【完結】アンチ^2テーゼ・リノヴェーション   作:家葉 テイク

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 本日お昼にも更新されてます。
 あと、最終話の予定だったのですが長くなりすぎたので分割してます。


Thesis.49 それから ④

 県警本部で後顧の憂いを断った俺達は、その足で御厨さんの診療所へやって来ていた。

 ここ数日、毎日のように足を運んでいる御巫の検診の為である。

 

 

「はーめんどくさい。もうすっかり全快だっていうのに」

 

「そうは言っても、御巫、戻って来たときかなりボロボロだったじゃん」

 

「アレは荷電粒子砲に吹っ飛ばされたせいで能動的移動だったから自動発動(デフォルト)の『爆発反応装甲』が効かなくて……何棟かビル貫通したりしただけだよ」

 

「『だけ』ってレベルじゃねーだろ。その上、亜音速で吹っ飛ばされて急制動かましまくってたんだ。内臓に変な圧がかかってたって御厨さんも言ってたじゃないか」

 

 

 あの戦いで、御巫は荷電粒子砲を食らっている。

 臨界稼働による防御(当たり前のように言っているが、荷電粒子砲にしか使わない臨界稼働を平然と防御に応用してるのもおかしい)はあったが、それでも電子線やら磁力やらの余波とか慣性による内蔵へのダメージとか、心配すべきことは幾らでもある。

 精密検査の結果問題なしということになったが、御厨さんとしてはしばらく様子を見たいというのが人情だろう。

 

 

「でも検査の結果問題なしだったもん。毎回『常世』から『黄泉(こっち)』行くの面倒なんだよね~。英姫も素直に医師免許取って『常世(あっち)』でちゃんとした診療所やればいいのに……」

 

「色々と難しいんじゃないか? 闇医者だし……」

 

 

 適当に言いながら、俺は御巫と並んで御厨さんの診療所へと入っていく。

 相変わらず人のいない診療所をずんずん進んで行くと、やがてぱたぱたと幼い少女がこちらへ駆け寄って来た。白衣を身に纏ったゴシックロリータの少女。御厨さんだ。

 

 

「あら~もう来たの~!」

 

「やほ。来たよ~」

 

「今日もよろしくお願いします」

 

 

 ここ数日毎日来ているので、俺ですらもうすっかり勝手知ったる我が家の様相である。診療室へ案内され、御巫に各種機材を取り付けるのを手伝っていると、

 

 

「じゃ、あたし残りの検査機材出してくるからちょっと待っててね~」

 

「えー先に済ませておいてよ。ただでさえ時間かかるのに」

 

「御厨さんだって忙しい中時間作ってくれてるんだから文句言わない」

 

「えっへへ。いや~ちょっと別件の作業があってねぇ~」

 

 

 ぶつくさ言う御巫に形ばかりの謝罪をしつつ、御厨さんはさっさと出て行ってしまう。一応フォローに回ったが、確かに珍しい。御厨さん、基本的に御巫第一優先って感じの人だからな……。これまでの検査も、必要な機材類は全て用意してからだった。

 一応、約束の時間より早すぎるってこともないと思うんだが……。何か重要な仕事でもあったんだろうか?

 などと考えていると、

 

 

 ィィィン──と、診療室の扉が開く。

 扉の向こうから、一人の少女が入って来た。……大人びた雰囲気だが、年の頃は俺と同じくらいだろうか? 黒髪を肩くらいの長さにした、仏頂面の少女だ。そんな少女が、薄いピンク色のナース服を着ている。……コスプレ衣装みたいなミニスカのナース服である。これ最早辱めとかの領域じゃないか?

 

 

「あ、ども」

 

「…………」

 

 

 ……無視された。

 しかし、ナースの少女を見た御巫は得心したとばかりに頷いて、

 

 

「あぁなるほどね。『ナース』を用意してたから準備が間に合わなかったんだ」

 

 

 ナースの少女は、こちらに一瞥もせず機材の調整を始める。……『ナース』? そういえば、以前もそんな感じのことを言っていたっけ。確か、医療費を出せない患者のことだった気がするが。

 ……しかし不愛想だな。こっちに挨拶くらいしてもいいのに。まぁ医療費も出せないで闇医者のお世話になるくらいだから、こんな見た目で以前は相当アングラだったのかもしれないが……。

 

 

「おっまたせ〜」

 

 

 そして遅れること数分、御厨さんもデカめの機材を運びながらこっちに戻って来た。

 戻って来た御厨さんに、御巫は軽い調子で言う。

 

 

「やっと新しい『ナース』入れたんだね」

 

「そうなのよ。ちょうど人手も足りなかったからね~。この子も九死に一生を得てウィンウィンって訳」

 

「………………どこがだ」

 

 

 けらけらと笑う御厨さんに、仏頂面の『ナース』が言う。

 あれ、全然恩義を感じてるとかそういう感じじゃなさそうなんだけど、これどういうこと? ……もしかして、依頼を受けて治した訳ではない感じ?

