突如ジェネちゃんからアジトに帰還するように指示が出たと師匠から連絡を貰った俺は、一緒に戦場に出ていたキュヴァちゃんと共に、腕輪型転移魔法機を使ってアジトへと帰還していた。
「……ふう、帰還帰還っと、それで、肝心のジェネちゃんは……」
俺はキュヴァちゃんと共に、周囲を見渡す。が、ジェネちゃんの姿はどこにも見当たらなくて……。
「あ、ヒンナだ」
いつの間にか師匠のことを呼び捨てにしているキュヴァちゃんを横目に、俺は師匠がいる方向を見る。
「師匠、ジェネちゃんは?」
「………ああ。ちょっと、ね……」
仮面を被っているから、表情は窺えない。けど、師匠は間違いなく、いつもよりもテンションが低くなっていて。
「それで、ヒンナ。どうして私達を連れ戻したの?」
「よ、呼び捨て…?」
「私もう幹部だから。残念ながら様付けは終了でーす」
「……そういやそうだったわね……」
ナチュラル師匠を呼び捨てにするキュヴァちゃんと、それに困惑する師匠。
キュヴァちゃん、割とイグニスともバチバチだったし、反骨精神つよつよ系ゲーマーだったりするのかな。
「まあいいわ。………貴方達をアジトに連れ戻した理由だけど、それはこの子から説明してもらうわ」
「この子…?」
頭に?マークを浮かべる俺をよそ目に、師匠はポケットからスマホを取り出して、その画面を俺とキュヴァちゃんに見せつける。
そこに映っていたのは……。
『もしもーし! こんこん! もう1人の私〜。元気してる〜?』
「こんこん! 元気してるよ〜」
なんか、手で狐作ってこんこん!って挨拶してきたから、同じように返しちゃったけど。
……もう1人の俺が何か関係あるんだろうか?
『…分身の話、知ってるのは、当人の私達。幹部でいうと、ヒンナさん……様と夕音叔母さん、イコル……様に、キュヴァ様、だけでしたよね』
「過半数知ってるのにだけ……」
「……別に無理して様付けしなくてもいいわよ」
『あ、はい。……だからまあ、私達以外に分身の存在知られるとまずいんだよね〜』
あーそか。ピュアとかピュアとかピュアとかに知られるとまずいか。確かに、あいつに自分のこと知られるってだけで背中ゾワゾワして気持ち悪くなってくるし、それは良くないな。
「えと、それで?」
「…千夜、自分の口から話しなさい」
『………わっかりました。えーとですね。イコル様から、一緒に魔法少女と戦おうとの提案をいただきまして。それで、出撃致したわけですね。そこで何と! 私は、幹部ですら苦戦するという魔法少女エンシェントカラミティを単独で撃破し! 魔法少女の才能をこれでもかとばかりに見せつけて…』
エンシェントカラミティ? ……ああ、別地域の魔法少女の話かな?
「………そんなこと話せと言った覚えはないわよ?」
『あ、はい。……まあ、簡単に言いますと、そっちの私が出撃してる時に、同時に私も出撃しちゃったんですよ。結果、同じ存在が、同時に二箇所に存在する、という奇妙な状況が、外側から観測できる状態になってしまいまして……』
ん? ……あー。俺が戦場に出てる時に、向こうの千夜ちゃんも戦場に出ちゃってたってことか。
それで、幹部様とかピュアとかに、分身の存在がバレる危険性が生じて……って話か。
「だからまあ……」
『今後は、私とそっちの私で、交互に出撃するようにしましょうって話です。……私、一度もそっちの地域の魔法少女と出会ったことがないので、次回は私が出撃したいんですけど…。そっちの私はどう?』
「うん、私もそれでいいよ」
キューティバースちゃん達と対面したことないなら、一回くらいは顔合わせしといた方がいいもんね。何があるか分からないし。
「……今はジェネシスが、オクトロアやピュア、イグニス辺りの目を背けてくれてるはずよ。ルーイの分身がバレないように、ね。……だから、そんなに心配せずとも、ルーイ達の分身がバレないように、あいつが頑張ってくれるはずだから」
なるほど。
俺をさっさと帰還させたのは、俺の分身がバレる前に、俺をアジトに戻しておきたかったから、なんだな。
「ジェネちゃん様様だなぁ……」
ジェネちゃんには色々お世話になってるな。分身の話もそうだし、俺の代償の件だって考えてくれてる。……母親ではなく、叔母だ。自分の子供じゃない。
なのに、ジェネちゃんは、母親と同じくらい、俺の面倒を見てくれている。
それに、師匠も。
「師匠、ありがとうございます」
「……何が?」
「私のために、色々してくれて」
「………そう」
俺は素直に、師匠に感謝を伝える。
けど、師匠の顔は、どこまでも暗くて……。
「………師匠?」
「………キュヴァ、少し席を外してくれる? ………ルーイと、話したいことがあるから」
「……………ラフ君のところ行っていい? ゲーム借りたい」
「いいわよ」
言って、キュヴァちゃんはラフのところへと駆けていく。
この場に残ったのは、俺と、もう1人の私(リモートだけど)。そして、師匠だ。
師匠は真剣な眼差しで、俺たちのことを見つめる。
「……2人は、ジェネシス……いいえ、夏場夕音のこと、どう思ってるの? ……信頼してる? 好き?」
『………んー。好きではあります。けど、全面的には信頼していません』
「好きだし信頼してます。……私のことを考えてくれていることは伝わってくるので」
少なくとも、光堕ちした後に見逃してあげようと思ってるくらいには好きだよ。
まあそれは、師匠も同じなんだけど。
「……そう……。それじゃあ……。もし、もしよ。…………その、夏場夕音が………死ぬってなったら、どう思う?」
ジェネちゃんが、死ぬ……?
