【完結】アンチ^2テーゼ・リノヴェーション   作:家葉 テイク

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Thesis.11 器とメタゲーム ②

「そもそもだよ! 『怪異』を封入しなくたって、人工タンパク質のスーツを作って着れば伝承師の弱点問題も解決して反駁伝承(ATリノヴェーション)の自由度も上がるんじゃないか!?」

 

 

 なんとも厄介な熱視線を送り始めた御巫(みかなぎ)を煙に巻くように、俺は一つの疑問を提示した。

 人工タンパク質による機体作成技術は反駁伝承(ATリノヴェーション)の根幹技術ではあるものの、別にその機体は反駁伝承(ATリノヴェーション)でなければ動かないという訳ではない。

 現に今俺達が当たり前の様に利用している端末ドローンなんかは、部品の大部分を人工タンパク質で構成している。同じように『怪異』を封入しない人工タンパク質製のスーツを別口で用意しておいて、本命の反駁伝承(ATリノヴェーション)はもっと自由に構築すればいいのではなかろうか。

 

 

「あー、それがそうもいかないんだよね。昔はそういうのもあったんだけど、『外付け』っていう対策が流行ってね」

 

「……『外付け』?」

 

 

 俺が復唱すると、御巫(みかなぎ)は軽く頷き、

 

 

「さっき友悟(ゆうご)はナオライの伝承師に勝った訳だけどさ、その時、相手の使っていた『怪異』は幾つだった?」

 

「え……一つだけど」

 

「じゃあもう一つ質問。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 ………………そういえば何でだろう。

 これは、俺の最初の発言にも通ずる疑問だ。

 俺はスーツ型が強すぎて機体の形式が固定されがちという現在の伝承師環境に対して『「怪異」を封入しないただのスーツ型機体を作ればいい』と言ったが、それは別に『スーツ型の反駁伝承(ATリノヴェーション)をもう一つ余分に作ればいい』という形でもよかったはずだ。

 何故、俺はわざわざ『「怪異」を封入しない』という前提を勝手に追加したのか。

 …………。

 ……何となくだが、既に「怪異」を持っているのに別の「怪異」に手を出すという状況に、忌避感を覚えていたから……?

 別にそういう理論があるという確信があるわけじゃないが、反駁伝承(ATリノヴェーション)という器を経由していたとしても、人間が扱う以上そこに繋がりは生まれるはずだ。その状況で新たな『怪異』を招いたら、人間のキャパシティを超えないか? という素朴な感覚が、無意識にあったんだ。

 

 

「……一つしか扱えなかったから。それ以上扱ったら、悪影響が発生する?」

 

「正解。友悟(ゆうご)は無意識に感じ取ってたみたいだけどね。やっぱりセンスあるよ」

 

 

 御巫(みかなぎ)は軽く笑って、

 

 

「一人の人間に扱える反駁伝承(ATリノヴェーション)は、一つまで。それ以上扱おうとすると、『怪異』の制御が乱れちゃうんだよね。最悪、『怪異』が暴走する。昔──一五年くらい前までは『怪異』を封入しない人工筋肉のボディスーツが流行ってたらしいんだけどさー」

 

「それで、『外付け』か」

 

「そ。人工筋肉のスーツは、『核骨(かっこつ)』さえ取り付ければ反駁伝承(ATリノヴェーション)にできるほど性能が高いんだよ。だから敵対者のスーツに接続可能状態の核骨を射出して取り付ける『外付け』って戦法が流行ったらしいのね」

 

 

 あー……。そういうことか。

 

 

「この『外付け』は、スーツに既に核骨(かっこつ)が取り付けられていたら意味がないんだけどね。だから現代ではスーツ型の反駁伝承(ATリノヴェーション)だけが生き残って、『怪異』なしのスーツ型機体は殆ど絶滅したってわけ」

 

 

 『防護服を着込んだくらいじゃ貫通しちゃうしね。核骨(かっこつ)との繋がり』と、御巫(みかなぎ)は軽く語る。

 そういう理屈なら、『怪異』を封入しない機体(スーツ)は使えないな。

 というか、もし暴走のリスクがなかったとしてもスーツ型の機体はおいそれと用いれないだろう。たとえば自爆するような調整をされた核骨(かっこつ)を『外付け』されたら、暴走以前に終わりだからだ。

