【完結】アンチ^2テーゼ・リノヴェーション   作:家葉 テイク

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Thesis.33 枕飾浅夢

 その後もショッピングは続いたが、何とか乗り切ることはできた。

 なお、タンスを開けたら持ってる服が制服しかないことが発覚した時は大層驚かれ、今度服を買いに行くことになった。『そう言うお前も年中振袖ボディスーツだろ』と当然のツッコミを入れたところ『これは仕事着だからオフの服は他にもちゃんとあるよ。そもそもオフの日があんまりないけど』という衝撃の事実が発覚した。

 そ、そうなの……? 年中着てないと反駁伝承(ATリノヴェーション)的に『爆発反応装甲』の意味がなくない? と思ったのだが、よく考えたら御巫は心臓が核骨に置換されてるんだったか。なら、身体強化はないとしても炎を操る能力は使えるだろうしそんなに問題はないのかもしれない。

 他にも超音波の応用で床からちょっと浮遊しているペンスタンドなど、絶対そんなもんいらんだろ的近未来小物は排除しつつ、買ったものは配達サービスで家へ送る手筈になった。

 

 

「ぶー。絶対面白いのに、超音波浮遊ペンスタンド」

 

 

 隣を歩く御巫は、どうもトンチキ近未来小物で俺の部屋を彩れなかったことが残念らしい。要るかよそんなもん。

 

 

「音波で浮くんだよ? 磁力でも風力でもなく。凄くない? 電子機器にも周囲の軽量物にも一切影響を与えずに浮けるんだよ?」

 

「まだ言ってるよ……。凄くもねーし、たとえ凄くても買う理由にはならねーだろ」

 

 

 超音波でモノが浮くなんて、反駁伝承(ATリノヴェーション)が発明される前の『怪異のいない時代』から既に研究されてたくらいだぞ。今じゃ空力式ドローンと並行して次世代ドローンにって言われてるくらい有り触れた仕組みだ。物珍しくもない。

 どうも、御巫はアイツ自身が私物少ないウーマンである弊害で、買うとなったら変なテンションになって余計な物まで買ってしまうらしい。使わない通販商品を買うみたいなのはフィクションだと定番の悪癖だが、そんな感じだろうか。

 

 

「むー……」

 

「なんかもう御巫が欲しくなっちゃってるだけじゃん……。そんなに気に入ったなら自分で買えばいいだろ。通販とかで探せばあるだろうし」

 

「いや……自分で使うとなると要らない……」

 

「最悪だなオイ!?」

 

 

 本当に浪費でしかねーじゃねーか!

 今後は、コイツに財布の紐を委ねてはいけないのかもしれない。通販サイト何使ってるのか知らんけど、アカウント教えてもらおうかな。……いや、やめとこう。墓穴を掘りそうな気がする。

 

 そんなことを考えていた俺だったが、隣を歩く御巫が足を止めたのに倣って、その場に立ち止まる。

 ガンジツでの買い物を終えた俺たちは、併設されていたフードコートで簡単な昼食を済ませたあと、八尋殿市街を歩いて自凝県警本部へと出向いていた。そしてその足が止まる理由となれば……、

 

 

「着いたね。此処が県警本部だよ」

 

 

 目の前にあったのは、ガラス張りが印象的な近未来的デザインのビル。

 結局、仄かに警戒した敵の襲撃はなく。

 

 俺と御巫は、目的の自凝県警に辿り着いたのだった。

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 県警では、御巫はなかなかのVIP対応だった。話に聞くこやつの働きを考えれば、当然の帰結かもしれないが。

 具体的に言うと、御巫がどこかに連絡を入れたと思ったら、屈強なガタイの男性警官がこっちに駆け寄って案内をはじめてくれた。

 二階に通された俺たちは、男性警官の案内に従って部屋へ入っていく。その先にいたのは──

 

 

「やぁやぁようこそ御巫さん、ご無沙汰してますねぇ。それと……そちらの少年が日向さんですかねぇ?」

 

 

 優しく目を細めた、柔和な雰囲気の女性。ブラウスに黒のパンツスーツを合わせた、いかにも仕事ができるという感じの風体だった。色素の薄い茶色い髪をゆるい三つ編みにして、肩にかけている。そんな女性がデスクから立ち上がって、こちらに挨拶をしてくれた。

