【完結】アンチ^2テーゼ・リノヴェーション   作:家葉 テイク

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Thesis.38 暴露

 まず最初に動いたのは、椎塚の方だった。

 地を蹴っての高速移動。──スーツ型の身体能力強化!? いや……そうか、記憶の映像では反駁伝承(ATリノヴェーション)が体質上使えないとは言っていたが、『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「まずは糸使いから、片づけていきましょうかねぇ!!」

 

 

 椎塚と目が合う──狙いは俺か!

 『垂迹一糸(キルストリング)』を使っての高速移動や空中機動くらいは把握しているだろうが、近接格闘はできないという判断だろう。御巫の機能を無効化した──おそらくは、ヤツの有する『神憑き』の能力ならば、格闘性能の向上と合わせて、格闘補助のない伝承師には一方的な有利をとれるのだし。

 だが。

 

 

最強(みかなぎ)に意識をとられて、ちょっとばかり俺のことをナメすぎじゃないか?」

 

 

 ガシィッッッ!!!! と。

 俺は自らの右腕で、椎塚の拳を防御していた。

 

 俺の機体は、確かに紐状だ。蜘蛛糸と筋繊維を参考にしたことで強靭さと柔軟性、それから伸縮能力を獲得したこの機体は、伸縮することで身体運動の(くびき)を取り払った自由な高速機動を可能とする。

 反面、単なる紐を操るこの機体は、純粋な身体能力の強化とは結び付きづらいだろう。

 ──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 たとえば、テーピングが外部から肉体の運動強度を補強するように。

 『垂迹一糸(キルストリング)』が筋繊維。それを全身に張り付ければ、即ち外付けの筋肉としても機能するということである。

 そして、スーツ型と違い紐状の『垂迹一糸(キルストリング)』は、別に全身を均一に覆う必要もない。状況に応じて強度を高めたい部位を集中的に覆うことで攻防力を強化するという駆け引きすらも可能なのだ。

 

 

「だから足元をすくわれるんだよ。こぉんな風になぁ!!」

 

 

 グン!! と俺は右腕を振るう。片手だけの動きだったが、それは全身の体重をかけた椎塚の拳を軽々と押し返す。……リスクをとって、攻防力の八〇%を右腕に集中させて防御したからな。そしてこのまま、一気に決める。

 

 

「『反駁伝承(ATリノヴェーション)』は、機体のデザインも大事らしいぞ。釈迦に説法だったか?」

 

 

 ──『垂迹一糸(キルストリング)』、拡散!!

 右腕に集中させた機体を拡散し、叩き伏せて体勢を崩した椎塚を捕らえる。機能が効かずとも、これは単なる機体による干渉。今の一撃を問題なく防御できたってことは、機体そのものの干渉を無効化することはできないはず!!

 

 

「……良いですねぇ。センスがありますよ、君」

 

 

 しかし。

 そこでグン!! と、椎塚の身体が不自然に引っ張られる。──椎塚の背後に、模倣小町(デミダブルセヴン)がいた。どうやら、模倣小町(デミダブルセヴン)が引っ張って、『垂迹一糸(キルストリング)』の射程から椎塚を離したらしい。……アイツを保険として後ろに忍ばせつつ攻撃を仕掛けてきていたのか。クソ、流石にぬかりないな。

 

 

「楽しそうなことしてるじゃん、わたしも混ぜてよ」

 

 

 だが、そんな攻防の隙を見逃す御巫ではなかった。

 どこから回収したのか、御巫の目の前には何らかの機械のネジが浮遊している。──磁力か。ってことは、まさか!

