私は、戦闘を終え、聖歌の家の近くにまで寄る。
そこには、信じられない光景が広がっていた。
氷漬けにさせられた男。
見覚えがある。彼は、幹部ピュア。以前私達と対峙して、同じ幹部であるトーレストを道具化し、鳴ちゃんを攫った男…。
彼のせいで、千夜ちゃんは再び洗脳されてしまうことになった……。という話は聞いていた。
けど、そんな彼が何故、氷漬けになって、しかも……。
「………これで、終わりね」
どうして、魔法少女シャイニングシンガーがここにいるのか。
……彼女は、魔法少女シャイニングシンガーと思われる彼女は、そのまま、氷漬けにされたピュアを砕いて、葬った。
「……聖歌?」
私は、恐る恐る、彼女に声をかける。シャイニングシンガーの変身前、光聖歌の名を呼んで。
「……苺」
返事が、帰ってくる。苺と、私の名を呼ぶ、その声が。
確かに、目の前にいる彼女は、聖歌なんだろう。けど、聖歌は、精神を病んでしまっていたはず。それが、何で…?
「………苺………。私、貴方を、頼りたいの」
「……聖歌……?」
「………”親友“として、貴方に……」
“親友”。
その言葉に、私はきっと、鳩が豆鉄砲を食ったかのような顔をしていただろう。
けど、聖歌は、私のことを、親友として認めてくれていた。聖歌は私を、対等な存在として、頼ってくれた。
それがなんだか、嬉しくて。
「…………うん、勿論! 私にできることがあれば、何でも!」
私は快く、聖歌に、返答を返す。
どうして立ち直れたのか、とか、聞きたいことはたくさんあるけど。
でも……。
「おかえり、聖歌」
「ええ、ただいま」
ただ、今は。
聖歌がここにいることの、喜びを噛み締めたかった。
聖歌が復活した、その連絡を薬深ちゃんにもしたところ、他の魔法少女達にもそれは伝わっていたようで。
私達は今、全員で、聖歌の家へとお邪魔していた。
………そこに、私のクラスの学級委員長である、紫暮律華さんがいたのには、ちょっとびっくりしたけど。
どうやら、彼女の言葉で、聖歌は立ち直る決心がついたらしくて。
ある意味、私達にとっての恩人とも言える人物でもあった。
「ごめんなさい。待たせてしまって」
「ううん、全然大丈夫」
聖歌は、変身を解除すると、髪がボサボサで、肌の手入れもしていない状態だったものだから、しばらくの間、身嗜みを整えるために、風呂場に行っていた。そのため、聖歌以外のメンツは、聖歌の部屋に集まって待機していたのだ。
「……それで、状況の整理、よね?」
「……うん、聖歌が、どうして魔法少女に変身できてたのか、とか、色々気になる部分があったから」
私は、聖歌の様子を伺う。
………以前のように元気でいる、とは言えないかもしれない。けれど、確実に精神的に落ち込んでしまっていた時よりも、疲れている様子はなさそうだった。
「………それが、私にも分からないのよ。……ただ、ピュアに注射を打たれて……それで……」
「……ピュアの注射で、魔法少女に変身できるようになった、とか?」
鳴ちゃんが、聖歌の言葉を拾って言う。
けど、それってありえるのかな?
「ピュアが聖歌に注射を刺して魔法少女に覚醒させたっていうのは、ちょっとおかしいじゃないのかな?」
「うん。私もそう思うわ。だって、シャイニングシンガーがピュアを倒したんでしょ? もしピュアが注射器で聖歌さんを魔法少女に妖精なしで変身できるようにしたんだとしたら、間抜けすぎない?」
私の発言に、補足するようにリーベルがいう。確かにその通りで、もしピュアの注射器によって聖歌が妖精なしでも変身できるようになったのだとしたら、流石にピュアが間抜けすぎるというか……。
少なくとも、私達を出し抜いて鳴ちゃんを攫ったピュアが、そんなヘマをするとは思えなかった。
『……もしかすると……もしかするかもしれないっきゅ』
「キュート…?」
『………今まで、黙っていたことがあるんだっきゅ。……魔法少女ブラックルーイのことで』
キュートは、深刻そうな顔で、そう告げる。
まだ、隠していたことがあったんだと、少しキュートに対して、失望してしまいそうになったけど、すぐにそれを振り払う。
私は、キュートと一緒にやっていくって決めたんだから。
『ブラックルーイには、妖精がいないんだっきゅ。………ブラックルーイも、今回の聖歌のように、妖精なしで変身しているんだっきゅ』
言われてみれば、確かに。
私は、一度もブラックルーイと契約している妖精の姿を、見たことがない。
妖精が近くにいないと、魔法少女には変身出来ないはずなのに。何故かブラックルーイが私達の元に現れる時、彼女は1人で戦場へとやってきていた。
とすると……。
「もしかして、光家がそういう特性を持っている可能性がある…?」
