【完結】アンチ^2テーゼ・リノヴェーション   作:家葉 テイク

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Thesis.24 初陣 ②

 俺の強襲に対し、敵側の動きは明確だった。

 工場の敷地内から、戦闘ドローンが全部で五機ほど起動してくる。

 

 ドローンといえば昔は浮力確保用のフィンが四つ搭載されたクワッドコプターが一般的だったらしいが、今となってはそんなのは歴史の教科書でしか見ない。

 現代のドローンに、羽はない。機体下部にある円環状のパーツから空気を吸い込み下に吐き出して浮力を確保する()()()()()()式が一般的だ(厳密にはもっと色々あるが、そこは省く)。古くは扇風機の原理に使われていたとかって話を参考書で読んだことがあるけど、扇風機の技術がドローンに使われるようになるんだから世の中何が何に使えるか分からないもんだ。

 

 雑学はさておき──重要なのはつまり、機体下部に円環を搭載し、機体本体には機銃を搭載した戦闘ドローンが今、まさに俺に照準を合わせているという訳である。

 彼我の距離は五〇メートルほど。おそらく一秒後にはこちらに向けて一斉掃射を始めるであろう五機を認めても、俺は特に身体を動かす必要性を感じていなかった。

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 

『        』

 

 

 ィィィン……と音を立て、『アンカー』が俺の両袖から伸びていく。そしてひとりでにしなり──急伸して、戦闘ドローンへと肉薄する。

 俺は投げ縄のプロじゃないが、人工筋肉を()り合わせた『アンカー』は自身の筋肉運動によって自在に動き回ることができるし、その操作は反駁伝承(ATリノヴェーション)としての基礎機能だ。

 つまりわざわざ俺が精密に五〇メートル以上の紐を振り回さずとも、紐自体がひとりでに動いて振り回されてくれる。よって、さっきも腕の振りだけではなく、この筋肉の収縮によるサポートがあったからあそこまで高速での移動が実現できたのである。

 そして。

 

 ギャギギギギギギギギギギィィィン!!!! と、まるで悲鳴のような切断音とともに、五機のドローンが瞬く間に両断された。硬質なドローンの断面はズタズタに引き裂かれただけではなく、切断時の衝突の連続によってか、一部は真っ赤に赤熱していた。

 ……初手で機械戦力が出て来たということは、施設内に人間の戦力は少ないと見た方がいいか? 少なくとも、伝承師はいないと考えていいだろう。もしいるならこんなしょっぱい迎撃を逐次投入すまい。

 御巫の現在位置は、MAPの大雑把な位置関係でしか把握できない。施設を道順通りに進んでいたら日が暮れそうだな……。……ちょっと大胆にショートカットでもするか。

 

 

『       』

 

 

 俺はMAPに対してまっすぐに、そして無造作に『アンカー』を振るった。

 空を切る軽い音の直後に、喚き立てるように凄絶な切断音が響き、施設の壁はケーキを崩すみたいに簡単にバラバラにされてしまった。

 

 

「我ながら申し分ない破壊力にできたな、『垂迹一糸(キルストリング)』」

 

 

 『口裂け女』を攻撃的に運用しようと思った時、どうしても『ポマード』や『べっこう飴』のような対抗策によるデバフは無視しがたいデメリットだった。

 たとえ機能をどれほど作り込もうが、この対抗策による隙が致命的すぎる。かといってこの対抗策を失うことは、問答を攻撃の起点とする『口裂け女』のアイデンティティを失う改造になってしまう。消すことはできない。

 どうすればいいか考えた俺は、こう考えた。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と。

 

 俺が開発した反駁伝承(ATリノヴェーション)一号機──『垂迹一糸(キルストリング)』は、『口裂け女』の攻撃は金属質の斬撃であると解釈することで、『裂けた口』を表現した赤い紐状の機体に任意で金属的な硬質さと斬撃能力を付与できる。

 ただ、そこで一つ邪魔な特性が生まれた。この硬質さと斬撃能力の影響で、機能を使うと機体自体が本来の材質と関係ない金属的な軋みを放つようになったのだ。この軋みは検証してみると、金属が振動しているのと同じような音であり、紐状の機体という滑らかに動く物質に硬質さと斬撃能力が付与した以上避けられない副次特性であることが分かった。

 避けられないなら仕方がない──と同時に、金属が振動しているような音という部分に俺は着目した。

 たとえば電話というのは、音の振動を金属板に伝えて、そこから再生するような原理で行われている。……つまり、金属の振動を調整すれば、『声』を発せさせることだって十二分に可能というわけだ。

 そこで俺は思った。この副次効果は、『問答』を実現するのにも使えると。 

 そして、金属板の振動を再現することで声を発するのなら、その音域はヒトの喉の範囲を軽く超えることができる。

  『口裂け女』の問答は、あくまで攻撃の起点。これまで何度も言った通り、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()はずだ。

 そう考えた俺は、斬撃能力の応用による『問答』を()()()()()()放つ形にしてみたところ──俺の想定通り、機能はそれでも成立した。こうすれば、『口裂け女』の最大の特徴である問答から、『怪異』の正体は特定できない。『怪異』の正体が特定できなければ、対抗策も打たれない。

 最悪にも程がある理屈だが、これで理屈が通ったことになるのが『怪異』の恐ろしいところである。

 