 

 

「体質のからくりは、『怪異』の無効化ってところ? なら()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 ゴッッッッ!!!! と。

 御巫の眼前で浮遊していたネジが、音速を超える勢いで弾き飛ばされる。──コイルガンの原理だ。確かにこれならば、いくら『怪異』を無効化できたところで意味はない──が。

 音速を超える一撃は、狙いすましたかのように振るわれた模倣小町(デミダブルセヴン)のアッパーカットによって僅かに逸らされ、椎塚の横数メートルを通過した。代償として模倣小町(デミダブルセヴン)の腕は肘から先が捻じれて千切れるが、機械の少女兵は気にした様子もない。

 攻撃が途切れた間隙に、さらに別の模倣小町(デミダブルセヴン)が数体ほど研究室の入口から飛び出してきて、椎塚の盾を補充していく。

 

 

「アレ邪魔だな……。御巫、電撃でアイツらの制御奪えないか!?」

 

「厳しいね。広範囲への機能行使はどうやら椎塚の体質に引っかかるみたい。……『怪異』の拒絶……いや、『怪異』殺し体質とでもいえばいいかな」

 

「これだけ便利遣いすれば流石に分かっちゃいますかね」

 

 

 冷静に言う御巫に、椎塚は肩を竦めて言った。

 やはり……か。

 ヤツの体質は、『怪異を精密に操る』御巫の体質や、『怪異を強力に制御する』俺の体質とは全く異なる。同じ『神憑き』としても異質──『怪異を無力化する』体質。

 即ち、怪異殺し(スペクターキラー)

 ヤツ自身が反駁伝承(ATリノヴェーション)を使用できないというのも当然の話だ。反駁伝承(ATリノヴェーション)は、機体に封入した『怪異』との同調が前提だからな。あの体質じゃ、それすら不可能だろう。

 ……ふざけた体質だ。最奥差配(A2Tリノヴェーション)なんかより、よっぽどアイツ自身の方が怪異利用文明を否定してやがる(アンチ=アンチテーゼ・リノヴェーション)じゃねーか。

 

 

「ただ、正味問題はないよ。コイルガンを木偶(デク)で防いだってことは、機能による直接攻撃以外を無力化することはできないってことだ。広範囲への機能が殺されるのなら、ちまちまと刺していけばいい。こんなのは勝ちの見えている詰将棋だよ」

 

「…………そうだな」

 

 

 懸念はいくらでもある。

 たとえば、目の前にいる椎塚の目的が時間稼ぎである場合。悠長に詰将棋をしていれば、向こうの勝利条件が勝手に満たされてしまう可能性だってある。

 だが、その程度の可能性を御巫が考慮できていない訳がない。あえて強気な発言をすることで相手に圧をかけ、あるいはこちらが相手の思惑を見破っていないという油断を誘発させるという意味でも、此処で弱気を見せるのは下策。

 

 

「ああ、そうそう」

 

 

 適当に言う御巫の周囲に、先ほどの数十倍の機械部品が集まってくる。

 

 

「詰将棋って言っても、悠長に策を練る時間を与えてもらえるなんて思ってないよね?」

 

 

 ────コイル()()()()()ガンか!!

 

 ヒュガガガガガガガガガガ!!!! と。

 数十発の鋼鉄の弾丸が、椎塚に殺到する。

 椎塚が血煙にならなかったのは、彼と御巫の間に大量の模倣小町(デミダブルセヴン)が割って入ったからだ。

 模倣小町(デミダブルセヴン)を撃ち抜いて転がった金属片達は、そのまま御巫の手元に戻りコイルガンとなって射出される。弾数無限の鉄の雨の前に模倣小町(デミダブルセヴン)の防壁は確実に削れていく。

 ……くっそ、攻撃が凄まじすぎてこっちが割って入る余地がないぞ。下手に手を出せば餅つきで杵に手を突かれるよりも悲惨なことになりそうだ。

 椎塚が完全に模倣小町(デミダブルセヴン)をコイルガトリングガンへの防壁として固定化したタイミングで、御巫は小さく笑みを浮かべ、

 

 

「攻めっ気が足りてないなぁ!! そんなんじゃ『椎塚』の名が泣くんじゃない!?」

 

 

 ロケットブースター。

 コイルガトリングガンの無限循環はその場に固定したまま、御巫本体は炎の翼を背負って上空から椎塚に強襲をかける。──『このまま削りきる』という僅かな時間的猶予も与えないつもりか!

 ……手を出すなら、今!!

