Melty Blood Another   作:Unknown37564

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 玄関のドアノブに鍵を刺して回す。

 重い解錠音と共にドアが開かれる───首を振り向けて後ろの二人を見る。

 

 「ここが、遠、志貴くんの家……?」

 

 さつきは俺の三歩後ろで固唾を呑んでこちらを見守っていた。

 きっと、秋葉の事で緊張しているのだろう。

──道すがらで俺の家の事に関する事情は大雑把にだが説明しておいた。

 帰宅してそうそういきなり秋葉に襲われてしまったら事情を説明できないから。

──シオンも張り詰めた顔つきで腕を組んでさつきの後方に居た。

 

「安心してくれ、この感じだと秋葉もまだ寝ているし、最近は暴れたりしてないから」

 

 あれだけ優秀だった自分の妹が、健常者では無くなってしまった事を他所の人に言わなければいけない事に。

 それは、俺よりも秋葉の方がきっと羞恥を憶えるであろう事に、胸が締め付けられる気持ちになる。

 

「いや……うん、わかった」

 

 さつきは何だか納得していない様子だったけど、それを飲み込むようにして決心した顔でこちらに近づく。

 

 ノブを回して引っ張ると、鉄が軋んだ重い音が響いて扉が開かれる。

 一足先に狭い玄関に入り、靴を脱いで下足箱に締まってから二人に上がってもらう事にする。

 

「狭いから気をつけて入ってくれ」

 

 一足先に上がって居間と共有化されたキッチンに赴く。

 手を洗いながら水を出すかお茶を出すかを考え、お茶を入れる事にした。

 水とどっちが良いかなと思ったけど、国外から来たシオンと今まで野宿だったろうさつきの事を考えると、こちらの方がおもてなしとしてより実質的な気がした。

 

 電気ケトルに水を入れてセットし、茶箪笥から湯呑みと既に粉挽きされた茶葉を取り出した。

 

 そうしている内に、さつきが居間からおずおずと顔を出す。

 

「お邪魔しまーす……」

 

 いそいそと壁伝いに居所無さそうにしながら部屋の隅に立っていた。

 

「失礼します」

 

 次いでシオンが顔を出し、居間の入り口近くの壁にもたれ掛かって腕を組んだ。

 宗玄のじいさんが来た時のままにしてあるから、確か座布団が二つは出ているはずなんだけど。

 

「おいおい、ふたりともそんな端っこに立ってないでテーブルに座ってくれ。今お茶入れるから」

 

「あ、うん。わかった、ありがとう」

 

「わかりました、失礼します」

 

 促しながらお盆の上に湯呑を置く。

 お茶請けとして戸棚から市販のクッキーを小袋のまま無造作に適当に出して置く。

 湯呑に粉末茶葉を入れる。

 さつきは学校やさっきの時とも違う、まるで借りてきた猫のような感じでしずしずと座布団に正座して座っていた。

 シオンは緊張をいつも通りで装うような微妙な雰囲気で座布団に横座りした。

 

 そうこうしている内に電気ケトルが湧いた。

 俺はケトルを持って湯呑に半分ほど湯を注ぐ。

 9月でまだ暑いだろうからと、冷蔵庫から氷を出して入れた。

 撹拌してからお盆を持って二人の方へ向かう。

 

「はい、お茶。氷入れて冷たくしてあるよ」

 

「わあ、ありがとう!お茶とクッキー、久々だよぉ!」

 

「ありがとうございます…」

 

 さつきは小さい声ながらも生き生きと表情に出るほど大変喜んでおり、出してよかったと心の底から思わされた。

 シオンの方を見ると声とは裏腹にこちらも存外喜びが顔に出ていた事に、お茶を出した自分のセンスに少し自信が持てた。

 

 あぁ、そういえば。

 

「さつき。君、手は大丈夫なのか?痛かったらストロー出すけど」

 

 エーテライトで治療したとは言っても痛みはあるのかもしれない。

 秋葉が使っていたストローがあるからそれを出そうかと思った。

 

