【完結】アンチ^2テーゼ・リノヴェーション   作:家葉 テイク

42 / 50
Thesis.42 詰将棋

 ──俺は壁に空いた大穴から施設の外へと飛び出した。『垂迹一糸(キルストリング)』を伸ばした立体起動による移動である。グン! と流れるように後ろに置いて行かれる景色を横目に、空へと飛び上がった直後──

 

 

「『弔いの炎は都を焦がす(ぬえどりの)』」

 

 

 ゴバッッッッ!!!! と。

 先程まで俺がいた地点を光の大顎が呑み込んだ。

 

 

『友悟!?』

 

「あんなの当たるか!! お前はそこで黙って俺の下克上を見てればいいんだよ!!」

 

 

 ──実際、荷電粒子砲はそこまで怖くない。

 というか、『怨燃小町(バーンアウト)』における荷電粒子砲の役割は、他の高火力系機能に対するマウンティングでしかない──と俺は考えている。

 『怨燃小町(バーンアウト)』の最大の利点は二つ。隙のない絶対防御と、間断なく繰り出される多彩な攻撃だ。しかし荷電粒子砲は臨界稼働の発動が前提である上に、発動までに溜めが発生する。しかも、掛け値なしの最大出力だからその間能動的な機能行使との並列処理はできない。──連発可能という特性を加味しても、他の戦法と絡めずに連発してくるだけならば回避は容易である。

 となると、そんな回避が容易な攻撃をわざわざ初手に撃って来た理由だ。使い慣れてない? 持久戦狙い? いいや違うな──。

 

 

()()()()()()()()()()? 悪いが俺が信頼を稼ぐチャンスにしかなってねーよ」

 

「どうかねェ、繊細な女の子の心がズタズタに引き裂かれていく音が聞こえてくるようだがよォ!!」

 

 

 大穴から顔を出して、椎塚が嘲笑った。

 

 …………悪趣味な野郎め。

 

 長期戦にもつれ込めば御巫が到着する。

 そうなればここまで持ち込んで来た椎塚の有利は崩壊するのだから、当然、椎塚は御巫が到着するまでのこの一〇分間で決着をつけたいと思っているはず。

 その点で言えば、荷電粒子砲は火力の面で最適解ではある。だが……こうして回避に専念すれば簡単に躱せる以上、実際の効果の面で言えばやや効率が悪いと言わざるを得ない。

 では一番意味があるとすれば──『己の最高火力が仲間に牙を剥いている』というシチュエーションを御巫に見せつけるという点だろう。御巫とは、まだ通話を繋いでいる。俺が『怨燃小町(バーンアウト)』を超える瞬間をあのバカ女に見せて、反証を成立させないといけないからだ。

 だがそれは同時に、俺が敗北すれば、御巫の心に消えない傷を遺してしまうという意味でもある。

 

 

「いや正直焦ったよ。分かり切ってるから白状するが、実際、七夕に死なれたらマジで困るんでなァ。……記憶爆弾の対策を仕込んだのはお前だろ? 日向友悟」

 

「だったらなんだ。お陰様で今後の警察には『記憶を見るときは部屋を明るくして離れて見てね』って注意書きが入りそうだがよ」

 

 

 軽口に対するツッコミのように、荷電粒子砲が放たれる。

 だが、これは『垂迹一糸(キルストリング)』のアンカーによって回避する。やはり、放射した荷電粒子砲は直線攻撃にしかできない。回避するのは容易だ。

 

 

「『禍福は糾える縄の如し』ってことだ。お前がいたから、予定よりも早く事態は進み『一切陳腐(A2Tリノヴェーション)』の調整は間に合わなかった。だが、お前がいたから俺は『最強』の喉元に届きうる刃を手にした」

 

 

 椎塚は皮肉げに笑って、

 

 

「実際、七夕の『怨燃小町(バーンアウト)』はシャレにならねェ。アレに真っ向勝負で傷をつけるなんざ無理だ。だから本来は、完成した『一切陳腐(A2Tリノヴェーション)』による『怨燃小町(バーンアウト)』複数がかりで七夕を潰して捕獲するのが想定プランだったんだわ。だが、日向友悟、お前という存在のお陰で、七夕は弱点を獲得した。お前が死ねば、七夕は完全に()()()。そうなりゃこっちの勝ちも同然だよ」

 

「ドヤ顏で話してるところ悪いが、地球を割れば全人類滅亡させられるって言ってるのと同じような実現確率の話をしてる自覚あるか?」

 

 

 ドウッッッ!!!! と。

 捻じ込まれるように放たれた荷電粒子砲を躱し、俺は発射点を見遣る。……椎塚の傍らに立つ、御巫そっくりの少女人形。アレが、今の『一切陳腐(A2Tリノヴェーション)』の端末か。

 

 俺は『垂迹一糸(キルストリング)』を伸ばして施設の壁面を掴み、縮ませて一気に空へと駆け上がる。──敵が荷電粒子砲による狙撃主体で俺と同時に御巫にも圧をかけているということは、セオリーで言えば接近して叩くべきだろう。一方的に遠くから撃たれてる訳だからな。

