【完結】アンチ^2テーゼ・リノヴェーション 作:家葉 テイク
「改めて自己紹介するわね」
工場の中。
応接室のような部屋に案内された俺達の前にいるのは、小学校高学年かギリギリ中学生くらいの
金髪碧眼。ふわっとした金髪をそのまま下ろし、フリルのついた黒いカチューシャをつけている。服装はまさしくゴシックロリータ。黒と白とふりふりで構成された、『西洋人形のコスプレ』といった感じの風貌だった。
──わざわざ『見た目をした』と表現したのは、本質がどう考えても少女のそれではなかったから。なんというか、物腰が『近所のおばちゃん』みたいなのである。人生で近所のおばちゃんがいたことは一度もないが、そんな俺でも感じ取れるくらい高濃度のイマジナリー近所のおばちゃん粒子を宿している。
「あたしは御厨英姫。『
「日向友悟っす。昨日からこの人の助手やらせてもらってます」
「この人? やらせてもらって?」
「今のも敬語カウントなのかよ。こえー」
『コイツの助手やってます』って言えばよかったのか? それは逆にタメ口とかじゃなくて扱いが乱暴なだけじゃね?
その様子を見て、御厨さんは嬉しそうに笑いながら俺の肩を叩く。
「なはは、気に入られてるねえ~!」
「まぁ、よくしてくれてはいますけど……」
ちょっと恐縮しつつ、ひとまず俺はその評価を受け止める。
実際、伝承師として勉強する上では相当重要なことを無償で教えてもらってるとは思う。いや、契約として家事全般を引き受けてるし、無償ではないのか?
…………というか。
「開業医、なんすね」
そう言いながら、俺は御巫を横目で見る。話が違うじゃん。闇医者って話じゃなかったのか? 俺はてっきりフランクな感じでやることやってる闇医者さんってことで、けらけら笑いながらかなり残酷なタイプなのかと思ってたよ。
いや、『黄泉』にいる時点でそこそこアングラ何だろうとは思うけど、それにしたって開業医ってけっこうあったかい響きだぞ。
俺の視線を受けて御巫は笑いながら、
「あー大丈夫だよ、英姫。友悟は口カタいから。闇医者だってバラしても平気平気」
「本当に開業医なんだよ! 開業医ったら開業医!!」
「医師免許も持ってないのに? 英姫が持ってるの伝承師資格だけじゃん」
「いいかい若造。開業医ってのはね、社会の荒波に負けずデンと己の城を構えて患者を癒す気持ちが大事なのさ。逆説、それさえあれば免許の有無は些事!!!!」
「んなわけねーだろ」
思わずツッコミを入れてしまった。
開業医がそんな精神的な勢いで定義できるものなわけない……というか、そんな風に居直ってる闇医者初めて見たよ。闇医者自体初めて見たが。
「良いツッコミ~! こりゃ七夕が気に入る訳だわ」
「まぁこんなこと言ってるけど腕は確かでね。英姫は脳さえ残ってれば
「大袈裟だよ。脳が残ってても死後数時間も経ってりゃ流石にお手上げだって」
おだてるような調子の御巫に、御厨さんはそう言って払うように手を振った。
過大評価を訂正するような物言いだが、それは逆に言えば
「そういえば、『ナース』は? 出迎えがなかったけど」
「『ナース』?」
御巫の言葉に、俺は思わず問い返してしまった。そんな普通の病院みたいな存在が此処にいるのか? 闇医者なのに?
