【完結】アンチ^2テーゼ・リノヴェーション   作:家葉 テイク

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Thesis.14 臨界稼働 ②

「臨界稼働────『弔いの炎は都を焦がす(ぬえどりの)』」

 

 

 詠唱にも似た言葉の連なりと同時に、御巫(みかなぎ)の背後に天使の翼のような光の文様が浮かび上がる。

 炎の意匠を感じさせる、十字架のような赤い光の紋様だ。まるで宗教画のように図像化された後光を背負った御巫(みかなぎ)の姿は、国宝の仏像か何かのように厳かに見える。

 

 そして。

 御巫(みかなぎ)の目の前に、火の玉が現れる。

 ──いや、火の玉じゃない。あれは、光の渦だ。細い光の束が高速で渦巻き、それがまるで球のような形を形成している。

 速い。光の奔流は中心に向けて加速していた。まるで、何かを溜め込むように────

 

 

「ところで、さ」

 

 

 光の渦を抱きながら、御巫(みかなぎ)はまるで世間話でもするように、俺に問いかけた。

 

 

友悟(ゆうご)は『荷電粒子砲』って聞いたことある?」

 

 

 荷電粒子砲。

 その原理は複雑怪奇だが、簡潔に説明するならば──荷電粒子(プラズマ)を電磁場によって加速させ、ビームとして目標へと投射する兵器。この怪異文明(スペクターパンク)においても未だ架空のままとされている、人類未踏の武力だ。

 それを、まさか──俺が口を開くよりも先に、御巫(みかなぎ)の答え合わせは始まった。

 

 音が消えた。

 光が消えた。

 

 直前に耳を塞いで目を伏せたとか、そんな小手先の行動は関係なかった。

 余波で自分が死んでいないことが信じられないほどの現象を前に、俺は成す術もなくひっくり返るしかない。

 人が放っていい一撃ではなかった。

 空母とか、人工衛星とか、そういう人類最大級の機械が枕詞になって、ようやく現実感を持つ一撃。それが目の前の女から放たれたというのに、不思議なことに俺の心にはある種の納得感すらあった。

 つまり、『まぁこの女なら、このくらいはやるか』──である。

 

 その一撃を受けて、巨大な白の手は消し飛ばされ──

 

 

「驕ったな……!! 御巫(みかなぎ)七夕(たなばた)……!! 最強を自認する者ならば、己を脅かす大出力に対しては()()()()()()真っ向から打ち破りたいと思うのは分かっていた……!! だが、一極集中させたといっても白の手はもともと群体……! 分解も瞬時に可能とは思わなかったのか……!?」

 

 

 御巫(みかなぎ)が放った荷電粒子砲は、直前になって分解拡散した『白の手』に回避されていた。うわ、アレまで含めて御巫の大技を誘う為のブラフだったってことか……!?

 いや……待てよ。

 御巫(みかなぎ)は言っていた。臨界稼働は、意図的に『怪異』の制御を暴走させて出力を上げる技術だと。その代償に、発動後最低一分はあらゆる機能が使えなくなると。

 ってことは──!!

 

 

「ふーん。でもそれって、真っ向勝負を諦めた──最強を目指すことを自分から捨てたってことにならない?」

 

 

 キュガッッッ!!!! という爆音と共に、再度荷電粒子砲が放たれた。

 咄嗟に目を伏せた俺は、それでももう一度地面に叩き伏せられる。そして今度は、男の足元に着弾し、男も水もまとめて爆裂させた。

 

 

「………………ッッ!!!! ごば、がばぶがぶげば!?」

 

 

 寸前のところで、水による防御はしていたらしい。

 男は一気に数十メートルも吹っ飛ばされてビルの壁面に叩きつけられたが、それでも一応五体は保っていた。とはいえ──空間全体に広がっていた『白の手』は、最早ない。

 おそらくは亜音速で壁に叩きつけられたことで、身体そのもののダメージもデカいだろう。全身の骨が折れているのは間違いない。完全に、戦闘不能の様相──敗北者の姿を晒していた。

