【完結】アンチ^2テーゼ・リノヴェーション   作:家葉 テイク

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Thesis.39 開陳

 それに気付いたのは、つい最近のことだった。

 

 

『一人だよ。オジサンけっこう強いからね。といっても、結構手こずったらしいけど。研究所は爆散するやらなんやらで周辺も巻き込む大事故になったから、揉み消しきれずにニュースになったらしいし』

 

 

 ガンジツでの御巫の発言。あれが、決め手になった。

 

 一四年前、御巫のいた研究所は爆散し、周辺を巻き込む被害を生み出した。

 ……俺は、そんなニュースを知っている。何故なら、その爆発事故によって発生した高速道路の崩落によって、俺の両親は死んだからだ。当時同乗していた俺は、両親に抱きしめられていたお陰か一命を取り留めたが……二人はダメだった。

 その事故によって両親を失った俺は、身寄りもなかったので、施設に送られて──結果として、天涯孤独のままに育った。

 御巫の機能や話しぶりからして、研究所の爆散に御巫の機能が関わっていたのは間違いない。おそらく、幼かったせいもあって最奥差配(A2Tリノヴェーション)によって制御されてしまっていたのだろう。

 

 だが……それを御巫が知る必要はない。俺はそう思っていた。

 だって、何だかんだ言って俺は不幸な人生ではなかった。

 親がいなかったことで苦労したことはそりゃあ枚挙に暇がないが、自分の力や周りの力でそういうものは全部乗り越えてきた。別に、誰かに償ってもらわなきゃいけないほど、俺の人生は不足していない。

 

 ただ、御巫の側からしたら、そうは思わないかもしれない。

 確かに、御巫は事故の原因なんかじゃない。強いて責があるとするなら制御権を握っていた研究所の人間だし、それはおそらく『主任』だ。だが、事故を引き起こした機能は間違いなく『怨燃小町(バーンアウト)』ではあるのだ。

 もしかしたら。

 御巫が、俺の両親が死亡した事故に対して罪悪感を抱いてしまったら? あまつさえ、俺からまともな暮らしを奪ったのが自分だなんて風に考えてしまったとしたら?

 

 ……これまでの関係性が、崩れてしまうかもしれない。

 御巫が俺に負い目を持って、歩み寄って生まれた関係性が致命的に冷たいものへと変質してしまうかもしれない。

 

 俺は、それが怖かった。

 杞憂ならいい。御巫が『え? 悪いのは「主任」だよね?』とか堂々と居直ってくれるなら、俺は笑いながら御巫に同調する。むしろ、そうあって欲しくすらあった。実際にその通りだしな。

 でも。

 あの変なところで臆病で寂しがり屋な少女の心に、俺という存在を起点とした心の傷が万が一にでも発生する可能性があるのならば。

 

 ──俺はその事実を、墓場まで持っていく。

 その為ならば、一生アイツに嘘を吐きとおしたってかまわない。

 

 そう思っていたのに。

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

「……………………つまんねぇブラフだな」

 

 

 俺は、努めて冷静な声色を務めながら、椎塚に言う。

 

 …………この野郎。

 最低最悪のタイミングで、最低最悪の秘密を暴露しやがった!!

 

 

「よく調べたじゃねーか。俺の両親が事故で死んだことは、な。だが、両親の死因は単なる高速道路での運転ミスだよ。爆発事故なんざ関係ねーし、そもそも事故った地点は関東地方じゃない! 御巫の研究所の事故なんざ一ミリも関係ないんだよ!」

 

「──おや、()()()()()()()爆発事故の現場が関東地方という情報は当時のニュースでしか出ていないはずですが、博識ですね。七夕あたりから話にでも聞いていたんですか?」

 

 

 ………………っ!!

 しまった、縁もゆかりもない事件の詳細を知っているのは不自然だった……口が滑った……! 俺は思わず横目で御巫の横顔を伺い見てしまう。

 御巫は、黙って俺たちの会話の行方を眺めているようだった。……だがまだ言い逃れはできる。

 

 

「……ㇵッ、だから俺が事件の関係者だと? そういうのを言いがかりっつーんだ。雇い主のルーツに関わる事故だぞ? 一応アーカイブを検索してチェックしてたに決まってんだろ。過去を詮索してるようで悪いからわざわざ言ってなかっただけだよ。精神攻撃したさに結論ありきになってることに気付けてるか?」

 

「……………………友悟」

 

 

 御巫が、俺に呼びかける。

 感情の色はなかった。その様子から、少なくとも表向きは当惑した雰囲気もない。だが、その指先が微かに震えているのが、俺には分かった。

 だからこそ、俺は即座に言い返す。

 

 