 納得して腑に落ちた気分になっていると、ふと御巫(みかなぎ)が俺のことをじっと見つめていることに気付いた。深紅の瞳が、無感情に俺のことを射貫いてくる。

 

 

「…………何だ?」

 

「いや、疑問に思わないのかなーって」

 

 

 …………何が? どうして俺に対して親切にしてくれるのかってこととか? それはかなり疑問に思っている部分ではあるが……。

 

 

「ほら。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……とか」

 

「あっ!!!!」

 

 

 そうじゃん! さっきは疑いもしなかったけど、よくよく考えたら野良『怪異』とは話が違う可能性だって全然あったんだ。『伝承師が制御を握っているから制御を奪えませんでした』……ってオチになる可能性だって、低くはない。

 

 

「実を言うとね、友悟(ゆうご)の『神憑き』の力がどういうものか見定めたいっていうのもさっきのマッチメイクの目的の一つではあったんだ。流石にわたしを実験台にするのはリスクが高すぎるからねー」

 

「確かに……」

 

 

 制御を奪ってうっかり暴走させちゃったら、その時は自凝(おのごろ)県がまるまる焼野原になりかねないからな……。

 ……って、『神憑き』の力がどういうものか見定める? それってまるで、『神憑き』の力に色々と種類があるみたいだけども……。

 

 

「『神憑き』の()()にも、色々あるんだよ。制御精度の高い『神憑き』もいれば、友悟(ゆうご)みたいに制御()()の高い『神憑き』もいる。『神憑き』の素質がある人は珍しいから、『神憑き』全体に通じる法則性を知ってる人なんてまずいないと思うけどね」

 

「制御強度、か……」

 

 

 言われて、俺は握り拳に視線を落としてみる。

 衝撃を加えた『怪異』や反駁伝承(ATリノヴェーション)に命令を与える……それが俺の『神憑き』としての能力、なんだろうか?

 

 

「あ、一応言っておくと、今友悟(ゆうご)が自覚しているのは片鱗でしかないよ。そもそも体質を制御できてない時点で『神憑き』として未熟だし、覚醒した『神憑き』はもっと凄まじいからねー」

 

「そっすか……。……あ、そうなのか」

 

「敬語」

 

「言い直してもダメなのかよ」

 

 

 本当に判定厳しいな。

 

 

「でも、『神憑き』としての能力は伝承師としてやっていくなら絶対に武器になる。だから、今すぐじゃなくてもいいけど実験は怠らないように」

 

「おう、分かった」

 

「よし。じゃあぼちぼち向こうも落ち着いただろうし、枕飾(まくらかざり)サンに挨拶に行こっか。実はこのあと天浮橋(あまのうきはし)駅前で待ち合わせてるんだよね」

 

「依頼完了ってメールで済ませるもんじゃないんだ」

 

 

 御巫(みかなぎ)の適当さならメールでさくっと済ませてるものかと思ってた。

 意外そうに言った俺に、御巫(みかなぎ)はしれっとしながら、

 

 

「わたしも普段はそうしてるんだけどね。でも今回は、友悟(ゆうご)のことも紹介しときたいからさー」

 

「なるほどな。助かるよ。色んな意味で」

 

 

 これからバイトをし続ける限り、おそらく何度となくお世話になるだろうしな。ベストなのは、お世話にならないことなのだが……。

 『わたしってば気が利くでしょ?』みたいに威張れないことで胸を張るダメ女を横目に車に乗り込もうとした、その瞬間だった。まるで地震の直前の猫みたいに、御巫(みかなぎ)が姿勢を正す。俺はそのことに気付き、極大の悪寒に従って身構え──、

 

 

 ボバッッッッッ!!!!!!!! と。

 

 

 俺たちの頭上。地上から五メートル程度の距離で、突如爆裂が発生した。

 

 

「──ッ、な!?」

 

 学ランのポケットに手を突っ込み、咄嗟に核骨(かっこつ)を取り出そうとしたが──その動きは、寸前で御巫(みかなぎ)によって止められる。

 

 

「大丈夫、これはわたしの機能。『怨燃小町(バーンアウト)』の爆発反応装甲だから。それより、それはダメ。()()()()()に今の『口裂け女』じゃマイナスにしかならない」

 

 