 

 

「あ、言ってなかった? ()()()()()()。わたしは、リスクなしで臨界稼働を連発できるんだよ」

 

 

 …………御巫(みかなぎ)七夕(たなばた)は最強だ。

 超火力に、応用性に、自動防御。奥の手の荷電粒子砲まで備えている。まるで小学生が考えるような『最強』を取り揃えた女だ。

 だが。

 別に、彼女が持っている武器がそれだけとは、誰も言っていない。

 たとえば、『神憑き』の才能を持ってないとも、一言も言っていない。

 

 ……そういえば『神憑き』の才能を例示したとき、御巫(みかなぎ)はなんて言っていただろうか。

 

 

『「神憑き」の能力にも、色々あるんだよ。制御精度の高い「神憑き」もいれば、友悟(ゆうご)みたいに制御強度の高い「神憑き」もいる』

 

 

 あの時、御巫(みかなぎ)は目の前の実例である俺よりも先に『制御精度の高い例』を提示した。あの時は、些細な違和感すぎて意識していなかったが……考えてみれば、アレは御巫にとってそれくらい『制御精度の高い例』が身近に存在していたってことなんじゃないか?

 たとえばそう、自分自身がそうであるとか。

 

 そもそも、あれほどの応用性を、『小袖の手』本来の火力を維持したまま振るっていた時点で異常ではあったのだ。アレも、通常では江戸を焼き払ってしまうほどの火力を調()()()()()()()()()()()()自らの力のみで操れるからこそ実現できたものと考えれば納得がいく。……覚醒した『神憑き』は凄まじい。なるほど、確かにその通りだった。

 ……それほどの精度を持つなら、あえて暴走させた後の『怪異』を問題なく御しきることだって可能かもしれない。いずれにしても、信じられないほどの神業ではあるだろうけど。

 

 己の虎の子の一撃を蹴散らされ、打つ手を失った男は、信じられないものでも見るように────その目に怯えの色を宿して、うわごとのように呟く。

 

 

「…………ば、ば、化け物…………」

 

「悲しいね。人間、そうなっちゃもうおしまいだよ」

 

 

 それから発生したのは、単なる蹂躙。

 付け加えておくなら、男は原型をとどめることに成功した。

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

「…………どう思った?」

 

 

 それから程なくして。

 流石に戦闘被害が甚大すぎると判断した俺が、後処理を枕飾(まくらかざり)さんに依頼(早速面倒かけてすみません……)した後のこと。

 気絶した男──所持品によると鳴釜(なるかま)兼備(けんび)というらしい──を拘束していると、ふと御巫(みかなぎ)がそんなことを問いかけて来た。視線を向けてみると、いつも飄々としている御巫にしては珍しく、ちょっと落ち込んだような雰囲気が感じられた。

 

 

「どうって……何がだ?」

 

 

 思うことの心当たりが多すぎて、俺は返答に困ってしまった。どうというなら、早速枕飾(まくらかざり)さんとの連絡窓口を俺に押し付けやがってとか、鳴釜(なるかま)の拘束とか武装解除も俺がやらなくちゃダメだった? とか思うことは色々あるが……。

 

 

「いやさ……けっこう派手に暴れたからさ」

 

 

 言いづらそうに、御巫(みかなぎ)は言う。

 ……ああ、戦闘被害の賠償額のことか? 結局クレジット類が全部ダメになってたから、鳴釜(なるかま)からの強奪もできなかったしな。できたところでやるなよとは思うが。

 どんなもんになるんだろうなぁ……。何だかんだで羽振りがよさそうなコイツだし、流石に一文無しになるとかではないと思うが。

 

 

「被害額が出ないことにはなんともだな。鳴釜(コイツ)、雇われなんだろ? 雇い主を暴いてそいつに払わせるとかできないかね」

 

