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「……へぇ……何で俺の名前を知ってるのかな?」
彼の名を呼んだからか、ピュアは私の顔を見て怪訝な顔をしている。
それもそうか。向こうは私が魔法少女であることを知らない。
おそらく、ピュアが私に接してきた理由は………。
「………」
「……まあ、いいか。どこから情報が漏れたのかは分からないけど、とにかく……」
ピュアは懐から、注射器のようなものを取り出すと、私の手を強引に掴み取り……。
「何を…」
「眠たくなるけど大丈夫だよ。やっぱり、姉妹は仲良く揃ってないとね」
私の腕に、その注射器を突き刺した。
「うっ………ぐっ……」
私の体は、急激に熱を纏い、そのまま地面へと崩れ落ちるようにして倒れ込む。
同時に、突如として、私の体を、倦怠感や、不快感が襲う。
「光さん!? な、何なんですか貴方は! いきなりそんなものを取り出して、警察呼びますよ!」
「紫……暮…さ……に……げて……」
紫暮さんは、突然現れたピュアに対して、敵意をむき出しにし、声を荒げる。
けど、彼女は何の力も持たない一般人だ。
ただでさえ、大人を相手にすることすら難しいのに、相手が組織の幹部となれば、彼女なんて一瞬でやられてしまう。
だから私は、注射器を刺されたことにより、うまく回らなくなってしまった舌を必死に動かして、彼女に逃げるように促す。
けれど、彼女は逃げようとしなかった。
それは、きっと、私がいるからで……。
「邪魔だなぁ。どいててよ」
ピュアは彼女を蹴り上げる。
魔法少女でもなければ、スポーツ選手でもない。ただの一般人である紫暮さんは、ピュアが軽く蹴っただけで、簡単に地面に転がり落ちてしまう。
「紫……暮……さ……ん……」
「……あのさ、俺は慈悲を与えにきてやったんだよ? 妹と離れ離れになって、意気消沈してる聖歌ちゃんを、暗闇から救い出してあげようとしてるんだ。それを邪魔するなんて、君はとんでもないヴィランだね」
言いながら、ピュアは紫暮さんを踏みつける。
やめろ、と、そう叫びたいのに、私の声帯は上手く機能してくれない。
「な……にを……」
「俺についてくれば、聖歌ちゃんは妹に会えるんだ。だから、邪魔しないでくれるかな?」
「あなたは……なん……なんですか……何故、光さんの、妹のことを……」
「……新しい価値を与えてあげてるんだよ。千夜ちゃんは、確かに優しくて良い子だった。けど、それだけだ。良い子だし、優秀だし、立派で、魔法少女としての才能も持ち合わせていた。けれど残念なことに、彼女はあのままだと、そこで才能を腐らせてしまうばかりだ」
好き勝手に千夜のことを語るピュアの様子を見て、私は久しぶりに腹の底から怒りが湧いてくるのを感じた。
確かに私は千夜の輝かしい未来を奪った。けれど、ピュアに千夜の人生を語る権利なんて、ないはずだ。
私は、ピュアの言葉を否定したい。けれども、やっぱり私の口は動かなくて。
「だから、活躍の機会を与えたんだよ。今までの無意味な人生を、全部捨てさせたんだ。家族の記憶も、友人との交流も、大事な大事な、姉妹の絆も、ぜーんぶ、千夜ちゃんが活躍するためには、不必要なものだったからね。……同じことを、姉である聖歌ちゃんにもやってもらおうって、そう思っただけだよ。どうせ、意気消沈して、無意味な人生を過ごすだけだったんだから。俺のおかげで、その意味が生まれるんだから。感謝して欲しいよね」
許せないという怒りが沸々と湧いてくる。
目の前のクズを、はやく黙らせたくてたまらない気持ちでいっぱいになる。
けれど、私だって、同じだ。
このクズと、何も変わらない。
千夜を見捨てて、勝手に千夜に期待して……。
私は、千夜のことを、ちゃんと見てあげられてなかった。
結局、私は、千夜の姉に……なれていなかった。
【私は、何度でも来るよ】
何が妹の代わりだ。
私なんかよりも、苺の方がよっぽど自立してる。
私は、苺の姉代わりにすらなれない。
そうだ。今の私に、価値なんかない。
私の存在なんて、どこまで行っても、無意味で……。
「無意味……なんかじゃ……ない……です……!」
「あ?」
「光…さんは……! 成績も……優秀で……! 運動も……できて……みんな……の、憧れ……でした……」
紫暮……さん……。
「へえ、それで?」
「私は…………、そん……な……光さんを……見て……頑張ろうって………思ったんです……努力、したいって……そう……思えたんです……!」
「その結果がこの有様ってわけか。可哀想に」
「哀れま、ないで……ください……。私も……光さんも! 貴方に憐れまれるほど……惨めな存在じゃありません!!」
「慈悲を上げたいところだけど……。そうだね、君みたいな子がいるから、聖歌ちゃんの心はまだギリギリのところで壊れてないのかもね。なら……」
ピュアの言葉に、不穏さを感じる。
この口ぶりからして、ピュアは……まさか…!
