Melty Blood Another   作:Unknown37564

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 窓から秋の虫たちの合唱が聞こえてくる。

 普段なら、この音色に風流を感じているはずなのに、何だかひどく不気味に思えた。

 有馬の叔父さんから聞いた話の怖気を、未だに引きずっているからだろうか。

 時刻は既に十八時になる頃だ。俺もシオンも自宅に帰っていた。

 そして今、俺は叔父夫婦から聞かされていた話を伝え終えた。

 

「……なるほど、今回は憑依するパターンですか」

 

「……憑依? というと、祟られたって事か」

 

 昔の日本から祟られるという言葉がある。タタリはそこから由来しているらしいが、祟られるとは本来は人に対するものだ。

 都古ちゃんの一件はそれなんじゃないかと思っていたが、悪い予想が当たってしまったようだ。

 

「はい。憑依、というと厳密には違いますが。まるで操り人形のように、他者を自分のシナリオに踊らせる。タタリは自分で演ずるだけでなく、誰かで踊らせる事もあるようです」

 

「ほんと、どれだけ私たちを弄べば気が済むのかなぁ……」

 

 さつきはうんざりした様子で言う。その目つきは鋭く、怒気を含んでいるのが見て取れた。

 

「……シオン。そうなると、小学生の子たちから得られた情報からも、そう推察できるって事か?」

 

 シオンはこくりと頷く。

──内心、この報告を聞くのが、とても気が重かった。

 有彦の妹と関わりがあるというと、どうしても有彦と俺の話が関わってくるからだ。

 さつきには有彦と最近どうだ、と尋ねられた時にはぐらかした回答をしてしまった。

 今思えば、きちんと説明した方が良かったと後悔している。

 

「ええ。都古の所属するクラスの児童たちにエーテライトを使いました」

 

 シオンが手のひらを見せて説明する。その手は僅かにだが、小刻みに震えていた。

 

「正直、骨が折れました。どの児童が都古の所属なのかわからなかったので、下校中の生徒たちに手当たり次第にエーテライトを仕掛け続けたので……それはともかく」

 

 くたびれた様子でシオンは、俺へと手を差し出して告げる。

 

「罵倒されていたという内容ですが、どうやらその中に貴方の事が出ていたらしいです。なんでも、貴方が乾有彦と遊んだ時に一度だけ見かけたようで」

 

 シオンは腕を組んでじとっと、俺を見つめる。何だ、俺がなにかやらかしてしまったのだろうか。

 

「貴方、好かれるか嫌われるかの二極化が激しい人ですね。どうやらその妹さんはそこで貴方に一目惚れしたらしいです」

 

 有彦の妹が俺に一目惚れ……?そもそも会ったことがあっただろうか。いや、全く記憶にない。

 

「学校の友人達に、しきりに格好良かったと触れ回ってたとか」

 

「ええ…別に何かやってないって」

 

 えー、とさつきが不満げな声を出したのでそちらを見ると、頬杖をついて俺の方を湿度の高い目つきで見ていた。

 俺は頭を掻く。本当に心当たりはない。何なら一回だけ会ったような気がする程度だ。

 

「妹さんはお兄さんと仲が良いというのもあって、兄と仲が良い事が大きいでしょうね」

 

「それじゃあ、どうしてその妹さんが志貴くんの事をあげて都古ちゃんを?」

 

 さつきが割って入るようにして、身を乗り出して聞く。恋愛話が半分含まれてるからだろうか、その眼差しは少し活き活きとしてるような気がした。

 

「……自分に黙って、志貴と兄とで遊んでるのでは無いかと」

 

 さつきがうん?と不思議そうな顔で尋ねる。

 

「志貴くんと遊んでるってのは分かるんだけど、なんでそこでお兄さんも、ってなるんだろう?」

 

「……有彦は、妹を構ってる余裕が無くなってしまったんだろう」

 

 遂に、さつきにこの件について話を切り出さなくてはいけなくなった。

 さつきは俺の方をじっと見る。

 

「……さつきが失踪してからしばらくして。有彦から一緒にさつきを探さないかと誘われた」

 

 俺の一言に、さつきは目を大きく見開いた。

 

「……さつき」

 シオンが不安げな顔で、前のめりになってさつきを見守る。

 

 

「でも、俺も……状況が状況で、捜索には乗り出せなかった。いまある状況を何とかするので手一杯で」

 

 さつきに対して言い訳をするような感じがして、俺は下を向き、畳のシミに向かって話すことしかできなかった

 

「それから何度か誘われるのを断ってる内に、どんどん仲が悪くなっていってな…お前にとって友達って、その程度なのかよって」

 

 今でも脳裏に焼き付いている。帰り道で胸ぐらを掴まれて、凄まじい剣幕で俺を怒鳴り飛ばしたあいつの──泣き出してしまいそうな、怒り顔。

 

 ぱん、と手のひらを叩く音。

 それに釣られて顔を上げる。

 さつきが叩いていたようで、神妙な面持ちをしていた。

 さつきは大きく息を吐いて、顔をあげる。

 

「……それじゃあ、さ!乾くんにも協力してもらおっか!」

 

「……は?」

 

 今度は俺が目を丸くする番だった。一体どういう事だ。有彦に協力を求める?

 

「私の事、説明しなきゃでしょ?兄弟友達同志で関係が拗れちゃう程になんて」

 

 固く強い、決意の眼差しをさつきが俺に向ける。

 柔らかい雰囲気を持ってる割に、頑固なところがあるのが彼女の魅力だったな。

 

「わかった……有彦にも事情を説明して、協力を取り付けるとしよう。協力頼む、さつき」

 

 俺の返答に、うん。と柔らかい笑顔で彼女は答えた。

 

 

 今にして思えば、この時に抱いた漠然とした疑問を、シオンに聞いておけば良かった。

 俺は有彦の妹について、とんと見当がつかなかった。

 確かに、有彦の家に遊びに行った事はある。だが、家族と挨拶を交わしたことは無かった。

 あいつの家はアパートで、両親が共働きで普段から家にいない。

 つまり、誰かがいるなら分かるはずなのだ。

 

───"有彦の妹"は、"実在してるのか"?

 

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