【完結】アンチ^2テーゼ・リノヴェーション   作:家葉 テイク

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Thesis.19 逆詮索

「よくある話……っていうか、最近ちょくちょくあってね。第三物流センターの調査を引き受けたのも、半分くらいわたしを餌にして敵の動きを炙り出せないかなって思った部分はあるんだよ」

 

 

 補足するように、御巫はそう続けた。

 ……そういえば、昨日御巫はわざわざ第三物流センターに乗り込んでいたが、そもそも不正を行っている企業がナオライだと突き止めた時点で御巫の仕事は終了している。第三物流センターに乗り込んで物証を確保するのは、情報を受け取った警察の仕事だろう。

 なのになぜ、御巫はわざわざ手間をかけて第三物流センターに乗り込んだ? いや……そもそも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「……もしかして、鳴釜の襲撃って狙い通りだったのか?」

 

「正解。まさかあんなのが釣れるとは思わなかったけどね」

 

 

 御巫はちょっと気まずそうに言って、

 

 

「わたしが物流系の調査依頼を受けて動いているのを察知して、同じ物流系に属するニイナメロジスティクスの伝承師を潰して鳴釜を捻じ込んだ。多分そういう流れなんでしょ」

 

 

 ……企業にとって所属する伝承師の存在が死活問題だというのは、ナオライを見ていれば分かる。現にニイナメロジスティクスは、伝承師がいなくなった時点で自凝県からの撤退を検討してしまっているほどである。

 それほど重要な要素を、ただの襲撃の為に使い潰すことができるほどの存在。……それが、御巫が相対している敵だっていうのか……?

 

 

「心配しないでってば。わたし、これでも最強だよ?」

 

「御巫が最強であることと、敵に回してる連中のデカさは別の話だろ」

 

 

 気軽に笑う御巫に、俺はそう言わずにはいられなかった。

 たとえ御巫が最強でも、生きる為にはお金が必要だし、社会の中に属さなくちゃいけない。だからこそ、御巫は探偵事務所を構えて普通に生活しているんだ。

 あらゆる他者を恫喝して献上品で生活するような古代の祟り神みたいな生き方をするんだったらそういう心配もいらないだろうけど、御巫はそんな生き方はしていないのだから。

 なんだかんだ言ったって、御巫は一人の人間なのだ。実際に負けようがないとかそういう問題を抜きにして、そんな巨大なものに独りで立ち向かってただで済むわけがない。ダメージの問題というより、『なんとかできてしまった』という──社会を独りで歪めてしまった経験が齎す歪みという意味で、だ。それを黙って見過ごすってことは、もう御巫が化け物になっていくのをみすみす見過ごすのと同義だろ。

 

 

「…………………………まぁ、そうだね」

 

 

 俺の正論に、御巫は渋々だが納得したようだった。

 コイツは、どうも自分の最強性を過信する節があると思う。確かに御巫は最強だが、だからといって御巫の自認が人間を超えていい訳じゃないんだからな。いやだぞ、俺は。雇い主が自認:化け物になるの。

 

 

「それはいいんだよ。……今日は友悟の機体づくりの為の材料集めに来たんだから」

 

「そうだ。それも気になってたんだよ」

 

 

 御巫が切り替えた話題に、俺も同調する。

 

 

「人工タンパク質の素材の為のゴミ集めって話だったろ? アレは有機物を発酵しないといけないけど、それが闇医者のところからってなると……」

 

 

 言いながら、 俺は御厨さんの方を見る。

 まさかとは思うけど、人体を素材にするとかそういうことは……、

 

 

「ちょっとちょっと! なんかスゴイ失礼な思い違いをされてる気がするんだけどぉ!」

 

 

 ……なかったらしい。すいません。でも肩書が悪いと思います。

 

 

「だから闇医者って紹介は嫌だったのよ! せめて非合法開業医と言ってくれない!?」

 

「どうあっても開業医にしてほしいんすね」

 

 

 非合法を許容してる時点で全部おしまいだと思うが……。

 まぁ、ここで俺が認めようが認めまいが法律が変わる訳ではないので、拘泥するつもりもないけど……それでいいんだろうか。

 

 

「人工タンパク質は機体以外にも利用できるからね」

 

 

 わちゃわちゃしだした会話の流れを整理するように、御巫はそう付け加える。

 

