「……なるほど。君が、魔法少女シャイニングシンガーだったんだね。だから俺の正体を知ってたわけだ」
「光……さん……? 魔法少女って………」
私は、紫暮さんの目の前で魔法少女に変身した。いくら『夢幻の魔』があるとはいえ、さすがに目の前で変身してしまえば、私が魔法少女シャイニングシンガーであることは紫暮さんにとって明らかになってしまっているだろう。
魔法少女は、基本的に正体をバラしてはいけない。バラせば、変身前の状態で襲われるリスクが跳ね上がってしまうから。
紫暮さんにバレてしまったのは、この際仕方がない。ここで私が魔法少女に変身しなければ、彼女はピュアに命を奪われていただろうから。
けど……。ピュアにも私の正体はバレてしまった。
このまま彼を見逃してしまっては、私の正体が組織にバレてしまうことになる。
だから、彼はここで仕留めなければならない。
千夜を弄んだ男を、私がこの手で。
「……紫暮さんは私の後ろに」
「………聖歌ちゃんが魔法少女である可能性は考慮してなかったな。勿論、聖歌ちゃんに魔法少女の才能が備わっていることは知ってたんだけどさ」
ピュアは私が変身したのを見て、驚きこそすれど、その余裕の態度は崩す様子がなかった。
私を脅威とみなしていないのだろう。仮にも幹部、その実力は、並の怪人のそれを凌駕すると思っていい。
油断はできない。
「『氷の牢獄』」
私はドーム上の氷で、ピュアを閉じ込め拘束する。
その間に、紫暮さんを回収し、私の家の中に入れる。
これで、紫暮さんの安全は一旦確保された。後は…。
「『茨』『成長』」
『氷の牢獄』が、長く伸びた茨によって破られる。
腐っても幹部、やはり簡単に拘束して無力化、というわけにはいかないらしい。
「酷いなぁ。ちょっとは会話を楽しませようとは思わないの? 俺は千夜ちゃん一筋だけど、別に聖歌ちゃんのこともそれなりに気に入ってるんだから」
「……千夜の名前を出さないで。貴方がその名前を出すと、物凄く腹が立って仕方がないの」
「そうカリカリしないでよ。美人が台無しだよ?」
こいつとの会話は無意味だ。
数回言葉を交わしただけで、私はその結論を下す。そのくらい、こいつの言葉には不快感しか感じられなかった。
「『
私は声を上げ、リズムを紡ぐ。私の音は空気に触れ、ピュアの口元にまで届く。
そして……。
「ん!」
ピュアの口を、氷の塊が塞ぐ。
ピュアの口が塞がったことにより、耳障りな声を聞く必要がなくなったのと同時に、ピュアは新たに魔法を行使することができなくなる。
ピュアにできるのは、既に出現させた『茨』を操って、私に攻撃を加えること。それでしか抵抗できない。
だが、ピュアが私に危害を加えることはなかった。
ピュアは必死になって『茨』を暴れさせ、私を近付けさせないようにする。私の次の攻撃が、自身に当たらないように、必死に。
敵を攻撃することよりも、自分の身を守ることの方に力を使うことにしたらしい。
………こんな臆病な奴が、千夜の人生を否定していたのかと思うと、本当にイライラする。
どうしてこんな奴に、千夜の人生が食い物にされなくちゃならないのか。
千夜の方が、よっぽど努力してる。千夜の方が、よっぽど…。
でも、そんな千夜がピュアの手にかかってしまったのも、やっぱり私のせいでしかなくて…。
「本当に、イライラするわ……」
自分自身に腹が立って仕方がない。
そうだ。私のこの苛立ちは、ピュアだけに向けられたものじゃない。
……私自身にも、向けられたものだったんだ。
私のせいで、千夜はあんな目に遭っていたのに、私が考えていたことは何だ?