「いや、そうではなく」

 

 

 ……はぁ? じゃあ何だって言うんだよ……。具体的に気にしてることがあるならちゃんと聞きなさいよ。俺はエスパーじゃないから『どう思う?』だけ言われても何のことだかさっぱりだぞ。

 

 

「…………壁とか、感じなかったかなって」

 

「壁?」

 

 

 壁……ああ、言われてみれば。

 確かに、信じられない超火力とか超スピードとか自動防御とか臨界稼働とか、伝承師の戦いとしての最高峰を見せられた自覚はある。

 ずぶの素人に毛が生えた程度の今の俺では、とてもじゃないが、その技量のほどを正確に理解することすら難しい。その意味で、大きな差は感じたが。

 んー…………でもなぁ。

 これは、御巫(みかなぎ)を最初に見たときにも思ったことだが……。

 

 

「あのさ……ぶっちゃけていい?」

 

 

 正直けっこう不遜な話なので、俺はおずおずと御巫(みかなぎ)に問いかける。

 御巫(みかなぎ)は要領を得ない表情で頷いて、

 

 

「……なに? いいけど」

 

「正直な。確かに凄いとは思ったけど、壁ってほどではなかった気がする」

 

 

 確かに、凄まじかった。

 コイツがこの世界の頂点なんだろうと説得力を持って感じたし、今の俺では逆立ちしても勝てないだろう。さっきの戦闘でも、俺は終始足手まといだった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 御巫(みかなぎ)の戦闘で、理解が及ばない事象は一つもなかった。タネを説明されれば、全て納得のいくことだけだった。

 

 最高峰だが、理解不能なほど遠くはなかった。

 それが、俺の偽らざる感想だ。

 

 

「それより、色々面倒かけて悪かったな。俺、足手まといだったし。この借りはちゃんと働いて返します」

 

「……………………」

 

 

 ちょっと殊勝ぶって言うと、御巫(みかなぎ)はきょとんとした表情で沈黙した。

 まるで鳩が豆鉄砲を食ったような、初めて見る御巫(みかなぎ)の表情だった。

 

 ……あっ、しまった。うっかり敬語が出てしまった。

 

 

「……あははっ」

 

 

 鬼の訂正を覚悟した俺だったが、御巫(みかなぎ)は意外にも破顔して、背伸びしながら俺の頭を乱暴に撫でた。なんか良く分からんが、機嫌はすこぶるよくなったらしい。やはりチャレンジャーを求めているのだろうか、この最強は。

 ……ひょっとすると俺は、最強に対するチャレンジャー候補生として見初められているのかもしれない。いや、かなりありそうだぞ。俺、『神憑き』の才能持ってるし。

 

 

「やっぱりいいね。センスあるよ、友悟(ゆうご)

 

「……そりゃどうも」

 

「敬語。敬語敬語敬語」

 

「さっき言い逃した分を補填してないか?」

 

 

 ──そうして、俺が初めて関わった依頼は、無事に幕を下ろしたのだった。

 雇い主の最強っぷりを痛感しつつ、その最強をちょっとは追いかけてみるかと密かな決意を滲ませながら。

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 その決意は、一つの前提の上に成り立っている。

 

 つまりは、最強は不動であるという前提。

 

 ただし。

 そんな前提は、あっさりと揺らぐ。

 御巫(みかなぎ)七夕(たなばた)が最強であるという現状は単なる定説であり、決して絶対の定義などではないのだから。

 鳴釜(なるかま)兼備(けんび)の例が示しているように、もしも最強にまつわる定義があるとするならば、これしかない。

 

 

 ────最強は、やがて零落する。




御巫くん「うわ〜強すぎてドン引きされちゃったかな〜……」
日向くん「正直ワンチャン越えられそうだなって思いました」
御巫くん「敬語♡」
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