【完結】アンチ^2テーゼ・リノヴェーション 作:家葉 テイク
──俺の目の前に、御巫がいた。
赤黒の振袖を失い、先ほど俺が両断してきた少女人形と同じ、漆黒のボディスーツのみを身に纏った少女が、そこにいる。
脂ぎったオッサンに肩を組まれ、耳元で何事かを囁かれ──俺のことを、冷たく見据えている。
何故か、その事実に言いようのない苛立ちを覚えるが──
『最強』御巫七夕の扱う機能は、超高火力の炎を素粒子レベルで操作すること。
俺は既に炎以外にも爆発、電撃、磁力、光線、そして荷電粒子砲といった手札を見ているが、あれが御巫の手札のすべてとは思わない。たとえば炎熱を操作すれば気流のコントロールも訳ないだろうし、精密制御した核融合反応をぶつけてくるみたいな無法だってやってくる可能性はある。核融合反応もプラズマの一種ではあるしな。
そしてもちろん、単なる肉弾戦も脅威である。
御巫には、スーツ型の優位性を散々解説されてたしな。アイツが『爆発反応装甲』を展開して接近してくるだけで、半径五メートル圏内の爆発が接近してくる。普通にやっていれば、それだけでお手上げになる。
だから、俺はすぐに動けるようにして──
「
そうした分かりやすい攻撃の前に発せられた、試すような声色の一声に思わず反応が遅れた。
『「ポマード」と三回唱える』──『口裂け女』を知る者ならだいたいが知っているメジャーな攻略法。なるほど確かに、敵には分からないように機能を構築したが、御巫は知識として俺が『口裂け女』を封入していると知っているわけだもんな。どんな攻撃よりもまず最初に、そこを試すのは合理的ではある。
その事実を再確認して、俺は改めて口を開いた。
「…………ナメやがって」
「確かに、最適解ではあるな」
吐き捨てた俺に、興味深そうに顎をしごきながら、『主任』は笑う。いや、嗤う。
「『口裂け女』を封入しているなら、まずは『ポマード』。そうすれば労せず攻略できるのだから、当然の帰結か。使い勝手の悪い人格だが……悪く思わないでくれ、これもおまえの『怪異』が対策しやすいのが悪い」
「そっちじゃねぇ」
勝手に一人合点して勝ち誇っているアホは無視して、俺は続ける。
俺が『ナメやがって』と言ったのは、俺の
「
ギャリリリン!!!! と。
俺の両袖から伸びた『
『
つまり──超音波を常に出し続けて『対抗策』へのバリアとすることだって、可能というわけだ。いみじくもこの女が実装している『爆発反応装甲』のように。……ああそうだよ。影響受けました。わざわざ言わないけどな。
「な……『ポマード』はどうした!? 『口裂け女』を封入してるんじゃないのか!? その怪異は……!」
「あのなぁ、俺みたいな派遣留学生が一丁前の
「……! 『口裂け女』はブラフか……!」
すぐ騙されるアホでよかった~。
……いやマジで、この程度のハッタリに引っかかるアホがどうして御巫を操れてるのか分からんな。これ、コイツの裏に誰かいたりしないか? 使っている技術も御巫の下がもうあれならちょっと
今なら、『主任』に攫われたって言ったときの御厨さんのリアクションも頷ける。コイツに御巫が攫われたって、それいったいどんな不幸な事故が重なったんだ? って思うよな。
…………警戒はしとくか。どや顔でコイツをボコボコにした瞬間後ろから黒幕に刺されるとかあったら洒落にならん。だって『主任』だしな。『所長』とかならともかく。
「『口裂け女』の弱点には対策されていることを確認。『爆発反応装甲』を交えた肉弾戦闘に移行します」
ドッ!! と。
御巫が、目にも留まらぬ速さでこちらへ駆け出してくる。俺は『アンカー』で地面を叩いた反動で空中に移動し、もう一方の『アンカー』を壁に接着させて移動を開始する。
