【完結】アンチ^2テーゼ・リノヴェーション 作:家葉 テイク
瓦礫の崩壊する音が連続していた。
降り注ぐ瓦礫を『爆発反応装甲』による爆裂が弾き飛ばしたことによる疑似手榴弾は、圧倒的な破壊を広範囲に撒き散らしていた。
爆発地点よりも上階はもちろん、崩壊の余波によって下階にも被害は及んでいる。その中で──ボン、ボン、ボンと、断続的な爆発音が響いていた。
『爆発反応装甲』……しかし、
そこで俺は、
「…………これは」
「チッ、見つかっちまったか」
そこにあったのは、針の様に細長い足が複数生えた、金属製の缶詰だった。缶詰の大きさはボーリングの球くらいある。それを中心とした半径一メートルくらいの球状で、『爆発反応装甲』が展開されているのだ。
「おかしいとは思っていたよ」
追いついて来た椎塚に向き直り、俺は言う。
椎塚の傍らにいる御巫の顔をした木偶人形は、ただ無言でこちらのことを見つめていた。
「『
椎塚須金は、触れた『怪異』を無力化してしまう怪異殺しの体質だ。──
「…………
脳だけを切り抜いて、機械の中に閉じ込めて制御する。そしてその脳に、
その方式ならば、『怪異』と連なる魂の繋がりに椎塚は介在しない。椎塚はあくまで、機械に対して思考制御の命令を送るだけだ。
俺の言葉に椎塚は感心して、
「ほォ、よく理解したな。普通は目の前に現物があっても真っ当な倫理観が認識を拒むんだがよ」
首筋に手を当て、こきり、と首を傾け音を鳴らす。
研究施設の約半分が崩壊し、自分の計画の核に近づかれているというのに、椎塚にはまだ余裕があった。──未だ『
「
椎塚はひらひらと手を振って、簡単そうに言う。
人の脳を部品として使う。──当然のようにひと一人の人生を使い潰しておいて、椎塚は平然としていた。
「お? 義憤でも抱いてるか? なら安心させてやるよ。そいつはその感情には値しねェ。
「…………!?」
な、鳴釜!? 警察に連行されたんじゃ……、……いや、コイツも確か警察の協力者ってポジションだったか!!
まさかそこから鳴釜を回収して……!?
「一応、そいつもこっちの陣営だからな。余計な情報を出さないように口封じだ。ついでに部品にも使えて一石二鳥ってな。廃品回収ってヤツだよ。……おっと、それはそっちのババァの肩書きだったか」
「…………救いようのねェクズだな」
「今更実感したか? 分かり切ってたことだろ」
椎塚は鼻で笑って、
「で? 此処に辿り着いてどうしたかったんだ? 『核』探しでもしてたか? だとしたら残念だったなァ。『爆発反応装甲』の攻略を諦めて俺の計画の核を潰す方向にシフトしたらしいが、最大のウィークポイントはきちんとガードしているに決まってんだろ? テメェはただ追い詰められただけだよ」
「…………、」
椎塚の煽りに、俺は黙って一歩下がる。
椎塚も、不用意に距離を詰めてはこなかった。
「だが、俺は油断しねェ。大したモンだよ。単なる派遣留学生とは思えないぜその
それぞれが、人なんて簡単に消し炭にできるほどの威力を秘めている。それを、まるで銃口でも向けるみたいにして漂わせながら、
「こっから先は詰将棋だ。精々長く生き延びてくれよ!!」
──その言葉を号砲として、八つの火の玉が一斉に俺に向けて放たれる。
同時に、俺は自分の背後で磁力操作によって集められた瓦礫が壁として形成されているのを把握していた。追い回す構図の再開と見せかけて逃げ道を磁力で封鎖している訳だ。相変わらずの性格の悪さだったが──分かっていれば抜け道もある。
「う、おおおおおおォォおおおおおおおおおおおおおッッ!!!!」
俺は横合いにある脳缶へとタックルする。
