【完結】アンチ^2テーゼ・リノヴェーション 作:家葉 テイク
それから二日後、俺達は枕飾さんと共に自凝県警本部にやって来ていた。
県警本部の廊下を歩きながら、枕飾さんは相変わらず慇懃な調子で話を切り出す。
「先日はお疲れ様でした。お陰様で身内の膿も出せてウチとしても大助かりでしたよぉ」
「警察内部にも手を伸ばしてるって聞いた時はびっくりしたよね。椎塚須金もわたしと同じように警察に手を貸す伝承師だったらしいから、当たり前と言えば当たり前だけど」
椎塚が捕縛されたことで、ヤツが動きやすくする為に手駒にしていた警察内部の人員も炙り出されたらしい。
……こう言葉にすると簡単だが、それが至難の業というのは素人の俺にも分かる。ましてたった二日で結果を出したというのだから、この枕飾浅夢という人の凄さを痛感する。伊達に御巫の協力者はやっていない。
「そういえば、歳旦重工ってどうなるんですかね。経営にも携わっていた重役が捕まっちゃいましたけど」
「ん~、正直なところ完全に被害者ではあるのですが、流石に責任は免れないですからねぇ」
俺の問いに、枕飾さんは悩まし気に応える。
まぁそうだろう。何せ、経営陣の内部にいるほどの重役が警察内部の人員を手駒にして好き放題やっていたのである。その上、そもそも現在の
経営自体も下火になりつつあるとあっては、これ以上
「とはいえ、歳旦重工──『
……え。そんなに深刻な状況なんすか。
いやでもそうか。そもそも『
枕飾さんは依然として困ったような笑みを浮かべて、
「いや~、本来なら公取委が出て来るような状況なんですよぉ。我が国の産業って。ただ、ダブルスリーナイン社は政府と癒着してますし、インフラ整備もまだまだ途上ですし、今ダブルスリーナイン社を叩いても国民の誰の為にもならないというのがウチの
「おおう…………」
なんか汚い社会の一面を見てしまった。
別に正義の為に戦ってたりとかはしてないのでなんでもいいけど、しかしやっぱり一抹の気持ち悪さみたいなものはある。
こういうのも、この
「ただ、とはいえ完全な独占状態になるのはねぇ……ってことでしばらくは『
「ああ、そうなるんすね」
てっきりそこもダブルスリーナイン社が呑み込むもんかと思ってた。流石にそこまでにはならないか。
っていうか、そこまでやっちゃったら完全にダブルスリーナイン社の天下だもんな。
「かくして世界は少しずつ歪みながらも、表面上はそれなりに安定して回っているわけです。我々のお仕事はその歪みが世間の皆々様に見えるほど大きくならないようにせこせこ頑張ることですねぇ」
「お勤めご苦労様っす……」
「おや、他人事じゃないですかぁ? 日向さんも、御巫さんの助手をやるならお仲間なんですよぉ?」
「う……うっす…………」
な、なんかすっかり枕飾さんからも身内認定されちゃったな……。
もっとも、御巫すらも手こずるような──っていうか警察に何度も捜査協力をしていたほどの伝承師を独力でボコってご提供した訳だし、そういう扱いになるのも納得だが。
「ところで」
県警本部の廊下を歩きながら、俺達の前を歩く枕飾さんは視線だけを俺達の方に向ける。いや──俺達というよりは、俺の隣を歩く御巫か。
「…………御巫さんは、今日はいつもの格好ではないんですねぇ?」
かなり発言に慎重を要したであろう問いかけには、枕飾さんの困惑が十二分に含まれていた。
無理もない。常在戦場のプロを地で行く御巫だが、現在の格好はいつもの振袖ボディスーツではなく、普通の女の子がするような私服なのだから。
振袖みたいに袖口がふわっとしたオフショルダーの黒いブラウスに、デニム地のタイトスカート、足元は厚底のサンダル。今までの御巫では考えられないくらい洋風だが、不思議と全体的な印象は振袖姿を連想するようなファッションだった。
「ん、別にアレがなくても機能は問題なく使えるしね」
それに対し、御巫は特に気にした様子もなく平然と答える。
──ここ数日で、御巫は私服を着ることが増えた。
もともと服自体持っていない訳ではなかったのだが、俺と一緒に行動することが増えたので『悪目立ちしないように』とのことだった。
理由については考えても詮無いが、驚いたのはスーツがなくとも問題なく機能を使えていることだ。確かに
ちなみにそのことを問い質してみたところ、御巫曰く、
『別に出力には問題ないよ。スーツは制御向上用の仕掛けだからね。
とのことだった。何ならできないの? と聞けば、返って来たのは『集光レーザーと広域ハッキングとフルパワー荷電粒子砲』という大変有難いお言葉。それ精密さが落ちるって言わなくねぇ? だってフルパワーじゃないなら荷電粒子砲だって撃てるってことじゃん。何の意味もねぇよその制約。
とはいえ制約は制約なので、このことは外部では漏らさないようにという約束なのであった。対外的には『身体強化以外の違いはないよ』というスタンスである。
「それに、戦力はもうわたしだけじゃないし」
そう言って、御巫は俺の腕を抱き寄せる。
俺がそれに対して何かリアクションをする間もなく、御巫は手を放して。
「わたしも助手を迎えたからさ。少しは分業を覚えようと色々頑張ってるんだ~」
「それは良いことですねぇ。日向さんは腕も確かな訳ですしぃ。これは、こちらからも期待がかかりますがぁ……?」
「……あんま重い期待は背負えないですよ……って言いたいところなんですけど」
でもまぁ、枕飾さんには椎塚ボコったの俺だって報告しちゃったしなぁ……。
御巫が吹っ飛んで行ったのがあまりにもド派手に色んな映像に映っちゃったもんだから、言い逃れもできず……。そうなると、(『
……それに、俺が始めたことだからな。
「俺にやれる範囲でなら、頑張りますよ」
「ん~、好青年。素敵ですねぇ。御巫さんが気に入るのもよく分かりますよぉ」
「でしょ?」
楽しそうに言う枕飾さんに対し、御巫はもはや衒うことなく屈託のない笑みを向けた。いや、そんな堂々と言われると流石にこっちが照れるのだが……。
早速予定より一話伸びたので、今話除いてあと二話になりました。
あとからお読みの方、上の一文がどんだけ見通し甘いかお分かりでしょうね。