TS魔法少女は光堕ちしたい!!   作:布団から出られない

92 / 138
カクヨムへ投稿しだしたので、匿名解除しました。特に変わりはないので、気にしないでください。
もしよろしければ、カクヨムの方も覗いていただけると嬉しいです。


84 ただ1人の姉は再度立ち上がる

 

「……へぇ……何で俺の名前を知ってるのかな?」

 

彼の名を呼んだからか、ピュアは私の顔を見て怪訝な顔をしている。

それもそうか。向こうは私が魔法少女であることを知らない。

おそらく、ピュアが私に接してきた理由は………。

 

「………」

 

「……まあ、いいか。どこから情報が漏れたのかは分からないけど、とにかく……」

 

ピュアは懐から、注射器のようなものを取り出すと、私の手を強引に掴み取り……。

 

「何を…」

 

「眠たくなるけど大丈夫だよ。やっぱり、姉妹は仲良く揃ってないとね」

 

私の腕に、その注射器を突き刺した。

 

「うっ………ぐっ……」

 

私の体は、急激に熱を纏い、そのまま地面へと崩れ落ちるようにして倒れ込む。

同時に、突如として、私の体を、倦怠感や、不快感が襲う。

 

「光さん!? な、何なんですか貴方は! いきなりそんなものを取り出して、警察呼びますよ!」

 

「紫……暮…さ……に……げて……」

 

紫暮さんは、突然現れたピュアに対して、敵意をむき出しにし、声を荒げる。

けど、彼女は何の力も持たない一般人だ。

ただでさえ、大人を相手にすることすら難しいのに、相手が組織の幹部となれば、彼女なんて一瞬でやられてしまう。

 

だから私は、注射器を刺されたことにより、うまく回らなくなってしまった舌を必死に動かして、彼女に逃げるように促す。

 

けれど、彼女は逃げようとしなかった。

 

それは、きっと、私がいるからで……。

 

「邪魔だなぁ。どいててよ」

 

ピュアは彼女を蹴り上げる。

魔法少女でもなければ、スポーツ選手でもない。ただの一般人である紫暮さんは、ピュアが軽く蹴っただけで、簡単に地面に転がり落ちてしまう。

 

「紫……暮……さ……ん……」

 

「……あのさ、俺は慈悲を与えにきてやったんだよ? 妹と離れ離れになって、意気消沈してる聖歌ちゃんを、暗闇から救い出してあげようとしてるんだ。それを邪魔するなんて、君はとんでもないヴィランだね」

 

言いながら、ピュアは紫暮さんを踏みつける。

やめろ、と、そう叫びたいのに、私の声帯は上手く機能してくれない。

 

「な……にを……」

 

「俺についてくれば、聖歌ちゃんは妹に会えるんだ。だから、邪魔しないでくれるかな?」

 

「あなたは……なん……なんですか……何故、光さんの、妹のことを……」

 

「……新しい価値を与えてあげてるんだよ。千夜ちゃんは、確かに優しくて良い子だった。けど、それだけだ。良い子だし、優秀だし、立派で、魔法少女としての才能も持ち合わせていた。けれど残念なことに、彼女はあのままだと、そこで才能を腐らせてしまうばかりだ」

 

好き勝手に千夜のことを語るピュアの様子を見て、私は久しぶりに腹の底から怒りが湧いてくるのを感じた。

 

確かに私は千夜の輝かしい未来を奪った。けれど、ピュアに千夜の人生を語る権利なんて、ないはずだ。

 

私は、ピュアの言葉を否定したい。けれども、やっぱり私の口は動かなくて。

 

「だから、活躍の機会を与えたんだよ。今までの無意味な人生を、全部捨てさせたんだ。家族の記憶も、友人との交流も、大事な大事な、姉妹の絆も、ぜーんぶ、千夜ちゃんが活躍するためには、不必要なものだったからね。……同じことを、姉である聖歌ちゃんにもやってもらおうって、そう思っただけだよ。どうせ、意気消沈して、無意味な人生を過ごすだけだったんだから。俺のおかげで、その意味が生まれるんだから。感謝して欲しいよね」

 

許せないという怒りが沸々と湧いてくる。

目の前のクズを、はやく黙らせたくてたまらない気持ちでいっぱいになる。

 

けれど、私だって、同じだ。

 

このクズと、何も変わらない。

千夜を見捨てて、勝手に千夜に期待して……。

 

私は、千夜のことを、ちゃんと見てあげられてなかった。

 