俺の問いに対し答えたのは、御巫ではなく御厨さんだった。
「ウチの従業員のことね。治療費が出せない患者は、一定期間ウチで働いて治療費を返済してもらうことにしてるのさ。で、今『ナース』達は出払っちゃっててねぇ。此処はあたし一人だけ」
「不用心じゃない? 英姫の腕を欲しがる人なんて幾らでもいるんだから」
「おいおい、ナメてもらっちゃ困るわ。あたしだってこれでも一級伝承師なんだけどね?」
「それでも。っていうか『常世』に来なって。わたしの家、部屋空いてるしさ」
まるで母親に小言を言う娘のような調子の御巫に、俺はなんだか意外なものを見た気がした。
なんというか、御巫って孤高な印象があったからな。こういう風にプライベートな親しみを向ける人が身近にいるとは思わなかった。……どういう関係なんだろうか。
「はいはい、そのうちね。『規格外』サマに言われちゃ、一級の名も形無しだよ」
御巫に念を押されて、御厨さんは肩を竦めた。
……『規格外』ってなんだ? また知らん用語が出て来た。話の流れからして、御巫のことを表すことっぽいが。
「それ非公式の呼び方だからね?」
「あー、彼氏くんキョトンとさせちゃってごめんね。『規格外』ってのは非公式に言われてる伝承師の格付けみたいなもんでね、一級じゃ相手にならないくらいの化け物は『規格外』って呼ばれるのよ」
「へーなるほど……。……あっ彼氏じゃないです。助手っす」
一応そこは注釈しておいたが、御厨さんはあんまり取り合ってくれなかった。そういう方面で茶化されると本当に困っちゃうんだけどな……。
「ちなみに、昨日あんたらが戦った鳴釜兼備も『規格外』だよ。……昔は『最強』とまで言われてたんだけどね。まさかこんなにあっさりと敗北を喫するとは。時代だねぇ……」
「まじすか」
同じ『規格外』というには、あまりにも格の差があったような気がするけど……。
「そりゃあ、七夕は別格だよ、別格。この子はモノが違うからねぇ。現在いる一二人の『規格外』の中でもブッチギリの『最強』が、御巫七夕なんだから」
「やめてよ、むず痒い」
自慢するように言う御厨さんに、御巫は居心地悪そうに言った。照れているというよりも、ちょっと嫌そうな顏だ。まぁ御巫からしたら御厨さんは身内だろうしな。こういう風に持ち上げられると気持ち悪いだろう。
「ああそうだ。鳴釜と言えば、ニイナメロジスティクスが自凝県の事業から撤退を検討してるってニュース知ってる?」
「そうなの?」
と、世間話みたいなノリで、御厨さんが話題を提示してくる。
御巫は当たり前の様に呑み込んでいるが……俺としては、無視できない情報の流れがあった。
「……ちょっと待ってください。話題の接続がおかしくないっすか? なんで『鳴釜と言えば』でニイナメロジスティクスが出て来るんすか?」
ニイナメロジスティクスといえば、
「それがね、ニイナメロジスティクスは元々中核に居座っていた伝承師がいたんだけど、どうも最近そいつが誰かに潰されて、その後釜に鳴釜がスライドしたって話らしいのよ。で、伝承者戦力を失ったニイナメロジスティクスは一旦撤退して体勢を立て直すらしいわ」
井戸端会議で話す噂話みたいに、御厨さんが答える。
それ自体は、俺には与り知れない社会の事情が絡んだ出来事の流れのように聞こえるが……鳴釜が御巫を襲ったということを考えると、とある推論が生まれて来る。
「それって……鳴釜が御巫を狙う為に最適なポジションを求めてニイナメロジスティクスの伝承師を潰して後釜に滑り込んだって話なんじゃないっすか?」
御巫が調査していた未認可
ニイナメロジスティクスが……ではなく、『何者かが調査を妨害したい都合でニイナメロジスティクスすら利用した』のではないか? と思える流れだ。
「友悟くんは何者かが調査の妨害の為にニイナメロジスティクスに自分の手の者を捻じ込んだって思ってるのかい?」
「はい。それが一番筋が通ってるかなって」
「でも別に、ナオライが自前の不正を突き止められて七夕に潰されたところで、その『何者か』は困らないわよね? だって、全部ナオライの責任なんだから」
「む…………」
言われてみれば。
ナオライの不正は、徹頭徹尾ナオライの問題が起点で発生していた。誰かに唆されたとか、そういうことはなかったはずだ。アレは全てにおいて、連中の自由意志によって行われていた。
それに、調査の妨害をしたいなら全部ことが終わった後ではなく、ナオライの伝承師が潰される前の時点で妨害にかからないとおかしい。あの襲撃は、全部終わった帰りに発生していた。調査の妨害と考えると筋が通らない。
でも……だとすると、一体どうして『何者か』はニイナメロジスティクスに伝承者を捻じ込んだりしたんだ?
「わたしでしょ」
その疑惑に先回りするように、 御巫はつまらなさそうに答えた。
「