私は、戦場へと向かう。
先日、私はイコルに、次の戦闘には私が出撃できるように手配して欲しいとお願いをしたんだけど、どうやら私の要望は通ったみたいだね。
「えと、それで〜、キュヴァ様、ゲームしてていいんですか?」
別の地域での魔法少女達との戦闘ということで、私もそれなりに張り切ってはきた………のだけど、どうやら目の前のキュヴァって人は、そうでもないみたいで。
怪人を街で暴れさせるだけ暴れさせて、ゲームをして自堕落に過ごしているようだった。
幹部会議の時にイグニスが反対していた理由が分かった。この子、サボり常習犯なんだ。確かに、仕事を放っておいて、ゲームで遊び出すような奴を幹部という重要な立ち位置に着かせるのはちょっとなぁ……って感じだし、ただ単に気に食わないからって理由で片付くものではなかったんだなって。
……さて、そんなこんなで、私とキュヴァは怪人を街で暴れさせながら、魔法少女達がこの場にやってくるのを待ち続けていたのだが……。
「……あ、キュヴァ様、魔法少女、来たみたいですよ」
「……キュヴァでいいよ。呼び捨てで。様付けはムズムズするし」
キュヴァは私にそう言いながら、ゲームをプレイする手を止めることをしない。
ひたすら指を動かし、視線は液晶に張り付いていて、止めようとする意思は全く感じられなかった。
「……あの、魔法少女、来てるんですけど……」
「……先に戦ってて。大丈夫、危なくなったらすぐ行くから」
「えぇ………」
ここまで来たら多分依存症って奴だよ。ゲーム機壊しちゃおうかな?
……まあ、流石にそんなことはしないけどさ。
仕方ない。一応危なくなったら助けてくれるらしいし、今回は大熊の見た目をした図体デカめの強そうな怪人君もお供としているわけだし、大丈夫でしょ。
ささ、新魔法少女とのご対面といきましょうか。
かっこよく、颯爽と、華麗に参る!
私は、宙に浮き、上から悠々と、魔法少女達を見下すようにしながら、地面へとゆっくり降下していく。
「……来た……」
「………千夜……」
私の登場に、桃色の髪の魔法少女と、水色の髪の魔法少女、そして、黄色の髪色をした魔法少女が、反応を示す。
他にも3人ほど魔法少女がいたけど、そっちは図体デカめの大熊さんの対処に回っているみたいだった。
……一応、向こうは一方的に私のことを知っているみたいだから、私もそれっぽく振る舞わなくちゃいけないんだけど……。さて、どうしようか。
一応、もう1人の私からそれぞれの魔法少女の特徴とか教えてもらったんだけど。
………忘れちゃった。もう1人の私から情報共有されてる時は、私戦うつもりなかったからね。
まあ、というわけで。
私は向こうの魔法少女達の名前を知りません。けど、魔法少女達の目線で見ると、私が彼女達のことを知らないのは不自然だと思うんだよね。
だから…。
「……こんにちは。戦闘に入る前に、一言挨拶を交わしましょう。……私の名前は、魔法少女ナイトルーイ。悪の組織『ワ・ルーイ』に所属し、世を絶望に染め上げる、暗黒の魔法少女………」
中々厨二臭くてかっこいいんじゃないだろうか。もっとコテコテの厨二用語を組み込んでみたい気もするが、なんでもやりすぎは良くないからね。ほどほどが1番だよ。
「…ナイト……ルーイ……?」
「……ブラックルーイじゃない…?」
あ……。
そうだった。私って元々ブラックルーイなんだっけ?
うわ、間違えた。うーん、でもナイトルーイの方が、私の千夜って名前とも噛み合ってるしよくない?
