Melty Blood Another   作:Unknown37564

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 車に揺られながら、私は先の秋葉との戦いを思い返していた。

──本当に、油断してしまった。

 秋葉の能力は、志貴から詳細に聞かされていた。

 しかし、普段の彼女の様子から、どこか高をくくってしまっていたのかもしれない。

 最初はただ無作為に力を振り回すだけの、獣のような戦い方をするのだろうと。

 そんな相手に負ける道理は無い、と。

 

 

「動くな」

 

 壁を破壊して、素足で出ていこうとする秋葉の背に、銃口を向ける。

 しかし、秋葉は私の言葉が届いてないのか、歩みを止めない。

 止むを得ない──秋葉の足元に、発砲した。

 ぴたり、と秋葉は止まる。

 

「動くな!遠野秋葉!」

 

 大声で再度静止を要求する。

 秋葉はゆっくりとこちらへ振り返る。

 精気の無い、ボウとした瞳だ。

 エーテライトを刺して、秋葉の思考を誘導しようと考えた刹那。

 目の前に、赤い螺旋が飛んでくる。

 咄嗟に回避する。

 秋葉を見ようとすると、そこにはもういない。

 視線を上に向ける。

 秋葉が、飛びかかって拳を振り下ろそうとしてきた。

 なんとか転がりながら回避する。

 秋葉の拳が、地面を抉るのが一瞬見えた。

 起き上がろうとする。

 秋葉は素早く、私へ前蹴りを繰り出す。

 咄嗟に腕で防御する。

 力負けして吹き飛ばされる。

 ベランダの窓を突き破り、壁へと衝突した。

 

「がはっ!!!!」

 

 背中を壁に打ち据えた。

 息が全部吐き出されてしまう。

 めまい、吐き気、背中の痛みが走る。

 倒れ込まないように右手で地面をついた。

 ずきり、と痛みが走る。

 咄嗟の防御を右腕でやってしまったか。折れてるかもしれない。

 視線を自分が吹き飛ばされた方へ向ける。

 また赤の螺旋が二つ、自分に迫ってくる。

 転がって回避する。

 私の居た方から、焦げるような音が聞こえる。

 見てる暇が無い、次が来る──。

 赤い螺旋が、今度は地面から出てくる。

 私の目鼻の先を掠めた。

 ちり、と焦げ付くような音と共に、帽子が落ちる。

 ブラックバレルを秋葉の方に向ける。

 秋葉は気にもとめずまた赤い螺旋を放とうとしている。

 志貴の顔がちらついて──引き金にかけた指が、重い。

 また赤い螺旋。

 玄関の方へ転がる。

 もしかしたら、と私は一つ勝負に出た。

 玄関を開ける。

 開き戸の位置は、丁度秋葉の方へ向く。

 私はそれを壁にするようにして、顔を覗かせる。

 秋葉はまた赤い螺旋を放つ。

 顔を下げて、戸から離れる。

 じゅう、と焦げる音が聞こえるも、開き戸は少し動く程度だ。

 志貴から聞かされていた情報は、秋葉の能力が身体能力が高い事と、赤い螺旋を出すとそこが焦げ付くというその二点だけだ。

 詳細な情報は、こうして戦って分析する必要があった。

 その上でおおよそ判明した事実。

 秋葉の能力は、恐らく"熱を奪う"のでは無いだろうか。

 あの赤い螺旋が火では無いのは間違いない。触れた箇所に火が燃え移るような気配が無い。

 だからといって温度を上げてる訳でもない。もしそうなら発火点まで上がってるはずなので発火している筈だ。

 先ほど壁に叩きつけられた地点を見ても、焦げている様子も見られ無い。

 志貴の家の扉は、恐らく防火戸だ。一般の家でなぜ防火戸の玄関扉なのかわからないが、そういう設計なのだろう。

 その玄関が、あの能力でびくともしないと考えれば──。

 結論。ドアを用いてあの攻撃を防ぎつつ、エーテライトを仕込む。

 再度扉を盾にすると、蝶番をブラックバレルで破壊した。

 扉はドスンと重い音を立てて地面に突き立つ。

 倒れかかるのを手で支えると、その腕ごと扉へエーテライトを巻き付ける。

 そして、扉を持ち上げる。少々重いが、動けない程ではない。

 右手をエーテライトに変える。

 その時に腕を見たが、やはり受けた箇所が腫れ上がっている。

 失敗できない。しかし失敗する可能性が遥かに高い。

 心臓の高鳴りを自覚する。

 秋葉の方を見る。

 何をするでもなく、ただじっとこちらを棒立ちで見ている。

 

「──行きますか」

 

 駆け出す。

 じゅう、と焦げる音が聞こえる。

 関係ない。

 秋葉との距離が半分は縮まった頃だろう。

 これ以上この距離で重い扉は持ってられない。

 咄嗟に私はエーテライトを解除する。

 ゴン、と扉が地面に立つ。

 回り込んでエーテライトを放とうとすると──。

 

「いない?!」

 

 どこにも見当たらない。

 しまった──咄嗟に後ろへ振り返った。

 

「──遅いわよ」

 

 初めて聞いた。

 彼女の凛としていて、それでいて冷酷な一言。

 凄絶な笑みを浮かべた秋葉。拳を振り絞っている。

 咄嗟にエーテライトを張る。一点集中、鳩尾へ。

 何とか間に合うが、思いきり吹き飛ばされる。

 そのまま敷地外の道路へ。

──この勢い、激突すれば死ぬ!

