Melty Blood Another   作:Unknown37564

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 シオンが遠野くんと入れ替わりでお風呂から出てきて、私たち二人はテレビを流しながら話をしていた。

 専ら会話の主題は遠野くんの事、それしかありえなかった。

 

 私が知っているのは学校での遠野くん。

 遠野くんは、孤立という訳でもないけれど一人で居ることが多く、無意識に人を遠ざける──いや、今にして思うと他人(ひと)が、無意識に彼を遠ざけていたのだろう。

 私や有彦くんのように、自分から彼に寄っていかない限り、彼の方から誰かに寄り添っていくことが無い。

 根が暗くてノリが悪いという訳でもなく、有彦くんとつるんでいたずらをしていた事もあったから、年相応な部分もあるんだろう。

 年頃の少年でありながら歳以上の感性も持ち合わせた不思議な少年、というのが私の印象だった。

 

 「なるほど、彼は学校でも特殊な立ち位置だったのですね」

 

 シオンは言い終えてお茶に口をつける。

 

 私の方は今の彼がどのような感じなのかを知らない、そういう意味でも質問したくなった。

 

 「シオンから見た遠野くんってどんな人?」

 

 「私から見た、ですか」

 

 シオンは少し考え込んでから答えた。

 

 「的確な表現が難しいですが、短くなった蝋燭の灯火、かと。一生懸命、持てる全てを懸けて燃焼し、最期に全てを焼き尽くす輝きを放って消える。───それはきっと戦いの果てなのかもしれません。」

 

 シオンの考えを聞いて、ぴたっとイメージがはまった感じがした。

 自分の事に頓着が無くて、穏やかで優しい心を持っていて、だからこそ彼は誰かの為の戦いに赴いてしまう。そうして優しい火を誰かを温める為に、誰かを守る為に燃やし続けて、最期は燃え尽きる。

 なんて──綺麗で儚くて、切ない生き方なんだろう。

 

 「私ね。そんな志貴くんを最期まで見届けてあげたいんだ」

 

 私が一人で死んでいく時、それがひどく悔しくて悲しかった事だけを覚えてる。

 誰にも死んだことを覚えて貰えず、居なくなったということだけが世界に残る。

 死んだかも生きてるかも分からず、曖昧なままで悲しんでも貰えない。

 いっそ、死んでしまったと思われていた方がまだ悲しんで貰えただろうに。

 

 

──だからこそ、彼の最期を見届けてあげないと。

 

 

 

          ◇

 

 

 

 空腹だと寝づらいだろうかと思い、二人に夜食を振る舞った。 不格好な塩おむすびとインスタントの味噌汁。そこにスーパーで買った漬物の盛り合わせが、夜食の献立だ。

 

「志貴くんお料理出来たんだ、凄いね」

 

 さつきは感嘆しながら四個目のお握りを、まるでリスのように頬張る。さつきは学校での頃より量を多く食べていた。吸血鬼が大食らいというのは聞いたことがないが、影響はあるのかもしれない。

 

「料理と呼べるものではないけど、簡単なものならな」

 

 皿洗いをしながら答える。

 

──秋葉に食べさせるのに、スーパーの惣菜ばかりでは栄養が偏ってしまうかもしれないと思い、自炊するようになった。

 上手さという点に置いては凝った料理を作れるわけでもなく、美味しくもなく不味くもなくという所なのだが。

 問題はいつ、どんな料理を作るのかという点で悩んでいた。宗玄の爺さんが来診した時に家の夕飯を訊ねたり、有馬さんの家で世間話に料理の話をしたり、下校路での民家から漏れる料理の匂いからどんな料理を作るかを考えたりで作ったりしていた。

 

「あぁそうだ、さつき。君はできればうちで寝泊まりしてくれると助かるんだけど」

 

「え?!」

 

 さつきはびっくりした様子で俺の方を見て、シオンはその様子を見て少しほくそ笑んだ感じだった。同衾を誘ったと捉えられたかもしれないが、ここは誤解を恐れずにはっきり言うことにしよう。

 

「俺とシオンが街を散策する間に家で秋葉を見てくれるととても助かるんだ。というよりそれ以上の問題、ご飯や寝る場所も無いんだろ?」

 

──じゃあ今まで一体秋葉の事どうしてたんだって話だけど、そこは対応してある。 家に防犯装置を着けてあって、外部から何かが入ったり逆に秋葉がどこかに出たりした場合に携帯に連絡が行くようにしていたのだ。