「おい、御巫。こんなヤツの戯言に乗っかるんじゃねーぞ。らしくもない。『椎塚案件』ならよくあることなんだろ!? こんな悪趣味が事実な訳ないだろうが!」

 

 

 俺は必死に言い募るが────ダメだ。御巫は、もう気付いてしまった。

 反対材料は並べられるだけ並べたが、真実がそれで変わるわけじゃない。聡明な御巫は、俺達二人の情報からどちらが正しいか、冷徹に真実を掴み取ってしまう。

 

 

「おや? おやおやおやおやおや? どうやらその様子だと、気付いていなかった? いや、隠してもらっていたというところですか? そこの王子様によってぇ!!」

 

「もういいよお前、黙ってろ!!」

 

 

 『垂迹一糸(キルストリング)』を振るう。──しかしこれは、模倣小町(デミダブルセヴン)を盾にすることであっさりと防がれてしまった。

 …………! ダメだ。頭に血が上ってるぞ日向友悟。冷静になれ。こんなもん精神攻撃だって分かりきってるだろうが。相手の意図が分かってるなら、そこにリアクションをする必要なんてない。落ち着いて、戦闘を続行するだけだ。勝っているのは、圧倒的にこっちなのだから。

 ……………………そう分かっていたところで、簡単に割り切れるようなら相手だって精神攻撃のネタに選ばねーんだがよ…………!

 

 

「そうですよ。一四年前、彼の両親を殺したのは貴方です、七夕!!」

 

 

 嘲笑うように、歓迎するように、椎塚は両手を広げて言う。

 

 

「忘れたのですか? 『椎塚』とは()()()()ものだと! 貴方の思考がどうであれ、『椎塚』の行動は周囲への内的あるいは外的破壊となって出力される! 貴方の活躍が、既存の戦力関係図(メタゲーム)を破壊したように!!」

 

 

 心の中の大事な部分に土足で踏み込むように。

 御巫七夕という少女の精神を踏み躙るように、椎塚は語る。

 

 

「貴方が一四歳にして父親から独立したのはなぜですか? いくら貴方が強いとはいえ、まだまだ助手としてキャリアを積む選択肢もあったでしょう。日向友悟という少年よりも以前に、ただの一人も隣に並び立つ人間がいなかったのは? その人間性からして、誰かが貴方の隣に並び立つ可能性だって十分にあり得たはず!」

 

 

 御巫の心を貫くように。

 

 

「それは、貴方の『最強』が周りを害するからだ」

 

 

 椎塚は一つの事実を突きつける。

 

 

「七夕、貴方は恐れましたね? いずれ自らの『最強』が義父を害する可能性を。だから、貴方は独立という形で義父を自分の生活環境から排除した。日向友悟以前に理解者を持たなかったのもそう。『最強』という肩書を覆りがたい定義として受け入れてしまった人間を懐に入れるのが怖かった。だからこそ、貴方は『最強』を絶対のものとしなかった日向友悟に依存した!!!!」

 

 

 演説は、ほとんど哄笑の域に到達していた。

 首元に指を突っ込んで、勢いよく引っ張って胸元を肌蹴(はだけ)ながら、トドメのように、椎塚は突きつける。

 

 

()()()()()()!! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!!!」

 

 

 それに対して、俺が何か言い返そうとしたと同時。

 御巫は、静かに口を開いた。

 

 

「…………、……………………事実、か」

 

 

 俺の反応、椎塚の確信、その場のすべてを見て、御巫は真実に到達する。

 そのうえで、御巫は取り乱した様子を見せなかった。

 

 

「でも残念。今は戦闘中だよ? それはそれだ。その程度で、わたしは揺さぶられな、」

 

「御巫!! 何か来る!!!!」

 

 

 そのことに気付けたのは、俺が注意深く椎塚の様子をうかがっていたからだろう。

 状況に翻弄されつつも、秘密を暴露したという椎塚の意図に思考を巡らせていたからこそ、ヤツがぽつりと呟いた口の形に気付くことができた。──ヤツの口は、こう動いていた。

 

 

『ぬえどりの』

 

 

 『弔いの炎は都を焦がす(ぬえどりの)』。

 御巫の──『怨燃小町(バーンアウト)』の怪題(テーゼ)。そして、臨界稼働の機動キーワード。それを、ヤツが呟いたという事実に、極大の危機感を抱いた。

 御巫は俺の言葉を聞いてすぐさま構え、

 

 

「臨界稼働──『弔いの炎は都を焦がす(ぬえどりの)』!!!!」

 

 

 御巫の身体を包み込むように、光の渦が循環し────

 

 直後。

 

 

 ゴガッッッッッッッ!!!!!!!! と。

 

 

 放たれた絶滅の光芒によって、御巫七夕の姿はいともたやすく搔き消された。

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