【完結】アンチ^2テーゼ・リノヴェーション 作:家葉 テイク
破壊の音が連続していた。
先程の大音量の『問答』によって既に建物全域を切断可能対象としていた俺は、『問答』を仕掛けることなくノータイムで建物を切り刻み、音波浮遊によって縦横無尽に飛び回る。
対する椎塚は
戦闘は、逃げる俺と追う椎塚の構図に移り変わっていった。
「オラオラどうしたァ!? 反撃が鈍くなってきてるなァ!!」
「くっ!」
──その一幕。
逃げ場を埋め尽くすように放たれた炎に対し、俺は両手を遮るように掲げた。
ィィィィ……ンと。
誰の耳にも届かない領域の音波が放たれる。すると、炎は俺の目の前で弾けて散った。研究所内部での炎だ。椎塚も当然機材には炎が届かないようにしていたが、思いがけず俺に炎を弾かれたことで壁材から大量の煙が立ち込める。──炎はすぐさま椎塚によって無効化されたが、二次現象である煙までは消えない。
俺はその隙に音波浮遊を使って煙を
黒煙とはいえ、身体に害がある訳ではないので、至近に押し付けられるはず。そして俺から見て手前にある音波浮遊用の超音波(『怪異』の産物なので『爆発反応装甲』の反応対象)への反応爆発によって
「甘い甘い。『爆発反応装甲』の発動は害の有無でチェックしてるんじゃねェよ。基本は『通して良いもの』以外全部シャットアウトだ。じゃなきゃ突破し放題だろうがよ」
「……おい聞いてるか御巫。お前その温室育ち早いとこ辞めないと、将来免疫力が低下して苦労すんぞ」
呆れて軽口を叩くが、端末ドローンから返事はなかった。
……分かってるよ。軽口に対応できる精神状態じゃないってことくらい。言った傍から心苦しくなるだろうが。……くそっ、墓穴掘った。
「しっかし、逃げてるように見せかけて、黒煙で俺に永久的なデバフを与えようとしてたとは。抜け目ねェなァ日向友悟。やっぱお前、センスあるぜ」
「そうかい。そういうテメェは今のところ最強のスペックにおんぶにだっこだな?」
「本当にそう思ってるか?」
ニヤリと、椎塚は不敵な笑みを浮かべて来る。
……見透かしやがって。めちゃくちゃ面倒に思ってるよクソが。
俺は内心舌打ちして、音波浮遊とノックバックの反動を重ねて横へ跳躍する。直後、ゴゴン!! と磁力によって操られ上から降って来た瓦礫が先程まで俺のいた場所を圧し潰した。……この野郎、施設を破壊したら破壊したで割り切って攻撃に利用してきやがる……!
お陰でアンカーによる移動がさっきから全然使えなくて、制御の難しい音波浮遊とリスクの高いノックバックを頻繁に使わなくちゃいけなくなってきてるぞ。……今はまだいいが、あと一、二分もこの調子で攻防を続けばボロが出てきそうだ。
「随分苦しそうなツラになってきてねェか? せめてカップラーメンができるくらいは粘ってくれよォ!!」
ゴッ!! と、瓦礫が俺に向けて横向きに叩きつけられる。
──これを回避すると、先ほどまでの繰り返しだ。発想を超越しなくちゃいけない。たとえばそう、
ズゾン!! と、向かってきた瓦礫を切断して切り開く。とはいえそれで勢いが消えるわけではないので、俺は身体を横に傾けてギリギリのところで瓦礫の圧殺を回避し──、
「高速で向かって来る巨大な瓦礫を切断するとは、なかなかの切断スピードじゃねェか。じゃあこれはどうだ?」
──切断した瓦礫がそのまま動き、切断面が修復されるみたいにして俺のことを圧し潰してきた。
…………来た!!