自分のせいで千夜が酷い目に遭ったことに罪悪感を覚えて、塞ぎ込んで……。
結局私は、自分のことしか考えてなかった。
自分の罪悪感に押しつぶされていただけだった。
千夜のことなんて、これっぽっちも頭に入れられてなかった。
醜い。本当に、醜かった。
私は、“できる私”を演じていただけの、道化に過ぎなかった。
誰よりもプライドが高くて、誰かより劣っていることが許せなくて……。“できる”千夜の姉という立場でいるために、必死になって……。
結局私は、“できる姉”というメッキで塗装されただけの、ちっぽけな存在でしかなかった。
いつの間にか、頼りにできる人になることが目的になっていて、本当に大切なものを見失っていた。
…………私が、大切にしていたもの。
それは、プライドでも見栄でもない。
紫暮さんは、私を尊敬してくれていた。私が、紫暮さんにとって気に食わない行動をしていたのにも関わらず。私の行動は、彼女にとって相入れない存在であるはずなのに。
………好かれる必要なんて、なかった。
大切なのは、そんなことじゃなかったんだ。
紫暮さんは、性格的に相入れないだろう私から、何かしらを得ていた。そこには、好意なんてない。けど、私の存在は、確かに彼女に良い影響を与えた。
だったら、それで十分じゃないのか。
人に良い影響を与えられたのなら、たとえ好かれていなくたって、十分じゃないのか。
だから……だから私は……。
千夜に嫌われたっていい。
それを、ずっと恐れていた。千夜に嫌われたくない、千夜に好きでいて欲しい。ずっと姉を慕う妹でいて欲しい。
なんて、そんな我儘、もう言わない。
本当に、千夜のことを思うなら、千夜のことを救いたいなら。
私は、何だってする。
だから……。
「千夜の幸福な人生に、私はいなくてもいい。それに……貴方も」
千夜のために、目の前の男を、私が殺す。
それが、千夜の幸福につながると信じて。
「っ!! …………!!」
男は、ピュアは、額に汗を垂れ流しながら、必死に抵抗を行う。
醜くも、必死に。自分の命を取り止めようとしている。けど、私は容赦しない。
「『子守唄』」
私は、歌う。ピュアの意識を削ぐために、ピュアを夢の世界へと誘う。
ピュアの抵抗は、だんだんと緩んできている。
『茨』の動きも、段々と鈍くなってきている。
………終わらせてやろう。
彼は、通常の怪人と比べれば強いが、触手の幹部よりかは弱い。
おそらく、自己研鑽なんてしないタイプなんだろう。どこまでも保身に走って、どこまでも他人を利用して。
そうやって生きてきたんだろう。
だから、たった1人の魔法少女に、こうして敗北してしまうのだ。
私の歌が、ピュアを襲う。
リズムに乗って、ピュアの口元の氷が、体全体へと広がっていく。
「……!!!!!!」
ピュアは抵抗しようとする。が、『子守唄』による眠気により、『茨』は満足にコントロールできず、氷に覆われたことによって、『茨』以外での抵抗は封じられている。
最早彼が私に反撃することは、不可能に近かった。
「さよなら、幹部ピュア」
完全に氷漬けになったピュアを、私は容赦なく砕く。
千夜のことを弄んだ男は、無抵抗に、無惨に、呆気なく終わりを迎えた。
「………これで、終わりね」
まずは一歩。千夜を弄んだ幹部を、葬った。
けど、まだ……全てが終わったわけじゃない。
組織は残ってる。千夜はまだ、洗脳されてしまっている。だから……。
「……聖歌?」
「……苺」
………私に、もう妹は必要ない。
苺は、私に頼るばかりの存在なんかじゃなかった。
千夜のことを助けるためには、私1人の力じゃ、足りない。
………そうだ、今度こそ、私は……。
「………苺………。私、貴方を、頼りたいの」
「……聖歌……?」
「………”親友“として、貴方に……」
私の言葉に、苺はポカンとしながらも、自身の中でその言葉の意味を咀嚼したのか。
「…………うん、勿論! 私にできることがあれば、何でも!」
そう、快い返事をくれた。