【完結】アンチ^2テーゼ・リノヴェーション   作:家葉 テイク

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Thesis.16 廃品回収

「ゴミ拾い……か」

 

 

 御巫の提案に、俺はちょっと気落ちしながら呟いた。

 これは教科書的な知識の範囲なので、俺も何を意味しているのか良く分かる。

 

 ──反駁伝承(ATリノヴェーション)は十分発達してきたが、それでもまだまだ超えなくてはならない『壁』が存在する。

 たとえば、『機能』の再現性。反駁伝承(ATリノヴェーション)の機能は、内臓されている『怪異』に依存する。それは裏を返せば、『怪異』がいなければ反駁伝承(ATリノヴェーション)は作り出せないということだ。

 何を当たり前のことをと思うかもしれないが──電力に雷獣を、火力に火車を組み込むような形でインフラを整備することはできても、国民一人ひとりに『怪異』が必要な反駁伝承(ATリノヴェーション)を行き渡らせるようなことはできないと言えば、それが何を意味するかは伝わるだろうか。

 要は、『怪異』の絶対数が足りていないから、『国民一人ひとりが持つような端末には反駁伝承(ATリノヴェーション)を導入できない。ゆえに反駁伝承(ATリノヴェーション)の普及率には「天井」が存在する』──というのが、現代の怪異文明(スペクターパンク)社会の課題として存在している。こういうのを業界用語で文明隘路(ボトルネック)と呼ぶらしい。

 

 さて、此処で一つ疑問に思うところがある。

 反駁伝承(ATリノヴェーション)のさらなる普及に『怪異』の数ばかりが取り沙汰されているが、『器』の方は問題ないのか? という問いだ。

 何せ、反駁伝承(ATリノヴェーション)の核骨は小型軽量化された次世代量子コンピュータである。ただでさえ人工タンパク質とかいう良く分からない材料から生み出されているのだし、普通に考えれば、製造コストはかなり高いような気がする。

 これについては、結論から言えば『超安価だし超簡単に製造できる』。

 そしてそのカラクリの根幹となるのが、今御巫が取り出した瓶の中身にある物質である。

 

 

「それ……『酵母』だよな?」

 

「正解。ダブルスリーナイン社製のじゃなくて自家製の『酵母』だけどねー」

 

 

 反駁伝承(ATリノヴェーション)の機体に使用する人工タンパク質は、バイオマス資材を特殊な『酵母』で発酵させることにより生成している。

 この『酵母』は最大手のダブルスリーナイン社をはじめ、歳旦重工とか幸若化成とか様々な企業から販売されているが、効能的な部分はどれもほぼ同じだ。

 バイオマス資材に『酵母』を振りかけると、一〇分ほどで発酵が始まり、数十分から一時間ほどで乳白色の人工タンパク質と不純物の泥に分離する。そこから不純物の泥を水で洗い流せば、機体の材料となる人工タンパク質が残る。あとはそれを整形して機体を作り出すというわけである。

 そして此処で言うバイオマス資材とは、広範な有機物──有体に言えば生ゴミである。これこそが反駁伝承(ATリノヴェーション)の『敷居の低さ』の正体。

 三〇年前の怪異文明(スペクターパンク)黎明期には『ご家庭の生ゴミが「怪異」を封入する魔除けの札に早変わり!』というお題目で『怪異』を核骨に封入させ、そうして生まれた『怪異』入りの核骨を回収再利用することで反駁伝承(ATリノヴェーション)の利用にブーストをかけたという一幕もあったりしたほどだ。

 ……ところで、『酵母』が自家製ってどういうことだろうか。そもそも『酵母』の自家培養って法律的にOKなんだったっけ? 確か販売には免許が要るけど、そもそも自家培養に関する法律ってまだなかったような気がするが……。

 

 

「昔手に入れる機会があってね。ひと口に『酵母』って言っても、色々あるんだよー? 歳旦重工製は放置するとポソポソしちゃうから小まめにかき混ぜないとダメとかね。ちなみにウチの酵母で作った人工タンパク質は市販品より強度がちょっと高いぞ!」

 

「おお、そういうのあるんだ。やっぱプロの世界だと違うんだな」

 

「まぁ誤差だけどね。良いのが直撃したらどうせ関係ないんだし、そんなの気にするくらいなら機能と機体のこと考えるべき」

 

「自分でかけた梯子を自分で外すなよ……」

 

 

 じゃあ別にダブルスリーナイン社とかのでいいじゃん……。

 まぁでも、使わせてもらえるなら有難いか。せっかくだし機体性能にどれくらい違いが出るかの検証とかもしてみたいしな。

 

 

「ゴミを集めて人工タンパク質を発酵生成するっていうのはいいけどさ。そのゴミはどうやって入手するんだ? 自凝県なんて、どこも清掃ドローンのお陰でゴミないだろ」

 

「それがそうでもないんだけど、まぁ今回は路上で健気にゴミ拾いはしないかな」

 

 

 御巫はそう言って、瓶を袖の中にしまい込む。

 

 

「ちょっとアテがあるからね。友悟の紹介がてら、そっちに行こうか」

 

「また挨拶しないといけない人か……?」

 

「友悟はわたしのことを何だと思ってるの?」

 

 

 それはもちろん、ダメ女だが……。

 

 

「むしろわたしはお得意様だよ。この間見せた『Quibble』の開発者ね」

 

「なおのこと挨拶しないとダメじゃないか?」

 

 

 『Quibble』の開発者って、めちゃくちゃお世話になってる人じゃん!