 他にも数人の男女がデスクに向かっていたが、彼らは御巫がやってきたことに気付くと、

 

 

「お疲れ様です!!!!」

 

 

 と、声を張り上げて挨拶していた。あまりの声量と突然さに、俺は思わず目を白黒させてしまった。

 隣の御巫も居心地悪そうにして、

 

 

「……あの、毎度言うけどこれ辞めさせてくれない?」

 

「ン~すいませんねぇ。如何せんウチの会社は体育会系が強くって。態度にこそ尊敬の念が宿るって風土でねぇ」

 

 

 掴みどころのない笑みを浮かべながら、女性は改めて俺に会釈をする。……御巫とのやりとりの親しさ、それに場所を代表していそうな立ち居振る舞い、となるとこの人は……。

 

 

「直接会うのは初めてですねぇ。対怪課の枕飾です。以後お見知り置きを。長〜いお付き合いになると思いますので」

 

「うっす。バイトで探偵助手やってます。日向友悟っす」

 

 

 枕飾浅夢さん。御巫の協力者(アドレスに載ってる人)の一人で、警察内での情報提供や依頼斡旋などをしてくれている人だ。

 対怪課の中でもかなり中心的な人物で、端的に言ってめちゃくちゃ仕事がデキる人という話。確かに、感情の読めない笑みの割になんとなく話し方から親しみやすい空気を感じる人だった。犯人の尋問を任されたら仏役をやってそう。

 

 

「枕飾サンはいわゆるノンキャリア組だけど、警部に昇進してマルカイの課長をやってる凄い人なんだよ。まだ二〇代なのに」

 

「ふふふ、一〇代で最強をやってる御巫さんの前では霞んでしまいますよぉ。それに、親会社(くに)が強引に推進している反駁伝承(ATリノヴェーション)政策の中で発生した例外枠に滑り込んだようなものですからねぇ。私なんてまだまだルーキーのぺーぺーです。成り上がり者だと肩身が狭いんですよ、ウチの会社は」

 

 

 俺達の前までやってきた枕飾さんは、そう言って感情の読めない笑みを浮かべている。ただのぺーぺーが御巫に信頼されて一緒に仕事したり、御巫に直接依頼を出したりできるわけがないので、この人はこの人で結構横紙破りな活躍をしているアナーキーであることは現時点で間違いないのだが……こうやって仕事してる感じ、部下からも信頼されてるっぽいしなぁ。そのへんの世渡りはめっちゃ上手そうだ。

 

 

「で、巻狩勝氏の尋問……いや脳内情報の読み取りでしたっけ? いけませんねぇ。テックの進歩に語彙が追いついてなくって。こうやって人は老化していくんですかねぇ」

 

「伝承師じゃないのによく勉強してる方だと思うよ? 枕飾サンは。たまーに用語系全然通じないおじさんとかいるしね」

 

「ン~、恥ずかしい限りです。一応研修も実施され始めてはいるんですけどねぇ」

 

 

 世間話をしつつ、枕飾さんは何やら端末ドローンを起動させながら俺達の先導を始めた。

 ……そういえば、初めて県警本部にやってきたけど、中は結構普通のオフィスビルって感じで、犯罪者を収監できるような場所がありそうな感じがしなかったんだよな。っていうか普通県警本部に犯罪者を収監するような場所ってあるもんなの? というところからして疑問なのだが。

 まぁ、自凝県警は環境的に考えてもかなりイレギュラーだから、平均的な県警本部というものと比較して考えてもしょうがない気もするが……。

 そんな風に考えていると、枕飾さんはエレベータの前で立ち止まった。あ、エレベータ使うんだ。

 

 

「安全のために、マルカイ案件の被疑者は地下階に収容してるんですよぉ。基本的に伝承師の許可がないと私でも面会はできないので、御巫さんが来てくれて助かりました」

 

「厳重なんすね……」

 

「私のような門外漢からしたら、反駁伝承(ATリノヴェーション)は何でもありですからねぇ」

 

 