「え、いやいやいや、良いよ!痛いけど持てない程じゃないし、流石に湯呑にストロー差して飲むのは恥ずかしいよぉ」

 

 さつきが手を前に出してぶんぶん振りながら恥ずかしそうに拒否していた。

 手をぶらぶらさせられるなら確かに痛みは無いのだろう。

 吸血鬼の再生能力はやっぱり凄まじいなと関心させられた。

 

「そっか、なら良いんだ。でも見てみたかったな、ストローで飲んでるところ」

 

「えぇ~?志貴くんがそういうならぁ~…」

 

「ふふっ………すいません、何でも無いです」

 

 俺が言うと、シオンがウケたのか少し笑った───あ、もしかして。

 エーテライトでさつきの思考を読んだのかもしれないな。

 少し気になるがここはあえて聞かないで置くことにしよう。

 

 

「さてと、そんなこんなで───お客様方、時計をご覧ください」

 

 短針は12手前を差していた。

 

「零時だけど…」

 

 さつきは特に考えずに思ったことをぽんと言った様子で、シオンも特に疑問に思っていなかった。

 

「そうだよね、君たちだいぶ大変な生活してたろうから感覚が分からないかもだけど。もう世間ではお休みの時間です」

 

「──あぁ~」

 

「なるほど……」

 

 さつきもシオンもはっとした様子だった。

 

「とにかく話は後にして、今日は休もう。俺も眠いし」

 

 言いながら俺は伸びをして、伸ばしきったその時にあくびが出ていた。

 

「二人の寝床と寝間着、準備するからさ、順番にお風呂入ってよ。あっちの扉がお風呂場だからさ」

 

 言い終えて湯呑のお茶を呑みながら、浴室の方を指差した。

 冷たいお茶が食道を通って行く感覚が分かる。

 

「え、良いの?」

 

 さつきは期待と不安の眼差しでこちらを見ている。

 

「ああ、湯船も張ってあるから、ごゆっくりどうぞ──ああ、ごめん。垢すりタオルは一つしかないんだ。共有で使いまわして貰う事になるけど、嫌ならハンドタオルで代用してくれ」

 

 言い終えてからクッキーの袋を開けて食べる。

 こういう飲食物って、何だか最初に出した側が先に食べてないと食べづらいだろうと思ってさっきから先に飲み食いしていた。

 そうしてか、シオンもお茶に口をつけだした。

 

「良いよ良いよ! 志貴くんの、全然良いよ!」

 

 全然良いってどういう意味なんだろうか。

 

「さつき、その発言は非常に興味深いので発言内容の説明を願います」

 

 シオンはクッキーの小袋を開けながらニヤついていた。

 

「うぁ~、そういうのじゃないのに~……とにかくお風呂、お先に頂きまぁす」

 

 さつきは少し項垂れてから立ち上がり、右手を上げながらいそいそと浴室へと向かっていた。

 

「シオンはテレビ見ててくれ。夜だけど今日一日での纏まった情報が収集できる筈だし、気晴らしにもなる」

 

 俺は言いながらリモコンでテレビを着けて速攻で入力切り替えをして何もつなげてないビデオに回して、音量を調整してからテレビのニュースに戻した。

 

「わかりました、ありがとうございます。あの、私もお風呂を?」

 

「ああ、勿論。入りたくないなら入らなくても良いけど、家主としては入ってもらえるとありがたいね」

 

 他人の家の風呂なんて抵抗あるだろうけどな。

 

 シオンは少し考えてからうんと一つ頷いて。

 

「そうですね、ではお言葉に甘えさせて頂きます。ありがとうございます」

 

「ああ、君たちの為だけじゃないから大丈夫だ」

 

 汚れた身体で布団に寝かれるとその日の内にシーツを洗わないといけないしな。

 

「ふふっ……それでも、ありがとうございます」

 

 小さい言葉で、シオンは俺に感謝の言葉を述べていたのを、俺は確かに聞いていた。

 

 

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