 いつになく真剣な御巫(みかなぎ)の声色に、俺は素直に手の中の核骨(かっこつ)を手放した。

 爆発反応装甲……ということは、攻撃に反応して自動で爆発を発生させるのか。『炎』を光や電気にまで変換できるなら、爆発としても扱えるのは当然の帰結。自動発動の発想はなかったが……そりゃ最強を自称するならそれくらいはやるか。

 

 

「────聞きしに勝る堅牢さだな、……御巫七夕(さいきょう)

 

 

 宵闇に差し掛かった街並みの中で。

 一人の屈強な男が、コインパーキングの中に足を踏み入れていた。

 

 黒髪を刈り上げた骨太な印象の顔つき。全身を軍人か何かと錯覚するような灰色の都市迷彩風のつなぎを身に纏っている。

 ……見た感じ、近くに『反駁伝承(ATリノヴェーション)』はないな。御巫(みかなぎ)の反応から察するに、コイツも『スーツ型』か。御巫(みかなぎ)と違って一見すると普通の服装にも見えるが……服の中に着込んでるのかね。

 

 

「だが……、目つきが変わっているぞ。…………(オレ)の力量は流石に警戒に値するらしい」

 

 

 ニヤリ、と。

 男は嗜虐的な色の滲んだ笑みを、御巫(みかなぎ)に向ける。──御巫(みかなぎ)を痛めつけるというイメージを、コイツは脳裏に浮かべることができている。この掴みどころも底も知れない女が地に臥せているという天変地異を、明確に。

 その事実が何故か、妙に不愉快だった。

 だが。

 俺がそれに対して何か言う前に、一つの断絶があった。

 

 それは、女の一言だった。

 

 

「敬語」

 

 

 聞き慣れた一単語の指摘。

 ただそれだけで、その場がそいつによって支配された。──言葉の主だった御巫(みかなぎ)は、溜息すら吐きそうなほど億劫な調子で、さらに続ける。

 

 

「馴れ馴れしいな。わたし、上から目線な男とかダメなんだよね」

 

「随分と回る口だ。……だが、これを見ても同じことが言えるか?」

 

 

 ぴちょん、という音がする。

 次いで、夕陽に照らされた風景が不自然に()()

 

 ──視線を上に向けると、そこには小さめのビルほどの大きさの『水の塊』が聳え立ち、斜陽を遮っていた。

 

 

「…………勘弁してよ。その水ぶちまけたら、この車ダメになりそうなんだけど。幾らすると思ってんの?」

 

「車の心配なら後で良い。優先順位は……、お前を壊す方が先だ」

 

 

 直後、都市迷彩の男は横殴りに腕を振る。

 それは、液体という次元を超えていた。大量の水が、コインパーキングの塀や地面を抉りながら俺達を呑み込まんと迫って来る。

 ボバボバボボボボババババババッッ!!!! と、凄絶な爆発音が連続した。

 音そのものが暴力として機能するような地獄の中で、俺は両手で耳を塞ぎながらも辛うじて戦闘の様子を見ていた。

 大量の水が弾かれる中で、逆にくっきりと浮かぶ空間があった。

 ……『半径五メートル』。

 御巫(みかなぎ)の『半径五メートル』に、水は一滴も入り込んでこない。ちょうど『半径五メートル』の境界線で発生する爆裂によって、全て防がれているのだ。…………『爆発反応装甲』の射程距離は御巫から半径五メートルらしい。

 

 数十秒ほど、爆発音は連続していただろうか。

 潮が引くみたいに爆発音が消えた頃には、御巫(みかなぎ)の周辺はまるで戦場かと見紛うほどの惨状が広がっていた。

 コインパーキングの設備は爆発でめくれ上がり水に流され捻じ曲がっているし、周辺一帯は謎の白い物質で覆われている。辛うじて半径五メートル内にあった御巫(みかなぎ)の車は無事だが……。

 その惨状を一瞥して、御巫(みかなぎ)は不機嫌そうに眉を顰めながら言う。

 

 

「喜びなよ。この被害額はアンタの財布で補填するから」

 

「追い剥ぎの予告に……どう喜べと?」

 

「分かんない? ユーモアのセンスがないなぁ。会話のスキルもバトルの腕の一つだよ」

 

 

 御巫(みかなぎ)は呆れたように、嘲るように嗤い、指で鉄砲の形を作り、都市迷彩の男に向けた。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()。感謝してよね」

 

 

 ──その一言を皮切りに。

 本格的に、『戦闘』が始まった。

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