【完結】アンチ^2テーゼ・リノヴェーション   作:家葉 テイク

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Thesis.17 『黄泉』

 自凝島は、二〇年前に発生した海底火山の大規模噴火によって発生した火山島だ。

 その面積は五・七万平方キロメートル。これは、四国本土のおよそ三倍ほどの広さである。その島としての特徴は、やはり沿岸部から天御柱市中心部にかけて緩やかに盛り上がった地形にあるだろう。本土から自凝県へ向かうフェリーから見た自凝島は、一個の巨大な山のような島とそこから乱立する高層ビルの未来的な光景が印象的だった。

 ──そういう構造をしていたから、気付かなかった。

 

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「……流石に常識がぶっ飛ぶよ。今なら地球空洞説も信じられそうだ」

 

「自凝島の場合は中に空間があるんじゃなくて、本来の土地の上に人工の土地を被せてる訳だけどね」

 

 

 天浮橋の港湾都市を進むこと十数分。

 適当なことを言い合いながら自動運転の進むに任せていると、車はやがて人気の少ない路地に到着した。車では通れないくらいの狭い路地の先には立ち入り禁止の看板が立てられ、その先に地下道への入口があった。

 

 

「……あそこが?」

 

「そ。通称『黄泉平坂(よもつひらさか)』ね」

 

「『黄泉』と言い嫌なネーミングだな。向こうでメシ食ったら黄泉竈食(よもつへぐい)とかやめてくれよ」

 

「大丈夫。ご飯は美味しいから」

 

「味の心配はしてねぇよ」

 

 

 駐車場を予約(自動運転なので、勝手に駐車場まで行って駐車してくれるのだ。それに対応した予約サービスを備えた駐車場もある)した御巫を横目に、俺はさっさと車から降りる。

 御巫も続いて車から降りて、俺達は『黄泉平坂』へと足を進めた。──『黄泉平坂』の足場は地下へのスロープとなっている。広さは大体幅五メートル、高さ三メートルといったところか。中の空気は地下だからかひんやりしており、天井に吊るされた明かりがチカチカと明滅しながら内部の空間を照らしていた。

 

 

「この先一〇〇メートルくらい進むと上り坂になって、外に出たらそこが『黄泉』ね。改めて言うけど、着いたらわたしから離れないように」

 

「最悪攫われる、だろ? 言われなくても気を付けるよ。何なら手でも繋いでおくか?」

 

「アハハ。子どものお遣いじゃあるまいし」

 

 

 冗談めかして言ったところ、当たり前の様に笑われて俺はちょっと閉口した。

 子どものお遣いて。俺はガキか。

 

 

「……っつーか、逆に大丈夫なのか? 『爆発反応装甲』があるから攻撃は防御できるって話だろうけど、普通に通行人が五メートル圏に接近した時点で暴発するんじゃ?」

 

「『黄泉』にいるのにわたしの五メートル内に入ろうとする馬鹿は焼けても文句言えないよ」

 

「さいですか……」

 

「敬語」

 

「今のは御巫が悪いと思う」

 

 

 確かに『最強』で通してる有名人に迂闊に近づくのは普通にバカなのかもしれないけどさ。いくら何でも慈悲がなさすぎない?

 

 

「まぁ、ただの通行人とかならスルーしてくれるよ。そのくらいは融通利くし」

 

「え、そうなんだ」

 

 

 確かに、俺には反応してないもんな。そういう調整もできるんだ。

 

 

「色々判断基準はあるけど、速度とか方向とか距離とか怪異の反応とか、そういうのから総合的に危険度を判断して自動発動するの。だから街中じゃまず爆発しないよ」

 

「おおよかった。街中で通行人が突然爆発したら流石にヤバイもんな。雇い主がお尋ね者になったら俺も困る」

 

「そもそもそんな融通の利かない防衛機能なんか作らないよ。わたし、最強ぞ?」

 

「凡俗を省みなさそうな最強なんだよ、御巫は」

 

「ウーン雇い主の評価が低い~……」

 

 

 一分前の自分の発言を思い返してみてください。

 

 

「で、『黄泉』での移動方法はどうするんだ? 闇医者の御厨さんの拠点は歩きで行ける距離?」

 

「流石に車じゃないと遠いね。あの人の住処は大体天御柱市の真下だし。でも大丈夫。わたし、こっちにも車を置いてるから」

 

「車二台持ちか? 御巫って地味に相当セレブだよな……」

 

「? 二台じゃないよ。五台だよ」

 

「そういえばこの人ビルまるまる一棟所有してるんだった」

 

 

 ただでさえ高い自動運転車を五台も持ってるのは馬鹿の金持ちだろ。もはや、なんで賠償とか車とか気にしながら戦ってたんだよってレベルである。

 いやまぁ、多分全部自動運転車なんだろうし、好きなところに車を出して移動するには複数台持ってるのが便利だとは思うが……そんなにあったら駐車場台だけでも馬鹿にならなくない? そんな疑問は小市民すぎるか。

 

 