……そりゃ、嫌だけど。普通に悲しいし。
「……嫌です。悲しいので」
『……私も、亡くなられると寂しいかもです』
「………そう……よね……」
師匠は、頭を抱え込む。
……ジェネちゃんが死ぬとか死なないとか、一体何の話をしているのか。
不穏な話でしかない。師匠がこう話すからには、師匠とジェネちゃんの間に、何か俺達に話していない隠し事があるんだろう。
……少し、不安だ。師匠達が何を隠しているのか、それが全く分からないから。
「………あいつは……いけすかないやつだったわ。けど、確かに、ルーイ達にとっては、必要な存在だったんでしょうね……」
「……ジェネちゃんの身に、なにかあったんですか? ………ジェネちゃんの命に、危険が迫ってるんですか…?」
師匠は、隠れた仮面の裏で、おそらくは困ったような表情をしているんだろう。
それがより一層、俺の不安を募らせる。
……一言、何もないと、そう言ってくれれば、それで安心なのに。
「……いずれ、別れの時が来るわ……。ずっと一緒に居ることは、多分叶わない。だから、その時が来るってことを、覚悟しておいて。………それだけよ」
…………その言い方だと、まるで……。
「ジェネちゃんがもう死ぬって、言ってるようなものじゃないですか……」
「………」
師匠は、何も答えない。
………なら、本当に?
本当に、ジェネちゃんは、死んで……。
………そっか。
………………そっか……。
「……助ける手段は、ないんですか?」
「ないわ。もう、手の施しようがない。だって、もうとっくに………。……いいえ、何でもないわ」
師匠が言うのなら、そうなのだろう。
多分、ジェネちゃんの事情は、師匠の方がよく知ってる。
それに、師匠はポンコツだけど、ジェネちゃんは言うほどポンコツじゃない。
何かしら手段は試したんだろうし、その上で無理だと悟った、そう考えるのが、自然で。
……だったら……。
「………わかりました。ジェネちゃんの命が、そう長くないってこと、把握しておきます」
『…………正直、私は関わりが薄かったので……悲しくはあるんですけど、こう、何とも言えない気持ちというか……。はい、けどまあ、私も分かりました。覚悟は、しておきます』
ジェネちゃんは、そのうち死ぬ。それはもう、決定事項なのかもしれない。
だったら。
「……今度、ジェネちゃんと2人っきりで……あー、もう1人の私も入れて、3人で話す機会だけ、くれませんか? 話したいことが、色々あるので」
……光堕ちのこと、話そう。
こういう目的で、だからあえて組織にいるんだって、話しておこう。
「………わかった、わ。……ただ、ジェネシスも、色々と混み合ってるのよ。……だから、対話の機会は、結構先になると思うけど……」
「……ジェネちゃんの余命とか、よく分からないので何とも言えないんですけど……」
「……それは大丈夫よ。そうならないようにしておくから」
「師匠……ありがとうございます」
……ジェネちゃんは、きっと俺が拉致されて洗脳されて、酷い目にあってるって、そう思ったままだろうから。
実は全部そんなのなかったんだって、そう言って、安心させてあげたい。
それが俺の、精一杯の恩返しだと思うから。