【完結】アンチ^2テーゼ・リノヴェーション   作:家葉 テイク

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Thesis.34 尋問 ①

「『サトリ』を封入した反駁伝承(ATリノヴェーション)、『読心投影(ホロプリンタ)』。対象の脳内に浮かんだイメージを立体映像として投影する尋問用の機体です」

 

 

 巨大な花のような機体を前に、枕飾さんが語る。

 

 

「『サトリ』というのは、ご存知の通り、人の心を読む『怪異』です」

 

 

 ──『サトリ』。

 主に山中で人間の前に現れる『怪異』だ。『今、恐れたな?』などと相手が心の中で思ったことを言い当て、隙を見て食べてしまう──という危険な存在だが、心の中を読めるからか想定外の事態には弱く、伝承では木片や焚火に偶然当たると驚いて逃げてしまうとされる。そのため、『怪異』の危険等級としては『道具なしで対処可能』という第四種に分類されている。

 『サトリ』といえば心を読む能力が一番有名だが、これは実は山に現れる怪異にはありふれている。たとえば人の声を真似するといわれる『山彦』も、『サトリ』同様に相手の心を読んだうえで声を真似しているという説がある。そんな中でわざわざ弱点の多い『サトリ』を封入する『怪異』として選択しているのは──警察所有ってことで、『強奪されたときに悪用されない』ことを念頭に置いているのかもな。

 

 

「人の心を読むだけでも十分便利なのですが、それでは利用者にしかイメージの共有ができませんからねぇ……。警察として利用するならば、証言よりも映像情報の方が()()()()()()()有用なんですよ」

 

 

 枕飾さんは機体を撫でて、

 

 

「ですので、対象者から読み取ったイメージを機体の方で立体映像(ホログラム)として空間投影するのが、この機体なんです。ちなみにホログラム情報自体も録画できますよぉ」

 

 

 単なる映像ではなく、イメージを元に立体映像として出力するのか。たしかに色んな視点から見ることが出来るから、警察の持つ機体としては有用だろうな。だが……、

 

 

「枕飾さんは伝承師じゃないんですよね? その割には、とてもお詳しそうですけど」

 

 

 御巫の話だと、枕飾さんは固有の反駁伝承(ATリノヴェーション)を持たない非伝承師だったはず。だが、門外漢という割には枕飾さんはこの機体──『読心投影(ホロプリンタ)』の機能に詳しい。

 疑問に思って問いかけてみると、枕飾さんは大げさに肩を竦める。

 

 

「心外ですねぇ。伝承師資格がなくったって、自分たちで使う反駁伝承(ATリノヴェーション)のことくらい勉強しますよぉ。システムエンジニアの資格がなくても仕事で使うならPCは使えるものでしょう?」

 

「た、確かにそうっすね……すんません」

 

「いえいえ。実際、こういうハイテク利用の流れに置いて行かれないように必死で勉強したんですよぉ。手当も下りないのに仕事に必要だからっていうんでぇ。大変ですよほんとに」

 

 

 枕飾さんはそう言って、ウンザリしたように溜息を吐いて見せる。

 『機体を勉強する』……か。

 大前提として機体は自分で組み立てるものという意識がある俺としては、勉強するという観点がそもそも違う。そうか、扱う機体といっても、別に自分が構築した機体である必要はないんだよな。

 

 

「警察なんかは特にそうだけど、公的組織だと個人所有の反駁伝承(ATリノヴェーション)っていう発想の方が薄いんだよ」

 

 

 間に差し込むように、御巫が言う。

 

 

反駁伝承(ATリノヴェーション)は組織が所有して構成員で共有するってことか……。伝承師の常識じゃ考えられないな」

 

 

 反駁伝承(ATリノヴェーション)を伝承師個人の能力のようなものとして見なしがちな俺たちからすると、組織が所有するっていうのはなかなか発想しづらい。

 確かに、組織として運用するならそうあるべきなのかもしれないな。

 

 

「『能力の属人化』。現代の怪異文明(スペクターパンク)社会の課題の一つですからねぇ」

 

 

 俺の言葉に呼応するように、枕飾さんが付け加える。

 

 

反駁伝承(ATリノヴェーション)は、その機能が『怪異』に依存する関係上『能力の属人化』が進みがちな技術です。その最たる部分が、『最強』の名をほしいままにしている御巫さんですが……」

 

「政府もいろいろやってるって聞くけどね」

 

「そうなんですけど、原理が原理ですので、なかなか難しいんですよぉ。そもそも伝承師自体、『能力の属人化』の恩恵を受けている人が大多数ですから、そのメリットを崩す施策────即ち『能力の()()()』にご協力いただける人を探すというのも難しい話でねぇ……」

 

 

 なるほど……。

 確かに、伝承師からしたら『自分だけができる仕事』っていう領域があることが業界内での自分の立ち位置の向上につながるわけだもんな。『能力の均質化』……たとえば誰でも使用できる反駁伝承(ATリノヴェーション)が大量配備でもされたら、その分作業領域が被る伝承師は仕事が減るということになるわけだし。

 これもまた、『文明隘路(ボトルネック)』の一形態か。

 

 

「ウチの会社では、その対策の一環として『組織所有の反駁伝承(ATリノヴェーション)』を用意することで対応してるんですけどねぇ。ま、このあたりが現状の技術の限界ですよ」