 そして伝承師志望の俺としては、核骨のプログラミングツールなんてものを作っている凄腕の技術者とは是非ともお知り合いになっておきたい。めちゃくちゃ渡りに船というヤツである。

 

 

「技術者の方はあの人からしたら副業みたいなもんでね。本業関連でゴミも色々出るから、それを使わせてもらおーって感じ」

 

「……副業? 核骨のプログラミングツールなんてものを作れるほどの技術力で……? それじゃあ本業って何だよ」

 

 

 御巫の言葉に、俺は首を傾げながら言う。

 そのレベルで副業って、もう本業は会社の社長とかそういうレベルにしかならないと思うんだが……。

 

 それに対し、御巫はけろっとした表情でこう返してきた。

 

 

「ん? 闇医者」

 

 

 …………。

 

 やみいしゃ。

 

 …………闇医者!?!?

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 衝撃の発言からほどなくして、俺は御巫に連れられて自動運転車に乗り込んでいた。

 窓の向こうには、またしても港湾都市が広がっている。──今日も今日とて、天浮橋市に向かっているのだ。

 

 

「なあ、闇医者って天浮橋市にいるのか? やっぱ人と物がゴチャってると治安悪いからアングラな人が集まりやすいのかね」

 

「うん? 違う違う。天浮橋市は『入口』だよ。まぁ人と物がゴチャってるから()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って意味では合ってるけどね」

 

 

 …………入口? まるでどこか自凝県じゃない場所に行くみたいな言い回しだが……。まさかワープゾーンか何かでもあるんじゃないだろうな。

 

 

「というか、友悟は疑問に思わなかった? 『怪異』が()()されているって話を聞いた時にさ」

 

「……………………へ?」

 

「ほら。『怪異』が誘導されてるって言ってもさ、それってどこに誘導すればいいの? とかね」

 

「あっ!」

 

 

 そう言われて、俺は思わず声を上げてしまった。

 そうだ……社会が成立する前提条件なせいで、全く気にしていなかったが、確かに『怪異』って、どこに誘導したって角が立たないか?

 自凝県は、全体が『怪異』が管理された安全な場所っていう触れ込みになっている。つまり、自凝県の中には『誘導しても問題ない場所』っていうのが存在しない。『怪異収容所』みたいな場所だって存在しないしな。

 でも、どこかには誘導している。……一体どこに?

 

 

「『怪異』は、人類特有の外的認知不協和。誘導するにしたって人の存在しない場所には誘導できないんだよね。磁場の中に金属を置いた時みたいに、自然に磁力に従って引き寄せられてしまう。じゃあどうするか!」

 

 

 …………まさか。

 

 

「……用意したっていうのか。()()()()()()()()()()()()()()()

 

「大正解!!」

 

 

 御巫は愉快そうに笑みを浮かべた。

 そんな……そんなことが、あり得るのか。

 

 

「元は安全対策だったらしいよ。自凝島は海底火山の噴火で生まれたばかりの島だからね。また噴火活動があったら溜まったものじゃない。だから、反駁伝承(ATリノヴェーション)を使って『第二の大地』を作成したの。それが、今私達が住んでいる()()()()()()

 

 

 御巫はすっと下を指差して、

 

 

「でも、行政は『公式な自凝島』の管理だけで手いっぱいだった。その下にある『本来の自凝島』は手つかずで──それゆえに、アングラな連中が勝手に住み着いた」

 

 

 ……確かに、不思議ではあったんだ。

 いくら天浮橋が人と物の流れで溢れ返っていて監視の目が届かないからといって、あんなにも堂々とアングラの伝承師が跋扈しているのは何故かって。

 筒粥にしろ鳴釜にしろ、企業由来の組織力をバックにした大戦力だ。それなりに大きな拠点はあるだろうし、御巫と連携しているような警察組織がそれを検挙できていないことに何かしらの事情はあると思っていたが……。

 

 

「人呼んで、『黄泉』。そこは自凝県の治安維持組織が介入できない治外法権になってるんだよね」

 

 

 ヤツらは『黄泉』をホームにしていたのだ。

 だから、アングラな伝承師たちがこんなにも跋扈できているのだろう。

 

 

「『黄泉』は凄いよー。怪しげな研究所とか変な人とかいっぱいだからね。友悟も反駁伝承(ATリノヴェーション)が出来上がらないうちはわたしの半径五メートル内から出ちゃダメだよ。最悪攫われて人質にされちゃうから」

 

「……うっす」

 

「敬語」

 

「これは無理だろ!?」

 

 

 そんな危険なところにこれから向かうってなったら、それはもう『うっす』しか出て来ないだろ! 『爆発反応装甲』の凄さを身に染みて分かっているからそんなに怖くはないけども!

 

 

「で、これから会いに行くのは、そんな『黄泉』の中でも一番デキる凄腕の闇医者なのね」

 

「御巫の人脈ってなんか凄いよな」

 

「まぁまぁ、それほどでもあるかな……」

 

 てへへ、と照れている御巫に内心で『コイツ謙遜という言葉を知らないよな……』と思いつつ、俺はさらに話を続ける。

 

 

「んで、その人の名前は? 挨拶するのに名前も知らないんじゃどうしようもないだろ」

 

「ん、そうだね」

 

 

 御巫はのほほんと頷いて、こう言った。

 

 

御厨(みくりや)英姫(えいき)。色々面白い人だけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

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