 

 

「あー……。……英姫は趣味で人を治すこともあるんだよ。こう、放っておいたら死ぬ人を拾って。で、そういう人は大抵お金も払えないし行くところもないから、生活基盤を確立するまで『ナース』行き……」

 

「強制なんだ!?」

 

 

 いや、命を助けてもらえるなら儲けものだとは思うけども!

 

 

「なははは! お陰で『廃品回収(リサイクル)』なんて呼び名がついたくらいさね。でも、コイツに関しちゃあんた達も知ってるんじゃないかい?」

 

 

 そう言って、御厨さんは仏頂面ナースの背中を叩く。

 ……? いや、俺はこんな同年代の少女の知り合いは自凝県にはいないが……。

 

 ………………。

 ふと、俺の脳裏にとあるインスピレーションが過った。

 ……人工タンパク質は、好きに肉体をデザインできる。なら、別に治療に際して完全に元の肉体を参照する必要はない。もっと言ってしまえば、()()()()の肉体を用意してしまったっていい。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…………その肉体は、好き放題にデザインできてしまうことになる。

 

 そして俺は、直近で見たことがあったはずだ。無惨にも脳だけになって機械に組み込まれてしまった哀れな男を。そしてその男が『あの後』どうなったのか、俺は詳しく知らなかったはずだ。

 ならば。もしかして。

 

 

「…………何が『廃品回収(リサイクル)』だ。(わたし)は資材じゃなっ……、ン、クソ……一人称が歪んでる…………!」

 

 

 …………な、鳴釜、兼備!?

 御巫にボコられ、椎塚に脳だけにされて機械に組み込まれていたアイツが…………なんかナースにされとる!!!!

 

 

「…………流石に、友悟君に人が脳だけになって使い潰されちゃいましたなんて悲しい末路を見せたくないからね」

 

 

 優し気な笑みを浮かべて、御厨さんは言う。

 『脳さえ無事に残っているならば、蘇生させることができる』。……御厨さんの触れ込みは、真実だった。実際に彼女は、死という行き止まり(バッドエンド)を捻じ曲げて新たな道筋を切り開いたんだ。

 

 

「だからといって(わたし)を女の身体にする意味あったか!? (わたし)は男だぞ!?」

 

「職場にムサい男を招き入れる趣味はないんでね。『ナース』の間はそれで我慢しな」

 

 

 でも新たな道筋の方向性には明らかに趣味が出てるというか、根本的な部分の倫理が機能停止しているような気がするのですが……。……いや、闇医者だし元悪の組織の研究者なんだから今更だけども。

 

 

「この女ァ……!」

 

「っていうか、七夕を襲っといて命を救ってもらえてるだけでも十分感謝してほしいんだけどねぇ……?」

 

「…………ぐぬ……」

 

 

 ヒエラルキーについては、完全に御厨さんの方が上らしかった。鳴釜も、御厨さんには逆らえないらしく口以外はテキパキと機材の準備に勤しんでいる。

 ところでお前もそこで開き直らず素直に言い負かされてるんじゃないよ。変なところで真面目なヤツだな……。

 御厨さんはその様子を眺めながら、

 

 

「にしても、ほんとに勝っちゃうとはね」

 

 

 と、不意に感慨深げに呟いた。

 御厨さんは遠い目をしながら、

 

 

「『最強』。あたしにとって、それは天地がひっくり返っても覆ることのない『絶対』だった。思えばあたしは、それを自分の誇りにしていたのかもしれない。……その枠に、七夕を押し込めてたのかもね」

 

 

 御厨さんにとって御巫は、間違いなく大切な存在だ。

 それは決して『主任』のように御巫をモノとして見たときの評価ではない。ある種、御厨さんは御巫のことを実の娘のように思っている節もあると思う。一人の個人として、御巫のことを尊重している。

 …………ただし、同時に御厨さんは研究者であり、御巫はその実験体だった。その事実は、どう取り繕っても存在している。だからこそ、御厨さんにとっては心のどこかで御巫の()()は自分の『成果物』でもあったんだろう。

 ただ、これは決して御厨さん特有の歪みって訳じゃない。実際の親子ですら、自分の子どもを自分の延長線上みたいに扱う親は存在するのだ。ごくごくありふれた考えですらあると思う。

 

 

「……ごめんね、七夕。あたしは……」

 

「いいの。いいんだよ、英姫」

 

