Melty Blood Another   作:Unknown37564

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【第二章】孤独の終着点
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 歓楽街から離れて四十五分ぐらい経った頃、公園に降る雨は依然としてしとしとと小雨が降る。

 戦い終わった身体で雨にうたれるのも良くないと思い、俺たちはベンチが設置されてる四阿に避難した。

 

 弓塚は体力が戻るまで木陰で俺の上着のジャージをかけて目元に濡らしたタオルをあててベンチで寝ている状態で、俺はその近くに腰かけるような形で待機していた。

 そして現在、遅れてきたシオンに事の顛末を伝えている最中だった。

 

「───やはり、そうでしたか」

 

 向かいに座る彼女は確信したかのような納得の表情で、タタリが居た遠くを見つめる。

 知っている口ぶりという事は、やはり最初から誰を相手にしてるか分かっていたのだろう。

 

──タタリ、情報を依り代として顕現する死徒。

 噂によって顕現する、という事ぐらいしか俺には情報がない。

 出現の頻度、パターン、地域が特定できないという事は常に後手に回らざるを得なくなってしまう。

 人間が死徒を相手に後手に回るのは極めて厳しい状況だ。

 もし今この状況でタタリに襲われた場合、疲弊した弓塚さんとシオンを守りながら戦うのは非常に難しい。早急にタタリの情報を彼女から共有してもらわねばならない。

 

 その為にも、俺たちは俺たち自身の事をこれまでを話す必要があるだろう。

 

「シオン、君は何処で寝泊まりしてるんだ?」

 

「──────え?」

 

 唐突な話の変化に、彼女は驚愕した表情をする。

 

「いや……これから先の話をするのに腰を落ち着けて話をしたいんだけど、表だとそろそろ警察に注意されるだろうからさ」

 

 別に警察程度なんとでもなるが、これから込み入った話をするのに水を差されるのはまずいだろう。

 

「なるほど、そういうことでしたら、北区の廃墟を拠点としています」

 

──苦労してるんだな、やっぱり。年若い少女がここまで来るのだから、並々ならぬ苦労があっただろう。それにしても──。

 

「北区まで行くなら俺の家に行ったほうが早いな、弓塚さんが動けるようになったら俺の家へ向かおう」

 

「──志貴の、家にですか」

 

 ぽかん、とした表情のままシオンはそれきりそのままフリーズしていた。

 男の一人暮らしに誘われてるのではないかと不審がられてしまったかな。

 

「ああ、なんか変な意味で言ってる訳じゃないぞ。だいたい、ウチには妹がいるからな」

 

 そう、秋葉が居る。

 普段ならとっくに帰ってる時間だから、俺もそろそろ帰宅したいのもあった。

 ただ、弓塚さんをほっとけないのもあるから、ついでに家で休んでもらおうと思ったのだ。

 俺たちがやってるのは心霊体験や肝試しのような刺激的なアトラクションなんかじゃない、実在している化け物との全身全霊を賭した殺し合いなのだから、悠長な事はしていられない。時間は惜しく、無駄にはできない。

 

「いえ、そういう意味では無いですが……わかりました。では、私は彼女の回復促進に努めるとします」

 

 そう言ってシオンは弓塚の側に座って、一番重症だと思う手の方にエーテライトで応急処置を施し始めた。

 

「──あなた、だれ?」

 

 濡れタオルを空いてる手で外しながら、寝ぼけた声でシオンに呼びかけた。

 

「私はシオン・エルトナム・アトラシア、錬金術師で志貴の協力者です。吸血鬼化の治療と今回の吸血鬼騒動を追っています」

 

「──そうなんだ。そっか、なら私達、仲間だね」

 

 弓塚はにへらと柔らかい微笑みを浮かべる。

──あの頃、学校で見た時と同じ微笑みだった。

 

 それに対してシオンも柔らかい微笑みで返す。

──思えば、彼女の真面目な顔以外をしているのを見るのはこれが初めてだった。ゲームセンターでも苦心した表情をしていたのだ、彼女にとってああいう物は面白いというか、心の休まる類のものでは無かったかもしれない。彼女の必要だったものは、人との触れ合いだったということか。

 

「ええ、そうです。なので、私の事はシオンと呼んでください。貴方の事は志貴から聞きました、私もさつきと呼ばさせてもらいます」

 

 仲間なら名前で呼びあった方が良いだろう、という俺の提案を受けてか。

 

「うん。シオン、ありがとう、手を治してくれて」

 

「はい。応急処置ですが、今すぐ動かしても問題無い程度には治療しました」

 

 処置が終わったのか、シオンはエーテライトをしまって立ち上がる。

 弓塚は上体を起こして木に背をもたれ、俺のジャージをひざ掛けのように掛け直した。

 

「ところで──遠野くん」

 

「な、なんだ?」

 

 びっくりしながら弓塚の方を見る。いきなり俺に話を振ってくるって、何を言われるんだろうか。

 

「わ、私も志貴くんって呼びたいんだけど、いい、かな?」

 

 弓塚さんは少し恥ずかしがりながら、それでも顔を逸らさずに俺をじっと見る。さっきの仲間同士は名前で、の事だろう。

 

──意中の異性を名前で呼ぶことに、特別な意味があることぐらい知っている。

 まぁ、そんな事は今では些細なことだ、今は重要じゃない。

 

「ああ、わかった。なら俺もさつきって呼ぶよ」

 

 相手に名前で呼ばせて、俺だけ名字ってのもなんか変だし、第一このくだりは俺が言い出した事だからな。

 

「うん、志貴くん。何度でも言うけど、助けてくれてありがとう」

 

 弓塚──さつきは、俺に満面の笑顔を向ける。

 

「ああ、こちらこそ。ありがとう」

 

 できればその笑顔を、有彦と一緒に学校で見たかった。けれど、それはもう叶わないかもしれない。そう思うと、少し胸が苦しい感じがした。

 

 俺は目元を抑えながら空を見上げて、空模様を確認しながらタイミングを見計らった。

 弓塚──さつきってやっぱり言い慣れないな──さつきが動けるようになった事だし。

 

「そろそろ雨も弱まってきたし、俺の家へ行こうか」

 

「家?!」

 

 さつきはびっくりした表情になる。

 

「ああ、寝てて説明聞いてなかったっけ。腰を落ち着けて今後の話をしようって事で、俺の家へ行くことになったんだ」

 

「え、あ、そうだったんだ。遠野くんの家に行くんだ……うーん」

 

 弓塚さんは喜んだ表情になったり、不安な表情になったりと百面相になる。

 シオンは横で立ったまま木に持たれながら腕を組んでうんうんと頷いていた。

 恐らく例の治療で弓塚さんにエーテライトを着けたのだろう、彼女を思考を汲んでいるような感じだ。

 

「いや俺の家、妹いるからさ」

 

「あっ………そっか、ごめんね。一人で舞い上がって」

 

 悲しそうな顔をして、さつきは俺に頭を下げた。

 

──あぁ、この分だと俺の事情も知ってるのかな。それなら話が早いか。

 

「いや、謝らなくていいよ。さぁ、そろそろ動き出そうか」

 

 俺はさつきの方へ寄っていき、肩を担ぎ上げて立ち上がる補助をする。

 

「あ、ありがとう」

 

 さつきは少し頬を赤らめていたが、見て見ぬふりをするしかなかった。

 

 

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