御巫は当然その動きにもついてきて、腰から噴き出した炎の反動で空を飛んでこちらに向かって来る。……当然のように飛行してくるよ。もう嫌になってくるな。
『 』
ギャリリリ!! と、移動に使った後フリーになった『アンカー』を振るい、天井を斬る。一発では瓦礫を落とすようなバラバラの切断にはどうしてもなりえないが、それでも切断時の粉塵が、それなりの量御巫に降り注いだ。
──爆発は発生しない。粉塵が、御巫の黒い髪の上に降り注ぐ。
「そうだよな。それはただの粉塵だ。不快ではあるかもしれないが、デフォルトじゃ反撃対象には設定してないだろ」
『
ただの通行人くらいならば五メートル圏内に入っても爆発しないが、距離が近すぎれば爆発する──というような、『危険度の予測』に基づく反応設定がされている。
それで言うと、『天井が削れたことで発生した粉塵』はどう考えても『爆発反応装甲』の対象外だ。──本来の御巫であればデフォルト設定を戦闘時並みに変更してこの程度の粉塵でも反応するように仕向けていそうだが、今の御巫は操られていてそこまで細かい機能行使ができていないらしい。
ならば、そこに付け込ませてもらう。
「爆発するぞ! 身を守れよ、御巫!!」
直後、俺は『アンカー』を御巫目掛けて振り下ろす。
当然、触れれば切断される必殺の一閃だ。五メートル圏内に入った瞬間、御巫と俺の間で爆発が発生した。
──ただし、それに付随して、御巫の半径五メートル圏内でも爆発が発生したが。
『爆発反応装甲』に限らず、『
だが、逆に言えば、御巫以外の物質は平等に燃やされるということでもある。
たとえば、
御巫が平常時のデフォルト設定のまま至近に通したそれらは、当然、『爆発反応装甲』の巻き添えを食らいうる。
そして──副次的な炎であれば、御巫にもダメージを与えうるのではないだろうか?
粉塵と炎熱による爆発的な燃焼反応は、それ自体は御巫の機能とは関係ない自然現象だ。それが至近で発生すれば、御巫でも影響を受ける可能性はある。
スーツ型の機体で防御すれば、大したダメージにはならないだろうが──無敵の『爆発反応装甲』の突破は、御巫を操る木偶の精神を削るはず。
「問題ありません。行動を継続します」
が。
御巫は、俺の予想に反して全く爆発の影響を受けていなかった。
というより──
「そうか……! 『爆発反応装甲』の影響を受けないなら、影響を受け得る爆発の盾として自前の爆発を出せばいいってことかよ……!」
自分の炎によって副次的に発生した現象に対しても、ノータイムで『爆発反応装甲』を展開できる……!
化け物じみた堅牢さ……いや、恐るべきは
「『爆発反応装甲』の圏内に到達します」
「悪いな、ちょっと急用を思い出した!」
『 』
ギャリン!! と一筆書きで天井に円を描きつつ、自分の足で壁を蹴り、俺は御巫から離れる。ガコ、と遅れて天井が落ち、それが御巫の『爆発反応装甲』によって爆裂した。
ボボボボボボボボ!!!! と、御巫の周囲で爆発が連続する。
超重量の瓦礫と粉塵による爆発の連続で、御巫の周囲で絶えず『爆発反応装甲』が展開されているのだ。まぁ、こんなものは単なる短時間の目晦ましにしかならないが──、
「その間に、脂ぎったオッサンを輪切りにすることはできるかぁ!?」
「っ、このガキ、速い!?」
床に降り立った俺は、そのまま自分の足で『主任』へ接近する。
御巫は、絶えず発生する爆発で外部情報が遮断されているはず。今なら、御巫を無視してコイツを攻撃──、
「基底指示の遂行。マスターの護衛に入ります」
ギュッッ!!!! と、御巫が目にも留まらぬスピードで間に入り込んだ。
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