当然、『爆発反応装甲』で守られた脳缶に触れるよりも先に、俺は爆発によって吹き飛ばされるが──その軌道は俺が普通に逃げようとした場合のものとは異なる。結果として、向こうが想定していない軌道で吹っ飛んだ俺は磁力操作の瓦礫の壁と炎を潜り抜けて、御巫が吹っ飛ばされた壁の穴から施設の外へ飛び出すことに成功する。──代償として、また『
「くッ、おォ!!」
残った機体を必死に伸ばし、俺は壁に張り付いて上へ上へと移動する。
だが、椎塚がそれを許すはずもない。
──『
「…………チェックメイトだ」
こちらの最後の一撃を警戒してか、壁から顏すら出さない椎塚の声が、俺の鼓膜に届いた。
極限まで濃縮された一瞬の時間。
端末ドローンの向こうで、嗚咽の声が滲み出る。
そこで、俺は一言こう呟いた。
「
直後。
ズッパン!!!! という斬撃音が響き、
ゴオ!!!! と、身体が縦に真っ二つになったことで炎は狙いを大きく逸らし、関係のない虚空を焼いた。
──最後の詰めまで忘れちゃいけない。
…………石の欠片を落としてみると、こつんと音を立てて地面にそのまま落下した。流石にあそこまでバラバラにされれば、
俺は壁から降り立って、地面に着地する。
「…………どうやった」
研究所の中では、『最強』を攻略された椎塚が、唖然とした表情を隠しきれずに俺のことを睨みつけていた。
それを無視して、俺は口を開いた。
「『問答』は既に終わっていた。だから後は、
先ほどの超音波の連発による『爆発反応装甲』の誘発。アレに対して対応する為に、椎塚は俺の『問答』を反応対象外とした。……つまり、
だが当然、切断する為には機体が直接接触する必要がある。それに、椎塚だって馬鹿じゃない。切断されないように、俺や機体は『爆発反応装甲』の対象にしていたはずだし、俺の接近には細心の注意を払っていたはずだ。
そう。
「俺は近づかなかった。ただ、
◆ ◆ ◆
「『ノックバック』だ!!」
硬質な物体に対してあえて斬れないように斬撃を与えることで、反動で『
これならば、『怪異』を無効化する椎塚であろうとも致命的なダメージを食らわせることができる──が。
「────ッ!!」
ボボン!! と。椎塚のフォローに回った
◆ ◆ ◆
「……ま、さか……! あの時の……!?」
「千切れた機体からでも『切断』が可能なことは既に見せてあったっけな。後は簡単だ。戦闘を長引かせ、多彩な攻略、戦闘区域の破壊、計画の核の露呈、色んな刺激を椎塚の野郎に与えた。最初の戦闘で破壊された俺の機体がそこに転がっているという些細な逆転のきっかけを忘れさせるためにな」
そして、目論見通り
千切れて地面に転がっていた『
「『爆発反応装甲』は確かに無敵だ。その抜け穴を潜り抜けるのは至難の業だろうよ。だが、あくまでこの機能は『向かって来るもの』に対してしか反応しない。自分から触れたものに対して『爆発反応装甲』は動かないし……既に触れているものもそれ以上作動しないんだよ」
俺は、呼びかけるように言う。
後に残るのは──
「…………ハッ、スゲェな。マジでスゲェよテメェ。まさか『最強』を攻略するとは……」
「あ? テメェには話してねーよ。黙ってろ三下」
吐き捨てて、俺は意識する。端末ドローンの向こう側、通話の先でこの状況を見守っている少女のことを。
俺が今までしていたのは、目の前の外道に対する勝利宣言なんかじゃない。とある最強という定説に対する
「なぁ」
『
「分かるか、御巫。俺は既に……お前に触れてるんだよ」
同じことだ。
最初にちょっかいかけてきやがったのは、お前の方。俺はただ、繋がれた手を放さなかっただけだ。
強いて
「意味は、『もう離さねーぞ』だ。二度も言わせんなよ、馬鹿女」
──そうして。
ある少女の最強に対する反証は、ここに成立した。