結局、私は、千夜の姉に……なれていなかった。

 

【私は、何度でも来るよ】

 

何が妹の代わりだ。

私なんかよりも、苺の方がよっぽど自立してる。

私は、苺の姉代わりにすらなれない。

 

そうだ。今の私に、価値なんかない。

私の存在なんて、どこまで行っても、無意味で……。

 

「無意味……なんかじゃ……ない……です……!」

 

「あ?」

 

「光…さんは……! 成績も……優秀で……! 運動も……できて……みんな……の、憧れ……でした……」

 

紫暮……さん……。

 

「へえ、それで?」

 

「私は…………、そん……な……光さんを……見て……頑張ろうって………思ったんです……努力、したいって……そう……思えたんです……!」

 

「その結果がこの有様ってわけか。可哀想に」

 

「哀れま、ないで……ください……。私も……光さんも! 貴方に憐れまれるほど……惨めな存在じゃありません!!」

 

「慈悲を上げたいところだけど……。そうだね、君みたいな子がいるから、聖歌ちゃんの心はまだギリギリのところで壊れてないのかもね。なら……」

 

ピュアの言葉に、不穏さを感じる。

この口ぶりからして、ピュアは……まさか…!

 

「君が死ねば、聖歌ちゃんは素直に従うお人形になってくれるのかな?」

 

………紫暮さんを、殺すつもりだ。

……また、私の、せいで……。

 

人が……誰かが……犠牲になる。

 

そんなの……駄目だ。

 

そんなの……もう嫌だ。

 

ここで紫暮さんを見殺しにしてしまったら。

今度こそ、私は本格的に終わってしまう。

 

千夜の姉にもなれなくて、苺の親友にもなれなくて。

 

今度は、紫暮さんの憧れにすら、なれないなんて。

 

そんなの、本当に……。

 

 

 

私は、本当にダメで、どうしようもなくて、救いようがないほどに愚かで。

 

……千夜も苺も、私に関わったせいで、辛い思いをすることになった。

千夜は、言わずもがな。苺は、きっと私のことでたくさん頭を悩ませて来たんでしょう。

 

 

 

けど、こんな、どうしようもない私でも。

 

………まだ、慕ってくれている人が、いたなんて。

 

 

………起きろ、私の体。

 

ここで起きなきゃ、本当にもう、救いようがない。

 

本当の本当に、無意味になってしまう。

 

私が今までやって来たことも、紫暮さんの努力も、全部…!

 

そんなの、駄目だ。

 

何もかもダメで、どうしようもない私だけど……。

 

こんな私をまだ、必要としてくれる人がいるのなら……。

 

「………やらせ………ない………」

 

私の口が、動く。

私の体が、動く。

 

どこからか、力が湧いてくる。

それは、魔法少女に変身する時の感覚に近くて……。

 

でも、今この場に、キュートはいない。

妖精がいなければ、魔法少女には変身できないはず………なのに。

 

私の体は、魔法少女への変身を開始していた。

 

「光……さん……?」

 

「……まさか………聖歌ちゃん、君は……」

 

いつの間にか、ピュアに打たれた注射による倦怠感や、不快感は消え去り。

私の体を支配していた熱も、すっかり冷め切っていた。

 

私の体を、地面に縛り付けるものは、もう何もない。

 

「…………そうよ……。私は……魔法少女なのよ……」

 

そうだ。千夜のことばかり、頭の中にあって、見失っていた。

私は、何のために魔法少女になった? 

どうして、『ワ・ルーイ』と戦っていた?

 

二度と、千夜のような犠牲者を出さないためじゃないのか。

街の人々を、『ワ・ルーイ』の手から守るためじゃないのか。

 

「………私は……私の名は……」

 

原点を思い出せ。

私は、この街を守る、正義の魔法少女…。

 

「魔法少女、シャイニングシンガーよ!!」

 

千夜のことを考えると、いまだに自己嫌悪で死にたくなる。

苺にも、とても顔向けできるような状態じゃない。

 

でも、それでも。

 

堕ちるところまで、堕ちてたまるか。

 

私にだって、意地はある。

 

これくらいはできないと。

 

じゃないときっと、千夜が好きでいてくれた頃の私すら、私は見捨てていくことになってしまうだろうから。

 

だからせめて。

私は、千夜が好きでいてくれた私だけは、残しておきたい。

 

そのために、私は……。

 

「ピュア、お前はここで私が倒すわ。……これ以上、貴方の好き勝手にはさせない」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。