 またエーテライトで追突する箇所を防ぐ。

 私は二転、三転、四転。

 何度もごろごろと転がり、倒れた。

 流石にエーテライトで庇いきれない部分もあり、打撲と擦過傷だらけになる。

 視線を前へ向ける。

 志貴の家が遠くに見える。その先に秋葉が居る。

 私に背を向けて、真っ直ぐ道路を歩いていく。

 その様子は、完全に廃人のそれでは無かった。

 

「秋──葉!!」

 

 立ち上がろうとするも、痛みが走ってすぐに立てない。

 よろよろと立ち上がる。

 秋葉の姿は、夜闇に消えてしまっていた。

 

 

──無様を晒してしまった。

 ブラックバレル・レプリカを見る。

 傷つけないようにと使わずにいたが、そんな事をして勝てる相手では無かった。

 

「認識を改めなくては……」

 

「……どうしたの、シオン?」

 

 さつきが私の顔を見る。つい言葉が漏れてしまったのを聞かれたのか。

 

「何でもありません」

 

「……腕、大丈夫?」

 

 腫れ上がった腕を彼女は心配そうな顔で見てくる。

 

「……問題無い、と言えば嘘になります。しかし、エーテライトを用いれば動かすことはできます」

 

 さつきは私の一言に、覚悟したような、決心したような、そんな顔つきになって、言った。

 

「私が前に出て戦うよ!自分の偽者と時から私、働いて無いし。そろそろ私も動かなくちゃだから!だから、シオンは私をサポートして!お願い!」

 

 さつきが私に頼み込むように言う。

 全く、この人は──今まで出会った事の無い、タイプだ。

 思わず、顔が綻んでしまった。

 

「──わかりました。では、さつきの足りてない部分は私がサポートします」

 

「うん!お願いね!」

 

 月光に彩られた彼女の笑みに、慈しみというものを覚えたような気がした。

 

「それにしても、志貴くんの方が心配だよ」

 

「……そうですね、彼はここの所ずっと連戦が続いていますから、いつ倒れてもおかしくないでしょう」

 

 出る前に一度考え直した方が良いのでは無いか、と提案した。

 彼から主治医の宗玄さんがかなりの実力者だと聞いたので、その時は止むを得ず承諾した。

 しかし今にしてみると、私たちは事を性急に運びすぎてるのかもしれない。

 

「所在の割れている秋葉たちより、神出鬼没になっている都古に人員を割り振るべきだったかもしれません」

 

「でも、それをやって秋葉ちゃんたちが街の人達に手を出し始めたら……」

 

「……彼が、納得しませんか」

 

「そうだね。正直私も本当は……ごめん、やっぱなんでもない」

 

 それきり、彼女は黙った。

──今まで街の人を守っていたのは、彼女が優しいからでは無い。

 志貴が、この町を守ろうと戦っていたからだろう。

 人として大切なものを失い果てた彼女にとっては、遠野志貴だけが最後に残った人間性なのだ。

 きっとそれが無ければ、彼女は化物の自分を受け入れる(完璧な死徒になる)かもしれない。

 そうなった時、私はどうなるのだろうか。

 いや、想像するだけ無駄だろう。

 

「彼が、そう簡単に負けるわけ無いでしょう」

 

「……そうだね。うん、きっとそうだね」

 

 私たちはお互い笑い合う。

 ここに来てから、ずいぶんと私も変わった。

 根拠が無い事を言うなんて、昔なら有り得なかった。

 車がブレーキを掛けて止まり、ドライバーの女性が口を開く。

 

「目的地に到着しました。この先の道を歩くと遠野秋葉様の御実家です」

 

 シフトレバーをドライブからパーキングに入れるのが見える。

 終わるまで私たちを待つのだろう。

 

「ありがとうございました」

 

 私たちはドライバーに礼を伝えて降りた。

 完全に真っ暗な夜道だ。

 外灯が一つも立ってない。

 私たちは並びながら、注意深く辺りを見渡して歩く。

 そうして三分程歩くと、大きな門構えの家に辿り着いた。

──豪邸に、明かりがついている。

 志貴は元の家は売り払ったと言っていた。光熱費など勿論払っていないはずだから、電気が通っているわけない。

 これが指す意味は──タタリの仕業、と言えるだろう。

 

「──よし、じゃあシオン。さっき言った通りで」

 

 真剣な、それでいてどこか好戦的な笑みをするさつきが私に言う。

 こんな表情を見たのは初めてで、少し頼もしく見えた。

 

「ええ、よろしくお願いします」

 

 今度は抜からない。

 全力で、仕留めにかかる。

 

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