 だが……どうも、向こうもそれを誘っている節がある。真正面から接近すれば、待ってましたと言わんばかりに相手の仕込んでいた策が炸裂しそうだ。だからここは、あえて防戦一方を装って『逃げながら戦う』。時間はこっちの有利でもあるんだ。そのうち向こうが焦れてくる可能性だってある。

 俺はそのまま、『垂迹一糸(キルストリング)』をさらに伸ばして屋上へ──

 

 

「威勢のいい啖呵を切った割には鬼ごっこかァ!? ガキの遊びじゃねェんだぞオイ!」

 

 

 ゴバッッッ!!!! と。

 俺が『垂迹一糸(キルストリング)』で取り付こうとしていた部分が、ひとりでに爆裂した。──鉄筋が飛び散っている。磁力か……!!

 やっぱり思った通りだった。荷電粒子砲の連発を繰り返したのは、小技の隠れ蓑。そっちを俺に意識させておいて、他の能力で俺の意表を突く作戦だったんだ。

 

 

「臨界稼働の発動制限がないってのは確かに強力だが、その利点の本質は『臨界稼働と通常運用の併用ができる』ってとこにあるんだよ。勉強になったか? クソガキ」

 

 

 そして、移動先が爆裂したことで『垂迹一糸(キルストリング)』による高速起動は中断する。

 必然、俺は空中で身動きの取れない状態に陥るということで──それは荷電粒子砲の格好の的ということでもある。

 ()()

 

 

「誰に口きいてんだぽっと出野郎。こっちはそいつの助手やってんだぞ」

 

 

 ドボア!!!! と放たれた極光を、俺は()()()()()()()()()()()()()()回避する。

 そもそも俺がさっき『垂迹一糸(キルストリング)』を伸ばしたのは、移動のためなんかじゃない。

 

 

「『ノックバック』だ!!」

 

 

 硬質な物体に対してあえて斬れないように斬撃を与えることで、反動で『垂迹一糸(キルストリング)』を弾かせて高速で鞭打を食らわせる応用技。

 これならば、『怪異』を無効化する椎塚であろうとも致命的なダメージを食らわせることができる──が。

 

 

「────ッ!!」

 

 

 ボボン!! と。椎塚のフォローに回った模倣小町(デミダブルセヴン)の『爆発反応装甲』が、それを無効化する。爆発を受けた『垂迹一糸(キルストリング)』の一部が千切れ飛んで宙を舞った。

 

 

「…………『音波浮遊』か」

 

 

 相変わらず宙を浮いている俺を見て、椎塚は思案気に呟いた。

 

 そう。

 俺は今、『垂迹一糸(キルストリング)』の放つ超音波を利用して浮遊している。昼に御巫が猛プッシュしていた小物と同じ原理だ。音の波をぶつけ合わせることで物質を浮遊させる技術。

 高速機動には到底及ばないが、空中で身動きが取れない間のサブ移動くらいには十分使うことができる。

 

 その間に、俺は改めて屋上に『垂迹一糸(キルストリング)』を伸ばし、爆裂した穴を通って屋内に侵入する。

 もちろん、御巫の到着まで鬼ごっこをするなんてしみったれた考えは俺の頭には一ミリもない。

 むしろこれは、一〇分以内に『怨燃小町(バーンアウト)』を攻略する為の戦略だ。──椎塚の認知機能をすり抜けて向こうに肉薄するための、な。

 

 真正面から接近すれば、おそらく椎塚が用意しているであろうカウンターによって手痛いしっぺ返しを食うのは目に見えている。

 であれば、認知の範囲外から接近すれば、向こうは『用意していたカウンター』ではなく『その場で考えた対抗策』を使わざるを得なくなる。

 戦場から準備された戦略性を取り払って、アドリブ勝負に持ち込んでやろうっていう魂胆である。まずはその為に────

 

 

『      』

 

 

 ズガガガガガガガガ!!!! と。

 『垂迹一糸(キルストリング)』が、建物の床を乱雑に斬りまくる。

 音がするということはこちらの居場所を伝えるということでもあるが、これは問題ない。……っていうのも、そもそも椎塚は研究所の設備を破壊されることを嫌ってたからな。

 そもそも俺達の目の前に現れたのも、御巫が施設全体を焼き払おうとしたからだし。その時も、『これ以上素体を焼かれたら敵わない』みたいなことを言ってたもんな。椎塚からしたら模倣小町(デミダブルセヴン)は『一切陳腐(A2Tリノヴェーション)』の残弾でもあるのだから、当然っちゃ当然だが。

 

 

「ゆーうーごくゥーん!! あっそびーましょーお!!」

 

 

 必然、椎塚は慌ててこちらへ向かって来る。俺が接近するのは、()()()()()()()だ。

 『追っている』という自認を持っている瞬間、相手が想定するのは追う対象の背中のみ。その瞬間、追っている俺自身は()()()()()()となる!!