俺は両手で二つの瓦礫に触れ、上半身に纏った『
瓦礫の操作と言っているが、実際のところ、『
──
ィィィィィ……と、『
代償として俺の学ランの上着も一緒に千切れ飛んだが、仕方がない。くり抜かれた瓦礫の内部に閉じ込められた俺は、その隙に床を切り裂いて人一人分が降りられる程度の穴を作り、下階へと飛び込んだ。
もちろん、こんなのは大した時間稼ぎにもならない。血も流れ出てないし、なんか大量の粉が切断面から出て来る訳だからな。精々数秒くらいの時間稼ぎだ。だが、今はそれだけあれば十分である。
「……………………いよいよ苦し紛れか──とでも言ってほしげだなァ。演技が雑になってやしねェかァ!?」
上階から瓦礫を蹴散らす音がした後、
…………チッ、読んでたかよ。
たった一人の襲撃を数メートル先から視認して、俺は舌打ちする。
ボヒュゴッッッ!!!! と。
その直後、周辺から空気の波が
音波浮遊の原理は、詳しく説明すると『音響放射圧』という音波のエネルギーが媒体中を伝わる際の圧力による。
音というのは空気の波なので、当然音が伝わる部分の物質は分子レベルで言うと疎となる部分と密となる部分が発生するのだ。そしてそれは通常であれば微々たるものだが、高出力の超音波を局所に集中させれば空気が極端にない空間──真空状態を作りだすこともできる。
実は、音波浮遊はこの真空状態を作り出すこともできるほどの音波によって物質に干渉しているのだ。だが──この範囲を『
「…………機械の身体で良かったな。生身だったらこれで窒息してたんじゃねぇの?」
これによって、俺が降りた穴から馬鹿正直に降りれば真空地帯に突入するよう──ごく狭い空間にはなるが──音波を集中的に照射していたのだ。
無論、音波を照射して作り出している真空地帯なので、そこに『
ただ、そこのところはタイミング勝負だ。上手い具合に飛び込む瞬間に音波を解除すれば、『爆発反応装甲』を発動させることなく、飛び込んできた瞬間に『真空地帯の解除』をぶつけることができる。
つまり、『真空による酸欠』と『大気圧による圧殺』の両面攻撃ができるのだ。……かなり準備は要るけどな。
とはいえ、酸欠が存在しない機械の身体を持つ
ボウゥッ!! と、ひときわ大きな爆発によって、施設の壁が破壊された。
──うわ、結界に使ってた『
しかもそうか……大気圧を超える大爆発によって、酸素の供給も実現しやがった! 真空だってのになんで炎が出せるんだよインチキ機能め!
「いや、実際ヤバかったと思うぞ?
安全に処理が終わった後で、椎塚が下階に降り立つ。
…………クソ、全体の四〇%は今ので千切れたか。千切れればその分俺の身体強化に回せるリソースは減るからな……。面倒なことしてくれやがって。
「……おォ? 随分涼しそうな格好になったじゃねェか。夏だってのに学ランなんか着て暑苦しいなってずっと思ってたんだよ」
「ガクセーはガクセーらしくだろ。何もおかしくねぇ」
「だが、見たところ随分機体は削れたようだなァ? そのザマでさっきみたいな『細断』ができるか? 身体強化だってかなり弱まってんだろ?」
「……まぁそうだな。その通りだよ。だが」
俺は溜息を吐いて、
「こっちの大技をスカしたからって迂闊すぎないか? 俺は別に、千切れた機体が『切断』を使えないとは言ってないぞ」
壁に張り巡らせていた機体は、確かに壁ごと吹き飛ばされた。それによって結界に使っていた──天井や壁に張り巡らせていた機体は俺の手元から切り離され、機体としては操作できなくなった。
つまり。
ズゾン!! という音と共に、ただでさえ戦闘の余波でボロボロになっていた天井が崩れ落ちる。
もちろん、こんな単純な攻撃は『爆発反応装甲』の反応対象だ。『
ただし。
椎塚須金の敗北条件は、別に『
「…………!! テメ、やめろ
「もう遅いぜ。なんせそれの発動は『自動』だからなぁ?」
俺が床に手を当てて切断を行い、さらに下階へ逃げ込んだのと同時。
『爆発反応装甲』に接触した天井が、天井の落下を押し返すほどの爆発によって、まるで手榴弾のように破壊を撒き散らした。
「……単なる嫌がらせだがな。精々吠え面かきやがれ」
──研究施設そのものを崩壊させるように。