うん、まあ大丈夫でしょ。名前くらい多少変えたって問題ないよ。大丈夫大丈夫。
「名前なんてどうでもいいでしょ? ……ほら、礼儀を弁えているなら、するべきことがあるでしょ?」
私は3人に挨拶を交わすように促す。
「魔法少女シャイニングシンガー。……戦闘開始前の挨拶は、これでいいかしら?」
「後2人も、ね」
「私は、魔法少女キューティバース。ねえ、ナイトルーイって……どういうこと? どうして名前を……」
よし、よしよし。何とか2人の魔法少女名も聞き出せた。
さて、残りの黄色い子も……。
「……どうして、戦闘開始前に挨拶する必要があるんですか? 今まで、そんなことしてこなかったのに」
「礼節を弁えることは大切だよ。一見無意味に思えることでも、そこには意味が込められているんだから。そう、例えば…」
「論点をずらさないで貰えますか? ……はっきり聞きます。どうして挨拶なんてしたんですか? それも名前まで変えて」
黄色の魔法少女は、私のことを責め立てるように言う。
……確かに、ちょっと不自然だったかもなぁとは思ったけど、別にそんなに深く突っ込まなくたっていいじゃん。ま、適当に答えて、さっさと私の実力を見せつけてやりますか。
「……名前を変えたから、披露したくなっただけだよ」
「…………そうですか。……なら、始めましょう。私の名前は、魔法少女ルーンナイトムーバー。闇夜に紛れて、悪を滅します」
黄色の魔法少女……あらためルーンナイトムーバーは、私の挨拶のテンションと同じようなノリで、そう話す。
そんなルーンの様子を見て、シャイニングとキューティが驚いたかのようにルーンの方を見ていたけど……。そんなに変かな? こういう名乗りの文化って。まあいいや。
「それじゃあ、始めようか」
私は、戦闘開始の合図として、『闇の炎』を繰り出し、ルーン目掛けてその炎の弾を投げ出す。
「wijsnxryap」
すると、何を言ったのか。全く聞き慣れない単語を発して、ルーンは魔法を放ち、私の『闇の炎』を打ち消す。
「やるねルーン」
「…………」
さて、次に繰り出す魔法は……と。
これとかどうかな。
「『ブラッドテンタクル』」
私は自分自身の手に黒のナイフを突き刺し、血液を垂れ流す。
流れ出た血液が、不規則に動き出し始め、形を変えて、成長していく。
……完成したのは、触手。ウネウネと動くその様子は、ちょっと気持ち悪さを感じつつも、自分が生み出したものだからか、何となく愛着も湧いているという奇妙な感覚に陥った。
……にしても、流石にこれを攻撃手段として使うのは、魔法少女達に申し訳ないなって感じがする。
だって、他人から見たら気持ち悪さしかない見た目だもん。これに触られたら嫌だろうなぁ。
うん、攻撃手段として用いるのは止めよう。
とはいえ、まだ触手化していない血液もあるわけだし、せっかくだからこのまま私の血を流用して……。
「『ブラッドフィッシュ』」
別の魔法での攻撃手段に変更っと。
これで様子見、かな。
「『ストロベリーアロー』」
「『リズライド』」
譜面の見た目をした道筋のようなものが、シャイニングから私に向けて、空中に描かれる。その譜面の上を、キューティの『ストロベリーアロー』が通ってきていて……。
「なるほど、指向性を持たせてるんだ」
矢が明後日の方向に行かないように、シャイニングの魔法で矢の軌道を担保してるんだね。
避けるのは無理。なんか、譜面は私にぴったりくっついてるっぽいし。なら、シャイニングの魔法の対処……ではなく、キューティの矢の方を対処しよう。
私は、さっき作ったばかりの、出来立てホヤホヤの『ブラッドフィッシュ』を、キューティの矢に仕向ける。
私に届く前に、キューティの矢に『ブラッドフィッシュ』が代わりに被弾したことで、私は無傷でやり過ごすことができた。
その間、ルーンが何か魔法を行使しそうな雰囲気になっていたので、『ブラッドテンタクル』で牽制しておく。
………うん。私、意外とやれてるな。
エンシェントには負けたけど、相性とかもあるだろうからね。
やっぱり私って強いんだ…!