 

 

「あやとりしようぜ!! ほら、糸だよ!!」

 

『       』

 

 

 ギュオ!! と、『垂迹一糸(キルストリング)』が建物の中に飛び込んで来た直後の椎塚へと迫る。が、それは椎塚の傍らにいた模倣小町(デミダブルセヴン)の『爆発反応装甲』によって弾かれる。それでも椎塚は、認知の外からの俺の攻撃に一瞬瞠目する。

 ──その一瞬が欲しかった!!!!

 

 

『       』『       』『       』『       』『       』『       』『       』『       』

 

 

 ドパパパパパパパパパ!!!! と。

 模倣小町(デミダブルセヴン)の周辺で、突如小爆発が連続する。

 

 ……黄泉を歩いていた時、御巫は言った。『怨燃小町(バーンアウト)』の『爆発反応装甲』の判定基準の中には、『怪異』の有無も存在していると。つまり『怨燃小町(バーンアウト)』からすれば、『垂迹一糸(キルストリング)』が放つ超音波も立派な『攻撃』になるのだ。

 そして、まるで行き過ぎたアレルギー反応によってくしゃみが止まらなくなるみたいに、放ち続ける超音波にいちいち反応して、小爆発が繰り返される。

 

 

「爆発自体は、問題ないだろうよ。『怨燃小町(バーンアウト)』は酸素を消耗しねーし、椎塚は爆発の影響を受けない」

 

 

 だが。

 

 

「果たして建物の崩落はどうかな?」

 

 

 『垂迹一糸(キルストリング)』によって斬りつけられた床は、ただでさえ強度が低下している。

 その状況でさらに連続した小爆発を受ければ、当然後に待ち受けているのは──床の崩落だ。

 

 ガゴン!! と。

 小爆発の中心で、何かが崩壊する音が響いた。

 それだけじゃない。崩壊した建物は、小爆発によって乱雑に弾き飛ばされ、それがさらに爆発を生むという循環で、周辺では瓦礫がまるで嵐の様に吹き荒れた。──『最強』が『最強』である限り、その連鎖を止めることはできない。

 そして椎塚が溜まらずそれを止めたならば──その瞬間、『怨燃小町(バーンアウト)』の絶対防御は停止する!

 

 フ──と。

 ふいに、爆発が停止した。

 

 

『       』

 

 

 瞬時に俺は、狙いすまして『垂迹一糸(キルストリング)』を放つ。

 爆炎が消えたその向こうで、椎塚と目が合った。

 

 直後、紫電が迸る。

 

 …………!! コイツ、研究所内だってのに、設備とかガン無視して電撃を飛ばしてきやがった……!!!! ……いやそうか、『怨燃小町(バーンアウト)』の精密性をフルに使って、俺にだけ電撃を通してきたんだ……!

 電撃に貫かれつつも、俺は『垂迹一糸(キルストリング)』を振るう。しかし──『垂迹一糸(キルストリング)』は、椎塚に届く前に爆炎によって弾かれてしまう。

 

 

「デフォルト設定の穴を突いて来たようだがなァ、『最強』ってのは棒立ちのまま殴られ続けるサンドバッグじゃねェ。挑戦者に対して対応するから最強なんだ。分かるか?」

 

 

 ……! 『爆発反応装甲』の設定を変更したのか……! 機体による攻撃さえ届かなければいいんだから、『問答』を反応対象外に設定したって実害がある訳じゃない。当然の理屈だ。

 

 

「残念だったな。ところで電撃の感想聞いてもいいか? 大分シビれたんじゃねェの?」

 

「…………生憎だが、肩凝りは解れなかったよ。まだちょっと弱かったかもな」

 

 

 ………………保険の為に、『垂迹一糸(キルストリング)』をアースとして伸ばしておいてよかった。

 完璧に緩和はできなかったが、それでもダメージはそれほど大きくない。でなければ、さっきの一撃で死んでいたかもしれないからな。

 だが……。

 

 

「強がるなよ。薄氷の上を歩いてようやく生き延びてるようなそのザマだ。いつ足を踏み外すかってびくびくしてんじゃねェの?」

 

「その顏」

 

 

 そう言って、俺は椎塚を指差す。

 椎塚の頬には、先ほどの爆発と瓦礫の嵐で着いたと思しき傷が一筋。

 確かに『怨燃小町(バーンアウト)』は突破できなかった。だが、それを操る椎塚はその限りじゃない。

 俺は嘲笑うように言ってやる。戦況の指摘というよりは、目の前の男の神経を逆撫でするように。

 

 

「そういえばさっき、御巫のことを『真っ向勝負で傷をつけるなんざ無理』とか言ってたな。で、お前の横にいるそれはなんだ? 木偶人形だっけ?」

 

「……典型的な負け犬の台詞だな。戦力差がありすぎると、かすり傷一つで誇っちまうらしい」

 

 

 言葉の応酬。俺達はお互いに、笑みを浮かべる。

 目の前の男をぶち殺すという確殺の意思を込めて──次の攻防が始まった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。