Melty Blood Another   作:Unknown37564

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 先輩が学校の戦闘の痕を修復している間に、先輩と一緒にいた少女と一緒に学校近くの自動販売機でお茶を買いに来ていた。

 彼女は俺と出会ってから一言も発しておらず、表情の変化も感じられない。

 しかし、先の戦いで俺が少女の肩を掴んだ時の驚いた顔と声から察するに無感情という事は無さそうだ。

 初対面で特に挨拶をするでもなく、何らかの行動を起こすでもなく俺に従っているという事に、妙に気まずかった。

 先輩から聞いた話だと、俺に扮したタタリに話かけていたようだ。つまり、俺に用事があったのかもしれない。

 俺は自動販売機でお茶を買う。がこん、と音が鳴ってペットボトルのお茶が出てくる。

 しゃがみ込んでそれを取り、その態勢のまま振り返って少女にお茶を差し出した。

 

「はい、これ」

 

 俺から人一人分空けた距離にいる少女はきょとん、とした顔で立ち尽くす。意図が伝わらなかったのだろうか。

 

「君の分だよ。飲んでいいから」

 

 言いながら、立ち上がって少女の方に向かう。呆然と立ち尽くす少女の小さい手を取って、お茶を持たせた。

 渡し終えたのでまた自販機に戻り、お茶を買い始める。

 二本目を買い終えた辺りで後ろからカリ、カリと音がする。

 振り返ると───少女がペットボトルに齧り付いていた。

 

「おいおいおい!」

 

 俺が困惑の声を上げながら駆け寄ると、少女は呆気に取られた顔でこちらを見る。

 開け方がわからないなんて事があるのだろうか。そう思いながら、少女が持ったお茶を俺の手で包むように掴んだ。

 少女の手は陽だまりのようにほんのりと温かく柔らかい。

 そうして、そのままお茶が零れないように素早くキャップを開栓した。

 

「はい、どうぞ」

 

 少女の空いてる手にキャップを握らせる。まさか飲み方もわからないのでは、と少し少女の様子を見守ったがしっかり飲むことが出来ていた。

 それに安心して俺はまた自販機に買いに戻る時に、ふと思った。

 

──何かがおかしい。あの尖り耳は人間のそれとは思えない。吸血鬼なんてものがいるぐらいだから、妖精だのがいるのかもしれない。まさか、そういう類のものなのだろうか。

 少女から敵意は感じられないけど、素性だけは把握しておきたい。

 俺は三本目を買い終えて振り返る。少女はお茶を持ったままじっと俺の方を見ていた。

 

「そういえば自己紹介をしてなかったね。俺は遠野志貴」

 

 と、言ったがよくよく考えたらこの少女が日本語を理解してるかどうかわからないのに語りかけてもしょうがない。

 どうしたものか、と考えていると少女はペットボトルのキャップを自分で締めて俺に差し出してきた。

 俺がそれを受け取ると、少女は自分の服の袖を広げて指を突っ込んだ。

 そうして何かを引っ張り出す。それは、封筒だった。

 少女は俺にそれを差し出した。

 

「メッセンジャー、か」

 

 この子は連絡員として誰かに派遣されたのだろう。そうなると俺が思い浮かぶ人物はおおよそ絞られてくる。

 封筒の表面には"Dear Shiki Tohno"と書かれていた。この時点でほとんど確定したものだが、裏を確認する

 そこにあった記載は───"Arcueid Brunestud"

 その名前を見て、居ても立っても居られなかった。俺は急いでお茶を地面に置いて封筒を開けて、手紙を広げて読む。

 

 

"志貴へ。突然姿を消してしまってごめんなさい。

 貴方が大変な状況に置かれているというのは知っていますが、今の私ではかえって足を引っ張ってしまうかもしれない。そう思って貴方のもとを離れる選択をしました。

 ロアにやられてからしばらくして復活できたけど、私の吸血衝動はより増していくばかりでした。

 今貴方を前にして、私は私自身を保てる自信がありません。勝手な都合で振り回して本当にごめんなさい。

 本当は貴方と完全に連絡を絶って、貴方の記憶から私を薄れさせたかった。けれど、今の貴方が置かれている状況は非常に厳しいと思うので、助けになればと思ってこの手紙を書いてます。

 

 今、志貴たちの街で発生している不可解な事件の数々は死徒二十七祖が十三位、タタリという死徒が起こしています。

 死徒、と呼ばれているけど実際は概念のような存在で、その実態は固有結界のようなもの。

「それ」に選ばれた地域に住む人々の噂や不安を具現化させる事ができます。そうして具現化されたそれは吸血鬼としての性質を持って一夜暴れまわり、夜明けと共に姿を消します。これを繰り替えていくことで最終的に吸血鬼・タタリが顕現するという図式です。

 おそらくこの最後に顕現する吸血鬼・タタリを倒すことは志貴にも出来ると思います。しかし、完全な抹消は出来ないはずなのでそのタタリを倒してもまた次の夜にタタリが顕現すると思います。

 なので「私だったらこうする」を、その理由を含めて述べます。

 

 まずタタリ、ワラキアの夜───ズェピア・エルトナム・オベローンがどのようにしてタタリになったのか。

 それは私の姉、アルトルージュ・ブリュンスタッドと契約を交わしたから。

 姉もまた私と同等の力を持っている、だから世界に干渉できるほどの大規模な事象を契約によって成立させられた。

 そして、その契約の期限は契約時から千年後の赤い月が昇る頃まで。

 私なら、空想具現化を用いて千年後の赤い月を再現して契約の期限を無理矢理今に持ってこさせます。

 勿論、この手法が私にしか成し得ない方法であることは重々承知しています。

 ですが志貴ならきっと何らかの方法で解決する手段を見つけられる。

 そう信じています。

 

 最後に。手紙を渡す役割も兼ねて私の使い魔、レンを送ります。

 その子は身元を預かっているだけで、実際には私の使い魔ではないですが。

 つまり、この子は契約主を持っていない使い魔です。彼女に志貴をサポートしてあげるようにお願いしてあります。

 彼女の能力は夢魔で、他人の夢に加入して夢を書き換えたり、夢に入り込んだりする事ができます。

 きっと彼女の能力は志貴をサポートできると思います。

 レンをよろしくお願いします。

 

 タタリに悪用されるかもしれないので、この手紙は読み終えたら処分してください。"

 

 

 書いてある情報の暴力に感情が追いつかない。

 ともあれ最後の一文を読み終えて、俺は眼鏡をずらして手紙を見る。そうして手紙に浮かび上がる死の点を中指で弾いた。

 手紙は跡形も無く塵となって消え、風に舞っていく。

 最後の一片が完全に消え去るまで見守った。

 アルクェイドの綴った手紙が、消えていく。

 それがとても、名残惜しくて───。

 

 少女───レンはその様を見て目が大きく見開いていた。恐らく直死の魔眼を見たのが初めてだったのだろう。

 眼鏡を戻しながら、レンと同じ目線になるように中腰になる。

 

「事情は分かった。これからよろしく頼むよ、レン」

 

 手を差し出すと、しずしずとレンは俺のところによってきて───そのままぽすん、と俺の胸に入り込んだ。

 その時に、ん。と一言、彼女の小さい声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

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