「ゆくゆくは、友悟にも自動運転車の操作免許とってほしいんだよね。運転免許と違って一六でも取れるしさー」

 

「でも自動運転中の事故って操作者の責任になるんだろ? 全く制御してないものの責任を取るって怖くない?」

 

「自動運転の精度をナメちゃダメだよ。機械が操作してるんだから自責になることなんてまずありえないからね」

 

「そんなもんかねー……。ほら、貧乏暮らしだったからさ、どうも自動化機器に慣れてなくて……って」

 

 

 適当に世間話をしていると、やがて長かった地下道が終わり、本格的に『黄泉』に出る。

 正直、俺は地下ということもあって、超巨大な倉庫のような空間をイメージしていたのだが──そこは意外にも、『曇天の街』としか表現できない空間になっていた。

 コンクリートのビルが立ち並ぶ街並みに、荒れたタイルの歩道、何とか均した真っ黒いアスファルトの車道──『県外』にある寂れた地方都市のような空間が、そこに広がっている。

 天井の類のものは見えない。その代わりに、空の上には雲のようなもやが隙間なく広がって、『黄泉』の街並みを見下ろしていた。

 

 

「アレも反駁伝承(ATリノヴェーション)だよ」

 

 

 空を見上げて、御巫は言う。

 

 

「地上から光ファイバーを通して採光した光を、雲を通して乱反射・増幅させて『黄泉』に届けてるんだ。だからここの明るさは地上とリンクしてるのさ」

 

「雲の反駁伝承(ATリノヴェーション)……それも島全域を覆うほどか。凄まじいな」

 

「『イザナミ』って言ってね。この『黄泉』を支配してる人だよ。そのうち紹介してあげる」

 

「マジで御巫の人脈なんなの?」

 

 

 いやまぁ、伝承師の中でも『最強』ってポジションならそりゃ色んな実力者と顔なじみでも不思議じゃないんだけど、そんな軽いノリで紹介される俺ってどういうポジションの人なの? ってならない?

 

 

「恐縮しちゃう? なら早いとこそれに見合う男になってよねー」

 

「煽りが上手なこって」

 

 

 おうおう分かったよ、なってやろうじゃねーか。そのうちな!

 

 

「ん、来たみたいだね」

 

 

 と、そこで車道の向こう側から車が向かってきた。運転席に人はいない。どうやらアレが、御巫の自動運転車らしい。色はパールホワイト。普通のファミリーカーみたいな出で立ちだ。やっぱりあんまり目立つ車種は控えてるのかな。

 路肩に勝手に止まってくれた自動運転車の助手席に乗り込み、シートベルトをセット。そそくさと準備を整えている俺を横目に運転席のドアを閉めた御巫は、こちらのことをちらりと見て言う。

 

 

「それじゃ、出発するよ。ちなみに『黄泉』にはろくな観光名所がないから、ガッカリしないでね」

 

「……俺、地上でそんなキラキラした目で外見てた?」

 

「正直言うと、けっこう」

 

 

 それはできれば言わないでほしかったかも。

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 自動運転車に乗せられること十数分。車は、とある工場の前で停車した。御巫に促された俺は、そのまま車から降りる。

 ちなみに、見るものがないとのことだった『黄泉』だが、実際にはけっこうおもしろかった。確かに目を瞠るような光景はどこにもないが、何せ前提からして『都市の下にあるもう一つの都市』である。目新しいものが何もない普通の『県外』にありそうな街並みというだけで、却って異常だ。全体的に大変新鮮でした。

 

 

「おつかれさま。じゃあついておいでね」

 

 

 軽く伸びをしてから先導する御巫に続いて、俺は工場の門を潜っていく。……確か闇医者って話だったが、その割には住居が診療所でもなんでもない工場っていうのは奇妙だよな。人間のパーツを工場みたいに生産でもしているのだろうか。

 そんな感じで門を潜り、工場の敷地を歩いていると────ふと、工場の景色の中に一人の少女の姿を見た。

 背の低い、黒いゴスロリ服を着た金髪の少女だ。年齢も多分低い。確実に、俺よりも二、三歳は離れている……いや、あれは小学生くらいか?

 

 

「英姫!」

 

 

 少女を見つけた御巫が、親し気に呼びかける。……英姫……って、御厨さんの下の名前だよな。とすると、あの小さい子が御厨さん? え、マジ?

 困惑している俺をよそに、少女──というか御厨さんは御巫の方へ振り返って、ぱあっと表情を明るくさせる。そしてトテトテと可憐に走り寄り、人形のように可愛らしい笑みを浮かべて、こう言った。

 

 

「きゃ~! いらっしゃい七夕! なになに、アンタ、若い男の子なんて連れちゃって! 彼氏? 彼氏なの? 紹介しなさいよおばさんに!!」

 

 

 ──幼い少女が、まるでおばさんのような口調で。

 ──『最強』の少女を、まるで近所の子どものように扱う。

 

 

 想定外の『ギャップ』というのは、複数集まると一度に対処(リアクション)できないということを、俺はその時学んだ。




 サブヒロインはゴスロリ幼女おばさんです。
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