「君が死ねば、聖歌ちゃんは素直に従うお人形になってくれるのかな?」
………紫暮さんを、殺すつもりだ。
……また、私の、せいで……。
人が……誰かが……犠牲になる。
そんなの……駄目だ。
そんなの……もう嫌だ。
ここで紫暮さんを見殺しにしてしまったら。
今度こそ、私は本格的に終わってしまう。
千夜の姉にもなれなくて、苺の親友にもなれなくて。
今度は、紫暮さんの憧れにすら、なれないなんて。
そんなの、本当に……。
私は、本当にダメで、どうしようもなくて、救いようがないほどに愚かで。
……千夜も苺も、私に関わったせいで、辛い思いをすることになった。
千夜は、言わずもがな。苺は、きっと私のことでたくさん頭を悩ませて来たんでしょう。
けど、こんな、どうしようもない私でも。
………まだ、慕ってくれている人が、いたなんて。
………起きろ、私の体。
ここで起きなきゃ、本当にもう、救いようがない。
本当の本当に、無意味になってしまう。
私が今までやって来たことも、紫暮さんの努力も、全部…!
そんなの、駄目だ。
何もかもダメで、どうしようもない私だけど……。
こんな私をまだ、必要としてくれる人がいるのなら……。
「………やらせ………ない………」
私の口が、動く。
私の体が、動く。
どこからか、力が湧いてくる。
それは、魔法少女に変身する時の感覚に近くて……。
でも、今この場に、キュートはいない。
妖精がいなければ、魔法少女には変身できないはず………なのに。
私の体は、魔法少女への変身を開始していた。
「光……さん……?」
「……まさか………聖歌ちゃん、君は……」
いつの間にか、ピュアに打たれた注射による倦怠感や、不快感は消え去り。
私の体を支配していた熱も、すっかり冷め切っていた。
私の体を、地面に縛り付けるものは、もう何もない。
「…………そうよ……。私は……魔法少女なのよ……」
そうだ。千夜のことばかり、頭の中にあって、見失っていた。
私は、何のために魔法少女になった?
どうして、『ワ・ルーイ』と戦っていた?
二度と、千夜のような犠牲者を出さないためじゃないのか。
街の人々を、『ワ・ルーイ』の手から守るためじゃないのか。
「………私は……私の名は……」
原点を思い出せ。
私は、この街を守る、正義の魔法少女…。
「魔法少女、シャイニングシンガーよ!!」
千夜のことを考えると、いまだに自己嫌悪で死にたくなる。
苺にも、とても顔向けできるような状態じゃない。
でも、それでも。
堕ちるところまで、堕ちてたまるか。
私にだって、意地はある。
これくらいはできないと。
じゃないときっと、千夜が好きでいてくれた頃の私すら、私は見捨てていくことになってしまうだろうから。
だからせめて。
私は、千夜が好きでいてくれた私だけは、残しておきたい。
そのために、私は……。
「ピュア、お前はここで私が倒すわ。……これ以上、貴方の好き勝手にはさせない」