 エレベータの扉を開けながら、枕飾さんはなんてことないように言う。

 乗り込みながら、俺はその言葉を聞いて自分が既に『技術者側』に踏み込んでいるのを体感した。

 

 枕飾さんのスタイルは正解だ。反駁伝承(ATリノヴェーション)には様々な可能性が存在してる。仕様をよく理解していない人が慢心して痛い目を見るより、何でもありえると考えて構えている方が危険は少ない。

 それを門外漢の立場で理解している枕飾さんは、確かにデキる人なのだろう。

 ただ、俺の立場からしたら反駁伝承(ATリノヴェーション)って意外とそんなに何でもありではないんだよな。確かに解釈のやりようによってはいくらでも何でもできはする。だが、『一人一怪異』という前提で考えると、伝承師はなるべく一つの機体である程度のケースへの対応力が必要となる。

 そう考えると、自ずと『使える解釈』と『使えない解釈』も発生する。確かに理論上はいくらでも可能性はあり得るが、実際に採用して脅威になるか? という観点で考えると、意外と選択肢というのは絞られるものなのである。

 自然とそういう発想になっていたから、枕飾さんの言ってみれば『理解を放棄してかなり手前のラインで警戒を固める』姿勢がちょっと新鮮に感じている自分に気付いたのだった。

 

 エレベータは、無音のままに地下を降りる。

 ……揺れや音がないってことは、ワイヤー式の昇降システムではなく、空気圧式や電磁式の昇降システムを採用してるのかもな。

 

 

「結構長いこと降りてますけど、地下何階なんですか?

 

「地下三階ですよ。ただ、深さは地下三〇〇メートルあります。何といってもマルカイ案件ですからねぇ。被疑者を地上に逃がさないように、脱出経路はエレベータ以外に存在しないようにしているんです」

 

「そのエレベータも、指紋と虹彩と静脈とIDカードの四段階認証でないと動かないんだからすごいよねぇ」

 

 

 超厳重だ! さっきエレベータの階数を指定してるときに何かまごついてるなと思ったら、そんなことしてたのか……。

 

 

「さ、そんなことを言ってる間に到着しましたよぉ。ちなみに、現在此処に収監されているマルカイ案件の被疑者は巻狩ひとりですので、物音とかの心配はしなくていいですよ」

 

「りょーかい」

 

 

 御巫は枕飾さんの補足に適当に返しつつ、エレベータを降りた。後に続くように俺もエレベータを降りる。

 エレベータの外は、地下という印象を感じさせないくらい明るい照明が供えられた、長い廊下になっていた。ガラス張りのオフィスビルっぽい風体だった地上階とは違い、近未来的な研究所チックな内装だ。

 その廊下の左手側に、一定間隔で扉が設置されている。そこが被疑者の収監されている独房か何かなのだろう。

 

 

「番号はA-1になりますねぇ。何度か此方の方でも尋問を試みたのですが、意識レベルが一向に回復せず……。おそらく、御巫さんが指示したという意識の喪失が今も聞いているのではと思われます」

 

「いまだに効いてるのか……。っていうか御巫が解除しない限りずっと効き続けてそうだな……」

 

「ま、そういう技術だしね。人を呪わば穴二つ~」

 

 

 ……バックドア対策がなければそんな技術に御巫が囚われていたかもしれないと考えると、本当にぞっとしない話だ。

 少し身震いしそうになりながらも、枕飾さんの先導に従い、A-1の扉を開ける。カシュ、と軽い音を立てて、空気圧式の金属扉が開閉すると──部屋の中には、巨大な花のようなシルエットをした装置が鎮座していた。

 それは、機械製の椅子だ。椅子の背もたれの上に巨大な装置が花びらのように広がっているのだ。そして、花の茎の根本に当たる部分に椅子が備え付けられており──そこに、バイザーのような機器を取り付けた状態の『主任』が座らせられていた。

 『主任』の姿を俺達に見せた枕飾さんは、横で機材を操作しながら、改めて俺達に──というか、文字通り『主任』の生殺与奪を握った御巫に言う。

 

 

「では、よろしくお願いします。()()()の準備は、こちらで整えておきますので」

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