Melty Blood Another 作:Unknown37564
当時遠野家当主である槇久によって、俺は遠野の分家である有馬の家にお世話になっていたが、去年の夏頃、遠野家当主である秋葉から遠野の本家へ戻ってこい、という命令を受けた。
行儀作法にうるさい本家に戻されるのを億劫がっていたのを覚えている。
屋敷について出迎えてくれた琥珀さんの時代錯誤な割烹着姿に面食らって、久々に会った秋葉に狼狽えて、翡翠から門限7時だって言われてやってけるのかと不安になったっけ。
そして翌日、あの運命の出会いがあった。
朝に琥珀さんから七ツ夜…今にして思えば琥珀さんはここで暗示していたんだろうな…それを受け取って学校に行って。
五次時限目くらいで体調が悪くなって帰ることになって、そこでアルクェイドとすれ違って、衝動が抑えられなくて殺してしまった。
その時は自分でもなんでそんな事したのか訳も分からず急いで家に帰ってきて倒れてしまい、翡翠と琥珀さんが俺をベッドに運んでくれたらしい。
あの時の事は夢だと思い込んで翌日そのまま登校しようとしたその道に、アルクェイドが待ってて。
なんやかんやあって吸血鬼退治に乗り出す事になった。
思えばもう、その時点で何もかも間違えていたんだろう。
ネロ・カオスを倒した矢先、アルクェイドから協力関係を解除されて。
でも吸血鬼騒動は収まって無くて、そのままアルクェイドを探してまた協力する事になるも件の吸血鬼が遠野家の本当の長男である四季で。
あとになって秋葉から自分が七夜という退魔師の一族の生き残りで養子になった事を知った。
翡翠から琥珀さんが自分が受けてきた虐待の復讐に秋葉と四季を殺し合わせようとしてる事を知って。
気づいたときには何もかも全て手遅れだった。
琥珀さんは四季にやられて、秋葉もロアに殺される一歩手前だった。
先輩が先に駆けつけて事態の収拾をしてくれたけど秋葉はもうああいう風になってしまっていて。
屋敷に帰ったら入れ違いで着たロアに翡翠もやられてて。
ロアを止めるか、秋葉の面倒を見るかという二択で俺は結局秋葉を取るしか無かったけど、たまたま往診に来ていた宗玄の爺さんに秋葉の面倒を見てもらう約束を取り付けて急いでロアの元にいったけど、アルクェイドが既にやられてて。
結局、ロアは倒せたは良いものの琥珀さんと翡翠が意識不明で今も病院で寝たきりで、秋葉はほとんど廃人になってしまって、
アルクェイドはあの日以来行方がしれず、先輩も消息不明で学校に姿も見せてないという状況だ。
◇
「地主としての遠野家の政治力と経済力の部分はほとんど全て
実際には遠野のグループや派閥を解体するに当たって俺と
「……その言い回しだと、志貴の方が久我峰より格が上という事ですか?」
シオンが顎に手を当てて質問する。
「ああ、そうだ。元々混血と呼ばれる者たちの一族の中で最も序列が高かったのが遠野家だからというのもあるが……俺が七夜ってのもあるんだろうな」
「退魔の一族が故に恐れをなした、という事ですか…。ですが、まだ疑問がつきません。混血でもない志貴が当主代行を務める事に他の混血の一族から異議が出なかったのでしょうか」
「出るわけ無いさ。今のところ健在の混血の一族は有馬、刀崎、久我峰の三家。有馬はそもそも俺と面識ある上に完全に一般人だし、刀崎は鍛冶師なうえに七夜と一族ぐるみで元々と親しかった。久我峰は権力と資産運用によって表社会で頭角を表す事に集中していて混血そのものには興味がないって感じだ。…まぁ、わざわざ火中の栗を拾わなくても俺が拾おうとしてるんだから余計な口出しせずに静観してるんだろ」
「口を出せばそこに責任が生まれ、志貴が倒れた場合の遠野の代行をやらなければならない。今の三家にそこまでの力は無い、ですか」
「……ご明察、恐れ入るね」
はぁ、とシオンは一つため息をついた。まぁ戦力として当てになるのがこの三人じゃあな。
「あのー……さっきから気になってたけど……その七夜って何?志貴くんは…遠野じゃないの?」
さつきが困り顔で質問してくる、無理もない、当事者の俺でも未だに混乱する事なのだから。
