【完結】アンチ^2テーゼ・リノヴェーション 作:家葉 テイク
ほどなくして、第三流通センターは俄かに騒然としていた。
というのも、警察車両が何台もやってきては中から会社の社長とそのお抱えの伝承者を連行し始めたのだ。一時は作業が全て停止するほどの騒ぎになった。ちなみに、俺と
「代償は顔の落書きだよ。クレンジングオイルある?」
「旅行用のが車の中にあるよ。大人の女性を何と心得るか」
「コメントに困る返しやめてくれない?」
お前を大人の女性と定義したら、俺のコミュニケーション方法が全部終わるんだよ! 馬鹿が!
──というわけで、俺達は現在、車を停めていたコインパーキングの中にいる。
「しかし、よくやったなぁ。『口裂け女』をどう応用するかと思ってたけど、解釈の方で頑張るんじゃなくて運用で頑張るとは思わなかったよ。やっぱり
「あの時間じゃ、構築はできても使い物にならねぇもん。
あの蜘蛛の
それを実現する為の人工タンパク質の器があって初めて
「またまた。あの短時間でよくあれだけのブラフを仕込んだよ。わたしだって騙されちゃうかもね」
「そうかい」
お前の場合、騙されても問題なく焼き尽くせるだろ。
…………そんでもって。
「そうだろうとは思ってたけど、最初から様子見てたんだな」
「えっ」
しれっと指摘してみると、
「そのリアクションをした時点で自白したも同然だが……」
「んもー、どこで分かったのさ?」
「乱入のタイミングがあまりにも良すぎたからな」
俺はそう言って、右頬の掃除を終わらせる。
引き続いて左頬を拭いながら、
「あの時、
「大正解! いやーバレちゃったか。実は過保護なの気付かれちゃうとか照れるね」
「まぁ信頼は積み重なったけども」
正直、戦ってる最中は『コイツほっぽりやがって……』とか思ってました。
ただ、何だかんだ言いつつこうやって『経験を積み重ねる』為にコイツなりに色々やっていることは伝わった。でなければいかに高い肉とはいえどそう簡単には買収されない。俺は安い男ではないのだ。
「……『考察と実践』、ね」
そこまで思い返して、俺は舌の上で転がす様に、流通センターでの
「ああ、それ。私のモットーでね。考察して実践することで人間は成長する! 今回の戦闘はその為にマッチメイクしていたのさ。ちょうどいいくらいだったでしょ」
「こんな受け売りっぽいモットーあるんだ」
「分かっちゃう?」
そして本当に受け売りなのかよ。誰からの受け売りかは分からないしそんなに興味もないが。
しかし、一理ある話とは思う。解釈によって機能の出力が大幅に変わる
「でもまぁ、実際大事な部分だよ。インスピレーションでパパっと色々やれちゃう人なんて、わたしを含めた一部の天才くらいのもんだからね」
「そこで一切の躊躇なく自分を例外側に入れられる人間からの教えって、途端に説得力が落ちないか?」
「誰が言ったかじゃない、何を言ったかなんだよ」
「うさんくせー…………」
というかだな。
「さっきも言ったけど、機体だよ、機体。機能の方はなんとなくイメージがついた感があるけど、機体のイメージが全くのすっからかんなんだよ。戦ってみて分かったけど、機体の有無ってかなり重要じゃないか?」
「んー、まぁねー」
ちょっと語気を強めて問いかけたのだが、対する
「確かに大事といえば大事なんだけど、機体で創意工夫っていうのもちょっと違うというかねぇ。そこで頑張ってもなぁ、みたいなところは正直あるんだよ」
そう言って、
「
「人工タンパク質は別に、好きなように形を決められるだけの新物質って訳じゃない。分かる?」
「……バネ仕掛けみたいな特殊な『機構』を内部に組み込めるってことか?」
「良いセンスだけど少し次元が低い。考えてもみなって。
…………なるほど。
「……つまり、
「正解! ナオライ所属の伝承師が使ってた
「あんまり想像したくはないな。厄介って意味でだが」
先手必勝でやっといてよかった。
地力で劣る俺が実力勝負になりそうな流れになってたら、絶対に順当に負けてただろうしな。
「で、つまりわたしが言いたいのはこういうこと。人工タンパク質を使えるってことは、主にタンパク質で構成されているあらゆる生物の機能を再現することができるんだよ。アザラシの脂肪とか、ゾウの牙とかもそうだし……あと、
そこまで言って、
ぱちんという軽い音を立てて、スーツが完全に元の形状に戻った。
確かに人工タンパク質のポテンシャルを深く理解できていないと、その自由度を形状の方向にばかり考えてしまいがちだ。
鋭い爪だとか、ドリルだとか、フックだとか、そういう『自由度』も、確かに存在はする。俺もそういうのをイメージしていた。だが、そんな形状的自由度よりも、実は遥かに『機能的自由度』の方が重要だ。
「わたしの
「…………そういうカラクリだったのか」
カラクリというかなんというか、原理を聞けば『見て分かる』話だったな。
「だから、本当に強い伝承師は程度の差こそあれわたしみたいに身に纏う形に
……なるほど、
一旦スーツという選択肢を選べない前提で、『伝承師に共通する弱点とは何か』を考えてみれば分かりやすいだろう。
どんなに強い
逆に言うと、その環境下では伝承師を守ったり、伝承師の移動能力を底上げするような能力が『強い』機能となるのは言うまでもない。
その前提で考えれば、確かに
ただし、それはあくまで『当たり前』の話。
そんな分かり切った結論にしかならない話は、確かに
「そういうわけだから、
「まぁ分かったよ。参考にはする。……ただ」
──ただ、『
まず隠密性が皆無というのが一つ。
加えて、纏っている分機能的な遊びが少ない。話を聞いているだけでも、制御や操作がめちゃくちゃ大変なことは見て取れるからな。その分、機体そのものの創意工夫ってものがしづらい。有体に言って、遠距離攻撃を機体で補えないのだ。
そして三つ目。スーツ型は、その設計思想上接近戦タイプであることが大半だと思うが、その場合、
……いや、これは別に自慢でもなんでもない。
「今の
「お~、挑戦的。最強はいつでもチャレンジを待ってるよ」
「え、今の宣戦布告にカウントされるの?」
そ、そんなつもりでは……。おいやめろ、目を輝かせるんじゃあない!