 

「英姫は患者の治療に、人工タンパク質を使った部品を使ってるんだよ。それも、『外付け』で勝手に反駁伝承(ATリノヴェーション)化されないような特殊処理をした上でね。これ出来る人ってあんまりいないんだー」

 

「……なるほど。人工タンパク質を治療に使っているってことは、素材も十分にあるってことか」

 

 

 確かに言われてみれば、タンパク質製の部品で、肉だけでなく骨や目や髪みたいな部品も都度製造できるんだから、一番スマートな利用方法は『移植』だよな。『外付け』すら対策済みなら、なおのこと利用価値は高まるだろう。この話なら、『脳さえ無事なら蘇生はできる』っていうのも頷ける。全身人工タンパク質の義体にすれば、そりゃあ生還は可能だろうし。

 ……まぁ、これまでのバックドアの話とかから言っても、全身全てを他人に製造された人生って、製造主の意思一つでどうにかなってしまう危険を孕んでもいるわけだが。

 

 

「だから、『ゴミ拾い』じゃなくて『ゴミ集め』だったわけだな」

 

「その通り。此処には人工タンパク質の材料がいっぱいあるから、それを分けてもらおうと思って」

 

 

 ようやく、今回のお遣いの全貌が分かって来た。そういう意味なら此処はお誂え向きの場だろう。

 ただ……大丈夫なのか? 確かに御厨さんは身内っぽいけど、何のアポも取らずにじゃあ……。

 

 

「仕方ないねぇ。その代わり、材料の整理は手伝ってね。友悟くんはそこで座って待ってていいから」

 

「えー。友悟も一緒でよくない? 材料説明とかしたいしさ」

 

「見せたくないモンもあんの。開業医ナメんな」

 

「はーい」

 

「……うっす、お構いなく」

 

 

 俺も、闇医者の拠点の中をうろつきたくはないので控えめに挨拶しておいた。

 しかし、あっさりOK出すんだな。一応部外者の俺の目を触れさせたくないって程度には警戒心もあるみたいなのに……。

 ……あぁいや、俺一人置いていく時点で警戒心はないのか? 訳分からなくなってきた。俺は一体どういう立ち位置の人なんだ。助手生活二日目なのに信頼されすぎじゃないか? どうこうしようなんてこれっぽっちも思ってはいないから、実際、正しい判断はされてるのだが……。

 

 

「それじゃ、行って来るねー」

 

「待たせて悪いね。暇つぶしの漫画でも置いてあればよかったんだけど」

 

「あ、全然全然」

 

 

 去り際に手を振る御厨さんにお辞儀し、応接室の扉が閉まったのを見届けて、俺は改めて応接室のソファに腰かけた。

 

 ……御厨さんは、御巫の何なのだろうか。

 俺と同じように『神憑き』で、俺とは違い幼少の頃からずっと戦いの中に身を浸している少女。()()()()()()()家庭を知らず、俺とは違い保険など必要としない人生を己の足で歩んでいる。

 

 あの少女は一体どこから来て、どういう道のりで今に至っているのだろう。

 これまでは超然としているばかりだった御巫が別の一面を見せた人が現れたことで、改めて俺は疑問に思った。

 …………でもまぁ、こういうのってデリケートな問題だしな。あんま聞くようなもんでもない気はする。

 

 思考に区切りをつけ、暇な時間で『口裂け女』の調整でもするかと端末ドローンを浮かばせた、ちょうどその時。

 

 

「ハイよいしょーっと」

 

 

 ガチャリ、と。

 さっき閉めたはずの応接室の扉が、陽気に開けられた。そして、御厨さんが意気揚々と部屋に入って来る。

 ……あれ? 御厨さん? もう材料の回収が終わったのか? ……にしては御巫がいないな。はぐれた? 不測の事態にしては危機感がないが……。

 

 

「あ、そりゃ疑問にも思うか。悪いねぇ。()()反駁伝承(ATリノヴェーション)。あたしの機能は自分の完全複製でね」

 

 

 平然と言いながら、御厨さんは俺の目の前に座った。

 ゆったりとした笑みを浮かべた御厨さんは、俺のことを見定めるように見つめながら、こう切り出す。

 

 

「いや、ちょっとね。…………友悟くんには今のうちに話しといた方がいいと思って。()()()のことについてさ」




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