「話がややこしくなるから、かいつまんで説明する。昔退魔師一族の中でも特に秀でていた一族、七夜家がいた。この七夜家が主に生業としていたのが混血──鬼の血を引く人間の一族なんだけど──の中でも先祖還りによって正気を失ってしまった者の始末。だから混血の一族から七夜は忌み嫌われてた。社会的に始末しなくちゃいけないのは混血側も分かってはいただろうが、時の当主を殺されるのは感情が追いつかなかったんだろうな。そして、当時七夜の当主である親父は俺を設けたことで退魔師稼業から足を洗って一族で隠遁してたらしいんだけど…俺がまだ幼少期の頃に、秋葉の親父に、奇襲される形で七夜の一族は皆殺しにされたんだ。その中には当然親父も入ってた」
今にしても記憶が混乱してうまく説明するのが難しい。俺の体感した記憶では俺を嫌った遠野槇久が父親として深く根付いている筈なのに、
歳を取った俺みたいな顔の人物が俺に柔らかい笑顔を向けて頭を撫でてくる記憶が断片的に蘇る。
「え?つまり虐殺した一族の子を養子として引き取って育てようとして、飽きたから分家に流したってこと?ひどすぎるよ…」
さつきが槇久の所業に引いている。もっともっとドン引きしてもらいたい、あのクソ親父のしでかした事は本当にろくなもんじゃない。
もしあいつが今目の前に現れたら俺は躊躇いなく殺すだろう、いや殺す前にまず半殺しにして琥珀さんと翡翠に土下座させてやる、そして殺す。
「つまり貴方は七夜の、退魔の一族としての技術があってここまで来れたということですね」
「ああ、それに関しては俺の親父に感謝しかないな。気まぐれ半分体力づくり半分で俺に教えたんだろうけどな。とはいえ手ほどき程度で今の技は遠野の蔵書にあった七夜の文献から自分で再現してるものがほとんどなんだけどな」
お茶に一口つけて一息つく。
窓から差す光芒はすっかり衰え、雨が降り出しそうな暗い雰囲気になってきた。
「志貴。これは答えたくなければ答えなくても構いません。貴方の気に触る質問をすることを先に謝ります」
「……なんだ?」
シオンが真剣な表情で俺に聞く。俺も既に話をする前に覚悟は決めていた、何を聞かれても答える準備は、済んでいる。
「…秋葉は、貴方の義妹は…先祖還りなんですね」
「そうだ、それも不完全な状態なんだ。本来秋葉は先祖還りするほど先祖である鬼の血が多いわけじゃない。ただ混じっている鬼の血が濃いんだ。そして、反転した原因は…」
「先の話で察すると、琥珀が秋葉の力を抑えていたが、琥珀が倒れた事でこうなった、と」
「半分は合ってる。もう半分の理由は…俺だ」
俺の発言にさつきとシオンは驚く。
「俺の心臓はかつて子供の頃に──先祖還りを反転とか呼ぶんだけど──反転した四季に潰されて、それを秋葉に蘇生処置をしてもらって一命をとりとめたんだ。ただ、秋葉はその代償に生命力の半分を俺に分けてて、未だにそれで俺は動いてるんだ。つまり、秋葉が死ねば、俺も、死ぬ」
「──そして貴方が死ねば、秋葉は元に戻る可能性もある、と」
「──そうだ」
さつきは目を見開いて、手で口を覆う。
シオンも腕を組んで黙り込んだ。
「俺が死んで、それで済めば俺が死んでも構わない。けれど反転が元に戻なかったらもうどうしようもないんだ。完全に覚醒してしまった反転者──紅赤朱は、死徒二十七祖に匹敵してると言ってもいい。そんなのを野放しにしたらどうなるのかは、さっきのシオンの話でわかるだろ?」
俺の発言でシオンが眉を顰める。
天井を見上げた。辺りが暗い中で白色の蛍光灯は輝いている。
「心臓のせいで俺自身も限界が近い。それまでに決断しなくちゃいけなかった。秋葉と一緒に死ぬか、秋葉を治す為に戦い抜いて死ぬか。先行きが見通せないまま何かきっかけが無いかと戦いながら探してたんだけど、今回ようやくそのきっかけが掴めた」
向き直って俺は正座する。
前にいるシオンとさつきは沈痛な面持ちで俺を見据える。
「二人とも、本当にありがとう。」
俺は頭を下げて礼をする。
「……ごめん。ちょっと頭の中整理するから散歩してくるね」
さつきは早口でそう告げると席を立ってそのまま表に出ていった。
その背中にかける言葉も無く、俺は黙って見送った。
「──志貴、さつきの思いを分かってあげてください」
「分かってるさ」
「さつきは、貴方を」
「だから!わかってる……」
少し語気が荒くなってしまい、シオンが一瞬びくっと肩をすくめる。
「すまない。でも、俺も未来に思いを馳せられるほどの余裕は無いんだよ……」
机に肘をついて頭を抱える俺に、シオンが隣に来て俺の肩に手を添えた。
「……きっと、さつきも分かってくれてますよ」