 

 それでも、駆けつけて対応するには時間が掛かるかもしれないから、もしもの時は宗玄の爺さんに連絡を取るようにしていた。宗玄の爺さんには何かあったら頼るようにと言われていたのもあり、これだけはよろしくお願いしていたのだ。

 

 さつきは俺の言った事を理解してはっとした顔になった。

 

「あ、あぁ~。うん、わかった。でもいいの?ご飯代とか…」

 

「大丈夫。生憎とお金には困ってないんだ」

 

「──志貴、散策については逆に私とさつきで表に出るという選択や、『あれ』に動きがあるまで私だけで散策をして、さつきと貴方で家に残るというのも一つありかと」

 

 シオンは味噌汁を飲み終えて、お椀を片付ける準備をしながらこちらの話に乗ってきた。

 確かに、その考え方もありだ。何でもかんでも俺が動くというのでは、仲間を組んで動くメリットが薄い。なるほど、柔軟な考え方だなと納得させられた。

 

「そうだな、それもありだ。とりあえず俺は明日学校があるから、さつきは家に残ってもらってシオンが散策でもいいし、 俺が帰るまで家に居てもらっても良い。けれど、できれば家に一人だけ誰か居る状態にして貰えると助かる」

 

 そう俺が結論付けている最中に、さつきは最後のおにぎりを食べ終わり、シオンは俺の居る流し台にまで皿を置きに来ていた。

 

「私はどっちでも良いよ~、久々にテレビ見てゆっくり出来るからね」

 

 言い終えてさつきは味噌汁を啜った。

 

 皿を洗いながらさつきのさっきの発言を頭の中で思い描く。俺の部屋で、さつきがお煎餅とお茶を飲みながらテレビを見ている。その服装は──あ。

 

「そうだ、すっかり忘れてた。さつき、君の服を買いに行かないと」

 

 そう、すっかり忘れていた。

 さつきの家は既に事故物件の売り家になってしまっており、家の中のものは全て無くなってしまっていた──。

 

 伽藍と何も無くなってしまった弓塚家は、彼女がまるでいなかったと世界が訴えてるようで、切なさと妙な気持ち悪さを感じたのをはっきり覚えている。

 

 そうなると誰が買いに行くかというと、現状では学校帰りのついでに寄れば良い俺が適任となってしまう。

 

「え、今の私の服はどうしたの?」

 

「──ごめん、今洗濯してる。ベストはまだいいけど、ワイシャツは襟もくたくただ。裾の部分とかも完全に駄目そうなんだ。 あの制服を着回すにしてもワイシャツは新しいのにしないといけないし、ならいっそ新しい服を買いに行くのも手かなと」

 

 いくら死徒が復元呪詛で肉体を復元したとしても、着ている服まで復元はしない。ロアの場合は呪詛ではなく奴独自の術式で無理やり現在の状態をそのまま復元させていたのだろうけど。

 とにかく、そういう意味で服は買い直さないといけない。

 

「私が買いに行きましょうか? 情報収集の途中で買いに行けます」

 

「いや、俺が買いに行くよ。シオンはそっちに集中して欲しいし、繁華街を行って帰るのは時間が掛かるだろ?」

 

 シオンが提案してくれるが、俺が買いに行く事を決意した。

 警察では手に負えない人外が人を殺し回るこんな状況で、あまり余計な事に時間を掛けたくない。

 

──落ち着いて考えてみると、死にかけの触れなきゃ意味ない魔眼持ち、追われる身の錬金術師、 死徒になりたての女子高生だけで死徒二十七祖の一人を相手するなんて無茶にもほどがある。

 

 これで横並びの勢力があるならそっちに時間稼ぎしてもらって、こちらは状況を整えてと出来るんだけど、 現状この三咲市でこの自体に対応できる人物の心当たりは俺たちしか居ないんだ。

 

「私はどっちでも良いよ」

 

 言いながらさつきは俺の顔の方をじっと見つめていた。

 

「あー……あんまりセンスに関しては期待しないでくれよ?」

 

「いいよ、別に」

 

 俺が困り顔で答えると、さつきは満面の笑みで皿を片付けに立ち上がった。

 

「志貴くんが選ぶんだから、きっと間違いないって」

 

 はぁ、何だか気が重いけど、とにかく──長い一日がようやく終わる事に、ただただ安堵した。

 

 

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