「ふふふ………さて、お次は……」
『ブラッドテンタクル』で足止めする対象を、シャイニングとキューティに変更。
とりあえず、まずはルーンから狙う。
私は、手に持っていたナイフを、自傷のためではなく、他者への攻撃のために振るう。
ルーンは、私の刃物を、手に持っていた本で受け止め………。
「………もしかして、記憶がないんですか?」
「………へ…?」
「……私の本当の魔法少女名、知らないんですよね…?」
「何を言って……」
どういうこと?
魔法少女名を偽った? でも……どうして? そんなことする必要ある?
「……私は、ルーンナイトムーバー…なんて魔法少女名じゃないです。……やっぱり、記憶がないんですね」
「……何言ってるの? 私に記憶がないなんて、そんな言いがかり……」
「じゃあ否定してみてくださいよ。本当に記憶を失っていないなら、そういえばいいだけじゃないですか」
……ああ。回りくどいのは嫌いって感じなのかな。まあいいや。
本当は空白の記憶あるし、記憶自体は失ってるんだけど…。
記憶失いました〜っていうのは、ナンセンスなんだよね。だから…。
「私は記憶喪失じゃない。これで満足?」
「……はい。答えは出たので。……ライオネル!!」
瞬間、ルーン……あらため、名前のわからない黄色の魔法少女は、大きな声で別の魔法少女の名を叫ぶ。
「……解除ね! 了解!」
その言葉に、赤色の髪を持った魔法少女が反応して……。
「…………私の勝ちです」
私の眼前に、突如として、マスコットのような、可愛らしい妖精が現れる。
妖精の手には、手錠のようなものが握られていて……。
でも、そんなことよりも。
私にとって、1番、衝撃的だったのは……。
「……キュー……ト……?」
私の目の前に現れた妖精。
その妖精は、私の……。
「キュート、はやく手錠を……」
『わ、わかってるっきゅ! けど今、キューの名前を……』
……キュート。
私が物心ついた時から、ずっと私の側についていて、私が危ないことをしようとしていたら、注意して、すぐに家に連れ戻してくれていた……。
私の……家族。
そのキュートが、どうしてか。
私の目の前に、現れる、なんて……。
……久しぶりの再会、になるんだよね。
でも、手錠を持ってるってことは、私のことを捕まえる気だったのかな?
……申し訳ないけど、捕まる気は毛頭ない。
私は、キュートに手を伸ばし、手錠を……。
「っ!?」
『っ!!!!!?』
………奪い取ろうとしてキュートの体に触れた瞬間、私の体に電撃のようなものが走る。
同様に、キュートも同じような反応を見せていて……。
「キュート?」
『……あ……が……キューの……き……おくが……』
「いっ………たぁ……」
痛い………。けど、キュートは今ので手錠を落とした。なら……。
「『ブラックハンド』」
私は名前のわからない黄色い魔法少女を、『ブラックハンド』で拘束し、その場から逃走する。
ゲームにかまけてるキュヴァを呼んで、戦闘を再開する?
……いや、さっきの謎の電撃で、私の体は疲弊し切っている。ここは大人しく、帰還するのが吉、かな…。
一応、怪人の方を見てみる。
………3人の魔法少女に囲まれて、とても助け出せそうな状況にない。
………まあ、仕方ないか。
まさか、キュートがいるなんてね……。
もう1人の私も、このことは知ってるのかな?
だとすれば、よく今までやってこれたね。
「やりにくいなぁ……」
……身内に見られるのって恥ずかしい〜。
……でもまあ逆に、キュートに光堕ちのお手伝いをしてもらえる可能性だってあるわけで……。
「ま、なるようになるか」
なるべく私は、楽観的に考えることにした。
きっと何とかなる。大丈夫だって。そう自分に言い聞かせて。