ! あああああ!!

 

「別に大丈夫。その魔法機に埋め込まれた魔法も模倣してるから」

 

………千夜が、阻止した。

私の、闘志も、正義感も、何もかも。

 

千夜に、壊された。

 

………久しぶりに見る千夜の姿に、私の心臓は、どうしても高鳴ってしまう。

私が行った事前詠唱が、崩れ去っていく。

 

千夜の姿を認識した途端、頭の中に浮かんでいた難しい数式が、全てゴミのように蕩けていく。

 

ああ、私はもう、とことん……。

 

「ということで、今回はお開き。魔術、面白かったよ。また遊ぼう」

 

先程まで戦っていた少女の言葉すら、私の耳には届かない。

 

「次は全員で。シャイニングも入れて来なよ。……人数が少ないと、歯応えがないから、ね」

 

小悪魔のようにくすくすと、そう告げる千夜の言葉だけが、私の耳をすんなりと通ってくる。

 

「………嘘でしょ、こんな簡単に……」

 

全部崩れた。さっきまでで構築したものも、今までの緊張感も。全部、全部!

 

「こんな……ことって……!」

 

これで、答えが出た。

 

どんなに難しい理屈をこねくり回そうと。

どんなに悪と敵対して、正義として振る舞っても。

 

 

もう私は、とっくに堕ち切っていて。

 

もう、どうしようもないところまで来ていたんだ。

 

 

 

「ふひ………」

 

理解できたなら、次は簡単。

 

 

さて、どうやって、千夜のこと……。

 

 

堕としてあげようかな。

 

 

 




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