 もちろん、それでも弱体化は免れない。

 きちんと相手が回答できるという『怪異』にしてはフェアな状況も、『口裂け女』の特徴の一つである。

 なので『垂迹一糸(キルストリング)』の切断能力は、精々人並みの力で刃物を突き立てる程度の攻撃力しか存在しない。

 この攻撃力不足については機体側で補うことにした。人工筋肉と蜘蛛糸様の繊維をより合わせるという形で。

 『垂迹一糸(キルストリング)』は、一本の紐として動くのと同時に、紐を構成している繊維が動くことで『表面』が流動するようになっている。こうすることで、一発一発は弱い『切断』が流動する表面によって一瞬にして何度も繰り返されることになり、チェーンソーと同じ原理で高い切断力を確保しているのである。

 しかも、この切断はあくまで機能による切断なので、高い硬度を持つ物質を切りつけても刃毀れの心配がない。その上、表面の流動速度はチェーンソーを遥かに凌ぐ。なので事実上、まともな物質ならば確実に切断できる切断能力を確保しているのだ。

 

 機能が弱くとも機体でカバーをすればいい。機体を獲得したことで完成したのが、俺の『垂迹一糸(キルストリング)』である。

 さらに、これを応用して『最奥差配(A2Tリノヴェーション)』対策も整えてはいるが……まぁこれは今はいいか。

 

 

「…………やっぱり中は綺麗だな」

 

 

 『垂迹一糸(キルストリング)』によって切り拓かれた壁の穴から内部に侵入してみると、そこはまるで近未来世界みたいに小奇麗にされた空間だった。

 外側のボロボロの建物が『景観に配慮した外観』なのかと思うくらいの整い方に、俺はある意味呆れつつ、瓦礫を踏み越えて中に入る。

 この分だと、それなりに人はいるようだ。人がいないのに内装に拘る必要はないしな。そして人がいるということは、此処が『当たり』である可能性も高まるということだ。MAPの表示だと、御巫までおよそ一五〇メートルほど。とはいえ建物の間取りを無視した距離なので、突破するにはまた壁を切り裂いていく必要があるし、そもそも高さは保証していないので、地下にいたりする可能性もあるが。

 

 この距離まで来れば、流石に向こうの抵抗も変化してきそうだが──どうだかね。

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

「……ふむ、これがおまえの保険というわけか?」

 

 

 モニタに映る映像を見ながら、男は傍らに侍る少女に問いかけていた。

 男の名は、巻狩(まきがり)勝氏(しょうじ)。傍らに侍る少女からは『主任』などと呼ばれていた科学者だ。

 少女──御巫七夕は装いを変えていた。

 漆黒のボディスーツの上から赤黒の振袖を身に纏っていたが、今はそれもない。もともと機能にとっては意味のない装飾部分だったので取り払い、代わりに最奥差配(A2Tリノヴェーション)の補強材料にする為調整をしているのだ。

 

 七夕は無感情のまま映像を眺め、

 

 

「戦闘前の〇七七番に不測の事態を考慮した保険は存在しておりません。また、万一の事態を想定した枕飾(まくらかざり)浅夢(あざむ)御厨(みくりや)英姫(えいき)石灰(いしばい)今宵(こよい)ら協力者への敗北連絡は実施されませんでした」

 

「そういう意味ではないのだが……これ以上イレギュラーな増援がないのならまぁ良い。全く指示体系(プロンプト)の癖が上手く掴めんな……」

 

 

  機械的に融通の利かない回答を返す御巫に、巻狩は頭を掻く。

 御巫七夕の調整には、実際のところ難儀していた。指示を受け付ける際の認識の仕方に癖が強く、なかなか巻狩の意図通りの解釈をしてくれないのだ。零落しても変人というわけかと、巻狩は内心で吐き捨てる。

 とはいえ彼の表情に焦りがないのは、既に御巫には『わたしを護衛せよ』という指示が通っているからである。

 試しに戦闘ドローンを何機か巻狩に襲わせるそぶりを見せた(もちろん実際に襲うわけではない)ところ、御巫は明らかに通常の指示を遥かに超えた滑らかな動きで戦闘ドローンをたちどころに迎撃した。

 解釈の()()については未だブラックボックスではあるものの、一旦は護衛として利用できる。それだけ分かっているなら、巻狩としては十分だった。

 

 

「あの少年……見たことのない伝承師だな。……いや、確かお前の車内に一人少年がいたか。気絶させられていたが……〇七七番、あれはなんだ?」

 

「彼は伝承師ではありません。派遣留学生です。一般論として反駁伝承(ATリノヴェーション)の設計と構築には数週間から数か月の期間が必要とされており、短期間での『怪異』運用は推奨されておりません」

 

「……つまりなんなんだと聞いているんだが……」

 

「派遣留学制度は自凝県の高校に通い技術習得を目的としたもので、」

 

「もういい。分かった、分かった。回答を中止しろ。苛立つだけだ」

 

 

 映像の中では、少年が施設を切り刻んでいる。

 相当な切れ味だった。カマイタチなどのような斬撃を操る『怪異』でも封入しているのかと考察しつつ、巻狩は落ち着いて指示を下す。

 

 

「まだお前を出すまでもない。あの程度の戦力なら、物量作戦で圧し潰すだけだ」

 

 

 巻狩は小さく呟きながら、モニタの画面を切り替える。

 切り替えられた画面の中には────複数人の、覆面を被った女性らしき人影が映し出されていた。

 御巫と同じような黒いボディスーツを身に纏い、覆面を被った女性の軍団が、少年の元へと歩を進めている。

 

 

「〇七七番が万全であればよかったのだが……まぁいい。この程度でも十分だろう」

 

 

 巻狩はモニタから視線を切り、手元の端末へと意識を集中させる。

 

 

「さっさとこちらを終わらせよう。機材の消耗は少ないに越したことはないからな」




 AIで調べものするときとか、きちんと指示を準備しておかないと意外とポンコツな回答が返って来ますよね……という感じのやつだと思います。
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