【完結】アンチ^2テーゼ・リノヴェーション 作:家葉 テイク
「もらったのはいいけどさ、
「まだ本格的な理論学習もしてないのに
実際のところ、俺の怪異知識は一般人のそれよりもかなり進んではいる。
そうでなければ派遣留学の選考を通らないので当然だが、それはあくまでも用語知識だとか歴史だとか、そういう『お勉強』の範疇を出ない。
有体に言って、どこから手を付ければいいのか分からないという状況だった。
「ちょっとしたサポートさえあれば、
言いながら、
赤黒の振袖に、全身を覆う漆黒のボディスーツ。……おそらくは、あの服装全てが
そんな素人の想像の範囲を超えたプロは、なんてことない調子で言う。
「わたしなんて、理論学習なんか一切せずにコレを構築したからね。資格だって四年くらい前にサクッと取っただけだから。それまではモグリの最強でした」
「それ多分、
少なくとも、一般化して『誰でも理論学習せずにできる!』とはならないだろ。
「まぁまぁ」
「最初のうちは『テンプレ』を使うのも、一つの手ではあるんだけどね。でもまぁ、今回はせっかくだし試行錯誤しよっか。
「……そう言われると悪い気はしないな」
『テンプレ』というのは──企業が販売している、
初心者~中級者向けに
「ただ、そうは言ってもゼロからインスピレーションを捻り出せっていうのは厳しいだろうからね。まずはわたしの
ぼう、と。
「わたしの機能は『
……小袖の手。
確か、江戸時代の遊女の霊が和服に宿った、付喪神的な『怪異』だったはずだ。
憑いた者を病に陥れるようなタイプだったはずだが、明暦の大火……。……あ、『振袖火事』か? 明暦の大火の火元って、お寺で供養、つまり燃やした振袖の火の粉が原因って俗説があるからな。
『怪異』っていうのは人類特有の外的認知不協和だ。事実でなくとも、人口に
「……ってことは、コレに江戸を丸焼けにするほどの威力が……?」
「その通り。そして、そこがスタートラインね」
「
そして『怪異』の性質上、本来その火力を制御することは難しいだろう。『街丸ごとを含めた人を焼き尽くす』能力を反転させたところで、『街丸ごとを焼き尽くす炎を人が発する』能力にしかならないのだから。
つまり──そこに
「
何の変哲もない通常の端末ドローンのように見えるが……。空中に投影されたARウインドウには、ポップな文体で『Quibble』と表示されていた。……クイ、クイブルか?
「『
「おぉ……! 現場にいないと得られない知識だ」
「下手なアプリを使うとバックドアを仕込まれるから要注意ね」
「急に話の風向きがヤバくなってきたな?」
何を当たり前の様にめちゃくちゃ致命的な情報を提示してるわけ!? バックドア!?
「そんなに驚くほどのこと?
「いやこえーわ!!」
知りたくなかったよそんな事実! え? かなり薄氷の上に存在してない?
「あと、これは下手なアプリを掴んだ個人の伝承師の話だから。インフラを司ってる大手企業は当然自社製の開発アプリを使ってるのでもーまんたい」
「…………、…………それもそうか……」
「その会社がバックドア仕込んでたら終わりだけどね」
「…………………………」
やっぱこの文明、かなり薄氷の上に成立していないだろうか。
「で、このアプリを起動した端末ドローンを
「確かにな……。もっとこう、デカいコンピュータに繋いでガチャガチャやるもんだと思ってた」
「人工タンパク質製の量子コンピュータが成立する前ならそうなってただろうね。ただ、今や端末ドローンにも量子コンピュータが組み込まれて久しいからな~」
そう考えると、凄い時代になったもんだ。
俺は生まれた時からそんな時代だったから何の感慨もないが……って、俺と三つしか変わらないコイツにしたってそれは同じことじゃないか!?
「本題に戻ると、わたしの扱う『小袖の手』は、明暦の大火の火元になったとされている。つまり、街一つ焼き払えるほどの超火力を持つと
「そりゃ、そうだろうな……」
まさしく、ゼロか一〇〇かなのだ。決戦兵器として運用するならいいかもしれないが、そんなものを探偵業に活かすのは不可能だろう。
少なくとも、街を焼き払わない程度には制御できなければ話にならない。と思う。
「ここ覚えておいてほしいんだけど、『怪異』が持つパワーは個体ごとに一定なんだよね。デフォルトよりも制御力を上げようとすると、その分デフォルトよりもどこかの性能を下げなくちゃいけない。これが、
「ただ逆に、デフォルトよりもどこかの性能を下げれば、どこかの性能を上げることもできる。この辺の駆け引きはまぁセンスだよ。
「プレッシャーだよ……」
センスについては根拠なしのお墨付きはもらってるが、とはいえ素人だしなぁ……。
ちょっと不安に思っている俺に、
「
そう言って、
そしてその先に──豆電球ほどの『光』が現れた。
「これ…………炎、か?」
「いいや、光だね」
俺はちょっと困惑しながら、
「い、いや待て待て。『
「何もおかしくないよ。
と。
「わたしが搭載したのは、
「すご……」
拡大解釈ってレベルじゃねーぞ。
「ま、
ピピピ、と。
そのタイミングで、
間が悪いが、まぁそういうこともあろう。仮にも探偵業として、雑居ビルを自宅にできるほど稼いでいるのなら、そりゃあ依頼の類もひっきりなしだろう。
「仕事の依頼か何かか?」
「んにゃ、進捗確認だった。わたし今、依頼の真っ最中でねー。今日中に結果出さないとなのよね」
「こんなことしてる場合じゃなくないか!?」
いや俺からしたら有難いが、それで依頼失敗とかなっても俺は何もできないのですが!?
動揺する俺に、
「だーいじょうぶだーいじょうぶ。パッとやればサクッと終わるからさ。お姉さんに任せなさい」
「此処までで俺は
いや、確かに機能の魔改造っぷりは凄まじかったんだが……。
「で、えーとなんだっけ。そうだそうだ、〆切だったね。じゃあせっかくだし、この依頼が終わるまでにしよっか」
「はぁ!? そんなんじゃろくなアイデアも出ないと思うけど…………分かった、やってやるよ。
「半端なアイデアは認めないよ。あと、なんで他人事みたいに言ってんの?」
そう言って、
「
「………………はい?」
えーと、それってつまり、今日中に終わらせなければいけない急ピッチの依頼に同行して諸々の手伝い(当然慣れない)をしながら、その依頼が完遂される前にアイデア出しもやんなきゃいけないと? しかもちゃんとしたヤツを?
………………。
いや、本当にムリゲーすぎない!?!?