 

 目を伏せる御厨さんに、御巫はからっとした笑みを向けた。

 

 

「それに、実際に『怨燃小町(バーンアウト)』が友悟に負けてみて分かったんだ。……わたしもわたしで、自分の『最強』に案外誇りがあったんだなって」

 

 

 そう言って、御巫は俺の肩に自分の肩をぶつけてくる。

 まぁ厳密に言うと、負けたのは椎塚の野郎が運用していた『怨燃小町(バーンアウト)』であって、御巫が運用した『怨燃小町(バーンアウト)』が負けた訳ではないのだが……。

 

 

「だってわたし今、負けたのは一切陳腐(A2Tリノヴェーション)の仕様があったからで、わたしが使ってれば負けてなかったって思ってるもん」

 

「いや確かに事実だが!」

 

 

 急に凄い勢いで負けを認めない感じになったな!

 実際にその通りなのでなんともいえないのだが、にしたって御巫が生身でやってたらその前に落ちてそうな場面も幾つかあっただろ。『結界』の局面とか……。口に出して言ったら喧嘩になりそうだから言わないけど……。

 

 

「……フン。劣った自分を受け入れられ無ければ、前に進むことも叶わんぞ。零落した最強というのは惨めだな」

 

「こっちに届かないブーメラン投げんのやめてくれない? 頭に刺さってるよ」

 

「ぐぬ……!! だから(わたし)は敗北を認めて前に進んでいるという話をだな……!」

 

「負け犬」

 

 

 このナース、口喧嘩弱くない?

 早々に旗色を悪くした鳴釜ナースをあしらって、御巫はこほんと咳払いを一つする。

 

 

「認めてはいるよ。一つの勝敗はついた。わたしは別に負けてないけど、わたしの『最強』は反証された。戦績で言えば、少なくとも現時点は友悟が『最強』だ。……だからこそ、手元になくなって初めて気付くこともあるんだよね。わたしって、意外と自分が『最強』だったのが自慢だったんだなって」

 

 

 もう一度、御巫がゆるく肩をぶつけてくる。

 今度は反発せず、ぶつかったまま体重をかけてきた。俺は、それを受け止める。その自慢を奪ったのは、他でもない俺だ。そうやって俺は御巫のことを救った。

 

 

「だから、英姫にわたしの『最強』を誇ってもらえるのは……わたしが()()()()()()()『最強』でいられるのは、嬉しいよ。お母さんに褒めてもらってるみたいで」

 

「…………七夕ぁ」

 

 

 御巫の言葉で、本当に救われたのだろう。

 御厨さんは涙目になりながら、小さな身体で御巫のことを精一杯抱きしめた。うん、良かった良かった。御厨さん、何かにつけて御巫に罪悪感を抱いてたからなぁ。御巫が『最強』から解放されたことで、御巫にとっての『最強』の意味合いが変わって……それで二人の関係がよりよくなってくれるなら、俺としても喜ばしい。

 そう思い頷いていると、ガ! と御厨さんに肩を掴まれた。身長差が激しいので、殆どジャンプして掴まるような動きだったが。

 

 

「友悟君も、ありがとうねぇ。本当に、貴方に任せて良かった……!」

 

「……どうもっす」

 

 

 まぁ、実際最奥差配(A2Tリノヴェーション)の一件では本当に託されてたからね。

 アレで気合が入ったのも事実。ただ、流石にまだ真正面からその感謝を受け止めるのは気恥ずかしいので、俺はそっぽを向いて答えた。それを見て、御厨さんはイタズラっぽい笑みを浮かべながら、

 

 

「これからも七夕をよろしくね。彼氏くん」

 

「まだ彼氏じゃねーですから!」

 

 

 もう毎度になる茶々に、いつものようにツッコミを入れる。この人ほんとそういう茶々好きだね……。俺と御巫だからいいけど、ワンチャン気まずくなるとか考えたりしないんだろうか。

 そう思っていると、ふと周囲の空気が凍り付いていることに気付いた。何? なんか地雷踏んだ? 別にまだ彼氏じゃないって言っただけだろ……。…………。

 

 

「………………ま、まだ?」

 

 

 超真面目な顔で確認するように言った御厨さんの言葉で、俺は自分の失言を認識する。

 『()()彼氏じゃない』 って…………それはいずれ彼氏になる気がありますって言ってるようなものじゃないか。

 

 

 ──その後、今のは言葉の綾だの金輪際彼氏イジリはやめろだのと大変紛糾したが、幸いなことに検査結果は何の問題もなかった。御巫は、終始上機嫌だった。




 というわけで最終話は本日24:05更新です。
 最後までよろしくお願いします!!
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