妖精なしで変身出来たのは、聖歌や千夜ちゃんだけだった。とすれば、光という一族に、何かそういう特異な特性があるのでは? と、私はその思考に至り、そのまま言葉にしたが…。
『……違うっきゅ。キューが言っているのは、本当にピュアの注射器によって、無理矢理魔法少女に覚醒させられた可能性の方っきゅ』
それは、キュートに否定された。
『……夕音は、そんな性質を持っていなかったっきゅ。千夜が単独で変身できるのも、組織にいるからっきゅ。だとすれば……ピュアが、1人でも変身できるように、聖歌に注射器を打った。そう考えるのが妥当っきゅ』
「……馬鹿な幹部が、馬鹿な行いで自爆したってこと? ………あの組織を持ち上げるのは癪だけど、流石にあの連中はそこまで馬鹿じゃないと思う…。そんな馬鹿なのだとしたら、あいつらにしてやられた私も……あんな奴らに拉致されてしまった、光千夜も、ますます惨めになってしまうから……」
薬深ちゃんは、不満そうな顔をしながらそう告げる。確かに、そうなのだ。それは、ピュアが馬鹿でないと通らない説なのだ。だから……。
『薬の効能が、あくまで妖精との繋がりを断つためだけのものだとしたら、どうですの?』
「へ?」
『敵は、聖歌さんが魔法少女であるということを知らないはずですわ。ですが、聖歌さんが魔法少女の素質を持つ人物である、ということは知っていたと思いますの。実際、薬深さんはそれで狙われたわけですもの』
リーベル達の契約妖精、レディは、続けて言葉を紡ぐ。
『魔法少女に覚醒させる工程と、妖精と魔法少女の関係を断つ工程。それらは、別個で行われていたのだと思いますわ。そして、光千夜の時も、おそらく、先に注射を打ち、妖精なしで魔法少女に変身できる下地作りをしていた。………そう考えることはできませんの?』
確かに、その理屈なら、ピュアが馬鹿じゃなくても、成り立つとは思うけど……。
『とにかく、ここは深く考え込むところではありませんわ。何か体に異常があれば、聖歌さんから告げてください、今は、それくらいの対処しかできませんの』
これで、聖歌が魔法少女に単独で変身出来た話は、終わり……の、はずだった。
『……そ、それと……。聖歌には、あまり単独での魔法少女の変身は、控えてほしいっきゅ』
「………わかったわ。けれど、何か理由があるの?」
『………実は……妖精なしで変身すると……多分、変身者には何かしらの代償が生じるっきゅ。それは、命か、別の何かか……定かではないっきゅ。けれど、危険な行いっきゅ』
キュートが告げた内容。それは、どれも私の知らないことばかりで。
………そして、もし、代償というものが、本当にあるのだとすれば……。
「……それ、千夜ちゃんは…?」
『……きゅ……』
「妖精なしで変身してるのって、千夜ちゃんもだよね…? だったら、千夜ちゃんは、ずっと……」
『………多分、ずっと変身し続けていたら、いつかは……』
「そんな……」
それが真実なのだとすれば……。
もう、あまり猶予はない。
一刻も早く、千夜ちゃんを救い出さないと。
じゃないと、洗脳とか、それ以前に。
千夜ちゃんの命が、危ない…。
「………………………千夜、そんな状態だったのね…。………ごめんなさい。私、本当はもっと早く立ち直るべきだった。千夜のことを考えたら、落ち込んでる場合なんかじゃなかった」
「……聖歌……」
「………こんなこと、言ってる場合でもないのよね…。……皆、お願いがあるの」
聖歌は、キリッとした表情で。
けれども、完璧ではない、どこか弱みも曝け出したような表情で、言う。
「……どうか、私の妹を……千夜を……助けてください。……私と一緒に、千夜を救ってください」
聖歌は、深々と頭を下げる。
……言われなくても、最初から、私達のやることは決まってる。
「……うん、皆で救おう。千夜ちゃんを」
皆、想いは同じだ。
……色々あったけど。
今度こそ、皆で、千夜ちゃんを救う。
あの、暗闇の中から。
………そっか。千夜、そんなに危ない状態だったんだ…。
……そっかそっか。
なら、助けるしかないよね。
千夜に死なれたら、私、何のためにここまで堕ちたのか、分かんなくなるし。
……でも。
千夜を救う? そんなの、私の望んだ展開じゃない。
千夜のことは、救わせない。
千夜のことを好きにしていいのは、私だけ。
最後に千夜を手に入れるのは、私だから。
「先輩、貴方には無理ですよ」
どうせ貴方は、千夜を一度見捨てた、腑抜けた姉なんですから。貴方には、千夜をどうこうする権利なんて、ないんだから。
だから、私が千夜を好きに貶めるのを見て、絶望でもしていたらいい。
私は、私なりの“友愛”を示す。ただ、それだけだ。