 

 

 それが──この機体、『読心投影(ホロプリンタ)』ってわけか。

 

 

「本来は、対象の意識がある状態で質問することで、否応なしに相手に『回答をイメージさせる』ことで証拠映像を出力させるんですが、今回の場合は御巫さんの方で巻狩のことを思考レベルで操作できるとのことですので」

 

 

 御巫に『主任』を操作させて、情報を包み隠さず話させてもいいだろうが……証言よりは、確かに映像情報の方が理解がしやすい。たとえば周辺の環境を言葉で説明されてもピンとこないが、実際に映像で見たら一発で『ああ、あの場所だ』って分ったりするだろうしな。

 

 

「とりあえずやってみるね」

 

 

 話を振られた御巫は、そう言ってから己のこめかみに指をあてた。

 無言でその様子を見守る俺たちに、御巫は瞑目したまま続ける。

 

 

「ん~……命令は受けつけたみたい。もうちょっと待ってて」

 

 

 御巫は操作に集中するためか、それきり少し静かになった。目を瞑り、少し眉根に皺を寄せているその姿は、いかにも神秘的である。というか、コイツの場合黙ってればたいてい神秘的に見えるんだけども。

 数秒ほどそうしていただろうか。そろそろ何か動きがあるか──と身構えそうになったその瞬間、突如御巫の身体がびくんと()()()

 

 

「御巫!?」

 

 

 昼頃に『読心を前提とした攻撃』を考えていたこともあり、俺は即座に駆け寄って御巫の肩を掴んで支える。これヤバいか……? と対応について一瞬で色々と考えていた俺だったが、幸い御巫はすぐに目を開けた。

 そして、平静そのものといった声色で言う。

 

 

「……悪いね。でも大丈夫」

 

 

 御巫はすぐに体勢を立て直し、

 

 

「友悟の予測がドンピシャだったよ。黒幕さん、『主任』の記憶に爆弾を仕掛けてた。対策なしで食らってたら、わたしどころかここにいる全員、『読心投影(ホロプリンタ)』で投影された爆弾を食らって昏倒してただろうね」

 

 

 ま、マジか……。

 確かに危惧はしていたけど、まさか本当にやってくるとは……。

 

 

「原理は光過敏性発作と同じだね。脳に高速で光の明滅を叩き込まれると、人間の脳はバグって昏倒してしまう。それを大光量でやってきたってわけ。……多分これ食らった『主任』も当時気絶してると思うけど、その記憶は処理されていて本人は自覚してないだろうね」

 

「…………すさまじいな」

 

 

 そこまで徹底しているということは、向こうは『主任』が『最奥差配(A2Tリノヴェーション)』を逆手に取られて敗北するってこともすべて織り込み済みだったってことだよな。

 ……あるいは、そもそも『主任』は捨て駒だったのかもしれない。黒幕は『最奥差配(A2Tリノヴェーション)』を逆用させて読心対策の爆弾を作動させて、『読心投影(ホロプリンタ)』を利用していた捜査関係者ごと巻き込んでダウンさせるつもりだったってわけだ。まぁ御巫が対策(これもこれでなんなんだよ)していたおかげで何とかなったが……。

 

 

「とりあえずこっちの感覚に訴えかけてくる攻撃だろうってところは事前の会話で読めてたから、受け取るイメージを可能な限り薄めて対策してたんだけど、ちょっと食らっちゃった。でもまぁなんとかなったね。いやー本当に友悟のお手柄だよ」

 

「……ふぅむ。日向さんは、この状況を想定していたと……? 随分御巫さんが買っているなとは思っていましたが……」

 

「思いつきっすよ、思いつき。話の流れで、そういうこともあるかもなって」

 

 

 すごいといえば、昨日初めて食らった技術の逆用で『受け取るイメージを薄める』とかいう意味わからん応用をやってのける御巫もである。ほんとコイツところどころで意味わからんくらい小器用だよな。

 

 

「一応この後の記憶も精査してみたけど、爆弾はここで終わりっぽい。もう投影しても大丈夫だよ」

 

「分かりました。それでは、『読心投影(ホロプリンタ)』を起動しますねぇ」

 

 

 そう言って、枕飾さんは黒々とした機体を軽く撫でる。

 その直後だった。

 ヴン、と音を立てて、『読心投影(ホロプリンタ)』が動き始める。光の粒子が椅子の上に広がった機械の花から花粉のように降り始め──そして、機体を中心とした空間全体が立体映像によって『上書き』されていく。

 

 どこかのビルの一室。

 執務机に向かう『主任』が、機械の椅子にくくりつけられた現実の姿と重なる。

 そしてそんな『主任』の目の前に、一人の男が佇んでいた。

 

 美しい青年だった。

 亜麻色の長髪を後ろで一括りにした、温和そうな雰囲気をした二〇代くらいの青年。細められた目と薄く笑みの形に延ばされた口元からは、優し気な雰囲気以外のあらゆる感情が感じられない。

 枕飾さんが、その男を紹介するように一言呟いた。

 

 

「…………椎塚(しいづか)須金(すがね)

 

 

 ──その言葉を開始の合図とするかのように、投影された記憶の映像(ホログラム)が、再演を始めた。

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