 

 

「少し急ぎすぎじゃないですか? ──それとも、そんなに私の計画の完成が恐ろしいと?」

 

 

 語る椎塚の足元で、ヒュッ!! と『垂迹一糸(キルストリング)』が伸び、足払いを食らわせる。

 ──椎塚は、ロケットブースターによる御巫の強襲に対応する姿勢を見せていた。おそらく何らかの方法でカウンターをする算段があったのだろう。だが、これで足を引っかければ……!

 

 

「……! 味なタイミングですねぇ……! ですが!」

 

 

 ス──と。

 足を払われて体勢を崩しつつ、椎塚は虚空の『何か』に触れる。その瞬間。

 ガシャシャシャシャ!! と、循環していた金属片が制御を失い明後日の方向へと吹っ飛んでいった。

 

 

「私が模倣小町(デミダブルセヴン)を無為に盾にしていたと思いましたか? 真の目的はこれ……貴方の『磁力線』を浮かび上がらせるためのマーキングです!!」

 

 

 ──見ると、コイルガトリングガンによって破壊された模倣小町(デミダブルセヴン)の細かい破片は粉塵となり、そしてその中の微小な電子部品は磁力によって引き寄せられ、うっすらとだが、研究室に張り巡らされたラインを浮かび上がらせていた。

 

 

「そして引き寄せられた金属粒子を含む粉塵は──格好の火種となります」

 

 

 模倣小町(デミダブルセヴン)が、腕にめり込んだ金属片で地面を殴りつける。その衝撃が火花となって粉塵に接触した瞬間。

 ドグッオン!! と、磁力線に集められた粉塵が爆発し、その爆発の至近にいた椎塚は、爆発の勢いに乗って吹っ飛んでいった。──一瞬後に、御巫のつま先が椎塚のいた位置に突き刺さる。

 空中で姿勢を立て直した椎塚は、新たに研究室に飛び込んできた模倣小町(デミダブルセヴン)を足場にして降り立つ。──至近で爆発を浴びた椎塚だが、計画した動きだったからかダメージはさほどない。スーツ型の機体で防御した、というところだろう。

 

 …………コイツ、切り抜けやがった……!

 

 

「惜しいですねぇ。日向さんの横槍がなければ、パンチの一発くらいは食らわせられたのですが」

 

「おいおい。レディに手をあげるってのはあんまりよくねーんじゃねーか?」

 

 

 言いながら、俺は『垂迹一糸(キルストリング)』を引き戻す。

 確かに、状況は俺たちの優勢だ。椎塚は大量の模倣小町(デミダブルセヴン)を湯水のように消費してようやく攻防を維持している。俺たちは、まだまだ余裕を持ったまま『詰将棋』を行えている。

 だが、あと一歩のところで詰め切れていないのも事実。……それは、詰め切れない程度にはコイツの状況対応能力が高いってことだ。

 

 ……これまでの一芸特化の敵とは違う。

 コイツは、『対応してくる敵』だ。それも、機能を扱えないという圧倒的ハンデを背負いながら。

 

 

「…………随分、手なずけていますねぇ、七夕」

 

 

 『垂迹一糸(キルストリング)』を巻き取り、次の一手を指そうとした俺の機先を制すように、椎塚は御巫に親し気に呼びかけた。

 その表情に浮かんだ悪辣な笑みを見て、俺の背筋に、猛烈な悪寒が走る。──アイツにこれ以上喋らせてはいけない!!

 

 

「御巫!! 聞くな!!」

 

『       』

 

「機能は効かないんですよ。これは超音波ですかね? 性質上二次運用も厳しいでしょう」

 

 

 冷ややかな。それでいて獰猛で……最低なほど悪辣な笑みを浮かべて。

 椎塚須金は、その言葉を言い放った。

 俺がずっと危惧していて──そして、この場で開陳されることなど想定もしていなかった事実を。

 

 

「それとも、まだ説明していないんですか? 貴方が彼の両親を殺した張本人だってことは」

 

 

 御巫七夕の解放。

 日向友悟の孤立。

 

 一四年前に発生した二つの事象が交差する、一つの始点についての秘密を。

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